上 下
295 / 812
島津の野望に立ち向かう:小佐々の南方戦略-対島津戦略と台湾領有へ-

セバスティアン一世とコスメ・デ・トーレス

しおりを挟む
 遡ること六年前、永禄六年(1563年) ポルトガル王国 リスボン王宮

『ポルトガル、アルガルヴェ、アフリカ、ギニアならびに東インドの君主、最高で敬愛に値する王セバスティアン一世陛下

 私、あなたの忠実なしもべ、コスメ・デ・トーレスは日本の肥前国にある横瀬浦より、陛下のご健勝とポルトガル王国の繁栄を祈っております。私はここで布教を続けておりますが、その過程で沢森政忠という方と知り合いました。

 昨年8月に、同じ肥前の平戸にて、われらポルトガルの民が殺されるという痛ましい事件が起きました。その後われらは平戸に代わる新しい港を探しておりましたが、今私がいる横瀬浦こそがそうなのです。

 沢森政忠が紹介し、有力大名の大村氏の庇護下にて布教を行うことができております。キリスト教にも好意的で、彼のおかげで私は多くの人々に福音を伝えることができました。

 彼はまた産業の育成に力を入れており、我々が伝えたしゃぼんやぶどう酒を作っては振る舞ってくれました。また、彼らは鉛筆なるものを使い、インクを使わずに字を書いております。

 沢森氏は陛下に対しても敬意を払っており、ポルトガル王国との友好関係を望んでいます。彼は貿易や文化交流に積極的です。また、私たち宣教師にも多くの援助をしてくださっており、私たちは彼の恩に感謝しております。

 私は彼が、日本における陛下の忠実な味方になるのではないか、と考えております。彼はまだキリスト教に入信しておりませんが、その日も近いと思います。私はこの地にてもっと布教を進めていきたいと思っております。

 また、彼の地の領民が、キリスト教とわれらの文化を知るべく使節を送ってきております。

 陛下も彼らに対して温かく接してくださいますよう、切に願っております。

 1562年5月 敬意を表して コスメ・デ・トーレス』

「イエズス会の宣教師であるトーレスがここまで言うとは、マサタダとはどんな人物なんでしょうね」

 ポルトガル国王セバスティアン一世(当時11歳)は、摂政で大叔父でもある枢機卿ドン・エンリケ(当時43歳)に話しかける。

「どうでしょうか。会った事がないので何とも言えませんが、ともあれ、平戸以外の港が見つかってよかったですね。信仰心のない彼らは、われらとの貿易を条件にしないと布教を許しません。所詮は……まあ、ここまでにしておきましょう」

「ああそれと」
「何ですか」
「一緒にこのような親書も届いております。まあ、見るに値しないと思いますが」

 セバスティアン一世は試しに読む。

『親愛なるポルトガル王セバスティアン一世陛下

 初めに申し上げます。昨年8月に起きました平戸での出来事は、我々皆、痛烈に受け止めております。同胞としての不始末、心よりお詫び申し上げます。

 しかしながら、我が領地である横瀬浦を安全な港として提供できた事は、大いなる喜びであります。我が地にて、宣教師の皆様が自由に布教されており、我が民が新たな教えを受け入れている様子に心を慰めております。

 我が領地における日本古来の聖職者たちには、争いを避ける事を厳に命じております。また教会やセミナリオ、コレジオの建設も許可し、その発展に我々も協力しております。故に、再び平戸のような悲劇が起こる事はありません。

 貴国と我が国の友好と通商の発展を心から願っております。恐縮ではございますが、その一環として、我々は若き者たちを貴国へ遣わしました。もし許されるならば、毎年留学させることを考えております。

 彼らが貴国の素晴らしい文化や知識を学び、その経験を我が国にもたらすことで、我々はさらに友好関係を深め、貴国と我が国との間で繁栄を享受できると信じております。

 どうか、我が意向をご理解いただき、ご支援くださいますようお願い申し上げます。

 貴国と我が国の友情と繁栄を願って、

 肥前国彼杵領主 沢森政忠』

「大叔父上もそうですが、皆あまり良い印象を持っていないようですね。しかし、未開の蛮族では決してなく、このようなしっかりした手紙を書くような教養のある人物なら、使節に会って聞いてみたい気もします」
「陛下がどうしても、というなら構いませんが、どうせ言葉も喋れませんよ」

 セバスティアン一世は枢機卿に話をして、使節の若者と会ってみる事にした。

「Caro Majestade o Rei Sebastião I de Portugal
 Muito obrigado por me permitir ter uma audiência com vocês hoje.(親愛なるポルトガル王セバスティアン一世陛下
 本日は謁見を許していただき、誠にありがとうございます)」。

(ええ!! ポルトガル語じゃないか! しかも礼儀正しくて、王宮でも礼を失する事がない。なんだこれは!? ここに来るまでに覚えたんだろうか? 信じられない!)

 若き国王セバスティアン一世と留学使節団との出会いは衝撃的であった。そして使節団は一冊の本を国王に進呈した。政忠(当時)が愛読している本である。

 その名は『Artes marciais de Sun Tzu(孫子の兵法)』。
 書き出しが「diz Sun Tzu. A guerra é uma questão de importância nacional, uma questão de vida ou morte e a existência de moralidade e moralidade. Portanto, não deve ser tomada de ânimo leve.(孫子曰く、兵は国の大事、死生の地、道の存亡に関わるもの、軽視するにあらず)」。

 世界史が、動くか?
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

『転生した無名藩士、幕末の動乱を生き抜く~時代・技術考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁
ファンタジー
佐賀藩より早く蒸気船に蒸気機関車、アームストロング砲。列強に勝つ! 人生100年時代の折り返し地点に来た企画営業部長の清水亨は、大きなプロジェクトをやり遂げて、久しぶりに長崎の実家に帰ってきた。 学生時代の仲間とどんちゃん騒ぎのあげく、急性アルコール中毒で死んでしまう。 しかし、目が覚めたら幕末の動乱期。龍馬や西郷や桂や高杉……と思いつつ。あまり幕末史でも知名度のない「薩長土肥」の『肥』のさらに隣の藩の大村藩のお話。 で、誰に転生したかと言うと、これまた誰も知らない、地元の人もおそらく知らない人の末裔として。 なーんにもしなければ、間違いなく幕末の動乱に巻き込まれ、戊辰戦争マッシグラ。それを回避して西洋列強にまけない国(藩)づくりに励む事になるのだが……。

傭兵アルバの放浪記

有馬円
ファンタジー
変わり者の傭兵アルバ、誰も詳しくはこの人間のことを知りません。 アルバはずーっと傭兵で生きてきました。 あんまり考えたこともありません。 でも何をしても何をされても生き残ることが人生の目標です。 ただそれだけですがアルバはそれなりに必死に生きています。 そんな人生の一幕

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました

星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

異世界でホワイトな飲食店経営を

視世陽木
ファンタジー
 定食屋チェーン店で雇われ店長をしていた飯田譲治(イイダ ジョウジ)は、気がついたら真っ白な世界に立っていた。  彼の最後の記憶は、連勤に連勤を重ねてふらふらになりながら帰宅し、赤信号に気づかずに道路に飛び出し、トラックに轢かれて亡くなったというもの。  彼が置かれた状況を説明するためにスタンバイしていた女神様を思いっきり無視しながら、1人考察を進める譲治。 しまいには女神様を泣かせてしまい、十分な説明もないままに異世界に転移させられてしまった!  ブラック企業で酷使されながら、それでも料理が大好きでいつかは自分の店を開きたいと夢見ていた彼は、はたして異世界でどんな生活を送るのか!?  異世界物のテンプレと超ご都合主義を盛り沢山に、ちょいちょい社会風刺を入れながらお送りする異世界定食屋経営物語。はたしてジョージはホワイトな飲食店を経営できるのか!? ● 異世界テンプレと超ご都合主義で話が進むので、苦手な方や飽きてきた方には合わないかもしれません。 ● かつて作者もブラック飲食店で店長をしていました。 ● 基本的にはおふざけ多め、たまにシリアス。 ● 残酷な描写や性的な描写はほとんどありませんが、後々死者は出ます。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...