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西国王小佐々純正と第三勢力-緊迫の極東と、より東へ-
肥前より能登へ、越前での一節
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天正元年(1572) 二月二十三日 出雲国島根郡 美保関 小佐々純正
美保関から最寄りの簾城までは9kmほどあったので、城までは行かずに湊町の高級旅籠? (旅館)に泊まった。
美保関を含めた島根半島は、尼子氏が滅んだ後の再興戦での激戦地の一つだ。
まず、尼子再興軍の最初の根拠地であった忠山城や、月山富田城の支城である白鹿城、その白鹿城攻めの際の向城である真山城などがある。
毛利・尼子両方にとって因縁の土地だ。
宿の手配やもてなしをしてくれたのは、毛利家臣の真山城主で、島根郡の代官をしている多田左京亮元信である。
尼子とは戦った仲でもあるので、正直なところ、心中穏やかじゃないだろう。
それでも、お互いの領国と管理下の土地(自分の本領と小佐々家の直轄地)では棲み分けを行い、今のところはトラブルはない。これは、時間をかけていくしかないだろう。
理屈ではないのだ。
当然、能義郡月山富田城主の尼子孫四郎勝久と、山中鹿之助幸盛がいる。本当は立原源太兵衛尉久綱も来たかったらしいのだが、首脳が誰もいないのはまずい。
留守番である。
尼子勝久は能義郡が本領だが、奥出雲の鉄の管理を任せている。そのため仁多郡の代官もしているのだ。
「御屋形様、昨年十一月の中国和睦の言問の砌(会談の時)、われら尼子の続く(存続)を公に許していただき、感謝に堪えませぬ。ご恩返しを考えぬ日はなく、日々お役目に邁進しておりました」
「おお孫四郎殿、息災であったか? なんのなんの。貴殿とは歳も近いゆえ、わが友として遠慮なく接してくだされ」
正直なところ、同世代の友達が欲しいのは確かだ。会議室のメンバーは全員年上だしな。それに尼子を利用して毛利にくさびを打つ狙いもあった。
だからそこまで……まあ、感謝してくれるんなら、越したことはないけどね。
「御屋形様、その、少しよろしいでしょうか」
「なんだ、どうした左京亮殿。なにか要望でもあるのか」
「は、されば申し上げまする。実は近ごろ、お恥ずかしい限りにございますが、様々なところにて盗賊の類いが頻出しております。領内はもとより常に巡り(巡回して)て固めて(警護)はおりますが、やつらは根城を変えながら国をまたいで悪さをしており、どうにもできませぬ」
「ふむ」
「いつまた現われるとも知れず、然りとて郡を、国をまたいで追っ手を差し向けるのもはばかりまする(遠慮する)」
「そ、それはそれがしも……」
そう言って話に入ってきた勝久を一瞥したあと、元信は続ける。
「それゆえ、他の領国で心に任せて(自由に)動く事も能わず、捕らえられずにおります……できますれば……」
「あいわかった。では貴殿ら、わが領国の全ての国、郡、村、郷にて自在に動けるよう新たな仕組みを作ろう。それについては追って知らせる。よいか?」
「「は、ありがたき幸せに存じまする」」
うーん、いろいろと、組織改革というか、新しい省庁や改編をしなくちゃいけないな。この件に関しては警察を作ろう。東京が肥前になるだけの話だ。
諫早に戻ったら早速始めよう。
発 治部大丞 宛 権中納言
秘メ 織田軍 越前 制圧の後 三国湊ヲ 浅井備前守様 治セリ(治めている) マタ ソノ他ヲ 前波九郎兵衛尉殿 ヲ始メ 朝倉旧臣 ニテ 治セリ 秘メ
■越前国 敦賀
「馬鹿な、話が違うではないか! それがしを越前の国守にと申すから、寝返ったのじゃ」
敦賀郡司の朝倉景紀が浅井長政にくってかかっている。
「なにか心得違いをされていませぬか?」
浅井長政は素知らぬ顔だ。
「何をだ?」
「われらは、約を違えてなどおりませぬ」
景紀の行動をよそに、長政は届けられた山積みの書状を入念に読んでいる。
「何を申すか! 我らは越前一国はおろか、この敦賀でさえ、おぬしの軍兵であふれ、まるで織田の領国のようではないか! ?」
「なに? 織田の、領国ですと?」
長政の顔にピクリと緊張の筋が走る。
「わが浅井の亀甲花角ならともかく、この敦賀の、いずこに織田の木瓜紋があるのでござるか」
「なにをそのような些末な事を」
「些末? ふ、ふふふ。世間はそう見るか。あげく(結局)織田も浅井も同じだと言いたいのでござるか」
「いやいや然にあらず、言葉のあやにござろう。それよりも、なにゆえ約を違うておらぬと申すのだ」
景紀はいらだちを隠せない。一方の長政も、浅井と織田をひとまとめにされた事で、かんに障ったのだ。しかし、努めて冷静を装う。
「話さねば合点(理解)なさりませぬか? それがしは過日、つつがなく、越前を平定できれば、と申したのです」
「存じておる。それゆえ約を結び寝返ったのではないか。そのおかげでお主らは義景を滅ぼしてここにおる。何が違うのだ?」
「違うも何も、大野の景鏡は寝返るどころか家臣に討たれ、あろうことかその家臣は軍兵(軍勢)をまとめ、われらに刃向こうて来おったではないか。これで何がつつがなく、じゃ」
「いや、あれは案に違う一節(予想外の出来事)にて、万事うまく進むはずであったのだ」
「はずであった、などと義兄上が許す(認める)と思うてか。それに貴殿、越前の国守と申すが、孫三郎殿(朝倉景健)や九郎兵衛尉殿(前波吉継)、弥六郎殿(富田長繁)が許す(認める)と思うか? 許さす事(認めさせる事)能うのか? はなはだ疑わしい」
「……」
朝倉景健は最後まで戦い、一乗谷落城後に降伏した。富田長繁は長政からの降伏勧告によって、前波吉継は情勢不利とみて、浅井軍の道案内を行い内側から内応したのだ。
景紀は、その滅亡を早め、引導を渡している。
同じ降伏ではない、彼らはそう思うだろう。
美保関から最寄りの簾城までは9kmほどあったので、城までは行かずに湊町の高級旅籠? (旅館)に泊まった。
美保関を含めた島根半島は、尼子氏が滅んだ後の再興戦での激戦地の一つだ。
まず、尼子再興軍の最初の根拠地であった忠山城や、月山富田城の支城である白鹿城、その白鹿城攻めの際の向城である真山城などがある。
毛利・尼子両方にとって因縁の土地だ。
宿の手配やもてなしをしてくれたのは、毛利家臣の真山城主で、島根郡の代官をしている多田左京亮元信である。
尼子とは戦った仲でもあるので、正直なところ、心中穏やかじゃないだろう。
それでも、お互いの領国と管理下の土地(自分の本領と小佐々家の直轄地)では棲み分けを行い、今のところはトラブルはない。これは、時間をかけていくしかないだろう。
理屈ではないのだ。
当然、能義郡月山富田城主の尼子孫四郎勝久と、山中鹿之助幸盛がいる。本当は立原源太兵衛尉久綱も来たかったらしいのだが、首脳が誰もいないのはまずい。
留守番である。
尼子勝久は能義郡が本領だが、奥出雲の鉄の管理を任せている。そのため仁多郡の代官もしているのだ。
「御屋形様、昨年十一月の中国和睦の言問の砌(会談の時)、われら尼子の続く(存続)を公に許していただき、感謝に堪えませぬ。ご恩返しを考えぬ日はなく、日々お役目に邁進しておりました」
「おお孫四郎殿、息災であったか? なんのなんの。貴殿とは歳も近いゆえ、わが友として遠慮なく接してくだされ」
正直なところ、同世代の友達が欲しいのは確かだ。会議室のメンバーは全員年上だしな。それに尼子を利用して毛利にくさびを打つ狙いもあった。
だからそこまで……まあ、感謝してくれるんなら、越したことはないけどね。
「御屋形様、その、少しよろしいでしょうか」
「なんだ、どうした左京亮殿。なにか要望でもあるのか」
「は、されば申し上げまする。実は近ごろ、お恥ずかしい限りにございますが、様々なところにて盗賊の類いが頻出しております。領内はもとより常に巡り(巡回して)て固めて(警護)はおりますが、やつらは根城を変えながら国をまたいで悪さをしており、どうにもできませぬ」
「ふむ」
「いつまた現われるとも知れず、然りとて郡を、国をまたいで追っ手を差し向けるのもはばかりまする(遠慮する)」
「そ、それはそれがしも……」
そう言って話に入ってきた勝久を一瞥したあと、元信は続ける。
「それゆえ、他の領国で心に任せて(自由に)動く事も能わず、捕らえられずにおります……できますれば……」
「あいわかった。では貴殿ら、わが領国の全ての国、郡、村、郷にて自在に動けるよう新たな仕組みを作ろう。それについては追って知らせる。よいか?」
「「は、ありがたき幸せに存じまする」」
うーん、いろいろと、組織改革というか、新しい省庁や改編をしなくちゃいけないな。この件に関しては警察を作ろう。東京が肥前になるだけの話だ。
諫早に戻ったら早速始めよう。
発 治部大丞 宛 権中納言
秘メ 織田軍 越前 制圧の後 三国湊ヲ 浅井備前守様 治セリ(治めている) マタ ソノ他ヲ 前波九郎兵衛尉殿 ヲ始メ 朝倉旧臣 ニテ 治セリ 秘メ
■越前国 敦賀
「馬鹿な、話が違うではないか! それがしを越前の国守にと申すから、寝返ったのじゃ」
敦賀郡司の朝倉景紀が浅井長政にくってかかっている。
「なにか心得違いをされていませぬか?」
浅井長政は素知らぬ顔だ。
「何をだ?」
「われらは、約を違えてなどおりませぬ」
景紀の行動をよそに、長政は届けられた山積みの書状を入念に読んでいる。
「何を申すか! 我らは越前一国はおろか、この敦賀でさえ、おぬしの軍兵であふれ、まるで織田の領国のようではないか! ?」
「なに? 織田の、領国ですと?」
長政の顔にピクリと緊張の筋が走る。
「わが浅井の亀甲花角ならともかく、この敦賀の、いずこに織田の木瓜紋があるのでござるか」
「なにをそのような些末な事を」
「些末? ふ、ふふふ。世間はそう見るか。あげく(結局)織田も浅井も同じだと言いたいのでござるか」
「いやいや然にあらず、言葉のあやにござろう。それよりも、なにゆえ約を違うておらぬと申すのだ」
景紀はいらだちを隠せない。一方の長政も、浅井と織田をひとまとめにされた事で、かんに障ったのだ。しかし、努めて冷静を装う。
「話さねば合点(理解)なさりませぬか? それがしは過日、つつがなく、越前を平定できれば、と申したのです」
「存じておる。それゆえ約を結び寝返ったのではないか。そのおかげでお主らは義景を滅ぼしてここにおる。何が違うのだ?」
「違うも何も、大野の景鏡は寝返るどころか家臣に討たれ、あろうことかその家臣は軍兵(軍勢)をまとめ、われらに刃向こうて来おったではないか。これで何がつつがなく、じゃ」
「いや、あれは案に違う一節(予想外の出来事)にて、万事うまく進むはずであったのだ」
「はずであった、などと義兄上が許す(認める)と思うてか。それに貴殿、越前の国守と申すが、孫三郎殿(朝倉景健)や九郎兵衛尉殿(前波吉継)、弥六郎殿(富田長繁)が許す(認める)と思うか? 許さす事(認めさせる事)能うのか? はなはだ疑わしい」
「……」
朝倉景健は最後まで戦い、一乗谷落城後に降伏した。富田長繁は長政からの降伏勧告によって、前波吉継は情勢不利とみて、浅井軍の道案内を行い内側から内応したのだ。
景紀は、その滅亡を早め、引導を渡している。
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