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西国王小佐々純正と第三勢力-第2.5次信長包囲網と迫り来る陰-
京都大使館にて信長と純正と純久と、そして佐吉
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元亀元年 十一月十五日 京都大使館
「そうか、そこまできたか。まったく、あの公方ときたら、こちらが何も言わぬのを良い事に」
と信長。
「どうされるのですか」
短く返事をする純正。
「こうなれば、事と次第によっては所司代を辞任されたほうが良いのではないでしょうか」
純久は現実的な対応を考える。しかし、義昭と険悪になれば辞任させられるかもしれない。そうなったら渡りに船である。
「……そろそろ、珈琲と紅茶、おかわりをお持ちしましょうか?」
普通ならあり得ないシチュエーションに、緊張するなり、言葉を失うなりして縮こまるはずである。しかし佐吉は落ち着き払っていて、淡々と言葉を発する。
「あ! やった! 一抜けです!」
かとおもうと、声変わりしていないかのような高い声を出して喜んでいる。
ノブ:「ぐ、ぐぬう」
純正:「おかわり!」
純久:「佐吉、少しは忖度というものを……」
テーブルの下に置いた囲炉裏を囲んでババ抜きをしているその4人とは、織田信長、小佐々純正、小佐々純久、石田佐吉である。
この状況でなぜ大使館でババ抜きをしているのか?
というと、やはり天下に名を残す人物というのは、常人には計り知れないものなのかもしれない。……?
信長はまだ長島の一揆を平定はしていなかったが、5つの城のうち4つは、砲撃や兵糧攻めで陥落させていた。残った長島城も時間の問題である。
柴田勝家をはじめとした重臣に指揮をまかせ、純正が上洛していると聞き、引き上げたのだ。浅井長政はというと、丹後を平定して小谷城へ帰還していた。
「さて、弾正忠殿。大事な長島を引き上げここにいるという事は、それなりに重要な用件なのでしょう?」
純正はお開きにしたトランプのカードをまとめ、珈琲を口にふくみながら信長に尋ねる。公式、非公式は何をもって区別するのかわからないが、4人とも略装だ。
ビロードのマントはハンガーに掛けられ、ラメの装飾が施されたベスト(仏:ジレ)、その下にはオーダーメイドのシャツを着ている。
前立ての部分にフリルのような装飾がある、よく見るあれだ。
一方の純正と純久は、完全に現代風である。
2人ともジャケットは脱いでいるがシャツは現代風で、ノータイだ。胸ポケットには白糸で、小佐々の家紋、七つ割平四つ目が刺繍されている。
さすがにボタンのような小さな加工は難しい。出来なくはないだろうが、かなり高価になるので略装では使わない。
小指の先ほどの大きさにあつらえた紐カフスのようなものを、もう一方の前立ての生地の穴に通して留める物だ。
ベルトは三重になっていて、三重目と二重目の間に脇差し用、二重目と一重目の間に大刀用の隙間をつくり、二振りの刀がクロスするように上手く作られている。
佐吉は刀の仕様がないだけで、同じだ。
大使館の職員は、館内の仕事の時はほとんどがこの格好である。機能性重視だ。ただし、参内したり公式に外出するときは和装となる。
「まあ、そんなところだ。お主とこれからの事を話したくての」
信長が話したい事とはなんだろう? そう思いながら純正は返事をする。
「これから、ですか。俺たちは西国の地固めを着々と進めるだけですね。中央とは、少し間をおきたいので」
純正が敬語を使っているのは、単に年齢が上で年長者を敬っているからにすぎない。
純正と信長は対等な同盟である。六角とは単なる親密な通商であり、徳川や浅井とは、信長の同盟相手なので準同盟といったところであろうか。
先日の室町御所参内の事を信長は知っている。信長も各地に忍びの者を放って情報収集をしているのだ。当然であろう。
「さようか。わしも鼻持ちならぬところはあるが、今はまだ様子を見ておる。長島の一揆はいずれ平定するとして、越前の朝倉に延暦寺や本願寺、それに根来や雑賀の動きもあるでな」
信長は、まだ、ギリギリ義昭と敵対する時期ではないと考えているようだ。
「そうですね。信玄も三河に侵入しているようですし、上杉とも和睦を結んでいる。上杉は越中にかかりきりでしょうから、しばらくは信濃に手は出さないでしょう」
信長が純正の顔を凝視する。
「信玄は駿河をほぼ平定して、興国寺城のあたりだけ北条の領国となっていますね。その代替わりした氏政とも盟約を結んでいますから、きっかけがあれば上洛を意図するかもしれません」
「おい、純正」
「な、なんですか」
「前々から思っていたのだが、おぬしのその諜報能力、わが織田と共にせぬか」
しまった! という顔をしている純正の横で、純久が、勘弁してくださいよ、という顔をする。純正に向けてなのか、信長に向けてなのかはわからない。
