300 / 801
島津の野望に立ち向かう:小佐々の南方戦略-島津と四国と南方戦線-
南蛮船の襲来 カルバリン砲とセーカー砲の試射
しおりを挟む
永禄十二年 五月二十日 辰三つ刻(0800) 土佐湾 香宗川沖
「で、なんでここにいらっしゃるのですか?」
第三艦隊司令の姉川信秀准将が言う。新鋭500トン級の軍艦と、旧第三艦隊所属の艦艇五隻をあわせ六隻で、暫定的な新生第三艦隊としているのだ。まず旗艦を三隻建造し、順次準旗艦そして汎用艦を建造している。やっと第三艦隊の旗艦が就役した。
第一艦隊が八隻になった時点で旧型艦は新設の第四艦隊に配属される。今回の作戦では土佐一条家の水軍と商船もかき集めて、合計五十隻を越える編制であった。
「なんでって、そりゃあ新型艦に新型砲だろう? この目で確かめねばならぬし、確かめたいであろう? お主も同じ立場ならそう思うはずじゃ」。
殿も変わったお人だが、この人も相当だと、常々信秀は思っている。こんな事ありえない。総大将が一騎打ちしている様なものだ。
殿は配下の力量を最大限に発揮させるために、あえてそうなさっておいでなのか、それとも幼馴染という事で、押し切られているのか、それはわからない。後者であれば大問題だ。指揮命令系統は厳格に守ってもらわねば。現場にこられても困る。
「それにな。俺は海賊なんだよ、海賊の末裔な」
「はあ……」
「俺だけじゃなく、小佐々家中は全員な」
「はあ……」
つまり、何が言いたいんだろう、と信秀は考える。言い訳を考えているのか?
「で、だ。その末裔が、ちまちまちまちま、オカノウエデ、文書師(事務方)や家政方(内政担当)の真似事をしなければならないのだ。もちろん、重要な仕事である。しかし、俺の仕事じゃない」
えええええ~。ただの愚痴? ですか。
「まあ、それは近々解決される。やっとだ。五年、いや八年? 越しだ。長崎の深堀の旦那が海軍大臣になるかもしれない。そうすればおれは晴れて海軍総司令だ。思う存分、海に出られる!」
いや、総司令はそもそも出ません、と信秀は思ったが、口には出さない。
「それで、付近の領民に逃げるように触れは出したか? いかに戦とは言え無垢の民を虐げる訳にはいかない。特に殿はそのような行いは許されぬ」。
「よし、ではこれからその触れ通り、二刻後(4時間後)に攻撃を開始する。よいな?」
「はは」
■香宗城下 野市村 番所
番所前で役人に訴えかける一人の漁師がいた。
「お願いします! 早く殿様に、あのでけえ船の事を知らせてくだせえ」
漁師のあまりの慌て様に、
「静まれ、一体何事じゃ。でっけえ船とはどういう事か」。
役人はまず漁師を落ち着かせ、詳しい話を聞くより早く、海岸へ向かった。
「なんじゃ、あれは。ここから見ても、なんという大きさじゃ。それにこの数、尋常ではない、ん、何やら小舟が近づいてくるではないか」
役人は警戒し、漁師を下がらせるが、上陸してきた者には殺意は感じられなかった。
「これはわが殿、小佐々弾正大弼様が、艦隊総司令の深沢様に命じて書かせたものです。民には罪はありません、それでは」
使者はそう言い放って、早々に船に戻っていった。返書を求める訳でもなく、ただ文を渡しに来ただけのようだ。
『お主らの主君、長宗我部宮内少輔は、昔の戦にて恩を受けたるにもかかわらず、わが家中大友左衛門督が娘婿、一条兼定を攻めたり。ゆえに要請ありて助太刀せんとす。民には罪なしとて逃げるように触れを出したり。あと二刻後に総攻めをせんとす』
