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西国王小佐々純正と第三勢力-第2.5次信長包囲網と迫り来る陰-
御教書発給と将軍義昭の御内書疑惑
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元亀二年 三月十一日 諫早城
発 純正 宛 近衛中将
秘メ ◯三◯三 信玄 兵越峠ヨリ 遠江 入レリ 山県 秋山 奧三河 侵攻セリ 徳川 浜松ニテ 籠城 織田ノ 援軍 待テリ 秘メ ◯三◯六
「直茂よ、弾正忠殿はいま、どのあたりであろうか? 援軍は間に合うかの?」
傍らにはここ数日、戦略会議室の面々が集っている。情報は24時間態勢で収集し、当番のメンバーが緊急と判断すれば、時間にかかわらず純正に届けられた。
「は、越前には早ければ一日、遅くとも小谷までは伝馬宿と信号所がございますので、二日には到着しているものと思われます。三日に陣払いをして軍を進めたとして、浜松着到は十三日ごろと思われます」
「まだ、到着せぬか」
「は、あわせて……」
直茂は他にも懸念事項があるようだ。
「なんじゃ、まだあるのか」
「は、三河に入ってきておる山県昌景、秋山信友、そしてそれを案内する山家三方衆にござりまする」
信玄の別動隊である。
秋山信友は美濃の岩村城を陥落させ、山県隊と合流している。そして山家三方衆は、前述した徳川軍からの内応軍である。
「それらが黙りて、弾正忠様を遠江まで通すか疑念がわきまする。さらに街道の信号所、伝馬宿が制されておる恐れもありますれば、文のやり取りも難しいかと」
「ふむ……」
純正は考えこんだ。
織田との攻守同盟が成立したのが昨年元亀元年の一月である。
徳川浅井との準同盟はそれ以前よりあったが、通信・情報の共有盟約がなったのが昨年の十一月であった。
それは情報を共有し、純正の提案で街道整備と信号所や伝馬宿の整備を行う事である。しかし現時点では完全に整備はなされてはいない。
莫大な費用がかかるのだ。それに徳川との直接の軍事同盟は成立していない。
織田からの要請もない。京都の守備で同盟国としての役割は果たしているので、これ以上の東国への出兵は家中の反対もあったのだ。
せめて昨年の盟約で、織田家の当主である信長がいたのだから、もっと突っ込んで両家と軍事同盟(NATOのようなもの?)を結んでおけば良かったのかもしれない。
しかし、小佐々家の持ち出しがあまりにも多すぎる。
その同盟の良し悪しはわからないが、最善を尽くせたのだろうか? 信玄が織田徳川を破り、京都を席巻するような事になれば、由々しき事態である。
「官兵衛、例の件は進んでおるか」
「は、つつがなく。間違いなく、回天の一策とあいなりましょう」
その策で、事態を好転させる一手となればよい、と純正は考えていた。
■元亀二年 三月十八日 諫早城
秘メ ◯三◯九 信玄 二俣城 包囲セリ 弾正忠樣 三河ニテ 山県 秋山 山家三方衆ニ カカリテ 動ケズ 左京大夫樣(徳川家康) 三河衆ノミニテ 当タル他ナシ マタ 公方樣 愈々(いよいよ) 御教書 発給サレリ 御内書モ 同ジクシテ 各地ヘ 送ラレリ 秘メ ◯三一四
信玄は、徳川領の併合を狙っているのか?
それならば三河部隊に信長を足止めさせて、兵力差を利用して徳川を殲滅する。守るべき徳川が潰走すれば、退路を絶ち、包囲して織田を攻撃すればいい。
目的が織田の滅亡ならば?
三河を素通りさせて織田軍を遠江まで誘い込み、背後を三河部隊に襲わせる。二俣城はいつまでもつか? 家康は後詰めにでるか?
「さてみんな、知っての通り御教書が発給された。どの程の力があるかわからぬが、毛利その他の諸将まで、どれほどで届くと考える?」
議題を将軍と西日本へ変えた。畿内は純久、三河と遠江は織田徳川に任せて情報収集のみだ。
「は、大使館にて確認されたのが十四日なれば、今より三日のうちには毛利の手元に届くかと思われます。遅くとも二十四日までには毛利、吉川、小早川の三者が知りて、それより東はさらに早いかと」
うむ、と純正は考えている。
今の時点で吉川をはじめ、西国諸将の謀反は確かではない。しかし陸海軍は即応態勢であり、麾下の大名へも、陣触れがあればすぐに動けと指示は出してあるのだ。
「そうか。では、どうだ? 今すぐ陣触れを出して用意させるか?」
「殿、お待ちください。今はまだ、どの大名国人がどれほどの兵で、どこで起つかわかりませぬ。あくまで推し量っているだけにて、動かすのは早計にございます」
「さよう。陣触れを出せば命に従い軍を動かしましょうが、長ければ長いほど銭もかかります。まずはわが陸海軍にて応じ、必要にあわせて動かせばよいかと。急いてはなりませぬ」。
庄兵衛と弥三郎が反論する。
既存の陸海軍の兵力だけで四万はある。
それだけでも倍の兵力差であるし、大砲や銃器における火力の差を考えれば優勢なのは明らかである。この状態でも後詰めを今から準備する必要はあるだろうか?
「よし、では先だって俺の考えは島津にも大友にも伝えている。戦況によって、芳しくなければ命じるとしよう」
はは、と全員が返事をして会議を終えた。
三河や遠江方面は予断を許さないとはいえ、畿内は問題ないだろう。松永弾正や三好義継が裏切って京に攻めてきても、返り討ちにできるはずだ。
伊賀や甲賀はどうだろうか?
金で動く傭兵集団、雑賀や根来と同じ匂いがするが、忍者は基本傭兵みたいなものだろう。本願寺から金が動いているだろうか?
だとすればどう動くか? 今のところ動きはみられない。
弾正が動くならば、同じ大和の筒井順慶の筒井城を攻め、大和の完全掌握を狙うだろうか。三好義継はどうする? 念のため書状を送っておこう。
三好阿波守殿(三好長治、摂津淡路三好の当主)
拝啓 向春の候、貴殿におかれては、いよいよご隆盛の趣、慶賀の至りに存じ候。
さて、先般の和議の折、三好家中においては讃岐阿波、ならびに摂津淡路を分けて治る旨、日向守殿(三好長逸)より聞きて候。
これにてわが小佐々家と、三好一族すべて志を同じくなりけりと考えて候。
河内の三好左京大夫殿(三好義継)にも同じく文を送りたれば、努々(ゆめゆめ)われらが相争う事のなきよう願い候。
三好御家中の事なれば、われが関するを良しと考えざれども、ひとえにわれらが争いを避けること、重ねて願い候。
内政干渉? ともとれる内容かもしれないが、万が一義継が裏切った場合、長治が同調されても困る。
発 純正 宛 近衛中将
秘メ ◯三◯三 信玄 兵越峠ヨリ 遠江 入レリ 山県 秋山 奧三河 侵攻セリ 徳川 浜松ニテ 籠城 織田ノ 援軍 待テリ 秘メ ◯三◯六
「直茂よ、弾正忠殿はいま、どのあたりであろうか? 援軍は間に合うかの?」
傍らにはここ数日、戦略会議室の面々が集っている。情報は24時間態勢で収集し、当番のメンバーが緊急と判断すれば、時間にかかわらず純正に届けられた。
「は、越前には早ければ一日、遅くとも小谷までは伝馬宿と信号所がございますので、二日には到着しているものと思われます。三日に陣払いをして軍を進めたとして、浜松着到は十三日ごろと思われます」
「まだ、到着せぬか」
「は、あわせて……」
直茂は他にも懸念事項があるようだ。
「なんじゃ、まだあるのか」
「は、三河に入ってきておる山県昌景、秋山信友、そしてそれを案内する山家三方衆にござりまする」
信玄の別動隊である。
秋山信友は美濃の岩村城を陥落させ、山県隊と合流している。そして山家三方衆は、前述した徳川軍からの内応軍である。
「それらが黙りて、弾正忠様を遠江まで通すか疑念がわきまする。さらに街道の信号所、伝馬宿が制されておる恐れもありますれば、文のやり取りも難しいかと」
「ふむ……」
純正は考えこんだ。
織田との攻守同盟が成立したのが昨年元亀元年の一月である。
徳川浅井との準同盟はそれ以前よりあったが、通信・情報の共有盟約がなったのが昨年の十一月であった。
それは情報を共有し、純正の提案で街道整備と信号所や伝馬宿の整備を行う事である。しかし現時点では完全に整備はなされてはいない。
莫大な費用がかかるのだ。それに徳川との直接の軍事同盟は成立していない。
織田からの要請もない。京都の守備で同盟国としての役割は果たしているので、これ以上の東国への出兵は家中の反対もあったのだ。
せめて昨年の盟約で、織田家の当主である信長がいたのだから、もっと突っ込んで両家と軍事同盟(NATOのようなもの?)を結んでおけば良かったのかもしれない。
しかし、小佐々家の持ち出しがあまりにも多すぎる。
その同盟の良し悪しはわからないが、最善を尽くせたのだろうか? 信玄が織田徳川を破り、京都を席巻するような事になれば、由々しき事態である。
「官兵衛、例の件は進んでおるか」
「は、つつがなく。間違いなく、回天の一策とあいなりましょう」
その策で、事態を好転させる一手となればよい、と純正は考えていた。
■元亀二年 三月十八日 諫早城
秘メ ◯三◯九 信玄 二俣城 包囲セリ 弾正忠樣 三河ニテ 山県 秋山 山家三方衆ニ カカリテ 動ケズ 左京大夫樣(徳川家康) 三河衆ノミニテ 当タル他ナシ マタ 公方樣 愈々(いよいよ) 御教書 発給サレリ 御内書モ 同ジクシテ 各地ヘ 送ラレリ 秘メ ◯三一四
信玄は、徳川領の併合を狙っているのか?
