『転生したら弱小領主の嫡男でした!!元アラフィフの戦国サバイバル~時代・技術考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁

文字の大きさ
上 下
383 / 828
九州探題小佐々弾正大弼純正と信長包囲網-西国の動乱まだ止まぬ-

遠い西の彼方へ。長宗我部元親の驚嘆の九州肥前紀行

しおりを挟む
 永禄十二年 十一月十八日 辰三つ刻(0800) 浦戸城

「これは宮内少輔様、いかがされましたか?」

 佐伯惟忠は知っていたがわざと聞いた。先日の件をどう思っているのか聞きたかったのだ。

「無礼ですぞ、いかに小佐々家中の方といえど、許せませぬ」

 家老の谷忠澄は元親と惟忠の間に割って入る。

「よい、別にわしらは争いに来たわけではないのじゃから」

 長期間国元を空けるので、親泰と親貞は残した。

 随行するのは家老の谷忠澄と吉田貞重で、その他には近習が十名ほどの少人数である。一揆勢に対峙している軍勢には、手出しせぬよう指示をだしていた。

「それで、こたびの御用向きはなんでしょう」

「肥前へ行きたい。弾正大弼殿と、一度腹を割って話したいと思うてな」

 惟忠は驚いた。まさか元親自身が肥前の諫早まで出向くとは。惟忠でさえ、純正とは二、三度しか会ったことがない。

 肥前の諫早、惟忠も一度は行ってみたいと思っていたのだ。

「さようでございますか、それは良き事にございます。豊後の佐伯湊では父が長官をしております。文をしたためますゆえ、しばらくお待ちください」

 そう言うと惟忠は、佐伯湊の鎮守府の長官をしている父の佐伯惟教宛てに手紙を書き、忠澄に渡した。

「では、湊へ参りましょうか。和泉堺と豊後佐伯には定期船が出ておりますゆえ、それに乗れば早いかと存じます」

 純正に会いに行くという目的がわかってからの、惟忠の態度の豹変に、家老二人は驚いていたが、元親は気にせずに聞いていた。

 ■十一月十八日 巳の一つ刻(0900) 浦戸湊

「少々お待ちくださいませ」

 惟忠はそう言うと船着き場の受付所に行き、到着予定を確認する。

「今から乗れば、今日中に興津岬の興津湊につくようです。明日の朝一に出ますから、風がよければ明日の夜には佐伯湊へ着きまする」

 そう惟忠は説明するが、一行は目の前の巨大な船に目を奪われていた。

「貞重よ、これは、どのくらいあるか」

「はい、五百石(1石150キロ計算で75トン)、いえ千石(150トン。※100トン型曳船で25.64m幅7.8m井筒造船所・長崎※九鬼嘉隆の大安宅船は約30m※)近くはあると思われます」

「なんじゃ……これは、安宅船ほどの大きさではないか」

 元親は急いで惟忠に聞く。あまり興奮しているように見えないように、必死で隠す。

「惟忠どの、浦戸にはこれ一隻だけか?」

 何隻就役しているのか確認する。

「いえ、全部で六隻でござる。佐伯湊と浦戸湊、そして堺湊にそれぞれ常に一隻停泊しております。船が着いたら風をみて、すぐにもう一隻が出港できるようになっております」

「六隻……」

(なにい、常に船が行き来しているだと!?)

 この定期船は小佐々家が運営しているが、そのほかに商人が運営している貨物用の船も多数就航していた。

 湊には小佐々海軍の軍艦が一隻と、この定期連絡船、その他にも雑多な船が多数停泊していた。

 運賃は四十文から六十文で、堺湊と佐伯湊どちらも同じである。

 ■十九日 酉四つ刻(1830) 佐伯湊

 惟忠が言ったように、途中で興津湊で一泊し、翌朝早く出て夕方に豊後の佐伯湊に到着した。

 浦戸で見た軍艦と同じか、それよりも一回り大きな軍艦があわせて五隻。整然と停泊している。

 浦戸も別世界のような様相であったが、船内もある種異質な雰囲気であった。

 夜航行することを想定していないために寝室はなかったが、客室には本当に雑多な人達がいたのだ。

 元親と同じように武士もいれば商人もいた。

 中小規模の商人が多かったのかもしれない。大商人と呼ばれる者達は自前の船を持っているので、このような乗り合いの船は使わない。

 町人や裕福そうな農民の姿もあった。こぎれいにはしているが、元親達には、やはり立ち居振る舞いでわかるものだ。

 そういった人達が、これだけ一緒にいて争いも起こらない。

 あまり身分の上下がないようだ。

 船室の端では座っている武士に町人らしい男が声をかけていたし、かけられた男も普通に話をしていた。土佐では考えられない事である。

 こんなところでも純正の為政の影響が出ているのだろうか? そう元親は思わざるをえなかった。

 日も暮れたので宿で一泊し、翌朝惟忠の父親である惟教に挨拶をして、府内へ向かう。

 ■二十日 午一つ刻(1100) 府内

 風が良かったのもあるが、海路で一刻半(3時間)ほどで大友氏の本拠地府内へ到着した。

「殿、あそこにいるのは日の本の民ではありませぬぞ! 髪の色も違いまする」

 湊近くにある商館の周りに人が集まっており、日本人とポルトガルの商人が、商談なのだろうか、通訳を交えて会話をしている。

「では、そういう事で。必ず量はそろえますので、今後ともよろしゅうに。あ、ああ! そこにいらっしゃるのは土佐の殿様でございますか?」

 年の頃は四十。精悍な顔立ちで、商談が終わったようで元親達に近寄ってくる。

「はじめてお目にかかります。豊後府内で商いをやらせてもろうております、仲屋乾通が子、仲屋宗悦にございます。以後、お見知りおきをお願いいたします」

 宗悦の父である乾通は、宗麟の父大友義鑑の時代から、大友氏の御用商人として巨万の富を得ていた。還暦となった父に代わって主要な取引は宗悦が取り仕切っている。

「谷忠兵衛(忠澄)にござる」

「吉田次郎左衛門(貞重)にござる。こちらはわが主君、長宗我部宮内少輔様にあらせられます」

 家老二人が自己紹介をし、主君を紹介する。

「宗悦にございます」

 佐伯の惟教からの指示なのだろうか? それともどこかでかぎつけたのか、土佐は和紙や木材の産地でもある。商売の匂いを嗅ぎつけたのだろうか。

「さあ、長旅でお疲れでしょう。ささやかですが、昼食の準備がございます。どうぞこちらへ。わたくしはその前に、肥前様(純正の愛称)へ到着の連絡を入れておきます。夜には諫早につくでしょう」。

 従者に一行を食事処へ連れて行くよう指示をだす宗悦に、元親が尋ねた。

「待て、待たれよ宗悦どの。今、なんと申した?」

「え、それはどういう?」

「さきほど、なんと申したか聞いておる」

「昼食の準備……」

「その後じゃ」

「肥前様に連絡を……」

「最後!」

「夜には届くと思います」

「そう、それじゃ! 馬鹿なことを申すでない。今から送って夜になど、どう考えても付くはずがない」

「嘘ではありません。すぐ返事を書いてもらえれば、明日中にはこの府内に着きまする」

「馬鹿な」




 発 宗悦 宛 肥前様 メ 長宗我部宮内少輔様 ゴ到着 ニテ ゴ昼食 駅馬車 用ヒタレバ 明日 午三つ刻(1200) ヨリ 申一つ刻(1500) マデニハ 諫早二 至ラントス メ 二十日 午二つ刻(1130) 府内
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

処理中です...