『転生したら弱小領主の嫡男でした!!元アラフィフの戦国サバイバル~時代・技術考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁

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西国王小佐々純正と第三勢力-緊迫の極東と、より東へ-

明との冊封か小佐々との安保条約か。琉球は岐路にたつ

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 天正元年(元亀三年・1572年) 二月十五日 琉球 首里城




 皇帝勅諭琉球王國中山王尚元

 奉天承運皇帝制曰

 琉球與大明之交,非始今日。自洪武五年以來,世奉正朔,歲貢方物,歷二百載,未嘗廢弛。

 朕以天子之德,恤遠人之難,故遣兵戍衛,以安其邦。然而,近者有一國,妄擾舊章,動搖華夷之序者,日本是也。

 日本雖同為東海藩服,然不遵朕命,反欲侵凌小琉球,此實為僭越無禮之舉。若其不悛,必當以武定之,以正天下秩序。

 今特諭尚元,宜共遵大義,與朕同討日本,以靖海疆,欽哉。

 隆慶五年(1571年)十二月二十六日




 天命をうけた偉大なる中国の皇帝が、詔を伝える。琉球と明との付き合いは今に始まった事ではない。

 はるか昔の洪武五年より朝貢を始め、二百年にわたって臣の名義で方物(土地の産物)を献上し、正朔(「天子」の元号と天子の制定した暦を使用すること)を奉じてきた。

 これはひとえに、皇帝の名により出兵させるだけにあらず、琉球が危機の時には天子の徳をもって敵を排するためのものである。

 しかるに近ごろ、この秩序を乱す国が出てきた。日本国である。

 琉球と同じ、さらに東方の朝貢国であり冊封を行っていたにもかかわらず、朕の命に従わず、小琉球(台湾)を統治せんと目論んでいる。

 非常に無礼極まりない行為であり、事と次第によっては武威をもって秩序を知らしめねばならない。その際尚元は朕とともに日本の成敗に参加するよう申し渡す。




「なんたる事であるか! ごほん、ごほん、ぐほん……。いったい、いったいどうなっているのだ?」

 琉球国王尚元は、驚きと恐れに震えた声で鎖之側さすのそば(琉球王国における外交・文教を司った省庁)の伊地親雲上ぺーくみーと長嶺親雲上に問いただす。

 ※下御座にて※表十五人の評議中であった両親雲上は、尚元の求めにより正殿一階にある下庫理しちゃぐいに参内したのだ。

「大丈夫ですか? 御主加那志前うしゅがなしーめー! ? おい、誰か御典医を呼んでこい!」

 その場にいた下級官僚が呼びにいった。

「ごほ、ごほ、大事ない。それよりも、どうなのだ? 詳しく聞かせよ」

 咳き込んでいた尚元だが、大事に至ることはなく、伊地親雲上と長嶺親雲上の話を聞くことになった。

 御差床さうすかに座っている尚元に対し、長嶺親雲上が答える。

「ご心配には及びませぬ御主加那志前。小琉球においては国がなく、われらの関知するところではございませぬ。しかしながら日本との交易に関しましては、五年前の隆慶元年(1568年)に国交を結び、その成果は御主加那志前もご存じのはずです」

 琉球は土地が痩せていて技術も未発達であった。そのうえ明との朝貢貿易も二年に一度となって往時の栄華の面影はなかったのだ。

 食糧不足に苦しむ人々をみながら、伊地親雲上と長嶺親雲上はなんとか出来ないかと考えていた。

 そんな時、小佐々家との交易の話が舞い込んできたのである。
 
 小佐々家は南方への足がかりとして琉球と友好関係を結びたい。琉球は小佐々の先進的な技術を学び産物を輸入したい。

 そのような思いが合致して通商を結んだのだ。

 使節団は小佐々家の農業を目の当たりにし、その想いを強めて帰国した。サツマイモの栽培やサトウキビの栽培、そして製糖法を学んで、今では国の重要な産業となっている。

 小佐々家はサツマイモの栽培もサトウキビの栽培も行っているが、いかんせん大量生産するには地理的制約のために限界がある。
 
 そのため、琉球の重要な輸出品となっていたのだ。

 それだけではない。小佐々には芭蕉布やウコン、朱粉や琉球紅型、かすりなどの染め物や織物、ラデンなどを大量に輸出している。

 そのおかげで単年度ではようやく黒字になったのだ。これからもっと国を強くしていかなければならない時に、明はなんという言いがかりを付けてくるのだ!