それならば三河部隊に信長を足止めさせて、兵力差を利用して徳川を殲滅する。守るべき徳川が潰走すれば、退路を絶ち、包囲して織田を攻撃すればいい。
目的が織田の滅亡ならば?
三河を素通りさせて織田軍を遠江まで誘い込み、背後を三河部隊に襲わせる。二俣城はいつまでもつか? 家康は後詰めにでるか?
「さてみんな、知っての通り御教書が発給された。どの程の力があるかわからぬが、毛利その他の諸将まで、どれほどで届くと考える?」
議題を将軍と西日本へ変えた。畿内は純久、三河と遠江は織田徳川に任せて情報収集のみだ。
「は、大使館にて確認されたのが十四日なれば、今より三日のうちには毛利の手元に届くかと思われます。遅くとも二十四日までには毛利、吉川、小早川の三者が知りて、それより東はさらに早いかと」
うむ、と純正は考えている。
今の時点で吉川をはじめ、西国諸将の謀反は確かではない。しかし陸海軍は即応態勢であり、麾下の大名へも、陣触れがあればすぐに動けと指示は出してあるのだ。
「そうか。では、どうだ? 今すぐ陣触れを出して用意させるか?」
「殿、お待ちください。今はまだ、どの大名国人がどれほどの兵で、どこで起つかわかりませぬ。あくまで推し量っているだけにて、動かすのは早計にございます」
「さよう。陣触れを出せば命に従い軍を動かしましょうが、長ければ長いほど銭もかかります。まずはわが陸海軍にて応じ、必要にあわせて動かせばよいかと。急いてはなりませぬ」。
庄兵衛と弥三郎が反論する。
既存の陸海軍の兵力だけで四万はある。
それだけでも倍の兵力差であるし、大砲や銃器における火力の差を考えれば優勢なのは明らかである。この状態でも後詰めを今から準備する必要はあるだろうか?
「よし、では先だって俺の考えは島津にも大友にも伝えている。戦況によって、芳しくなければ命じるとしよう」
はは、と全員が返事をして会議を終えた。
三河や遠江方面は予断を許さないとはいえ、畿内は問題ないだろう。松永弾正や三好義継が裏切って京に攻めてきても、返り討ちにできるはずだ。
伊賀や甲賀はどうだろうか?
金で動く傭兵集団、雑賀や根来と同じ匂いがするが、忍者は基本傭兵みたいなものだろう。本願寺から金が動いているだろうか?
だとすればどう動くか? 今のところ動きはみられない。
弾正が動くならば、同じ大和の筒井順慶の筒井城を攻め、大和の完全掌握を狙うだろうか。三好義継はどうする? 念のため書状を送っておこう。
三好阿波守殿(三好長治、摂津淡路三好の当主)
拝啓 向春の候、貴殿におかれては、いよいよご隆盛の趣、慶賀の至りに存じ候。
さて、先般の和議の折、三好家中においては讃岐阿波、ならびに摂津淡路を分けて治る旨、日向守殿(三好長逸)より聞きて候。
これにてわが小佐々家と、三好一族すべて志を同じくなりけりと考えて候。
河内の三好左京大夫殿(三好義継)にも同じく文を送りたれば、努々(ゆめゆめ)われらが相争う事のなきよう願い候。
三好御家中の事なれば、われが関するを良しと考えざれども、ひとえにわれらが争いを避けること、重ねて願い候。
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