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西国王小佐々純正と第三勢力-対上杉謙信 奥州東国をも巻き込む-
第523話 『酒と醤油の値段が違う! とある第二師団所属兵の憂鬱』
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天正元年 三月十八日 伊勢国桑名郡 住吉浦(桑名)
陸軍第二師団が到着したのは、美濃・尾張・伊勢の三国にまたがる木曽三川が合流し、伊勢湾に流れ込む地点にある、水運で栄える桑名である。
十五日に門司を出発して三日後であった。
ここで一泊し、明日十九日に木曽川から北上を開始する。
「高し! 澄酒が二合で二十八文(一文120円計算で3,360円)とは何ぞ是は! 高すぎるであろう? 麦酒(ビール)もなければ葡萄酒(ワイン)も葡萄地酒(ブランデー)も烏伊思幾(ウィスキー)も糖酒(ラム酒)も何もなし! 然も澄酒が二合徳利で二十八文とは、図外れ(法外・ここでいう、ぼったくり)にもほどがあろう!」
三日ぶりの陸、そして明日からは徒歩での行軍が続くとあって、湊にある居酒屋はどの店もごった返していたが、その中の一人が叫んだ。
「おい、大声を上げるな。騒ぎを起こしたいのか?」
一緒にいた同僚が止めに入る。
「そうではない。ただ、見てみよこのお品書きを。なぜ伊勢まできて、二合の酒に二十八文も出して飲まねばならぬのだ?」
「確かに、高いな。……ん? それに、なんだ? 醤油というのは? まさか、醤油を買って……食うのか?」
二人は小佐々領内との物価の違いに面くらっている。酒は倍以上の値段の差があり、調味料の醤油は当時高級品で米の五倍ほどしたのだ。
ただし小佐々領では他領より大量生産が可能となっており、一合枡で一文(120円)もかからない。
そのため醤油を『買う』という感覚が理解できなかったのだ。
流通している醤油はもう少し値がはったが、小佐々軍の将兵が行く飲食店は優遇されており、一般の価格より安い。
よく見かける自衛隊歓迎のステッカーが貼ってある店と同じイメージである。割安で飲み食いできる。政府(小佐々家)から助成金がでているのだ。
卓の上には調味料として『ずんだ酢(潰したずんだ豆と酢を合わせたもの)』や『煎り酒(酒にかつお節、梅干を入れて煮詰めたもの)』に『わさびや生姜などの薬味』が置いてあった。
「……」
「これは……知っておるが、醤油にわさびの味を知れば、もう戻れぬぞ」
「左様、然りながら、こたびは我慢するほかあるまい。醤油が高すぎる」
■摂津 石山本願寺
「上人様、加賀の杉浦法橋(玄任)様より文が届いております」
「見せなさい」
「はは」
石山本願寺、浄土真宗本願寺派第十一代宗主の本願寺顕如は、加賀の杉浦玄任からの書状に目を通す。
・小佐々家が杉浦玄任と親交を結びたい事。
・石山本願寺とも同じく。
・信長とは同盟関係にあるが、それはすなわち我らが親交を結ぶこととは関係がないこと。
以上の事柄が書いてあり、顕如の指示を仰ぎたいとの事であった。
「さて、頼廉、いかがしたものか」
「は、この上は断る理由もないかと。以後織田と軍をするにしても、小佐々と誼を通わしておけば、仮に負けたとしても和睦の伝手となりましょう」
負けた将軍義昭を紀伊へ逃し、武田が織田と和睦し、朝倉は滅んだ。中小の勢力は残っているものの、この期に及んで信長包囲網など出来はしない。
「されど、越後の上杉が上洛の動きをみせておると聞くぞ。越中の門徒を説いて上杉と和睦せしめ、上洛を導いて、織田と戦わせるというのはいかがであろうか」
「そはいささか早計かと存じます。確かに謙信は強うございますが、織田の所領は広うございます。一度負けたとて、攻めに転ずる事も能いまする。さらには兵糧の問題もありて、謙信もいつまでも留まってはおられますまい」
さらに、謙信が一向宗との和睦に応じるだろうか? という疑問が残る。
謙信の目的が上洛だけであれば、問題はない。ただ、それを名目として能登や越中、加賀を手に入れようという野心があるのならどうだろうか。
たらればで事を判断してはいけない。
「そうよの……。されば玄任には、使者の申し出を受けよと報せを送るといたそう」
顕如にとっては取るべき選択肢は1つしかなかったが、もちろん純正は、本願寺と交易でつながりを深めたいと考えていた訳ではない。
信長のように力ではなく、徐々に金と物の力で本願寺を弱体化させようとしていたのだ。
■大使館
純久の補佐には蜷川新右衛門親長が任命され、公使ならびに次官補佐となった。
「さて、外務省の人事と組織改編についてはあらかた終わったが、他にも考えねばならぬ事がある」
純正は外務閣僚を除いた全閣僚を前に話し出す。
京都滞在が長くなると考え、諫早には次官級をおいて全員を集め、天正元年度の予算会議と戦略会議を開いていた。
そして今年度から、より円滑に政策を施行するためと、現場の意見を吸い上げるために各国の国主を呼び、参列させている。
「まずはわが所領内の治安についてである」
純正は全員を見渡して言う。
「せんだって北海を通り能登に向う間、出雲の美保関に寄ったときの事。島根郡代官の多田右京亮元信、ならびに能義郡代官の尼子孫四郎勝久より申し出のあったことである」
参列している毛利輝元、吉川元春、小早川隆景の顔をみる。
「街道の賊を取り締まり、捕縛を試みて国境を越えし者どもを尋ね(追う)ども、そこには別の検非所(警察署)ありて、なかなかに上手くいかぬとの由。他に同じような事があるか? また改める所はないか?」
「恐れながら申し上げまする」
発言したのは島津修理大夫義久である。薩摩、大隅、日向を治める(管轄している)太守である。
「それがしが行いを治むる(管理する)三州(薩隅日)ならびに所領では、悪業犯し者が逃げけりときは、すぐさま検非所と同心にて(協力して)尋ねて(追って)捕らえまする」
「それがしの所も同じにござる」
そう答えるのは伊予の河野通宣である。
「然れど、全てが滞りなく行われる訳でもございませぬ。恥ずかしながら、自らの手柄だと言い合いて、挙句犯し者を取り逃す事もございました」
「ふむ」
純正は見回したが、どこも同じようだ。
しかし、毛利と尼子、表向きは和解していても、こういうところで本音が出ているのだろうか。いずれにしても改善する必要がある。
じっくり聞きながら考えをまとめていた純正は、やがて口を開いた。
「まずは諫早に、すべての所領の検非所を取りまとめる、警保寮を設ける。その下に警視庁、これは肥前全てを取りまとめる。それぞれの国に、例えば筑前国警保所、その下に郡警保所、さらに下に村ごとに交番をおく」
純正の発言を聞きながら、全員がうなずいている。
「くわえて九州・中国・四国にそれぞれ管区警保寮を設けて、各国の警保所を取りまとめる。さきほどの国をまたいだ罪人であるが、その都度特別に取り調べの隊をつくって応じる。いちいちその国の検非所に言わずとも、協力を仰いで追う事が能うようにする」
「それならば、誰が手柄がうんぬんという話にはなりませんね」
日向の伊東祐兵が同意して発言する。横には祐青もいる。
「その通りだ。いかがじゃ? 考えのあるものはおるか?」
純正は子供の頃、警視庁ってなんなの? 警察庁と何が違うの? どっちが偉いの? などの素朴な疑問をもった事を思い出したが、ただ管轄する地域が違うだけの差であった。(ざっくり)
とにもかくにも組織的な警察組織の発足で、領内の犯罪は減っていく事であろう。
陸軍第二師団が到着したのは、美濃・尾張・伊勢の三国にまたがる木曽三川が合流し、伊勢湾に流れ込む地点にある、水運で栄える桑名である。
十五日に門司を出発して三日後であった。
ここで一泊し、明日十九日に木曽川から北上を開始する。
「高し! 澄酒が二合で二十八文(一文120円計算で3,360円)とは何ぞ是は! 高すぎるであろう? 麦酒(ビール)もなければ葡萄酒(ワイン)も葡萄地酒(ブランデー)も烏伊思幾(ウィスキー)も糖酒(ラム酒)も何もなし! 然も澄酒が二合徳利で二十八文とは、図外れ(法外・ここでいう、ぼったくり)にもほどがあろう!」
三日ぶりの陸、そして明日からは徒歩での行軍が続くとあって、湊にある居酒屋はどの店もごった返していたが、その中の一人が叫んだ。
「おい、大声を上げるな。騒ぎを起こしたいのか?」
一緒にいた同僚が止めに入る。
「そうではない。ただ、見てみよこのお品書きを。なぜ伊勢まできて、二合の酒に二十八文も出して飲まねばならぬのだ?」
「確かに、高いな。……ん? それに、なんだ? 醤油というのは? まさか、醤油を買って……食うのか?」
二人は小佐々領内との物価の違いに面くらっている。酒は倍以上の値段の差があり、調味料の醤油は当時高級品で米の五倍ほどしたのだ。
ただし小佐々領では他領より大量生産が可能となっており、一合枡で一文(120円)もかからない。
そのため醤油を『買う』という感覚が理解できなかったのだ。
流通している醤油はもう少し値がはったが、小佐々軍の将兵が行く飲食店は優遇されており、一般の価格より安い。
よく見かける自衛隊歓迎のステッカーが貼ってある店と同じイメージである。割安で飲み食いできる。政府(小佐々家)から助成金がでているのだ。
卓の上には調味料として『ずんだ酢(潰したずんだ豆と酢を合わせたもの)』や『煎り酒(酒にかつお節、梅干を入れて煮詰めたもの)』に『わさびや生姜などの薬味』が置いてあった。
「……」
「これは……知っておるが、醤油にわさびの味を知れば、もう戻れぬぞ」
「左様、然りながら、こたびは我慢するほかあるまい。醤油が高すぎる」
■摂津 石山本願寺
「上人様、加賀の杉浦法橋(玄任)様より文が届いております」
「見せなさい」
「はは」
石山本願寺、浄土真宗本願寺派第十一代宗主の本願寺顕如は、加賀の杉浦玄任からの書状に目を通す。
・小佐々家が杉浦玄任と親交を結びたい事。
・石山本願寺とも同じく。
・信長とは同盟関係にあるが、それはすなわち我らが親交を結ぶこととは関係がないこと。
以上の事柄が書いてあり、顕如の指示を仰ぎたいとの事であった。
「さて、頼廉、いかがしたものか」
「は、この上は断る理由もないかと。以後織田と軍をするにしても、小佐々と誼を通わしておけば、仮に負けたとしても和睦の伝手となりましょう」
負けた将軍義昭を紀伊へ逃し、武田が織田と和睦し、朝倉は滅んだ。中小の勢力は残っているものの、この期に及んで信長包囲網など出来はしない。
「されど、越後の上杉が上洛の動きをみせておると聞くぞ。越中の門徒を説いて上杉と和睦せしめ、上洛を導いて、織田と戦わせるというのはいかがであろうか」
「そはいささか早計かと存じます。確かに謙信は強うございますが、織田の所領は広うございます。一度負けたとて、攻めに転ずる事も能いまする。さらには兵糧の問題もありて、謙信もいつまでも留まってはおられますまい」
さらに、謙信が一向宗との和睦に応じるだろうか? という疑問が残る。
謙信の目的が上洛だけであれば、問題はない。ただ、それを名目として能登や越中、加賀を手に入れようという野心があるのならどうだろうか。
たらればで事を判断してはいけない。
「そうよの……。されば玄任には、使者の申し出を受けよと報せを送るといたそう」
顕如にとっては取るべき選択肢は1つしかなかったが、もちろん純正は、本願寺と交易でつながりを深めたいと考えていた訳ではない。
信長のように力ではなく、徐々に金と物の力で本願寺を弱体化させようとしていたのだ。
■大使館
純久の補佐には蜷川新右衛門親長が任命され、公使ならびに次官補佐となった。
「さて、外務省の人事と組織改編についてはあらかた終わったが、他にも考えねばならぬ事がある」
純正は外務閣僚を除いた全閣僚を前に話し出す。
京都滞在が長くなると考え、諫早には次官級をおいて全員を集め、天正元年度の予算会議と戦略会議を開いていた。
そして今年度から、より円滑に政策を施行するためと、現場の意見を吸い上げるために各国の国主を呼び、参列させている。
「まずはわが所領内の治安についてである」
純正は全員を見渡して言う。
「せんだって北海を通り能登に向う間、出雲の美保関に寄ったときの事。島根郡代官の多田右京亮元信、ならびに能義郡代官の尼子孫四郎勝久より申し出のあったことである」
参列している毛利輝元、吉川元春、小早川隆景の顔をみる。
「街道の賊を取り締まり、捕縛を試みて国境を越えし者どもを尋ね(追う)ども、そこには別の検非所(警察署)ありて、なかなかに上手くいかぬとの由。他に同じような事があるか? また改める所はないか?」
「恐れながら申し上げまする」
発言したのは島津修理大夫義久である。薩摩、大隅、日向を治める(管轄している)太守である。
「それがしが行いを治むる(管理する)三州(薩隅日)ならびに所領では、悪業犯し者が逃げけりときは、すぐさま検非所と同心にて(協力して)尋ねて(追って)捕らえまする」
「それがしの所も同じにござる」
そう答えるのは伊予の河野通宣である。
「然れど、全てが滞りなく行われる訳でもございませぬ。恥ずかしながら、自らの手柄だと言い合いて、挙句犯し者を取り逃す事もございました」
「ふむ」
純正は見回したが、どこも同じようだ。
しかし、毛利と尼子、表向きは和解していても、こういうところで本音が出ているのだろうか。いずれにしても改善する必要がある。
じっくり聞きながら考えをまとめていた純正は、やがて口を開いた。
「まずは諫早に、すべての所領の検非所を取りまとめる、警保寮を設ける。その下に警視庁、これは肥前全てを取りまとめる。それぞれの国に、例えば筑前国警保所、その下に郡警保所、さらに下に村ごとに交番をおく」
純正の発言を聞きながら、全員がうなずいている。
「くわえて九州・中国・四国にそれぞれ管区警保寮を設けて、各国の警保所を取りまとめる。さきほどの国をまたいだ罪人であるが、その都度特別に取り調べの隊をつくって応じる。いちいちその国の検非所に言わずとも、協力を仰いで追う事が能うようにする」
「それならば、誰が手柄がうんぬんという話にはなりませんね」
日向の伊東祐兵が同意して発言する。横には祐青もいる。
「その通りだ。いかがじゃ? 考えのあるものはおるか?」
純正は子供の頃、警視庁ってなんなの? 警察庁と何が違うの? どっちが偉いの? などの素朴な疑問をもった事を思い出したが、ただ管轄する地域が違うだけの差であった。(ざっくり)
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