『転生したら弱小領主の嫡男でした!!元アラフィフの戦国サバイバル~時代・技術考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁

文字の大きさ
上 下
371 / 828
九州探題小佐々弾正大弼純正と信長包囲網-西国の動乱まだ止まぬ-

土佐安芸郡一揆③独立、なるか?

しおりを挟む
 永禄十二年 十一月十日 土佐 安芸郡 安芸城

「殿、これからどうなさいますか」

 家老であった黒岩越前守の息子、黒岩掃部(30)である。

「若と言われ続けてきて、いきなり殿は慣れぬな」

「は、しかし安芸家の復興のためには慣れていただかなくてはなりませぬ」

 元服したばかりの千寿丸あらため十太夫はわずか12歳である。傍らには弟の鉄之助がいた。鉄之助にいたっては8歳だ。

「兄上……」

「鉄之助よ、何も心配するな。この兄に任せておけ」。

 弟を安心させるためにそうは言ったものの、十太夫自身も不安で心が押しつぶされそうである。

「まずは、要求を下げよう」

「え? 触れを認めさせるのを止めるのですか」

「そうではない。すでに二週間われらは訴えてきたが、憎き敵の元親は、使者もよこそうとはせぬ。われらの言い分に耳を傾けるつもりはない、という事だ」

 安芸十太夫弘恒は、これは一揆ではなく挙兵だ、という。

「まず飲むまいと思うておった触れの中身よ。ならばわれらで実現するしかあるまい。小佐々家中となって、われらの国はわれらで治むるのだ」

 現代風に言えば、要するに独立国宣言である。それを農民の力を借りてやった。

 安芸郡の石高は三万石程度。長曾我部元親が領する香我美郡、長岡郡、土佐郡、吾川郡をあわせると十四万七千石になる。

 これだけみれば、まず安芸十太夫の軍に勝ち目はない。

 しかし多くは農兵である。普通に考えれば千の兵を動員できれば十分だが、自らの生活がかかっているのならば、動員数も伸び、士気も上がる。

 総勢四千にも膨れ上がった。それが安芸城を中心に郡全域に広がっている。

 対して長宗我部軍は普通の状態での動員兵力は五千。

 そのうち徴兵が三千七百であるが、無理をして搾り取れば一万かそれ以上は可能だったかもしれない。しかし、安芸郡の噂は他の郡にも広がりつつある。

 集まるはずがない。それに攻めるのは敵国ではなく、となりの郡である。士気は当然低い。

 畑山元季(19)は安芸城の前線である穴内城へ入り防備を固め、野根国長(29)は三好へ備えるため野根城を固めている。

 姫倉豊前(49)は奈半利城に入った。野根城と安芸城の連絡のためである。

「では、どうなさいますか?」

 黒岩掃部が尋ねると、

「そうだな、では元親に勧告しようではないか。われら安芸家が安芸郡を治める、と」

 と答えた。十太夫は現在の長宗我部の状況では条件を飲むこともできず、攻める事もできないと考えていたのだ。

「要望を飲む気がないなら、われらとしても無駄な戦などしたくはない。元親の首はほしいが、今はその時ではない。もっと力を蓄えなければ」。

 掃部は十太夫の年齢に似合わないその頭脳明晰さに驚きを隠し得ない。
 
「横山紀伊、岡林将監、専光寺右馬允、小川新左衛門、小谷左近右衛門ら裏切り者は許せぬ」

 父を殺され、約束を破って殺そうとしてきた元親と、裏切りの家臣への怒りは収まらない。

「一戦交えるならば必ずや討ち取らん。帰参を願い出てきても、許すことまかりならぬ」

 やがて十太夫の考えを伝える使者が岡豊城に向かった。

 ■岡豊城

 土佐の中央部、長岡郡にある岡豊城は長宗我部家代々の居城である。その岡豊城の居室で、長宗我部元親は一揆、もとい安芸旧臣の蜂起の対処に頭を悩ませていた。

 本来であれば鎮圧するのであろうが、農兵主体の一揆を母体としているうえ、安芸郡は統治してわずか一年。領民は旧主の安芸国虎への思いが消えておらず、そのために団結しているのだ。

