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九州統一なるか?純正と信長包囲網-肥薩戦争と四国戦役-
肥薩戦争⑤日向への狼煙、島津家の試練
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永禄十二年 十月九日 未三つ刻(1400) 日向 飯野城
「兄上、どうしますか」
第二次木崎原の終戦処理をしている中で迎えた、昨日の小佐々の使者の来訪。
そして薩摩での開戦。状況が目まぐるしく変わる中で、島津義久とその弟義弘、そして三男の歳久は考えていた。
昨日、小佐々の使者である太田和利三郎直政が到着するまでは、ただの戦後処理をしていたのだ。
戦死者の遺体回収と埋葬を行い、ともに戦った兵士の死を悼み供養をした。また、負傷者の治療や看病も行い、重傷者は城内に運んで治療した。
敵兵の亡骸は丁重に弔ったが、鎧兜や刀剣、馬などの戦利品は収集して分配もしたのだ。真幸院で捕らえた将兵、そして帰りの道中に伊集院忠倉に囚われた者はすべて解放した。
普通は捕虜として後々の交渉を有利に運ぶものだが、それをしなかった。他に目的があったのだ。
あわせて諜報活動も行う。今回の勝ち戦が周囲にどう影響するのか、要は周辺の国人衆の動静である。
今は伊東についてはいるが、近ごろは義祐のいい話は聞かない。
それゆえ今回の敗戦で離反者が相次ぐと踏んだのだ。伊東に対しては、特別な事は何もしない。もう立ち直れない事が明らかだったからだ。
限界を超えた動員。そして敗戦。勝てばまだ良かっただろうが、負けたのだ。間違いなく一揆や家臣の謀反が頻発するであろう。黙って放置し、時期をみて攻め入れば良い。
しかし問題は、動員に関しては島津も同じだということだ。
伊東ほどではないが、限界ラインの近くまで動員している。しかも今回の戦いで、敵の七千は討ち死にしたが、島津軍もかなりの損害があったのだ。
勝ったとはいえ、しばらくは大規模な軍事行動をとるのは難しいであろう。
兵糧の問題もある。短期であるが、このままここに留まるのは得策ではない。義久はそう判断し、兵を薩摩に引き揚げる算段を考えていた。
相良は追い払い、伊東は蹴散らした。大隅も家久が奮闘している。ここには千、大口も多くて千で問題ないであろう。そんな時、利三郎が現れた。
「昨日の時点でここに来たということは、おそらくは大隅のわれらの優勢を知っての事であろう」
義久は二人に向けてそう話す。
「小佐々は直接兵を出していないにも関わらず、使者を寄越してきたということは、大隅の戦の趨勢が小佐々が考えた大計に影響を及ぼしているという事だ」
「その通り。結果的に相良、伊東に対しても優位に進めておる。小佐々にとっては向かい風ばかり、という事じゃ。そしてついに一戦交えた」。
三人の顔には笑顔しかない。全ての戦場で優勢なのだ、小佐々からの和平を受ける理由も、大隅平定や日向侵攻を止める理由もない。
しかも、新型の大砲を積んでいるという軍船も大したことはない。錦江湾の砲台の標的となって退散したのだ。全員がそう思っていた時である。
「申し上げます! 内城より狼煙! 狼煙にございます!」
「なんだと!? 馬鹿な!」
義久は立ち上がり、義弘と歳久も使者の方に向き直って叫んだ。
「それは、誠なのか?」
「はい、間違いございません。敵襲の印の狼煙にございます」
義久は立ちすくみ、やがて腰を下ろして言った。
「義弘、歳久よ。これはどう言う事だ。敵襲の狼煙とは、まさか謀反が?」
「兄上、それは、謀反はありますまい。われら士気高く、裏切るような者はおりません。むしろ、小佐々の第二陣と考えた方がいいかと」
義弘が冷静に分析する。
「そうです。私もそう思います。小佐々の水軍は先日不意打ちを食らったゆえ、反撃に出てきたのでしょう。それでわが方にも軽微な損害が出たと思われます」。
うむ、とうなずく義久に対して歳久が続ける。
「いずれにしても、ここは薩摩に向けて出立すべきでしょう。勝利の凱旋というところです。義弘にいも一緒に。大口は新納にまかせております。飯野城も五代に任せればよいでしょう」。
「そうだな、それであれば、利三郎とやらに少し情報を聞いておいてもよかったかもしれぬな」
義弘のその言葉に義久が答える。
「今それを言っても詮無きこと。先触れを出して、われらがここを立つ事を伝えるのじゃ。それから詳しい話を聞いてこさせよう」。
「そうですね。しかし、これから準備しても出立は明日の朝になるでしょう」。
「なに、島津が負けた訳ではないのです。われらはゆるりと出立し、北薩と大隅、そして北諸県での勝利を喧伝しながら帰ればよいのです」
義弘に歳久が答える。ここでの勝利は確かに大きい。今肝付に従っている伊地知もそろそろ腹を決めるのではないだろうか。児湯郡の米良もそうだ。
歳久が伸ばした調略の手は、大隅だけにとどまらず、日向も侵食している。力攻めが愚策である事は誰もがわかっているのだ。ゆえに調略を用いて敵を欺き、味方にして勝ちを得る。
ただ、小佐々の全力をまだ三人は知らない。たったの八年で九州北部のほとんどを従え、四国にも領地をもち、中央にも影響力がある。
さらに種子島と琉球までもだ。小佐々と島津は、いずれぶつかる。それが今だ、という事なのだ。むしろ、四国と南方に兵を割いている今しか、その機会はないであろう。
