『転生したら弱小領主の嫡男でした!!元アラフィフの戦国サバイバル~時代・技術考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁

文字の大きさ
上 下
424 / 828
九州探題小佐々弾正大弼純正と信長包囲網-新たなる戦乱の幕開け-

毛利輝元と安国寺恵瓊、相対するは戸川平右衛門尉秀安なり

しおりを挟む
 元亀元年 十月七日 吉田郡山城

「殿、宇喜多家臣、戸川秀安と申す者がお目通りを願っております」

 毛利家当主である毛利輝元は、外交僧で顧問の安国寺恵瓊と談笑していた。

 このとき両川である小早川隆景は領国である新高山城(にいたかやまじょう)にあり、吉川元春は日野山城にいた。

「なに、宇喜多の? 恵瓊、どう思う? 会うべきか」

「浦上ではなく、宇喜多が来たという事は、通り一遍の話ではないと存じまする。内容と返事は、聞いてからでも遅くはございますまい」

 恵瓊は笑みをたたえ、落ち着き払って答えた。

「よし、通せ」

 輝元の命のもと、使者である戸川秀安が謁見の間に通される。

「初めてお目にかかります、宇喜多和泉守(直家)様が家臣、戸川平右衛門尉秀安にございまする」

「右衛門督である。面を上げよ」。

 輝元は齢十八とはいえ大国毛利の当主である。毅然とした態度で相対する。

「して、こたびはいかがした。われらと宇喜多、浦上は敵同士。話すことなどないはずじゃが。まさか浦上を見限って、われらにつくとでもいうのか」

 わはははは、と笑いながら冗談を言う輝元であったが、似合わない。

 言動と雰囲気がミスマッチなのだ。それが余計に違和感を感じさせる。しかし、見かけだけでも堂々としていなければならなかった。

「はい、さようにございます」

 輝元も傍らで笑っていた恵瓊も、ぴたりと動きが止まった。

「笑えぬ冗談でござるな。どういう事か、しかと聞かせていただけますかな」

 輝元に目をやり、確認して発言をする恵瓊である。

「冗談ではありませぬ。われらは今より、浦上より毛利に鞍替えせんと思うております。こたびは、その詳しい趣旨を伝えるためまかり越しました」

 秀安は輝元に正対し、堂々と言う。

「ふむ、しかしそれは……ちと難しいな」

 輝元はそういって恵瓊に同意を求めるようなそぶりをした。

「さよう。何の事由もなくば、敵方の有力な国人が我がもとへ降るのだ、拒む理由もない。されど、問題がある」

 恵瓊が主君の言葉に続いて発言する。

「修理進様(三村元親)のことにございますか?」

 一瞬間が空いたが、輝元はすぐに答えた。

「そうだ。わかっていて、なぜここに使者として参ったのだ?」

「それは、右衛門督様は、そうするより他にとるべき道がないからにございます」

 秀安は断言した。

「わはははは、言いよるわ。なぜじゃ? なぜわれらがそなたら宇喜多を受け入れるしか、道がないのじゃ?」

 今度の笑いは虚勢をはったものではない。輝元が本心で笑い、ある種見下したような笑いであった。

「されば申し上げます。もしここで、われらを受け入れなければ、毛利の東進の大計は叶いませぬ」

 輝元の顔から笑顔が消えた。恵瓊も眉間にしわを寄せている。

「御家中には世鬼衆と呼ばれる忍びの一団がおられますでしょう? おおよそは掴んでいるかもしれませんが、まず伊予の件、こちらはすでに小佐々に露見しております」

 輝元は表情を変えない。恵瓊にいたっては、興味深い、もっと聞かせよ、と言わんばかりの顔をし始めた。

「ほう、何のことを言っておるのかわからぬが、それがどうしたというのだ?」

「はい、露見しているとすれば、小佐々はいつでも毛利の不義不忠を声高に叫んで、手切之一札を出せるという事です」

「なるほど。ではなぜ、今やらぬ? 言いたくはないが、小佐々はすでに十分に強い。できるならなぜやらんのだ?」

 毛利元就が死に、父を亡くして家督を継いだ輝元である。

 代替わりをしてわずか3年で国力が逆転したのだ。しかしそれは相対的にであって、決して毛利が弱体化したわけではない。

「それは純正が考える事ゆえわかりかねます。しかし重要なのは、いつでもできる、と言うこと。対して毛利の御家中は、今しか時はござりませぬ」

「それはなぜじゃ?」

 秀安が言う事はある意味正しい。

 すでに大義名分を得、毛利を凌駕する力のある小佐々は、別に急ぐ必要はないのだ。しかし毛利は、東進戦略を立てている以上、そうではない。

 時が経てば経つほど、不利になるのだ。

「まず一つは尼子の件にござる。因幡にて山中幸盛が動き、山名の助けのもと村上武吉や美作の三浦に声をかけ、近々兵を起こすという情報がございます」

「なるほど、それは知っておる」

 世鬼衆も山中幸盛や立原久綱の動きは察知していた。そのため主戦場になるであろう因幡や伯耆の国人衆には注意喚起をしていたのだ。

「しかし、その尼子の遣いが小佐々へ向かっているというのはご存じでしょうか」

「なに、それは真か?」

 輝元は恵瓊と顔を見合わせる。

「十分に考えられる事だが、もしそれを受けて加勢したなら、それこそ小佐々は不義不忠の者となるではないか」

「はい、だからこそ今なのです。遠からず尼子が兵を挙げまする。小佐々の助けは明白ゆえ、声をあげ、相対すればよいのです」

 秀安は、嘘を言うためにわざわざ命がけでここまでこない、とでも言いたげである。輝元はくっくっと笑いながら、ため息まじりに返す。

「さりとて、言うは易く行うは難しである。小佐々と戦って勝てる見込みがない。負ける戦はせぬのが兵法の常道じゃ。それとも、なにか小佐々に勝てるような秘策があるのか」

 輝元は自嘲気味である。大国毛利が、小佐々の顔色をうかがいながら動かねばならぬとは。

「然に非ず。必ず勝てるという保証など、古今東西ありませぬ。厳島も桶狭間も、元就公や信長が勝つと考えていた人などいなかったでしょう」

「何が言いたいのだ?」

「必ずではありませぬが、勝ち味を増やす策はございます」

 秀安の顔にわずかながら微笑みが見える。

「なんだ、どうするのだ?」

「それは、右衛門督様のお心次第にございます」

 意味深な発言で言葉を濁す秀安であったが、輝元の歓心を買うのには十分であった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

処理中です...