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西国王小佐々純正と第三勢力-対上杉謙信 奥州東国をも巻き込む-

第二次越相同盟と手切之一札

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 天正元年 三月二十六日 相模 小田原城




 なほなほ(いよいよ) そののちことさま(状況)は如何いかが候哉そうろうや(いかがでしょうか)、承り候ひうけたまわりそうらい飛脚をもって申し入れ候。(事情を聞いて飛脚でお知らせしました)

 渡良瀬、桐生の水の利を巡る宿執しゅくしゅう(確執)におひては、民の朝夕事あさゆうごと(生活)におもし(重要な)儀なれば、争ひ打ち合はあらそいうちあわず(戦わず)、よく由良信濃守殿(由良成繁)とも言ひ合はいいあわして(相談して)決めるよう親綱(桐生親綱)殿に告げき候。

 わざと(特別に)飛脚をもって申し入れ候。

 第一に(まず)申し上げたき儀ありて、かたみに(お互いに)あたみて(敵視して)渡り合ひき(戦ってきた)事、よくよく承知の上で一筆申し入れ候。

 永禄十二年六月越相の盟約のみぎり(時)、計らひはからいたる儀(取り決めた事)におひては、かたみ心誤こころあやまち(誤解)ありき候。

 相模守殿名跡続き(継承)のみぎりに解かれけり(解消された)と言へども、いささかもわれらに相模守殿と争ふおもわく(考え)なきに候。

 そもそも、この盟約はかたみあた(敵)たる武田信濃守殿に当たらんが為のものにありき候。

 今、相甲の盟約なりて、またわれらも越甲和与ありて争いらなくに(争いがないのに)、越相の盟約が解かれけりまま(解消されたまま)なるは恨めしき事(残念)至極に候。

 ゆえにここに、再び越相の盟約を結びたく存じ候。こは(これは)争ふものに非ずして、三者共に栄えるため也と案じ候。

 なにとぞ甘心かんじん(ご納得)いただきます様、お願い申し上げ候。恐々謹言。

(元亀二年)九月四日 謙信

 相模守殿




「ふむ」

 氏政は、昨年の九月に届いた謙信からの文を読み返していた。確かに越相同盟を解消したかわりに甲相同盟が成立し、武田は敵ではなくなった。

 越相同盟はもともと利害の一致が難しい同盟であり、存続意義がなくなっていたものである。

 しかし謙信のこの提案は、氏政にとって無意味なものではなかった。

 すでに関東で謙信の影響力が及ぶ範囲は、東上野の桐生領・厩橋領・沼田領のみとなっており、これは同盟締結時とほぼかわらない状態である。

 前回のように北武蔵の割譲などもなく、管領職はそのまま謙信が続けるが、氏政の行動を制限するものではなかった。
 
 もはや謙信は、完全に関東から手を引いた見えたのだ。

 安房の里見や常陸の佐竹、下総の結城をはじめとして、北関東にはまだまだ反北条の勢力がある。
 
 ここで不可侵の盟約を結べば、背後を気にする事なく関東全域を平定できるのだ。

 第二次越相同盟成立以降、上杉領と北条領では盛んに交易が行われた。




 わざと(わざわざ・特別に)飛脚をもって申し入れ候。

 去る永禄十二年、公方様の御内書によりて甲越の和与(和睦)とあいなりき候へども(なりましたが)、如何いかんともしがたき以下の仕儀(どうにもできない事)にて、手切之一札申し入れ候。

 一つ、弾正少弼(謙信)殿は世と共よととも(いつも)、静謐せいひつが為には秩序が大事と仰せに候へども、守護の意に背き、越中へと討ち入りけり候。

 一つ、関東管領に任じられしも、昨日今日(最近)は関東ならぬ越中また加賀や越前に面白し(興味がある)様子にて、信義にもとる行ひに候。

 一つ、越中静謐を畠山修理大夫殿に任せらるる儀は主上(陛下)のご意趣(意向)にて、われが盟を結びたる小佐々権中納言殿より告げられけり候へども、これにうべなはざる(従わないの)は、われの仇(敵)の如き(と同じ)に候。