そう歳久は分析した。
しかしそのころ、内城では壮絶な砲撃戦が行われていたのだった。
「兄上、どうしますか」
第二次木崎原の終戦処理をしている中で迎えた、昨日の小佐々の使者の来訪。
そして薩摩での開戦。状況が目まぐるしく変わる中で、島津義久とその弟義弘、そして三男の歳久は考えていた。
昨日、小佐々の使者である太田和利三郎直政が到着するまでは、ただの戦後処理をしていたのだ。
戦死者の遺体回収と埋葬を行い、ともに戦った兵士の死を悼み供養をした。また、負傷者の治療や看病も行い、重傷者は城内に運んで治療した。
敵兵の亡骸は丁重に弔ったが、鎧兜や刀剣、馬などの戦利品は収集して分配もしたのだ。真幸院で捕らえた将兵、そして帰りの道中に伊集院忠倉に囚われた者はすべて解放した。
普通は捕虜として後々の交渉を有利に運ぶものだが、それをしなかった。他に目的があったのだ。
あわせて諜報活動も行う。今回の勝ち戦が周囲にどう影響するのか、要は周辺の国人衆の動静である。
今は伊東についてはいるが、近ごろは義祐のいい話は聞かない。
それゆえ今回の敗戦で離反者が相次ぐと踏んだのだ。伊東に対しては、特別な事は何もしない。もう立ち直れない事が明らかだったからだ。
限界を超えた動員。そして敗戦。勝てばまだ良かっただろうが、負けたのだ。間違いなく一揆や家臣の謀反が頻発するであろう。黙って放置し、時期をみて攻め入れば良い。
しかし問題は、動員に関しては島津も同じだということだ。
伊東ほどではないが、限界ラインの近くまで動員している。しかも今回の戦いで、敵の七千は討ち死にしたが、島津軍もかなりの損害があったのだ。
勝ったとはいえ、しばらくは大規模な軍事行動をとるのは難しいであろう。
兵糧の問題もある。短期であるが、このままここに留まるのは得策ではない。義久はそう判断し、兵を薩摩に引き揚げる算段を考えていた。
相良は追い払い、伊東は蹴散らした。大隅も家久が奮闘している。ここには千、大口も多くて千で問題ないであろう。そんな時、利三郎が現れた。
「昨日の時点でここに来たということは、おそらくは大隅のわれらの優勢を知っての事であろう」
義久は二人に向けてそう話す。
「小佐々は直接兵を出していないにも関わらず、使者を寄越してきたということは、大隅の戦の趨勢が小佐々が考えた大計に影響を及ぼしているという事だ」
「その通り。結果的に相良、伊東に対しても優位に進めておる。小佐々にとっては向かい風ばかり、という事じゃ。そしてついに一戦交えた」。
三人の顔には笑顔しかない。全ての戦場で優勢なのだ、小佐々からの和平を受ける理由も、大隅平定や日向侵攻を止める理由もない。
しかも、新型の大砲を積んでいるという軍船も大したことはない。錦江湾の砲台の標的となって退散したのだ。全員がそう思っていた時である。
「申し上げます! 内城より狼煙! 狼煙にございます!」
「なんだと!? 馬鹿な!」
義久は立ち上がり、義弘と歳久も使者の方に向き直って叫んだ。
「それは、誠なのか?」
「はい、間違いございません。敵襲の印の狼煙にございます」
義久は立ちすくみ、やがて腰を下ろして言った。
「義弘、歳久よ。これはどう言う事だ。敵襲の狼煙とは、まさか謀反が?」
「兄上、それは、謀反はありますまい。われら士気高く、裏切るような者はおりません。むしろ、小佐々の第二陣と考えた方がいいかと」
義弘が冷静に分析する。
「そうです。私もそう思います。小佐々の水軍は先日不意打ちを食らったゆえ、反撃に出てきたのでしょう。それでわが方にも軽微な損害が出たと思われます」。
うむ、とうなずく義久に対して歳久が続ける。
「いずれにしても、ここは薩摩に向けて出立すべきでしょう。勝利の凱旋というところです。義弘にいも一緒に。大口は新納にまかせております。飯野城も五代に任せればよいでしょう」。
「そうだな、それであれば、利三郎とやらに少し情報を聞いておいてもよかったかもしれぬな」
義弘のその言葉に義久が答える。
「今それを言っても詮無きこと。先触れを出して、われらがここを立つ事を伝えるのじゃ。それから詳しい話を聞いてこさせよう」。
「そうですね。しかし、これから準備しても出立は明日の朝になるでしょう」。
「なに、島津が負けた訳ではないのです。われらはゆるりと出立し、北薩と大隅、そして北諸県での勝利を喧伝しながら帰ればよいのです」
義弘に歳久が答える。ここでの勝利は確かに大きい。今肝付に従っている伊地知もそろそろ腹を決めるのではないだろうか。児湯郡の米良もそうだ。
歳久が伸ばした調略の手は、大隅だけにとどまらず、日向も侵食している。力攻めが愚策である事は誰もがわかっているのだ。ゆえに調略を用いて敵を欺き、味方にして勝ちを得る。
ただ、小佐々の全力をまだ三人は知らない。たったの八年で九州北部のほとんどを従え、四国にも領地をもち、中央にも影響力がある。
さらに種子島と琉球までもだ。小佐々と島津は、いずれぶつかる。それが今だ、という事なのだ。むしろ、四国と南方に兵を割いている今しか、その機会はないであろう。
そう歳久は分析した。
しかしそのころ、内城では壮絶な砲撃戦が行われていたのだった。
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