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西国王小佐々純正と第三勢力-第2.5次信長包囲網と迫り来る陰-
伯耆国岩倉城と備前国天神山城の行方
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元亀二年 四月十七日 伯耆国 岩倉城
「おお、見よ! 駿河守様が後詰めとしてこられたぞ!」
城主の小鴨元清は、丸に三つ引両の吉川の旗印に小躍りして喜んだ。河村郡と久米郡、八橋郡の大部分を治める、国人領主の南条元継の弟である。
今回の一斉挙兵に関しては、主筋である南条家の判断には従ったものの、半信半疑であった。
この謀反劇の首謀者は間違いなく吉川元春である。書状でのやり取りで確約したものの、本当に味方なのか、旗印として立って戦ってくれるのか、不安だったのだ。
ひとつふたつ見えていた旗指物がどんどん増えてくる。
「開門! 開門!」
使者の小笠原元枝(もとしげ)は歓喜の声で迎えられた。
「されば左衛門尉殿(城主の小鴨元清)には、潔く弓を伏せられ、降伏なさる事をわが殿駿河守様は願っておられます」
「な、に? 御使者殿、今一度申されよ」
謁見の間に通され、城主小鴨元清と正対した元枝は事もなげに言ったのだ。
元清は理解できない。元春の遣いできたのなら、一体誰に降伏するというのだ? そう思う他なかった。
「は、さればわが殿駿河守様は、左衛門尉殿におかれては、近衛中将様に対し弓伏せらるる事をお望みにござる」
「そんな、馬鹿な事があるかぁ! おのれ、謀ったなぁ!」
元清は太刀を抜き、元枝に斬りかかろうとする。
「お待ちを! それがしを斬っていかがされる! 城は吉川の大軍に呑み込まれ、一刻とたたずして落ちましょうぞ! それでよろしいのか!」
振りかぶった太刀をゆっくりと鞘に納め、はあはあと呼吸をしながら息を整える。
吉川の軍勢に加え毛利や小早川、そして小佐々の軍が加わっているとなると、万に一つも勝ち目はない。
頭では理解できる。理解はできるのだ。
しかし、騙されたという怒りが勝っている。それに兄である当主、南条元継に無断で城を明け渡すなどできようか。
あのとき、もう少し強硬に兄を説得していれば、このような事にはならなかったのに。元清はそう考えたが、後悔先に立たずである。
岩倉城が吉川軍に包囲されている頃、兄である南条元継は、この機に乗じて美作国の西西条郡と西北条郡を手中に収めようと出兵していた。
美作は浦上家の支配下にあったが、純正の仕置きにより浦上家以外は小佐々の直轄地となっていたからだ。
■備前美作
備前では浦上宗景が明確に純正に反旗を翻し、宇喜多軍と対峙していたが、今までは味方であった宇喜多家を敵に回しては分が悪かった。
しかし、吉川元春が本家に逆らい立ち上がるのだ。宗景は勝機はあると考えた。
斉藤や原田や竹内、有元や江見や後藤と言った国人衆も以前のように味方に加え、糾合すれば負ける事はない。そう考えたのだ。
純正は湯築城での会談で、十七万の大軍を擁する、と言っていた。
しかし、宗景は疑問に思っていたのだ。果たして本当に十七万もの大軍で攻め入る事などできるのか、と。小佐々家の経済力は十分にそれを実現させる力を持っていたが、誰も見ていない。
小佐々家中の人間以外で見たことがあると言えば、小早川隆景くらいであろう。宗景だけでなく皆が皆、そんな大軍を動かせる訳がない、と高をくくっていたのだ。
そして何より、純正に反旗を翻した、反乱軍とでも言おうか。その反乱軍の不幸は、情報を情報として精査せず、鵜呑みにしてしまったことにあった。
将軍の御教書? 正直なところ空手形もいいところだ。
誰が何をもって担保するのだろう。御内書にしてもそうだ。人を介しての情報となれば、少なからずそれぞれの希望的観測が入ってくる。
