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西国王小佐々純正と第三勢力-対上杉謙信 奥州東国をも巻き込む-

天下統一?の秘密兵器と通信改善

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 天正元年(元亀三年・1572年) 三月十五日 京都 大使館 

「おおお! よし! 良うし! GOOD! YES! Hooray!」

 純正はひとつの通信書面をみて、両手の拳を握りしめて、驚きと喜びを表した。

「? 御屋形様、今、なんと?」

「いや、何でもない! それにしてもよくやった! いやあ、まこと、大したものだ。さすがである」

 純正は興奮冷めやらぬ様子である。

 純久は気になって仕方がないが、このような純正の、いわゆる奇行? のような行いは、今に始まった事ではない。

 それもみな、家臣全員の暗黙の了解を得ていた。

 新参の家臣は驚くのだが、すぐに慣れる。端から見ると変なのであるが、実害はないし、ほとんどが良い事が起きる、または起きた兆候なのである。

「いえ、先ほどの文言は……まあ良いとして、何があったのですか?」

「うむ、これを見よ」




 発 秀政 宛 権中納言

 秘メ 我 蒸気ニ ヨリテ 金山ノ水 排スニ 功アリキ(成功した)候。

 然レド サラニ 改ム 要アリト 存ジ候。 

 蒸気ニ ヨリテ 船ヲ 動カスニ イタレドモ ハナハダ 遅ク 道ノ程(距離)モ 短カシト心得候。 

 道ノ ナカラ(途中) ナレド 極ミヲ 志ント心得候。

 秘メ ○三一○




「つまり、これはどういう……」

 意味不明の言葉だが、なんとなく、今までにない事ができるようになった、と言うような意味合いだとは判断できた。

「そうだ! よいか……」

 純正は、純久の耳元でかいつまんで蒸気機関のメリットをささやく。

「なんと! そのような事が!」

 風力に頼らない船が完成すれば、風待ちの必要もなく、早くより遠くへ行くことができる。陸に目をやれば、急な坂道や重い荷物も、馬に頼らず移送が可能だ。

「またお二人で、なにか怪しげな企てにございますか」

「うわ!」

 いつの間にか後ろにいて二人の挙動を見守っていた直茂が、突然声をかけてきた。

「まったく、驚かすでない。直茂よ、もう良いのか?」

「有り難きお言葉。おかげ様をもちまして快気に向かっております。いつまでも寝てはおれませぬゆえ、まかり越しました。して、先ほどは何を話されていたのですか?」

「ああこれか……これはな……」

 直茂にかいつまんで蒸気機関の説明をする。

「なんと面妖な。妖のなす技のごときものにございますな。されど、人の技でなせるとなれば、これは、軍を変え朝夕事(生活)にもけぢめ(変化)をもたらしましょう」

「あ、そうだ」

 純正は紙にさらさらと絵を描き、書面を添えて送った。

 スクリューである。

 外輪船というのはおそらく、水車からきたのではないか? と純正は思っていた。スクリューの存在を知らないからだろうが、効率は圧倒的にスクリューが良い。

 今のままでもスクリューに変えるだけで、速度と距離に変化がでるだろう。




 発 権中納言 宛 第四艦隊司令

 秘メ 貴艦隊ノ 務メハ 打チ合フ事(戦闘)ニ為ニ 非ズ 上杉ノ 海ノ 商イヲ 妨ゲ

 兵糧 武具 矢弾ノ 失セルヲ 助ク事也 

 ユメユメ 軍ヲ 仕掛ケル ベカラズ マタ イタズラニ 人ヲ アヤメル ベカラズ 

 駆逐艦 一隻ニテ 所口湊ト 信ヲ通ハセヨ 秘メ




 書いていて、純正は考えた。

 文が長い。『打ち合ふ事に非ず』なんて『攻撃に非ず』でいい。半分で済む。

『海の 商いを 妨げ 兵糧 武具 矢弾の 失せるを 助く事也』にしても、『通商兵站破壊也』でいい。三分の一だ。

 これまでも思っていた事だが、電話でもなければ電信でさえない。手旗や発光信号である。文字数が少なければ少ないほどいい。

 通常の手紙には、候や結びの言葉などを入れなければならないが、軍用通信なのだ。
 
 これまでも軍用通信は極力短くしてきたが、あえて取り決めはしていなかった。

 戦国時代にない言葉、明治以降になって新しく和訳されたものがたくさんある。

 そこで敬称を略す事を許可し、熟語を作ることにした。

 作るというより、現代である前世の記憶に基づくものだ。
 
 普段の会話は変えない。しかし軍用や機密情報などは、より早くより正確に、より多くの情報を伝えなければならないのだ。




 発 権中納言 宛 全信号所

 秘メ 文ノ 極メテ 大事ハ ヨリ早ク 多ク 遠クヘ リント(正確に) 届ケル モノ也

 コノ先 敬フ 言ノ葉 要ラザル也 例ヘバ 言ノ葉 ハ 言葉 ト 称ス

 ツブサニ(詳しく)ハ オツテ 知ラセル 意趣(意見) アレバ 知ラサレタシ 秘メ




 なほなほ この申出は 人の貴賤や 格の上下を なくすものに非ずと 申し上げたく存じ候。

 織田御家中を 蔑ろにするものと ゆめゆめ 思ふ事 無き様お願い申し上げ候。

 霜止出苗しもやんでなえいずる候 兵部卿殿におかれては 益々 ご健勝の事と お慶び申し上げ候。

 さて こたび文を 差し出したるは 文を通はす みぎり(際)の文言を 変えたく案じき(思った)ゆえに候。

 文の極めて大事は より早く、多く、多くへ りんと(正確に)届ける ものと 心得て(考えて)おり候。

 ゆゑに例へば 言の葉を 言葉の様に 短く定め用いん(短く決めて使おう)と 心得ており候。

 加へて 敬ふ言葉を 努めて無くし 易しに心入らむ(簡単にするように心がけよう)と 案じき候。

 恐々謹言

 三月十五日 純正

 兵部卿殿




 合理主義者の信長なら、おそらく理解して納得してくれるだろう。本来は通常の手紙でもなくしたいくらいだが、そこは文化と割り切って我慢するしかない。

 純正は宛先と中身を少しだけ変えたものを、家康と長政、そして勝頼に送った。
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