320 / 828
九州統一なるか?純正と信長包囲網-肥薩戦争と四国戦役-
島津の脅威、日向・大隅・肥後の連合軍が織りなす戦国絵巻
しおりを挟む
永禄十二年 七月二十六日 諫早城
島津家を弱体化させるために、日向の伊東、大隅の肝付、南肥後の相良が三国同盟を結んだ。
弱体化させるためというより、日々強大になっていく島津に対抗するために、といった方が正しいだろう。島津が肝付陣営の禰寝氏を籠絡して以降、危機感を募らせた肝付が呼びかけたのだ。
南肥後の相良は、小佐々と不可侵の盟約を結んでいたため、無断で他者との盟約に参加することはできなかったが、しっかりと事前に連絡がきたわけだ。
しかも、支援してくれ、という要望と一緒に。その三者の目的ははっきりしている。発起人となった肝付は大隅の統一であり、島津に奪われていた領地の回復である。
伊東氏は先の戦の目的であった真幸院と、北郷氏が治める庄内地方を支配下に置くことで日向の統一をなすこと。飫肥地方の南半分は、肝付が領有していたため除外している。
そして南肥後の相良氏は、島津に奪われた伊作郡の大口村周辺を取り返す事であった。しかし正直な所、どこが父祖伝来の土地で、どこが欲している土地なのかはわからない。
先祖伝来の土地を取り返すと言っても、どっちが正しいのかわからないのだ。ともあれ、小佐々はこの三者を支援することで島津の勢力拡大を防ぐという戦略になった。
小佐々家としては積極的には参戦しない。四国と南方がおさまってから、万全の状態で島津と対峙しようという戦略だ。そういう訳で四国は一年と期限を決めている。
肝付はまず寝返った禰寝を攻めるはずだ。時を同じくして伊東は真幸院、相良は大口城を攻めるだろう。
純正は海路にて佐伯湊から日向南部油津の湊、種子島から大隅の肝付の志布志湾へ送っている。人吉城は陸路輸送だ。さしたる問題もない。
大量なので時間はかかるとしても、兵糧三千石や矢弾は十分すぎるくらい輸送している。兵糧は、一万の兵が三ヶ月は食べられる量だ。
おそらく肝付軍はほぼ全軍を禰寝討伐に向けるであろう。その数はおおよそ二千五百。三国同盟がなせるわざだ。伊東が島津勢を牽制してくれるおかげで、兵力を南に割けるのだ。
対する禰寝は、主城の国見城をはじめ五つの支城群で防衛に当たる事が予想される。しかしいかんせん、数が少なすぎる。
かき集めても千、いや、千いるかどうか。島津の後詰めがくれば、野戦になるかもしれないが、来るまでは間違いなく籠城戦である。
そして問題は島津の戦略である。
現状三方に敵をおっているが、それぞれに兵を分割してあたるのは得策ではない。常識的に考えれば早期決戦だ。戦力的に互角とは言え、長期戦となると兵糧・矢弾の問題がある。
その早期決戦に、どこを選ぶかが問題となってくる。
伊東の予想兵力は四千五百だが、それはあくまで最低限。現に昨年、二万の兵で飫肥を攻めている。無理して集めたのかもしれないが、底力はあるという事だ。
過去には大友が二万の兵で豊前をせめ、臼杵城の防衛にさらに五千動員できた事例がある。あながち嘘ではないだろう。
しかし伊東は真幸院(宮崎県南部山沿い地域の旧名。現在のえびの市、小林市、高原町の総称)を攻めるとして、昨年の木崎原の敗戦は、強烈な記憶である。
その凄惨な負け戦は、将兵に刻み込まれているはずだ。攻めるにしても慎重になるだろう。
伊東は相良の大口城攻めの様子や、肝付の国見城攻めの状況をみて動くのではないだろうか。そう純正は考えていた。二万とまではいかなくても、一万程度は出すかもしれない。
必然的に大軍になれば大量の兵糧が必要になるが、今回は小佐々から潤沢な兵糧が支援される。そうなると、話は違ってくる。そうでなくても、昨年の飫肥城攻めで五ヶ月も包囲したのだ。
その時島津貴久は、耐えられずに和平を申し出ている。結局飫肥(宮崎県の南部、日南市中央部にある地区)は、肝付と伊東で分割統治するようになった。
純正は今回の戦に対して、積極的には介入しない。資金や兵糧、弾薬は支援しても兵はださない。あくまでも黒子の存在だ。
ただし意思統一と命令系統、そして連絡を密にとるように、とだけお願いをした。米のとれない薩摩に比べて、日向や肥後は豊かである。そして今回は小佐々の支援もある。
兵力が互角でも、底力があるのは連合軍だ。負ける要素は見当たらない。ただし、相手は寡兵で伊東を破った島津である。そして純正は、連合軍がゆえの弱さ、意思決定の問題点を心配していたのである。
また、これは純正が言うまでもなかったが、出兵は九月の稲の刈り入れが全て終わってからとなった。長引いても来年の春先の田植えの時期まで行動できるようにだ。
小佐々軍と違って足軽農兵は農繁期は戦ができない。厳密に言えばできないわけではないが、農作業ができないから領民に嫌われるし、収穫も遅くなる。
そこで刈り入れが終わるまでの間、三者はお互いの兵の動かし方を協議する。考えうる島津の動きに対して、どのように連携して動くかを、何種類も考えて煮詰めるのだ。
一箇所で行われる戦闘ではない。日向、大隅、薩摩の三国にまたがって行われる大規模な軍事作戦なのだ。綿密な連携がとれなければ、ただの烏合の衆となる。
三者が協議をしている間、純正は四国からの宗麟の状況報告を受けた。瀬戸内海の情勢を三河守から聞いたり、京都の純久からの、山のような書状に目を通す。
あわただしい毎日を過ごす中、翌月、八月に入ると信長が南伊勢に侵攻したとの知らせが入るのであった。
島津家を弱体化させるために、日向の伊東、大隅の肝付、南肥後の相良が三国同盟を結んだ。
弱体化させるためというより、日々強大になっていく島津に対抗するために、といった方が正しいだろう。島津が肝付陣営の禰寝氏を籠絡して以降、危機感を募らせた肝付が呼びかけたのだ。
南肥後の相良は、小佐々と不可侵の盟約を結んでいたため、無断で他者との盟約に参加することはできなかったが、しっかりと事前に連絡がきたわけだ。
しかも、支援してくれ、という要望と一緒に。その三者の目的ははっきりしている。発起人となった肝付は大隅の統一であり、島津に奪われていた領地の回復である。
伊東氏は先の戦の目的であった真幸院と、北郷氏が治める庄内地方を支配下に置くことで日向の統一をなすこと。飫肥地方の南半分は、肝付が領有していたため除外している。
そして南肥後の相良氏は、島津に奪われた伊作郡の大口村周辺を取り返す事であった。しかし正直な所、どこが父祖伝来の土地で、どこが欲している土地なのかはわからない。
先祖伝来の土地を取り返すと言っても、どっちが正しいのかわからないのだ。ともあれ、小佐々はこの三者を支援することで島津の勢力拡大を防ぐという戦略になった。
小佐々家としては積極的には参戦しない。四国と南方がおさまってから、万全の状態で島津と対峙しようという戦略だ。そういう訳で四国は一年と期限を決めている。
肝付はまず寝返った禰寝を攻めるはずだ。時を同じくして伊東は真幸院、相良は大口城を攻めるだろう。
純正は海路にて佐伯湊から日向南部油津の湊、種子島から大隅の肝付の志布志湾へ送っている。人吉城は陸路輸送だ。さしたる問題もない。
大量なので時間はかかるとしても、兵糧三千石や矢弾は十分すぎるくらい輸送している。兵糧は、一万の兵が三ヶ月は食べられる量だ。
おそらく肝付軍はほぼ全軍を禰寝討伐に向けるであろう。その数はおおよそ二千五百。三国同盟がなせるわざだ。伊東が島津勢を牽制してくれるおかげで、兵力を南に割けるのだ。
対する禰寝は、主城の国見城をはじめ五つの支城群で防衛に当たる事が予想される。しかしいかんせん、数が少なすぎる。
かき集めても千、いや、千いるかどうか。島津の後詰めがくれば、野戦になるかもしれないが、来るまでは間違いなく籠城戦である。
そして問題は島津の戦略である。
現状三方に敵をおっているが、それぞれに兵を分割してあたるのは得策ではない。常識的に考えれば早期決戦だ。戦力的に互角とは言え、長期戦となると兵糧・矢弾の問題がある。
その早期決戦に、どこを選ぶかが問題となってくる。
伊東の予想兵力は四千五百だが、それはあくまで最低限。現に昨年、二万の兵で飫肥を攻めている。無理して集めたのかもしれないが、底力はあるという事だ。
過去には大友が二万の兵で豊前をせめ、臼杵城の防衛にさらに五千動員できた事例がある。あながち嘘ではないだろう。
しかし伊東は真幸院(宮崎県南部山沿い地域の旧名。現在のえびの市、小林市、高原町の総称)を攻めるとして、昨年の木崎原の敗戦は、強烈な記憶である。
その凄惨な負け戦は、将兵に刻み込まれているはずだ。攻めるにしても慎重になるだろう。
伊東は相良の大口城攻めの様子や、肝付の国見城攻めの状況をみて動くのではないだろうか。そう純正は考えていた。二万とまではいかなくても、一万程度は出すかもしれない。
必然的に大軍になれば大量の兵糧が必要になるが、今回は小佐々から潤沢な兵糧が支援される。そうなると、話は違ってくる。そうでなくても、昨年の飫肥城攻めで五ヶ月も包囲したのだ。
その時島津貴久は、耐えられずに和平を申し出ている。結局飫肥(宮崎県の南部、日南市中央部にある地区)は、肝付と伊東で分割統治するようになった。
純正は今回の戦に対して、積極的には介入しない。資金や兵糧、弾薬は支援しても兵はださない。あくまでも黒子の存在だ。
ただし意思統一と命令系統、そして連絡を密にとるように、とだけお願いをした。米のとれない薩摩に比べて、日向や肥後は豊かである。そして今回は小佐々の支援もある。
兵力が互角でも、底力があるのは連合軍だ。負ける要素は見当たらない。ただし、相手は寡兵で伊東を破った島津である。そして純正は、連合軍がゆえの弱さ、意思決定の問題点を心配していたのである。
また、これは純正が言うまでもなかったが、出兵は九月の稲の刈り入れが全て終わってからとなった。長引いても来年の春先の田植えの時期まで行動できるようにだ。
小佐々軍と違って足軽農兵は農繁期は戦ができない。厳密に言えばできないわけではないが、農作業ができないから領民に嫌われるし、収穫も遅くなる。
そこで刈り入れが終わるまでの間、三者はお互いの兵の動かし方を協議する。考えうる島津の動きに対して、どのように連携して動くかを、何種類も考えて煮詰めるのだ。
一箇所で行われる戦闘ではない。日向、大隅、薩摩の三国にまたがって行われる大規模な軍事作戦なのだ。綿密な連携がとれなければ、ただの烏合の衆となる。
三者が協議をしている間、純正は四国からの宗麟の状況報告を受けた。瀬戸内海の情勢を三河守から聞いたり、京都の純久からの、山のような書状に目を通す。
あわただしい毎日を過ごす中、翌月、八月に入ると信長が南伊勢に侵攻したとの知らせが入るのであった。
2
お気に入りに追加
163
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

Link's
黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。
人類に仇なす不死の生物、"魔属”
そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者”
人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている――
アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。
ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。
やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に――
猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!

器用貧乏の底辺冒険者~俺だけ使える『ステータスボード』で最強になる!~
夢・風魔
ファンタジー
*タイトル少し変更しました。
全ての能力が平均的で、これと言って突出したところもない主人公。
適正職も見つからず、未だに見習いから職業を決められずにいる。
パーティーでは荷物持ち兼、交代要員。
全ての見習い職業の「初期スキル」を使えるがそれだけ。
ある日、新しく発見されたダンジョンにパーティーメンバーと潜るとモンスターハウスに遭遇してパーティー決壊の危機に。
パーティーリーダーの裏切りによって囮にされたロイドは、仲間たちにも見捨てられひとりダンジョン内を必死に逃げ惑う。
突然地面が陥没し、そこでロイドは『ステータスボード』を手に入れた。
ロイドのステータスはオール25。
彼にはユニークスキルが備わっていた。
ステータスが強制的に平均化される、ユニークスキルが……。
ステータスボードを手に入れてからロイドの人生は一変する。
LVUPで付与されるポイントを使ってステータスUP、スキル獲得。
不器用大富豪と蔑まれてきたロイドは、ひとりで前衛後衛支援の全てをこなす
最強の冒険者として称えられるようになる・・・かも?
【過度なざまぁはありませんが、結果的にはそうなる・・みたいな?】
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる