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西国王小佐々純正と第三勢力-対上杉謙信 奥州東国をも巻き込む-
第三師団長の憂いと伊集院忠棟、安国寺恵瓊ほか続々
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天正元年(元亀三年・1572年) 三月十八日 阿波 橘浦
十三日に白地城下の駐屯地を出発した小佐々陸軍第三師団が、橘浦に到着したのは十八日の夕刻であった。
小田増光陸軍少将は兵に休息をとらせ、乗艦の段取りをすませて宿舎にいた。
ふと外に出て船着き場を見ると、岸壁で数人の兵士が大声で会話をしながら盛り上がっている。
「参謀長、あれは……彼らは何をあのように盛り上がっているのだ?」
かわりの紅茶を持ってきた参謀長に尋ねる。
「ああ、あれですか。御屋形様から大名・国人にも陣触れが出たようで、摂津三好の軍兵が支度しておるとの由。小佐々の御家中ではありますが、阿波は三好の本貫地。摂津淡路も一門で、ここらの者は親類縁者も多いのですよ」
海軍が佐世保鎮守府、佐伯警備府(前陽南鎮守府)、呉鎮守府、諸寄警備府にそれぞれ海兵団を置いて兵と下士官を教育しているのと同じように、陸軍も各地に教育施設を設けていた。
諫早の西部方面軍(第一師団所属)、薩摩の内城下の南部方面軍、阿波の白地城下の四国方面軍、豊前門司の中国方面軍である。
それぞれに陸兵調練所があり、多くは地元の平民を志願制で教育していた。
「そうか、話には聞いていたが、御屋形様は銭でもそうだが、兵の力でも圧し消つる(圧倒する)おつもりなのであろう」
「然に候。(そうでしょう)聞けば島津の兵庫頭殿(義弘)も、こたびの出兵に、自ら願いでて能登まで向われるようにございます」
「! ……それでは、兵庫頭殿の他にもいよう?」
「は、長宗我部や大友勢にございます。あとは肥前の御一門衆もご出兵のよし」
「御一門もそうだが、大身の方々は、やはり槍働きにて武功を重ねたいとお考えなのであろうな」
「そうですな。然れどこたびは良いですが、いずれこのような軍の有り様は、わが軍旅(軍・軍隊)に禍根を残すやもしれませぬ」
「ふむ。……それは武士団、とでも言おうか、各御家中の軍兵が我らの下知に従うか、ということだろうか?」
「然に候。皆様口には出しませぬが、われらは武家と申しても家格は低く、兵や下士官にいたっては平民が多うございます。平民出の士官もおりますが、武家の御家中の方が黙って諾う(従う)かが気がかりにございます」
「それよな」
純正に一度具申してみようかと考えた増光であった。
■京都 大使館
「それで治部大丞(小佐々純久)よ、よい人材はおったか?」
純正は純久に、外務官僚として有能な人材はいないかと、以前から人選を依頼していた。
「は、まずは外務副大臣にございますが、島津家中の伊集院掃部助(忠棟)殿を考えております」
「ふむ、どのような人物じゃ?」
「は、まずは欠点と申しますか、気位が高い事が気にはなりますが、目先が利いて気配りも能いまする。四書五経と古今の兵法にも通じておりますれば、あとは南蛮の気質を持てば十分にお役に立てるかと」
「あいわかった。利三郎を助く役目ゆえ、甲斐から帰ったら伝え、面通しするよう段取りいたすがよい」
「はは」
「他には誰がおる?」
「然れば、毛利家中より、瑤甫一任斎(安国寺恵瓊)と申す者がおります。彼の者を取り立てて京の大使館付きといたしたく存じます」
「ふむ、お主を助く役目としてか?」
「いえ、それには別の者を考えておりますれば、畿内と東国、ならびに奥州を任せたいと考えます」
「ほう? その任に耐えうる人材か?」
「は、もし小早川殿がお越しにならなければ、彼の者が代りとなったであろう人物にございます」
二年前の元亀元年十二月に行われた、毛利との同盟、服属を決める会談である。
「大友家中との渉外や、山陰山陽の大名・国人との間にて労有りて、まさに有るべかし(ふさわしい)かと存じます」
「お主にそこまで言わせるとは、なかなかの人物であるな。よし、そういたすが良い」
純正は超のつく歴史オタクである。
偏りはあるものの、伊集院忠棟も知っていたし、安国寺恵瓊が瑤甫一任斎だと言う事も知っていた。しかし、あえて知らないフリをしたのだ。
「よし、では国内はむろんだが、今後は今以上に国外も重要となってくる。松浦兄弟はまだ単独で渉外を任せるには若すぎるし、経験もないのでな。誰かのもとで経験を積ませたい」
「それならば、と有るべかし者どもを選んでおきました」
「ほほう?」
純正は、この西国で誰がでるか? という期待でいっぱいである。
「まず、景轍仙巣(景轍玄蘇)にございます。彼の者は筑前博多の聖福寺にて住持となっておりましたが、京に上っておりました。建仁寺二百八十七世の春沢永恩に師事して、学業を積んでおります」
「ほうほう。ではその者は今、京におるのか? おるのならばすぐにでも会えるではないか」
朝鮮との外交を、宗義智や柳川調信とともに一手にやっていた外交僧である。
「いえ、残念ながら帰郷しております。然りながらその弁舌さわやかにして、機を見るに敏にございます。まさに、有るべかし(ふさわしい)にございます」
興奮する純久に、純正はニコニコしながら応える。
「よほどの事がなければ、俺に反対はない。然れど正式な任命は利三郎が帰ってからにするのだぞ。利三郎も異論はないだろうが、順序を大事にする男であるからな」
「は、心得ておりまする」
純久の外務官僚の候補名簿には、他に柳川調信や柚谷康広・智広親子の名前があった。
お疲れ! 叔父ちゃん!
十三日に白地城下の駐屯地を出発した小佐々陸軍第三師団が、橘浦に到着したのは十八日の夕刻であった。
小田増光陸軍少将は兵に休息をとらせ、乗艦の段取りをすませて宿舎にいた。
ふと外に出て船着き場を見ると、岸壁で数人の兵士が大声で会話をしながら盛り上がっている。
「参謀長、あれは……彼らは何をあのように盛り上がっているのだ?」
かわりの紅茶を持ってきた参謀長に尋ねる。
「ああ、あれですか。御屋形様から大名・国人にも陣触れが出たようで、摂津三好の軍兵が支度しておるとの由。小佐々の御家中ではありますが、阿波は三好の本貫地。摂津淡路も一門で、ここらの者は親類縁者も多いのですよ」
海軍が佐世保鎮守府、佐伯警備府(前陽南鎮守府)、呉鎮守府、諸寄警備府にそれぞれ海兵団を置いて兵と下士官を教育しているのと同じように、陸軍も各地に教育施設を設けていた。
諫早の西部方面軍(第一師団所属)、薩摩の内城下の南部方面軍、阿波の白地城下の四国方面軍、豊前門司の中国方面軍である。
それぞれに陸兵調練所があり、多くは地元の平民を志願制で教育していた。
「そうか、話には聞いていたが、御屋形様は銭でもそうだが、兵の力でも圧し消つる(圧倒する)おつもりなのであろう」
「然に候。(そうでしょう)聞けば島津の兵庫頭殿(義弘)も、こたびの出兵に、自ら願いでて能登まで向われるようにございます」
「! ……それでは、兵庫頭殿の他にもいよう?」
「は、長宗我部や大友勢にございます。あとは肥前の御一門衆もご出兵のよし」
「御一門もそうだが、大身の方々は、やはり槍働きにて武功を重ねたいとお考えなのであろうな」
「そうですな。然れどこたびは良いですが、いずれこのような軍の有り様は、わが軍旅(軍・軍隊)に禍根を残すやもしれませぬ」
「ふむ。……それは武士団、とでも言おうか、各御家中の軍兵が我らの下知に従うか、ということだろうか?」
「然に候。皆様口には出しませぬが、われらは武家と申しても家格は低く、兵や下士官にいたっては平民が多うございます。平民出の士官もおりますが、武家の御家中の方が黙って諾う(従う)かが気がかりにございます」
「それよな」
純正に一度具申してみようかと考えた増光であった。
■京都 大使館
「それで治部大丞(小佐々純久)よ、よい人材はおったか?」
純正は純久に、外務官僚として有能な人材はいないかと、以前から人選を依頼していた。
「は、まずは外務副大臣にございますが、島津家中の伊集院掃部助(忠棟)殿を考えております」
「ふむ、どのような人物じゃ?」
「は、まずは欠点と申しますか、気位が高い事が気にはなりますが、目先が利いて気配りも能いまする。四書五経と古今の兵法にも通じておりますれば、あとは南蛮の気質を持てば十分にお役に立てるかと」
「あいわかった。利三郎を助く役目ゆえ、甲斐から帰ったら伝え、面通しするよう段取りいたすがよい」
「はは」
「他には誰がおる?」
「然れば、毛利家中より、瑤甫一任斎(安国寺恵瓊)と申す者がおります。彼の者を取り立てて京の大使館付きといたしたく存じます」
「ふむ、お主を助く役目としてか?」
「いえ、それには別の者を考えておりますれば、畿内と東国、ならびに奥州を任せたいと考えます」
「ほう? その任に耐えうる人材か?」
「は、もし小早川殿がお越しにならなければ、彼の者が代りとなったであろう人物にございます」
二年前の元亀元年十二月に行われた、毛利との同盟、服属を決める会談である。
「大友家中との渉外や、山陰山陽の大名・国人との間にて労有りて、まさに有るべかし(ふさわしい)かと存じます」
「お主にそこまで言わせるとは、なかなかの人物であるな。よし、そういたすが良い」
純正は超のつく歴史オタクである。
偏りはあるものの、伊集院忠棟も知っていたし、安国寺恵瓊が瑤甫一任斎だと言う事も知っていた。しかし、あえて知らないフリをしたのだ。
「よし、では国内はむろんだが、今後は今以上に国外も重要となってくる。松浦兄弟はまだ単独で渉外を任せるには若すぎるし、経験もないのでな。誰かのもとで経験を積ませたい」
「それならば、と有るべかし者どもを選んでおきました」
「ほほう?」
純正は、この西国で誰がでるか? という期待でいっぱいである。
「まず、景轍仙巣(景轍玄蘇)にございます。彼の者は筑前博多の聖福寺にて住持となっておりましたが、京に上っておりました。建仁寺二百八十七世の春沢永恩に師事して、学業を積んでおります」
「ほうほう。ではその者は今、京におるのか? おるのならばすぐにでも会えるではないか」
朝鮮との外交を、宗義智や柳川調信とともに一手にやっていた外交僧である。
「いえ、残念ながら帰郷しております。然りながらその弁舌さわやかにして、機を見るに敏にございます。まさに、有るべかし(ふさわしい)にございます」
興奮する純久に、純正はニコニコしながら応える。
「よほどの事がなければ、俺に反対はない。然れど正式な任命は利三郎が帰ってからにするのだぞ。利三郎も異論はないだろうが、順序を大事にする男であるからな」
「は、心得ておりまする」
純久の外務官僚の候補名簿には、他に柳川調信や柚谷康広・智広親子の名前があった。
お疲れ! 叔父ちゃん!
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