「殿、いかがなさいますか」

 弟であり右腕の吉良親貞が元親に聞く。

「今思案しているところじゃ」

 元親は苦虫を噛み潰したかのような顔をしている。

「国虎のときと同じく、調略によって攻めるが上策と考えるが、あの時とは状況が違う。敵の結束固く、幼い当主を盛りたてようと一致団結しておる」

「さようでございますな。しかし、だからといって、奴らの条件を飲むなど、できるはずもありませぬ」

「その通りだ。それゆえ思案しているのだが、案がない事もない」

「どのような策でしょうか」

 なに、たいした策ではない、と前置きをしたあとで元親は話し始めた。

「まず、使者を送る。そして条件について話し合いたい、と告げるのじゃ。やつらもこのままでは厳しいと思うておるじゃろう。東には三好もおるでな」。

「その後はどうするのですか?」

「条件を交渉して、ある程度は自治を認め、そして徐々になし崩しにして取り込んでいくのじゃ」

「うまくいくかどうかわからんが、まずは鎮めねばならぬ」

 ため息混じりだ。なぜこうなったのか? と言わんばかりである。

「長引けば周りに付け入る隙を与えるであろうし、朝廷や幕府の覚えも悪くなろう。そうなれば土佐を治むる力なし、となってしまう」

「それは、まずいですな」

「その通り、西の一条は小佐々のせいで滅ぼす事はできなかったが、まだ三好攻めが残っている。厳しいところではあるが、弾正大弼の力を借りれば、なんとかなし得るであろう。口惜しいがな」。

 ■浦戸城

 もともと浦戸村周辺は、浦戸城の城郭都市としての面と、港湾としての面がうまく混ざりあった都市であった。小佐々の代官が赴任してきても、さほど行政的に大きな混乱はなかった。

 まず領民に対して布告を出し、軍役がないかわりに18歳から30歳の間に、2年間の徴兵制と、賦役と徴兵に対する賃金を支払うことを約束した。

 小佐々の文物がどんどん流入してくる。大きな船と南蛮風の出で立ちをした士官たち。最初は驚いていた領民も徐々に慣れてきたのだ。

 浦戸城の城内にはカノン砲、カルバリン砲、セーカー砲といった大砲が、飛距離別に備え付けられた。城郭は重要箇所と脆弱な箇所にはコンクリート施工が施され、租借地の外周は堀と土塁の整備が進められている。

「若、どうなさるおつもりですか」

 家臣からの問いに、浦戸城主兼浦戸租界の公使であり、領事の佐伯惟忠は、特に感情をあらわにせず、言った。

「そうだな。予想より少し早いが、起こるべくして起こったというところであろう」

 対長宗我部戦において、小佐々海軍の海兵隊が、領内に向けた触れを出しておいた。それがこうなるであろう事は、予測できた事である。

「いずれにしても殿(宗麟)はご存知であろう。われらは殿の指示に従うまでだ。一応、近況とあわせて報告しておこう。いつでも動けます、とな」

 浦戸湊には海軍の軍艦は停泊していない。しかし浦戸湊と安芸の川湊への輸送程度なら全く問題がない。人員も兵糧弾薬も輸送可能であった。
 
 長宗我部、小佐々、安芸、そして中央の諸勢力と隣国阿波の三好のせめぎあいが始まる。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

俺のスキルが無だった件

しょうわな人
ファンタジー
 会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。  攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。  気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。  偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。  若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。  いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。 【お知らせ】 カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

ぽっちゃりおっさん異世界ひとり旅〜目指せSランク冒険者〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
酒好きなぽっちゃりおっさん。 魔物が跋扈する異世界で転生する。 頭で思い浮かべた事を具現化する魔法《創造魔法》の加護を貰う。 《創造魔法》を駆使して異世界でSランク冒険者を目指す物語。 ※以前完結した作品を修正、加筆しております。 完結した内容を変更して、続編を連載する予定です。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

処理中です...