 そう長嶺親雲上は思った。

「福田治部少志しょうさかんよ、日本国、小佐々権中納言殿の見解やいかに?」

 福田治部少志忠長は、塩田津の湊における龍造寺隆信との戦いで戦死した、肥前彼杵松山城主、福田丹波守の孫である。
 
 その傍らには、幼い頃から生死を共にしてきた、内海治部少志政一が控えている。

 駐琉球大使兼駐在武官として琉球に滞在している。

「恐れながら御主加那志前に申し上げます。我が主君、権中納言様におかれましては、さきほど長嶺親雲上が仰せのように、琉球国とともに大いに栄える事を目指しております」

「ふむ」
 
「明国の言い分は甚だ勝手ながら、いささかもあたむ(敵対する)訳ではありませぬ。さりながら……」

「なんじゃ」

 忠長は三年前の永禄十二年(1569年)の二月に、明より返信された『台湾は化外の地であり、明の統治の及ばぬところ』と記した公式の書面を提示した。

「なんだ、これは? 明国が申している事と全く逆ではないか? この、この勅書は本物であろうな?」

 ……。

「御主加那志前、この勅書は琉球国に遣わされた勅書と同じく、唐紙に書かれております。唐紙は遠く平安の御代にわが国に伝わりましたが、この紙の出来は明国の仕様にございます。また、中央には右を向き火炎を吐いた五爪の龍が、四隅には瑞雲の模様が金泥で描かれ、皇帝の玉璽も押されております。これをもってもなお、偽書と仰せになりますか」

「うむ……確かにそうであるな。しかし、どうしたものか。武威をもって示すとは、これは戦を仕掛けるという事ではないのか? 長嶺親雲上、どうなのだ?」

 尚元王の顔色が悪い。体調不良とも病気とも思える様子だが、国難にあって病をおして朝廷にやってきたのだろう。

「……。文面から考えるとそうともとれますが、恐らくは本気で小琉球を攻め、小佐々国と戦をしようとは考えておらぬでしょう。また、明国の現状を鑑みるに、外征をする余力があるとは思えませぬ」

 事実、そうであった。
 
 明はモンゴルとは和睦し交易を行いながら、女真族ともつかず離れずの関係で、部族間の対立をあおっては強大な勢力が現れないようにしていた。

 これにて北虜はなくなり、南倭も今のところは鎮められた。
 
 しかし国土は疲弊しており、ゆるやかな回復の傾向を見せてはいるものの、外征などできる国庫の状態ではなかったのだ。

「冊封もさることながら、もはや朝貢貿易にわが※沖奈波(おきなは・沖縄)の将来を委ねることは難しいかと考えております。しかし、そうは言っても表だって事を荒立ててはならぬので、ここは穏便にどうとでもとれる返書を送られればよろしいかと」




 結局、琉球王尚元は長嶺親雲上の進言を採用し、明には『台湾の事は全く知らない。正朔を奉じる身なれど、国内未だ貧しく定まらず、できる限りの事は協力するが、期待に添えるかわからない』という旨の返書を送ったのであった。

 明は、どうでるだろうか?




 ※史実では表十五人は尚賢王の治世の1643年(崇徳八年・寛永二十年)に置かれたのですが、作中ではすでに存在します。

 また、表十五人は現在の国務大臣に相当します。通常は各役所に勤務し、必要があれば集まって協議し、摂政や三司官に上申します。
 
 表十五人が協議する場を下御座、摂政や三司官が協議する場を御座もしくは上御座と言いました。
 
 沖奈波(おきなは・沖縄)は、「琉球」は隋が命名した他称であり、内政的には古くから自国を「おきなわ(歴史的仮名遣い:お(う)きなは)」に近い音で呼称していたとする研究もある事から、そう記述しました。
 
 沖は創作ですが、「阿児奈波(あこなは)」という呼び名が、淡海三船が記した鑑真の伝記『唐大和上東征伝』(779年・宝亀十年)の中に見られます。
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