 我は弾正少弼殿と手切れをなさんと案じき候哉そうろうや、(断交しようと考えたのだろうか?)も有らず(断じてそうではない)。

 しかれども、討ち入らるる事はなしに候間(攻め込まれている訳ではないので)、荷留と津留のみに制したり候(輸出入禁止だけにしておきます)。

 手切之一札と記し候へども(書きましたが)、ただちにこちらより討ち入るものにあらず候。

 三月二十六日 大膳大夫

 弾正少弼殿




 なほなほ 今頃は春日山を打っ立ちうったちけり候哉そうろうや(出発しているでしょうか?)、願はくばきびすを返し越後より出づる事なく軍兵を退かせ給へ。

 如法にょほう(もとより)、そがかたし事(それが難しい事)はきたり候(分かっています)。

 りながら恨めしき事なれど(でも残念な事ですが)、以下の仕儀(なりゆき)にてこの文を送らざるを得ず候。

 一つ、世と共(いつも)弾正少弼殿におかれては、世の静謐の要は大義名分にありと仰せに候。そは(それは)すなはち、臣として踏み行ふべき重しあや(道理)にして格(身分)に伴ひし守るべき本分に候。

 りながら、畠山修理大夫殿が越中の静謐をなすという主上のご意趣に背きしは、相構あいかまへて(決して)見過ぐす事にあらず(見過ごすことではない)と案じ候。(考えました)

 一つ、越前はわが所領にて、加賀国と国境を接しており候。
 
 一揆の持ちたる国にて、弾正少弼殿が越中の門徒に掛かる(攻撃する)ならば、合力して当たる(対抗する)は必定にて、さらなるいくさとなると案じ候。

 いくさを広ぐ(拡大する)事は相構あいかまへて(決して)主上のご趣意(意向)にあらざる事と案じ(考え)候へば、なる(そうなる)おそれのありし行ひをしたる弾正少弼殿と共に、以後幾久しくよしみを通はし続く事能わずと案じ候。

 一つ、主上のご意趣を畠山修理大夫殿に伝えけりは、我が盟を結びたる権中納言殿にて、これに背く事はわれに仇なす者と案じ候。

 そもそも(もともと)よしみを通はす(親交を結ぶ)と言えども、起請文にて盟を結びき事にあらずして、わざと(わざわざ)記して送るべきかとも案じ候へども(考えましたが)、人としての義を通すために送りき候。

 以上のあや(理由)を以て、荷留と津留(輸出入規制)を行ふ事をお知らせ候。

 三月二十六日 兵部卿

 弾正少弼殿




 勝頼も、信長も、弱い。

 仕方がないというか、もっともというのが、現実をみると正しいのかもしれない。勝頼にしてみれば、父である信玄ですら手こずった相手である。正面切って敵対などしたい訳がない。

 信長にしてみれば緩衝地帯として加賀と越中があるが、北上すればいずれは衝突する仮想敵なのである。

 今はできるだけ敵対的な行動はとりたくないはずだ。

 しかし純正が前に出る以上、謙信の力を弱めつつ自分の力を強め、早い段階で加賀に侵攻する名分を考えなくてはならなかった。

 二人の心情がわかる書状であったが、どう謙信に伝わり、どう行動に関与するのかは、謙信のみぞ知るところである。




 ■第三師団、甲府着。明日二十七日発、陸路にて北信濃平倉城へ。四月五日着の予定。
 ■第二師団、飛騨を北上中。塩屋城へは明日二十七日到着予定。
 ■土佐軍、近江国高島郡海津発。陸路にて敦賀へ。明日二十七日到着予定。
 ■加賀一揆軍、三月二十九日金沢御坊発予定。
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