伝言ゲームと同じである。距離が離れれば離れるほど、介する人が多ければ多いほど、情報はゆがんで伝わるのだ。
それは純正の力を過小評価させ、反乱軍である自らを過大評価させるにいたった。
すでに十四日には美作において、毛利と小早川、三村の連合軍に三浦家の支城である麓城は包囲され、本城である高田城までもが落城目前となっていた。
備前の宗景はと言うと、三村の軍勢が美作の平定に向かったので、当面の敵は宇喜多であった。直轄地の石高でいえば1.5倍、まともに戦えば再度支配下に入れた国人衆もあわせて負けることはない。
負けることは、ない、はずであった。
ところがまたたくまに金川、長船の重要な拠点である両支城が落とされたのだ。
小佐々陸軍第一師団の第三旅団、第三師団の第一旅団の合計12,000名はそのまま東進して赤松義祐討伐のために播磨へ進軍した。
第四師団の第一、第二旅団の12,000名は宇喜多軍とともに、宗景の本城である天神山城を落とすために向かっている。
対する浦上軍は5,000にも満たない。
「ばかな、こんな事があってたまるか。駿河守殿は、駿河守殿は何をしているのだ? 毛利の家中をまとめ、われらと共に戦ってくれるのではないのか?」
小佐々・宇喜多の連合軍は15,000名。宗景は籠城を選んだ。
天神山城は天然の要害で、易々と落ちるわけがない。一月、二月と踏ん張れば、元春(吉川)の援軍がくるはずだと信じたのだ。
連合軍のうち第四師団の第一旅団は長船城を落とした勢いをもって、吉井川を和気村から益原村、田原村へと順に北上し、そこに布陣した。
天神山城より半里(約2km)南である。
宇喜多軍と第四師団の第二旅団は金川城を落とした後東進し、小原村から軽部村を経て、矢田部村の吉井川西岸へ布陣した。
天神山城の西二十八町(約30.8km)となる。
南側を連合第一軍とし、西側を連合第二軍とすれば、両軍とも渡河をすることは可能であった。
しかし渡河作戦は敵の攻撃にさらされる恐れもある。なにより両軍とも、大砲の射程内に天神山城を捉えていたのだ。危険を冒す必要はない。
「おお、見よ! 駿河守様が後詰めとしてこられたぞ!」
城主の小鴨元清は、丸に三つ引両の吉川の旗印に小躍りして喜んだ。河村郡と久米郡、八橋郡の大部分を治める、国人領主の南条元継の弟である。
今回の一斉挙兵に関しては、主筋である南条家の判断には従ったものの、半信半疑であった。
この謀反劇の首謀者は間違いなく吉川元春である。書状でのやり取りで確約したものの、本当に味方なのか、旗印として立って戦ってくれるのか、不安だったのだ。
ひとつふたつ見えていた旗指物がどんどん増えてくる。
「開門! 開門!」
使者の小笠原元枝(もとしげ)は歓喜の声で迎えられた。
「されば左衛門尉殿(城主の小鴨元清)には、潔く弓を伏せられ、降伏なさる事をわが殿駿河守様は願っておられます」
「な、に? 御使者殿、今一度申されよ」
謁見の間に通され、城主小鴨元清と正対した元枝は事もなげに言ったのだ。
元清は理解できない。元春の遣いできたのなら、一体誰に降伏するというのだ? そう思う他なかった。
「は、さればわが殿駿河守様は、左衛門尉殿におかれては、近衛中将様に対し弓伏せらるる事をお望みにござる」
「そんな、馬鹿な事があるかぁ! おのれ、謀ったなぁ!」
元清は太刀を抜き、元枝に斬りかかろうとする。
「お待ちを! それがしを斬っていかがされる! 城は吉川の大軍に呑み込まれ、一刻とたたずして落ちましょうぞ! それでよろしいのか!」
振りかぶった太刀をゆっくりと鞘に納め、はあはあと呼吸をしながら息を整える。
吉川の軍勢に加え毛利や小早川、そして小佐々の軍が加わっているとなると、万に一つも勝ち目はない。
頭では理解できる。理解はできるのだ。
しかし、騙されたという怒りが勝っている。それに兄である当主、南条元継に無断で城を明け渡すなどできようか。
あのとき、もう少し強硬に兄を説得していれば、このような事にはならなかったのに。元清はそう考えたが、後悔先に立たずである。
岩倉城が吉川軍に包囲されている頃、兄である南条元継は、この機に乗じて美作国の西西条郡と西北条郡を手中に収めようと出兵していた。
美作は浦上家の支配下にあったが、純正の仕置きにより浦上家以外は小佐々の直轄地となっていたからだ。
■備前美作
備前では浦上宗景が明確に純正に反旗を翻し、宇喜多軍と対峙していたが、今までは味方であった宇喜多家を敵に回しては分が悪かった。
しかし、吉川元春が本家に逆らい立ち上がるのだ。宗景は勝機はあると考えた。
斉藤や原田や竹内、有元や江見や後藤と言った国人衆も以前のように味方に加え、糾合すれば負ける事はない。そう考えたのだ。
純正は湯築城での会談で、十七万の大軍を擁する、と言っていた。
しかし、宗景は疑問に思っていたのだ。果たして本当に十七万もの大軍で攻め入る事などできるのか、と。小佐々家の経済力は十分にそれを実現させる力を持っていたが、誰も見ていない。
小佐々家中の人間以外で見たことがあると言えば、小早川隆景くらいであろう。宗景だけでなく皆が皆、そんな大軍を動かせる訳がない、と高をくくっていたのだ。
そして何より、純正に反旗を翻した、反乱軍とでも言おうか。その反乱軍の不幸は、情報を情報として精査せず、鵜呑みにしてしまったことにあった。
将軍の御教書? 正直なところ空手形もいいところだ。
誰が何をもって担保するのだろう。御内書にしてもそうだ。人を介しての情報となれば、少なからずそれぞれの希望的観測が入ってくる。
伝言ゲームと同じである。距離が離れれば離れるほど、介する人が多ければ多いほど、情報はゆがんで伝わるのだ。
それは純正の力を過小評価させ、反乱軍である自らを過大評価させるにいたった。
すでに十四日には美作において、毛利と小早川、三村の連合軍に三浦家の支城である麓城は包囲され、本城である高田城までもが落城目前となっていた。
備前の宗景はと言うと、三村の軍勢が美作の平定に向かったので、当面の敵は宇喜多であった。直轄地の石高でいえば1.5倍、まともに戦えば再度支配下に入れた国人衆もあわせて負けることはない。
負けることは、ない、はずであった。
ところがまたたくまに金川、長船の重要な拠点である両支城が落とされたのだ。
小佐々陸軍第一師団の第三旅団、第三師団の第一旅団の合計12,000名はそのまま東進して赤松義祐討伐のために播磨へ進軍した。
第四師団の第一、第二旅団の12,000名は宇喜多軍とともに、宗景の本城である天神山城を落とすために向かっている。
対する浦上軍は5,000にも満たない。
「ばかな、こんな事があってたまるか。駿河守殿は、駿河守殿は何をしているのだ? 毛利の家中をまとめ、われらと共に戦ってくれるのではないのか?」
小佐々・宇喜多の連合軍は15,000名。宗景は籠城を選んだ。
天神山城は天然の要害で、易々と落ちるわけがない。一月、二月と踏ん張れば、元春(吉川)の援軍がくるはずだと信じたのだ。
連合軍のうち第四師団の第一旅団は長船城を落とした勢いをもって、吉井川を和気村から益原村、田原村へと順に北上し、そこに布陣した。
天神山城より半里(約2km)南である。
宇喜多軍と第四師団の第二旅団は金川城を落とした後東進し、小原村から軽部村を経て、矢田部村の吉井川西岸へ布陣した。
天神山城の西二十八町(約30.8km)となる。
南側を連合第一軍とし、西側を連合第二軍とすれば、両軍とも渡河をすることは可能であった。
しかし渡河作戦は敵の攻撃にさらされる恐れもある。なにより両軍とも、大砲の射程内に天神山城を捉えていたのだ。危険を冒す必要はない。
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