役人は騒然とした。あの船の数、見たこともない大きさの船。尋常ではない。すぐに香宗我部城の殿に知らせなければ。そう思うが早いか、役人は漁民に付近の住民を避難させるように告げ、急ぎ香宗我部城へ走ったのであった。
■午四つ刻(1230) 第三艦隊旗艦 比叡丸 艦上
「よし、まずは須留田城じゃ。測距はじめ!」
「ヒロロク(十六町・1744m) テン ヒトサン(十三間・23m)」
「記録したか。よし、まずは仰角二十でいけ」
測距儀で距離を測り、約1.77キロメートルだと判明。
「左舷一番砲、撃ち方始め!」
「撃ち方用意、撃て!」
「弾ちゃーく、今!」
「距離は? どうだ? 届いたのか?」
「……いえ、どうやら飛び越えたようです。城の手前の状況や海面を見ても、海上に落下したり、海岸や民家に損傷は見当たりません」
勝行は飛び上がっている。
「すごいな! 早岐の瀬戸や俵石城の時よりも飛んでるな!」
「司令」
「しれい」
「司令!!!」
「何だ! 今喜びに浸っているのに、水を差すような事するな」
司令の信秀に諭された総司令の勝行は気まずそうだ。
「嬉しいのはわかりますが、あまりそれを、部下に見せない様に願います。士気に関わりますゆえ。次はどうされますか?」
信秀が次の諸元の指示を仰ぐ。
「よし、では次は……半分の十だ。十度でやれ」。
「左舷一番砲、撃ち方始め!」
「撃ち方用意、撃て!」
「弾ちゃーく、今!」
「どうだ?」
勝行が確認する。観測手が
「命中です! 城壁損傷を確認! 周囲の兵が恐れおののいて、逃げ惑っています」
「ようし、左砲戦用意! 撃ち方始め!」
「撃ち方用意、撃て!」
旗艦比叡丸の左舷に備え付けられた八門のカルバリン砲が一斉に火を吹いた。
「二番艦以下のセーカー砲は射程が長い故、仰角と玉薬の量を減らして調整せよ」
セーカー砲は小型艦に搭載された。片弦五門で計二十五門である。最初に調整に時間がかかったが、すぐにあわせ、城を襲う。
信秀は思った。この人は、戦においては非凡だ。ただし、おいては。
「で、なんでここにいらっしゃるのですか?」
第三艦隊司令の姉川信秀准将が言う。新鋭500トン級の軍艦と、旧第三艦隊所属の艦艇五隻をあわせ六隻で、暫定的な新生第三艦隊としているのだ。まず旗艦を三隻建造し、順次準旗艦そして汎用艦を建造している。やっと第三艦隊の旗艦が就役した。
第一艦隊が八隻になった時点で旧型艦は新設の第四艦隊に配属される。今回の作戦では土佐一条家の水軍と商船もかき集めて、合計五十隻を越える編制であった。
「なんでって、そりゃあ新型艦に新型砲だろう? この目で確かめねばならぬし、確かめたいであろう? お主も同じ立場ならそう思うはずじゃ」。
殿も変わったお人だが、この人も相当だと、常々信秀は思っている。こんな事ありえない。総大将が一騎打ちしている様なものだ。
殿は配下の力量を最大限に発揮させるために、あえてそうなさっておいでなのか、それとも幼馴染という事で、押し切られているのか、それはわからない。後者であれば大問題だ。指揮命令系統は厳格に守ってもらわねば。現場にこられても困る。
「それにな。俺は海賊なんだよ、海賊の末裔な」
「はあ……」
「俺だけじゃなく、小佐々家中は全員な」
「はあ……」
つまり、何が言いたいんだろう、と信秀は考える。言い訳を考えているのか?