佐吉は聞き役にまわって空いたカップを下げ、新しい物を用意する。
「わが小佐々の忍びの情報を、弾正忠殿と共にせよ、と?」
「そうじゃ。無論われらがもらうばかりではないぞ、われらの有する情報も供する。そうすればより広く情報を集められるし、その確かさも増す。どうだ?」
正直なところ、信長との同盟は今後も続けていこうと純正は考えていた。しかし、得るものと出す物でいえば、どうにも出す物が多い気がしていたのだ。
最初こそ良かった。
大友にしても島津にしても、周辺の大名を牽制するためであった。さらに、大使館や中央での人脈や基盤づくりに、信長を利用させてもらったのは確かである。
しかしいつの頃からか、大使館や中央でのポジション、そして各地とのコネクションが確立されて以降、どうにも出す物が多い。
留学生しかり大砲しかりである。
情報量としては、織田の情報を貰って多少プラスになっても、こちらの出す情報が圧倒的に多いだろう。それが小佐々の領国益にかなうだろうか?
ちょっと真剣に考える時期にきていた。
通商においてもそうだ。
正直なところ、織田領内にあるものは、小佐々の領内にすでにある。嗜好品や贅沢品は別として、わざわざ買わなくても良いのだ。
そこを、様々な関税を調整してかけることで、織田にも利益が出るようにしている。御用商人四人衆からは、ちょくちょく不満がでているようだ。
織田領内との交易はうま味が少ない。いわゆる先進国と途上国の違いだろうか。いや、そうでもない。
途上国は基本的に第一次産業である農産物や鉱山資源、林業における木材や海産物などを輸出しているが、織田領内のそれは、小佐々領内にあるのだ。
あわせて、最初の情報の件だが、要するに安保条約のアメリカ側の気持ちって、こんな感じなんだろうか? と純正は思った。
しかし、共通の敵……がいないからな。
あ! そうだ! 純正は重要な事を思い出した。いや、思いついたのだ。
「いいでしょう。ただ、一つ条件がございます」
「ほう、なんじゃ?」
「弾正忠殿の領国で、今後増える土地も含みますが、土を採掘する事をお許しください。ただし、一切の銭は払いませぬ」
「土? 金や銀ではなく、ただの土か?」
「はい、土にございます(厳密にはただの土ではないが)」
「ふむ」
信長は考えている。
純正がやることであるから、ただの土ではないことはわかっている。京から関ヶ原への街道整備の際も、見た事のない材料で見事に道を固めていた。
しかし、それを知ったとして、今の織田にはどうすることもできない。宝の持ち腐れである。で、あれば十分に供し、後年その技術を教えて貰うしかない。
「あいわかった。その旨、免状を出そう」
純正が採掘しようと考えていたのは、耐火粘土である。
忠右衛門と秀政が完成させた、炭焼き窯と陶器の釜の原理を用いたビーハイブ炉であったが、耐久性にやや問題があったのだ。
2人は肥後の天草や、肥前各地で産出される陶石を原料にした陶土を使い、窯(炉)を完成させた。
それだけでもすごい事で、純正は2人に感謝していたのだが、それでも反射炉をつくる為の、耐火レンガを作るには至っていない。
どうしても、耐火粘土が必要だったのだ。
人件費や設備投資は必要だが、それは商人に出させる。
そして適正価格で買い取り、コークス炉の研究と開発に利用するのだ。純正は原料の問題を解決でき、商人は利益がでる。
純正はさらに、織田領国内と同盟国内への街道整備に信号、伝馬の宿場を整備する事を提案した。
同盟国に同等の軍事力は求めないが、少なくとも情報伝達で優位に立ち、自軍の行動に支障が出ないよう、整備を提案したのだ。
もちろん一朝一夕にできることではないが、こうして近隣諸国に対する織田、徳川、浅井の軍事力(戦闘力以外の)の底上げがなされたのであった。
「そうか、そこまできたか。まったく、あの公方ときたら、こちらが何も言わぬのを良い事に」
と信長。
「どうされるのですか」
短く返事をする純正。
「こうなれば、事と次第によっては所司代を辞任されたほうが良いのではないでしょうか」
純久は現実的な対応を考える。しかし、義昭と険悪になれば辞任させられるかもしれない。そうなったら渡りに船である。
「……そろそろ、珈琲と紅茶、おかわりをお持ちしましょうか?」
普通ならあり得ないシチュエーションに、緊張するなり、言葉を失うなりして縮こまるはずである。しかし佐吉は落ち着き払っていて、淡々と言葉を発する。
「あ! やった! 一抜けです!」
かとおもうと、声変わりしていないかのような高い声を出して喜んでいる。
ノブ:「ぐ、ぐぬう」
純正:「おかわり!」
純久:「佐吉、少しは忖度というものを……」
テーブルの下に置いた囲炉裏を囲んでババ抜きをしているその4人とは、織田信長、小佐々純正、小佐々純久、石田佐吉である。
この状況でなぜ大使館でババ抜きをしているのか?
というと、やはり天下に名を残す人物というのは、常人には計り知れないものなのかもしれない。……?
信長はまだ長島の一揆を平定はしていなかったが、5つの城のうち4つは、砲撃や兵糧攻めで陥落させていた。残った長島城も時間の問題である。
柴田勝家をはじめとした重臣に指揮をまかせ、純正が上洛していると聞き、引き上げたのだ。浅井長政はというと、丹後を平定して小谷城へ帰還していた。
「さて、弾正忠殿。大事な長島を引き上げここにいるという事は、それなりに重要な用件なのでしょう?」
純正はお開きにしたトランプのカードをまとめ、珈琲を口にふくみながら信長に尋ねる。公式、非公式は何をもって区別するのかわからないが、4人とも略装だ。
ビロードのマントはハンガーに掛けられ、ラメの装飾が施されたベスト(仏:ジレ)、その下にはオーダーメイドのシャツを着ている。
前立ての部分にフリルのような装飾がある、よく見るあれだ。
一方の純正と純久は、完全に現代風である。
2人ともジャケットは脱いでいるがシャツは現代風で、ノータイだ。胸ポケットには白糸で、小佐々の家紋、七つ割平四つ目が刺繍されている。
さすがにボタンのような小さな加工は難しい。出来なくはないだろうが、かなり高価になるので略装では使わない。
小指の先ほどの大きさにあつらえた紐カフスのようなものを、もう一方の前立ての生地の穴に通して留める物だ。
ベルトは三重になっていて、三重目と二重目の間に脇差し用、二重目と一重目の間に大刀用の隙間をつくり、二振りの刀がクロスするように上手く作られている。
佐吉は刀の仕様がないだけで、同じだ。
大使館の職員は、館内の仕事の時はほとんどがこの格好である。機能性重視だ。ただし、参内したり公式に外出するときは和装となる。
「まあ、そんなところだ。お主とこれからの事を話したくての」
信長が話したい事とはなんだろう? そう思いながら純正は返事をする。
「これから、ですか。俺たちは西国の地固めを着々と進めるだけですね。中央とは、少し間をおきたいので」
純正が敬語を使っているのは、単に年齢が上で年長者を敬っているからにすぎない。
純正と信長は対等な同盟である。六角とは単なる親密な通商であり、徳川や浅井とは、信長の同盟相手なので準同盟といったところであろうか。
先日の室町御所参内の事を信長は知っている。信長も各地に忍びの者を放って情報収集をしているのだ。当然であろう。
「さようか。わしも鼻持ちならぬところはあるが、今はまだ様子を見ておる。長島の一揆はいずれ平定するとして、越前の朝倉に延暦寺や本願寺、それに根来や雑賀の動きもあるでな」
信長は、まだ、ギリギリ義昭と敵対する時期ではないと考えているようだ。
「そうですね。信玄も三河に侵入しているようですし、上杉とも和睦を結んでいる。上杉は越中にかかりきりでしょうから、しばらくは信濃に手は出さないでしょう」
信長が純正の顔を凝視する。
「信玄は駿河をほぼ平定して、興国寺城のあたりだけ北条の領国となっていますね。その代替わりした氏政とも盟約を結んでいますから、きっかけがあれば上洛を意図するかもしれません」
「おい、純正」
「な、なんですか」
「前々から思っていたのだが、おぬしのその諜報能力、わが織田と共にせぬか」
しまった! という顔をしている純正の横で、純久が、勘弁してくださいよ、という顔をする。純正に向けてなのか、信長に向けてなのかはわからない。
佐吉は聞き役にまわって空いたカップを下げ、新しい物を用意する。
「わが小佐々の忍びの情報を、弾正忠殿と共にせよ、と?」
「そうじゃ。無論われらがもらうばかりではないぞ、われらの有する情報も供する。そうすればより広く情報を集められるし、その確かさも増す。どうだ?」
正直なところ、信長との同盟は今後も続けていこうと純正は考えていた。しかし、得るものと出す物でいえば、どうにも出す物が多い気がしていたのだ。
最初こそ良かった。
大友にしても島津にしても、周辺の大名を牽制するためであった。さらに、大使館や中央での人脈や基盤づくりに、信長を利用させてもらったのは確かである。
しかしいつの頃からか、大使館や中央でのポジション、そして各地とのコネクションが確立されて以降、どうにも出す物が多い。
留学生しかり大砲しかりである。
情報量としては、織田の情報を貰って多少プラスになっても、こちらの出す情報が圧倒的に多いだろう。それが小佐々の領国益にかなうだろうか?
ちょっと真剣に考える時期にきていた。
通商においてもそうだ。
正直なところ、織田領内にあるものは、小佐々の領内にすでにある。嗜好品や贅沢品は別として、わざわざ買わなくても良いのだ。
そこを、様々な関税を調整してかけることで、織田にも利益が出るようにしている。御用商人四人衆からは、ちょくちょく不満がでているようだ。
織田領内との交易はうま味が少ない。いわゆる先進国と途上国の違いだろうか。いや、そうでもない。
途上国は基本的に第一次産業である農産物や鉱山資源、林業における木材や海産物などを輸出しているが、織田領内のそれは、小佐々領内にあるのだ。
あわせて、最初の情報の件だが、要するに安保条約のアメリカ側の気持ちって、こんな感じなんだろうか? と純正は思った。
しかし、共通の敵……がいないからな。
あ! そうだ! 純正は重要な事を思い出した。いや、思いついたのだ。
「いいでしょう。ただ、一つ条件がございます」
「ほう、なんじゃ?」
「弾正忠殿の領国で、今後増える土地も含みますが、土を採掘する事をお許しください。ただし、一切の銭は払いませぬ」
「土? 金や銀ではなく、ただの土か?」
「はい、土にございます(厳密にはただの土ではないが)」
「ふむ」
信長は考えている。
純正がやることであるから、ただの土ではないことはわかっている。京から関ヶ原への街道整備の際も、見た事のない材料で見事に道を固めていた。
しかし、それを知ったとして、今の織田にはどうすることもできない。宝の持ち腐れである。で、あれば十分に供し、後年その技術を教えて貰うしかない。
「あいわかった。その旨、免状を出そう」
純正が採掘しようと考えていたのは、耐火粘土である。
忠右衛門と秀政が完成させた、炭焼き窯と陶器の釜の原理を用いたビーハイブ炉であったが、耐久性にやや問題があったのだ。
2人は肥後の天草や、肥前各地で産出される陶石を原料にした陶土を使い、窯(炉)を完成させた。
それだけでもすごい事で、純正は2人に感謝していたのだが、それでも反射炉をつくる為の、耐火レンガを作るには至っていない。
どうしても、耐火粘土が必要だったのだ。
人件費や設備投資は必要だが、それは商人に出させる。
そして適正価格で買い取り、コークス炉の研究と開発に利用するのだ。純正は原料の問題を解決でき、商人は利益がでる。
純正はさらに、織田領国内と同盟国内への街道整備に信号、伝馬の宿場を整備する事を提案した。
同盟国に同等の軍事力は求めないが、少なくとも情報伝達で優位に立ち、自軍の行動に支障が出ないよう、整備を提案したのだ。
もちろん一朝一夕にできることではないが、こうして近隣諸国に対する織田、徳川、浅井の軍事力(戦闘力以外の)の底上げがなされたのであった。
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