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西国王小佐々純正と第三勢力-対上杉謙信 奥州東国をも巻き込む-
越中守護の書 上杉謙信と畠山氏の対立
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天正元年(元亀三年・1572年) 三月十一日 台湾 基隆の湊 籠手田安経
琉球へ寄港してすぐに南下する予定が、明への対応協議のために滞在することになり遅くなってしまった。
わが艦隊(元練習艦隊)は海軍内での組織編制で、南方探険艦隊となったので、事実上最後の外交業務である。
やはり明の対外政策は、国威をちらつかせて服従を促すやり方である。本当に攻めようとは思っていない。台湾はまだしも、すでに冊封している琉球ならなおさらだ。
しかし、尚元王は大丈夫だろうか? 前回謁見を賜った時とは随分様子が変わっていたが……。
「お役目ご苦労様です」
台湾総督の若林鎮興が出迎える。
「かたじけない」
基隆の湊町を、鎮興に先導されながら総督府へ向かう。去年よりも人口も増え、内地とあまり変わらないように見える。
明人や琉球人、朝鮮人にポルトガル人や呂宋の他にも、バンテンや富春など各地の商人が集まっている。イスラームの商人もいるだろうか。
着実に交易都市としての様相を呈してきているようだ。
「太宰府少弐への任官、おめでとうございます」
総督府へ着くやいなや、鎮興が祝いの言葉をくれた。
「かたじけない。御屋形様に仕えてより、上洛することもなければ小佐々家中以外の方々と会う事もないゆえ、あまり要なしとは思うておったが、そう言われるとなかなかに良いものだな」
自然と笑みがこぼれる。
「聞けば練習艦隊より分かれては、さらなる南の未だ知らぬ島々を探し求める、というお役目にござりましょう?」
「左様。的木児の先、そこで巴布亜という島を見つけ、その先はいまだ知らぬ。何が起こるかわからぬゆえ、心重しく(慎重に)、ゆるりと進まねばならぬ」
「何とやら(なんだか)、少弐様はそうして船の上で過ごしている方が、若立ちて(生き生きして)おりますな」
わしの答えに鎮興がそう答えるので、わはははは、と笑いとばしてさらに返す。
「左様、どうやら陸の上におりて腹芸を披露するより性に合うようだ。難所(危険な場所)ばかりであろうが、それゆえ新しきものを見いだしたる時の喜びはひとしおよ」
「さに候(そうでしょう)」
今度は二人して笑った。
「時に少輔(鎮興)よ、明からなにやら使臣が来ておったそうだが、つぶさ(詳しく)には聞いてはおらぬが、その後はいかがなのだ?」
明との軋轢は緊張を生んではいたが、即戦争という訳ではない。
「は、その後は特に何もございませぬ。御屋形様からも、苛られさす(苛立たせる)事なく、ただ心してかかるようにとの事にございます」
「左様か。いずれにしても明は大国ゆえに動きだすのも遅かろうが、一度動きだせば大きなうねりとなりて押し寄せるであろう。心せよ」
「はは」
わしは台湾総督府に一泊してマニラへ向った。
■越後 春日山城
啓蟄の候、弾正少弼殿におかれましては益々御清祥のこととお慶び申し上げ候。
~中略~
以後は、一切のお心遣いは無用にて、隣国としての誼を通じたくお願い申し上げ候。恐々謹言。
三月六日 義慶
謹上 上杉弾正少弼殿
「ふ、ふふふふふ……。なんと、はじめて(今さら)越中守護、様とな……」
謙信は不敵な笑みを浮かべる。
畠山氏の越中守護としての力は衰えて久しい。
七代畠山義総の時代には両越能同盟(能登、越後、越中)が成立し、北陸に平和が訪れていた。謙信の父、長尾為景の時代である。
その後、越中においては本家の尾州畠山家が没落し、分家である能登畠山氏が統治するようになる。
しかしその能登畠山氏も、押水の合戦や七党の乱、高治の内乱で力をなくしていく。
結果、守護代であった神保氏と椎名氏が、越中の覇権をめぐって戦うようになったのである。
仲介に入ることはあっても、守護の強権をもって守護代の手綱を握ることはできていなかったのだ。
現当主の義慶は長続連ら重臣に擁立されたのであるが、その続連に追放された義綱を能登に戻すべく、謙信は過去に挙兵して越中に入っている。
結果的に畠山義綱の復権はならなかったものの、現当主を認めていない事になる。当然、直接のつきあいはないのだ。
「御実城様、いかがなさいますか」
須田相模守満親は、楽しそうに笑う謙信にむけて尋ねる。
「世の静謐は権威によりてなる、というのがわしの信条なのだ。その権威とは朝廷であり幕府である」
「は」
「先の当主を遣ろうて(追放して)なりしけり当主なぞ、正しき当主にあらず。ゆえにうべなう(従う)道理なし。加えて公方様の上洛の求めあれば、進まざるゆえ(理由)なし。われに大義あり」
「御意にございます」
満親もまたニヤリと笑い、立ち上がって部屋を出て行った。
仲春の候、修理大夫殿におかれては益々ご清祥の事とお喜び申し上げます。
さて、過日賜りたる文、拝読いたしき候。
然りながら軍兵を率いて越中に入りたるは、加賀越前、近江を通りて公方様の命により上洛せんがために候。
決していたづらに軍を起こし、天下を乱すものにあらざると存じ候。
加へて越中の儀(件)、一切のお心遣いは無用にと仰せに候へども、越中守護のご威光、甚だ申し上げ難し事なれど、無きに等しけりと存じ候。
かつ(その上)、如何様にして(どのように)越中を静謐ならしめんとあそばすのか(平和を保とうとするのか)、心得難し(理解しがたい)候。
ゆへに、神保宗右衛門尉殿(神保長職)のもとめによりて入るを、とどむゆえなし(止める理由はない)と存じ候。
恐々謹言
三月十一日 謙信
謹上 畠山修理大夫殿
■岩代国 黒川城
「……ほう。かように遠き西国より……」
■羽前国 米沢城
「さて、いかがすべきか……」
琉球へ寄港してすぐに南下する予定が、明への対応協議のために滞在することになり遅くなってしまった。
わが艦隊(元練習艦隊)は海軍内での組織編制で、南方探険艦隊となったので、事実上最後の外交業務である。
やはり明の対外政策は、国威をちらつかせて服従を促すやり方である。本当に攻めようとは思っていない。台湾はまだしも、すでに冊封している琉球ならなおさらだ。
しかし、尚元王は大丈夫だろうか? 前回謁見を賜った時とは随分様子が変わっていたが……。
「お役目ご苦労様です」
台湾総督の若林鎮興が出迎える。
「かたじけない」
基隆の湊町を、鎮興に先導されながら総督府へ向かう。去年よりも人口も増え、内地とあまり変わらないように見える。
明人や琉球人、朝鮮人にポルトガル人や呂宋の他にも、バンテンや富春など各地の商人が集まっている。イスラームの商人もいるだろうか。
着実に交易都市としての様相を呈してきているようだ。
「太宰府少弐への任官、おめでとうございます」
総督府へ着くやいなや、鎮興が祝いの言葉をくれた。
「かたじけない。御屋形様に仕えてより、上洛することもなければ小佐々家中以外の方々と会う事もないゆえ、あまり要なしとは思うておったが、そう言われるとなかなかに良いものだな」
自然と笑みがこぼれる。
「聞けば練習艦隊より分かれては、さらなる南の未だ知らぬ島々を探し求める、というお役目にござりましょう?」
「左様。的木児の先、そこで巴布亜という島を見つけ、その先はいまだ知らぬ。何が起こるかわからぬゆえ、心重しく(慎重に)、ゆるりと進まねばならぬ」
「何とやら(なんだか)、少弐様はそうして船の上で過ごしている方が、若立ちて(生き生きして)おりますな」
わしの答えに鎮興がそう答えるので、わはははは、と笑いとばしてさらに返す。
「左様、どうやら陸の上におりて腹芸を披露するより性に合うようだ。難所(危険な場所)ばかりであろうが、それゆえ新しきものを見いだしたる時の喜びはひとしおよ」
「さに候(そうでしょう)」
今度は二人して笑った。
「時に少輔(鎮興)よ、明からなにやら使臣が来ておったそうだが、つぶさ(詳しく)には聞いてはおらぬが、その後はいかがなのだ?」
明との軋轢は緊張を生んではいたが、即戦争という訳ではない。
「は、その後は特に何もございませぬ。御屋形様からも、苛られさす(苛立たせる)事なく、ただ心してかかるようにとの事にございます」
「左様か。いずれにしても明は大国ゆえに動きだすのも遅かろうが、一度動きだせば大きなうねりとなりて押し寄せるであろう。心せよ」
「はは」
わしは台湾総督府に一泊してマニラへ向った。
■越後 春日山城
啓蟄の候、弾正少弼殿におかれましては益々御清祥のこととお慶び申し上げ候。
~中略~
以後は、一切のお心遣いは無用にて、隣国としての誼を通じたくお願い申し上げ候。恐々謹言。
三月六日 義慶
謹上 上杉弾正少弼殿
「ふ、ふふふふふ……。なんと、はじめて(今さら)越中守護、様とな……」
謙信は不敵な笑みを浮かべる。
畠山氏の越中守護としての力は衰えて久しい。
七代畠山義総の時代には両越能同盟(能登、越後、越中)が成立し、北陸に平和が訪れていた。謙信の父、長尾為景の時代である。
その後、越中においては本家の尾州畠山家が没落し、分家である能登畠山氏が統治するようになる。
しかしその能登畠山氏も、押水の合戦や七党の乱、高治の内乱で力をなくしていく。
結果、守護代であった神保氏と椎名氏が、越中の覇権をめぐって戦うようになったのである。
仲介に入ることはあっても、守護の強権をもって守護代の手綱を握ることはできていなかったのだ。
現当主の義慶は長続連ら重臣に擁立されたのであるが、その続連に追放された義綱を能登に戻すべく、謙信は過去に挙兵して越中に入っている。
結果的に畠山義綱の復権はならなかったものの、現当主を認めていない事になる。当然、直接のつきあいはないのだ。
「御実城様、いかがなさいますか」
須田相模守満親は、楽しそうに笑う謙信にむけて尋ねる。
「世の静謐は権威によりてなる、というのがわしの信条なのだ。その権威とは朝廷であり幕府である」
「は」
「先の当主を遣ろうて(追放して)なりしけり当主なぞ、正しき当主にあらず。ゆえにうべなう(従う)道理なし。加えて公方様の上洛の求めあれば、進まざるゆえ(理由)なし。われに大義あり」
「御意にございます」
満親もまたニヤリと笑い、立ち上がって部屋を出て行った。
仲春の候、修理大夫殿におかれては益々ご清祥の事とお喜び申し上げます。
さて、過日賜りたる文、拝読いたしき候。
然りながら軍兵を率いて越中に入りたるは、加賀越前、近江を通りて公方様の命により上洛せんがために候。
決していたづらに軍を起こし、天下を乱すものにあらざると存じ候。
加へて越中の儀(件)、一切のお心遣いは無用にと仰せに候へども、越中守護のご威光、甚だ申し上げ難し事なれど、無きに等しけりと存じ候。
かつ(その上)、如何様にして(どのように)越中を静謐ならしめんとあそばすのか(平和を保とうとするのか)、心得難し(理解しがたい)候。
ゆへに、神保宗右衛門尉殿(神保長職)のもとめによりて入るを、とどむゆえなし(止める理由はない)と存じ候。
恐々謹言
三月十一日 謙信
謹上 畠山修理大夫殿
■岩代国 黒川城
「……ほう。かように遠き西国より……」
■羽前国 米沢城
「さて、いかがすべきか……」
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