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島津の野望に立ち向かう:小佐々の南方戦略-対島津戦略と台湾領有へ-
セバスティアン一世とコスメ・デ・トーレス
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遡ること六年前、永禄六年(1563年) ポルトガル王国 リスボン王宮
『ポルトガル、アルガルヴェ、アフリカ、ギニアならびに東インドの君主、最高で敬愛に値する王セバスティアン一世陛下
私、あなたの忠実なしもべ、コスメ・デ・トーレスは日本の肥前国にある横瀬浦より、陛下のご健勝とポルトガル王国の繁栄を祈っております。私はここで布教を続けておりますが、その過程で沢森政忠という方と知り合いました。
昨年8月に、同じ肥前の平戸にて、われらポルトガルの民が殺されるという痛ましい事件が起きました。その後われらは平戸に代わる新しい港を探しておりましたが、今私がいる横瀬浦こそがそうなのです。
沢森政忠が紹介し、有力大名の大村氏の庇護下にて布教を行うことができております。キリスト教にも好意的で、彼のおかげで私は多くの人々に福音を伝えることができました。
彼はまた産業の育成に力を入れており、我々が伝えたしゃぼんやぶどう酒を作っては振る舞ってくれました。また、彼らは鉛筆なるものを使い、インクを使わずに字を書いております。
沢森氏は陛下に対しても敬意を払っており、ポルトガル王国との友好関係を望んでいます。彼は貿易や文化交流に積極的です。また、私たち宣教師にも多くの援助をしてくださっており、私たちは彼の恩に感謝しております。
私は彼が、日本における陛下の忠実な味方になるのではないか、と考えております。彼はまだキリスト教に入信しておりませんが、その日も近いと思います。私はこの地にてもっと布教を進めていきたいと思っております。
また、彼の地の領民が、キリスト教とわれらの文化を知るべく使節を送ってきております。
陛下も彼らに対して温かく接してくださいますよう、切に願っております。
1562年5月 敬意を表して コスメ・デ・トーレス』
「イエズス会の宣教師であるトーレスがここまで言うとは、マサタダとはどんな人物なんでしょうね」
ポルトガル国王セバスティアン一世(当時11歳)は、摂政で大叔父でもある枢機卿ドン・エンリケ(当時43歳)に話しかける。
「どうでしょうか。会った事がないので何とも言えませんが、ともあれ、平戸以外の港が見つかってよかったですね。信仰心のない彼らは、われらとの貿易を条件にしないと布教を許しません。所詮は……まあ、ここまでにしておきましょう」
「ああそれと」
「何ですか」
「一緒にこのような親書も届いております。まあ、見るに値しないと思いますが」
セバスティアン一世は試しに読む。
『親愛なるポルトガル王セバスティアン一世陛下
初めに申し上げます。昨年8月に起きました平戸での出来事は、我々皆、痛烈に受け止めております。同胞としての不始末、心よりお詫び申し上げます。
しかしながら、我が領地である横瀬浦を安全な港として提供できた事は、大いなる喜びであります。我が地にて、宣教師の皆様が自由に布教されており、我が民が新たな教えを受け入れている様子に心を慰めております。
我が領地における日本古来の聖職者たちには、争いを避ける事を厳に命じております。また教会やセミナリオ、コレジオの建設も許可し、その発展に我々も協力しております。故に、再び平戸のような悲劇が起こる事はありません。
貴国と我が国の友好と通商の発展を心から願っております。恐縮ではございますが、その一環として、我々は若き者たちを貴国へ遣わしました。もし許されるならば、毎年留学させることを考えております。
彼らが貴国の素晴らしい文化や知識を学び、その経験を我が国にもたらすことで、我々はさらに友好関係を深め、貴国と我が国との間で繁栄を享受できると信じております。
どうか、我が意向をご理解いただき、ご支援くださいますようお願い申し上げます。
貴国と我が国の友情と繁栄を願って、
肥前国彼杵領主 沢森政忠』
「大叔父上もそうですが、皆あまり良い印象を持っていないようですね。しかし、未開の蛮族では決してなく、このようなしっかりした手紙を書くような教養のある人物なら、使節に会って聞いてみたい気もします」
「陛下がどうしても、というなら構いませんが、どうせ言葉も喋れませんよ」
セバスティアン一世は枢機卿に話をして、使節の若者と会ってみる事にした。
「Caro Majestade o Rei Sebastião I de Portugal
Muito obrigado por me permitir ter uma audiência com vocês hoje.(親愛なるポルトガル王セバスティアン一世陛下
本日は謁見を許していただき、誠にありがとうございます)」。
(ええ!! ポルトガル語じゃないか! しかも礼儀正しくて、王宮でも礼を失する事がない。なんだこれは!? ここに来るまでに覚えたんだろうか? 信じられない!)
若き国王セバスティアン一世と留学使節団との出会いは衝撃的であった。そして使節団は一冊の本を国王に進呈した。政忠(当時)が愛読している本である。
その名は『Artes marciais de Sun Tzu(孫子の兵法)』。
書き出しが「diz Sun Tzu. A guerra é uma questão de importância nacional, uma questão de vida ou morte e a existência de moralidade e moralidade. Portanto, não deve ser tomada de ânimo leve.(孫子曰く、兵は国の大事、死生の地、道の存亡に関わるもの、軽視するにあらず)」。
世界史が、動くか?
『ポルトガル、アルガルヴェ、アフリカ、ギニアならびに東インドの君主、最高で敬愛に値する王セバスティアン一世陛下
私、あなたの忠実なしもべ、コスメ・デ・トーレスは日本の肥前国にある横瀬浦より、陛下のご健勝とポルトガル王国の繁栄を祈っております。私はここで布教を続けておりますが、その過程で沢森政忠という方と知り合いました。
昨年8月に、同じ肥前の平戸にて、われらポルトガルの民が殺されるという痛ましい事件が起きました。その後われらは平戸に代わる新しい港を探しておりましたが、今私がいる横瀬浦こそがそうなのです。
沢森政忠が紹介し、有力大名の大村氏の庇護下にて布教を行うことができております。キリスト教にも好意的で、彼のおかげで私は多くの人々に福音を伝えることができました。
彼はまた産業の育成に力を入れており、我々が伝えたしゃぼんやぶどう酒を作っては振る舞ってくれました。また、彼らは鉛筆なるものを使い、インクを使わずに字を書いております。
沢森氏は陛下に対しても敬意を払っており、ポルトガル王国との友好関係を望んでいます。彼は貿易や文化交流に積極的です。また、私たち宣教師にも多くの援助をしてくださっており、私たちは彼の恩に感謝しております。
私は彼が、日本における陛下の忠実な味方になるのではないか、と考えております。彼はまだキリスト教に入信しておりませんが、その日も近いと思います。私はこの地にてもっと布教を進めていきたいと思っております。
また、彼の地の領民が、キリスト教とわれらの文化を知るべく使節を送ってきております。
陛下も彼らに対して温かく接してくださいますよう、切に願っております。
1562年5月 敬意を表して コスメ・デ・トーレス』
「イエズス会の宣教師であるトーレスがここまで言うとは、マサタダとはどんな人物なんでしょうね」
ポルトガル国王セバスティアン一世(当時11歳)は、摂政で大叔父でもある枢機卿ドン・エンリケ(当時43歳)に話しかける。
「どうでしょうか。会った事がないので何とも言えませんが、ともあれ、平戸以外の港が見つかってよかったですね。信仰心のない彼らは、われらとの貿易を条件にしないと布教を許しません。所詮は……まあ、ここまでにしておきましょう」
「ああそれと」
「何ですか」
「一緒にこのような親書も届いております。まあ、見るに値しないと思いますが」
セバスティアン一世は試しに読む。
『親愛なるポルトガル王セバスティアン一世陛下
初めに申し上げます。昨年8月に起きました平戸での出来事は、我々皆、痛烈に受け止めております。同胞としての不始末、心よりお詫び申し上げます。
しかしながら、我が領地である横瀬浦を安全な港として提供できた事は、大いなる喜びであります。我が地にて、宣教師の皆様が自由に布教されており、我が民が新たな教えを受け入れている様子に心を慰めております。
我が領地における日本古来の聖職者たちには、争いを避ける事を厳に命じております。また教会やセミナリオ、コレジオの建設も許可し、その発展に我々も協力しております。故に、再び平戸のような悲劇が起こる事はありません。
貴国と我が国の友好と通商の発展を心から願っております。恐縮ではございますが、その一環として、我々は若き者たちを貴国へ遣わしました。もし許されるならば、毎年留学させることを考えております。
彼らが貴国の素晴らしい文化や知識を学び、その経験を我が国にもたらすことで、我々はさらに友好関係を深め、貴国と我が国との間で繁栄を享受できると信じております。
どうか、我が意向をご理解いただき、ご支援くださいますようお願い申し上げます。
貴国と我が国の友情と繁栄を願って、
肥前国彼杵領主 沢森政忠』
「大叔父上もそうですが、皆あまり良い印象を持っていないようですね。しかし、未開の蛮族では決してなく、このようなしっかりした手紙を書くような教養のある人物なら、使節に会って聞いてみたい気もします」
「陛下がどうしても、というなら構いませんが、どうせ言葉も喋れませんよ」
セバスティアン一世は枢機卿に話をして、使節の若者と会ってみる事にした。
「Caro Majestade o Rei Sebastião I de Portugal
Muito obrigado por me permitir ter uma audiência com vocês hoje.(親愛なるポルトガル王セバスティアン一世陛下
本日は謁見を許していただき、誠にありがとうございます)」。
(ええ!! ポルトガル語じゃないか! しかも礼儀正しくて、王宮でも礼を失する事がない。なんだこれは!? ここに来るまでに覚えたんだろうか? 信じられない!)
若き国王セバスティアン一世と留学使節団との出会いは衝撃的であった。そして使節団は一冊の本を国王に進呈した。政忠(当時)が愛読している本である。
その名は『Artes marciais de Sun Tzu(孫子の兵法)』。
書き出しが「diz Sun Tzu. A guerra é uma questão de importância nacional, uma questão de vida ou morte e a existência de moralidade e moralidade. Portanto, não deve ser tomada de ânimo leve.(孫子曰く、兵は国の大事、死生の地、道の存亡に関わるもの、軽視するにあらず)」。
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