「で、だ。その末裔が、ちまちまちまちま、オカノウエデ、文書師(事務方)や家政方(内政担当)の真似事をしなければならないのだ。もちろん、重要な仕事である。しかし、俺の仕事じゃない」
えええええ~。ただの愚痴? ですか。
「まあ、それは近々解決される。やっとだ。五年、いや八年? 越しだ。長崎の深堀の旦那が海軍大臣になるかもしれない。そうすればおれは晴れて海軍総司令だ。思う存分、海に出られる!」
いや、総司令はそもそも出ません、と信秀は思ったが、口には出さない。
「それで、付近の領民に逃げるように触れは出したか? いかに戦とは言え無垢の民を虐げる訳にはいかない。特に殿はそのような行いは許されぬ」。
「よし、ではこれからその触れ通り、二刻後(4時間後)に攻撃を開始する。よいな?」
「はは」
■香宗城下 野市村 番所
番所前で役人に訴えかける一人の漁師がいた。
「お願いします! 早く殿様に、あのでけえ船の事を知らせてくだせえ」
漁師のあまりの慌て様に、
「静まれ、一体何事じゃ。でっけえ船とはどういう事か」。
役人はまず漁師を落ち着かせ、詳しい話を聞くより早く、海岸へ向かった。
「なんじゃ、あれは。ここから見ても、なんという大きさじゃ。それにこの数、尋常ではない、ん、何やら小舟が近づいてくるではないか」
役人は警戒し、漁師を下がらせるが、上陸してきた者には殺意は感じられなかった。
「これはわが殿、小佐々弾正大弼様が、艦隊総司令の深沢様に命じて書かせたものです。民には罪はありません、それでは」
使者はそう言い放って、早々に船に戻っていった。返書を求める訳でもなく、ただ文を渡しに来ただけのようだ。
『お主らの主君、長宗我部宮内少輔は、昔の戦にて恩を受けたるにもかかわらず、わが家中大友左衛門督が娘婿、一条兼定を攻めたり。ゆえに要請ありて助太刀せんとす。民には罪なしとて逃げるように触れを出したり。あと二刻後に総攻めをせんとす』
役人は騒然とした。あの船の数、見たこともない大きさの船。尋常ではない。すぐに香宗我部城の殿に知らせなければ。そう思うが早いか、役人は漁民に付近の住民を避難させるように告げ、急ぎ香宗我部城へ走ったのであった。
■午四つ刻(1230) 第三艦隊旗艦 比叡丸 艦上
「よし、まずは須留田城じゃ。測距はじめ!」
「ヒロロク(十六町・1744m) テン ヒトサン(十三間・23m)」
「記録したか。よし、まずは仰角二十でいけ」
測距儀で距離を測り、約1.77キロメートルだと判明。
「左舷一番砲、撃ち方始め!」
「撃ち方用意、撃て!」
「弾ちゃーく、今!」
「距離は? どうだ? 届いたのか?」
「……いえ、どうやら飛び越えたようです。城の手前の状況や海面を見ても、海上に落下したり、海岸や民家に損傷は見当たりません」
勝行は飛び上がっている。
「すごいな! 早岐の瀬戸や俵石城の時よりも飛んでるな!」
「司令」
「しれい」
「司令!!!」
「何だ! 今喜びに浸っているのに、水を差すような事するな」
司令の信秀に諭された総司令の勝行は気まずそうだ。
「嬉しいのはわかりますが、あまりそれを、部下に見せない様に願います。士気に関わりますゆえ。次はどうされますか?」
信秀が次の諸元の指示を仰ぐ。
「よし、では次は……半分の十だ。十度でやれ」。
「左舷一番砲、撃ち方始め!」
「撃ち方用意、撃て!」
「弾ちゃーく、今!」
「どうだ?」
勝行が確認する。観測手が
「命中です! 城壁損傷を確認! 周囲の兵が恐れおののいて、逃げ惑っています」
「ようし、左砲戦用意! 撃ち方始め!」
「撃ち方用意、撃て!」
旗艦比叡丸の左舷に備え付けられた八門のカルバリン砲が一斉に火を吹いた。
「二番艦以下のセーカー砲は射程が長い故、仰角と玉薬の量を減らして調整せよ」
セーカー砲は小型艦に搭載された。片弦五門で計二十五門である。最初に調整に時間がかかったが、すぐにあわせ、城を襲う。
信秀は思った。この人は、戦においては非凡だ。ただし、おいては。
2
お気に入りに追加
158
あなたにおすすめの小説
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
『転生した無名藩士、幕末の動乱を生き抜く~時代・技術考証や設定などは完全無視です!~』
姜維信繁
ファンタジー
佐賀藩より早く蒸気船に蒸気機関車、アームストロング砲。列強に勝つ!
人生100年時代の折り返し地点に来た企画営業部長の清水亨は、大きなプロジェクトをやり遂げて、久しぶりに長崎の実家に帰ってきた。
学生時代の仲間とどんちゃん騒ぎのあげく、急性アルコール中毒で死んでしまう。
しかし、目が覚めたら幕末の動乱期。龍馬や西郷や桂や高杉……と思いつつ。あまり幕末史でも知名度のない「薩長土肥」の『肥』のさらに隣の藩の大村藩のお話。
で、誰に転生したかと言うと、これまた誰も知らない、地元の人もおそらく知らない人の末裔として。
なーんにもしなければ、間違いなく幕末の動乱に巻き込まれ、戊辰戦争マッシグラ。それを回避して西洋列強にまけない国(藩)づくりに励む事になるのだが……。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる