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島津の野望に立ち向かう:小佐々の南方戦略-対島津戦略と台湾領有へ-
領民のための領主 禰寝重長、和議を決断する
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遡って永禄十二年二月 大隅国 ※国見城
■第三回和平交渉
まだ寒さの抜けきらぬ城中にひとりの来客がいた。
「※右近大夫(禰寝重長)様、三度お目通りをお許し下さり、誠にありがとうございます」
そう話すのは、昨年の十二月より※島津家と※禰寝家の和議のために国見城を訪れている、※八木越後守である。
「越後守殿、御苦労な事ですな。何度来られても、それがしの考えは変わりません。いい加減諦めてはくださいませぬか」。
そうはいいつつも、前回、前々回もそうだが、しっかりと時間をとって話を聞いてくれている。それだけで脈があるのだ、と越後守は考えていた。それにそもそも敵対勢力の使者と会うなど、下手をすれば裏切り行為ともとられかねない。
大名、国人は暇ではない。それでも時間を取って話を聞いてくれるのは、やはりなんらかの意図があるのだ。それに前回の交渉で越後守は漠然とだが確信を得ていた。
「今回は少し趣向が違いまする。もしや右近大夫様は、島津に対して疑念を抱いているのではないかと思い、誓詞の件を話しに参りました。誓詞には、島津が禰寝氏に対して絶対に不利益を与えない事を記すようにいたします。もちろん右近大夫様にも同様に願いますが、口約束ではなく天地神明に誓って共に歩んでいく事を記すのです」
先代、先々代までの縁を切り、肝付と盟を結んだ禰寝氏に対して、島津が二言のない事を示すことで、元の鞘に収めようと目論んでいるのだ。
「越後守殿、いい加減にして下され。その誓詞もそれがしには意味がありませぬ。※修理大夫(島津義久)殿がどれほど真心を込めてくださっても、ここで盟を破り島津については義にもとります」
重長は、越後守が差し出した誓詞の草案をしっかりと読んだあと、やはり盟を破る事は信義にもとると、断った。
「されば、右近大夫様が河内守様との盟を重んじるのと同じく、この島津と禰寝家の和議こそが、大隅の混乱を終わらせ両家に繁栄をもたらすものと、わが殿も確信しております。出来ぬ約束は書けませぬが、この草案は誠であります」
そう言って三回目の交渉は終わり、島津家の使者八木越後守は、まだ寒さの残る空を見上げ薩摩へ帰ったのであった。
■第四回目(永禄十二年三月)
「越後守殿、またですか」
という重長の言葉に、
「わはははは、千里の道も一歩から、千錘百鎚と申します」
と軽く笑いながら返すのは、八木越後守である。もはや最初の緊張した雰囲気や、少し殺伐とした空気のようなものは感じられない。それは同盟が成立するから、ではない。あくまでもそれはそれ、これはこれ、と両者が考えていたからだ。
「右近大夫様、こたびで四度目となり申す。三度断られましたが、わが主君修理大夫様は諦めてはおりませぬ。条件は変わりませぬが、どうか領民と大隅国の平和のために、お力をお貸しいただけます様お願いいたします」
利で訴え、情で訴え、昔からの縁を訴え、そして領民と平和のためという大義名分で訴える。
「越後守殿、またお越しになりましたか。修理大夫殿の御心遣いには感謝いたしますが……、実はあれから考えに考え、思うところはあるのです。河内守殿との盟を破るは信義にもとる事なれど、このまま戦を続けてもいいものか」
越後守は禰寝重長の心情の変化に気づき、さらに説得を続けた。畳み掛けるのではない。ゆっくりと、そしてしっかりと重長の呼吸に合わせるように話をすすめた。
「右近大夫様、それがしは右近大夫様の忠節や信念を尊敬しておりますが、その忠節や信念は、ご自身のためではなく、ご家族や家臣、そして領民のためでなくてはならないと存じます。これ以上戦いが続けば、彼らも苦しみまする」
重長は目をつむり、腕を組んで考え込んでいる。
「戦もなく安寧に暮らす、領民にはそれが一番大事なのです。右近大夫様と我らとの和議が成れば、領民は苦しみから解放されます。そしてそれこそが、為政者としての努め。領民の幸せは、それすなわち右近大夫様、ならびにそのご家族や家中の方々の幸せでもあります」
わかっている、と重長が話を止めた。
「それが努めだともわかっておるのだ。それゆえ苦しい決断なのだ」。
明らかに重長は悩んでいる。そしてしばらくの沈黙の後、
「お気持ち、お察しします」
と越後守が続けた。
「ひとつ、確かな事があります。それは領主のための領民なのか、それとも領民のための領主なのか、です」
一瞬、重長の表情に変化があった。
「平和というのは誰もが望むものです。そして今、右近大夫様はそれができるのです。それを行う事は、あなた様の義務であり、そしてまた名誉でもあるのです」
もう一押しだ、と越後守は思ったが、焦ってはいけない。
「越後守殿のおっしゃることも分かります。それがしは家族や家臣、そして領民の事を一番に考えねばならぬ事も、わかっております。それがしに少し、時間をいただけませぬか」
八木越後守は禰寝重長に時間を与えることに同意した。
その後、熟慮に熟慮を重ね、ついに禰寝重長は自分の家族や家臣や領民のために、和議を結ぶことを決心した。島津義久に和議を申し入れたのだ。昨年永禄十一年の十二月、交渉開始より四ヶ月後の事である。
■第三回和平交渉
まだ寒さの抜けきらぬ城中にひとりの来客がいた。
「※右近大夫(禰寝重長)様、三度お目通りをお許し下さり、誠にありがとうございます」
そう話すのは、昨年の十二月より※島津家と※禰寝家の和議のために国見城を訪れている、※八木越後守である。
「越後守殿、御苦労な事ですな。何度来られても、それがしの考えは変わりません。いい加減諦めてはくださいませぬか」。
そうはいいつつも、前回、前々回もそうだが、しっかりと時間をとって話を聞いてくれている。それだけで脈があるのだ、と越後守は考えていた。それにそもそも敵対勢力の使者と会うなど、下手をすれば裏切り行為ともとられかねない。
大名、国人は暇ではない。それでも時間を取って話を聞いてくれるのは、やはりなんらかの意図があるのだ。それに前回の交渉で越後守は漠然とだが確信を得ていた。
「今回は少し趣向が違いまする。もしや右近大夫様は、島津に対して疑念を抱いているのではないかと思い、誓詞の件を話しに参りました。誓詞には、島津が禰寝氏に対して絶対に不利益を与えない事を記すようにいたします。もちろん右近大夫様にも同様に願いますが、口約束ではなく天地神明に誓って共に歩んでいく事を記すのです」
先代、先々代までの縁を切り、肝付と盟を結んだ禰寝氏に対して、島津が二言のない事を示すことで、元の鞘に収めようと目論んでいるのだ。
「越後守殿、いい加減にして下され。その誓詞もそれがしには意味がありませぬ。※修理大夫(島津義久)殿がどれほど真心を込めてくださっても、ここで盟を破り島津については義にもとります」
重長は、越後守が差し出した誓詞の草案をしっかりと読んだあと、やはり盟を破る事は信義にもとると、断った。
「されば、右近大夫様が河内守様との盟を重んじるのと同じく、この島津と禰寝家の和議こそが、大隅の混乱を終わらせ両家に繁栄をもたらすものと、わが殿も確信しております。出来ぬ約束は書けませぬが、この草案は誠であります」
そう言って三回目の交渉は終わり、島津家の使者八木越後守は、まだ寒さの残る空を見上げ薩摩へ帰ったのであった。
■第四回目(永禄十二年三月)
「越後守殿、またですか」
という重長の言葉に、
「わはははは、千里の道も一歩から、千錘百鎚と申します」
と軽く笑いながら返すのは、八木越後守である。もはや最初の緊張した雰囲気や、少し殺伐とした空気のようなものは感じられない。それは同盟が成立するから、ではない。あくまでもそれはそれ、これはこれ、と両者が考えていたからだ。
「右近大夫様、こたびで四度目となり申す。三度断られましたが、わが主君修理大夫様は諦めてはおりませぬ。条件は変わりませぬが、どうか領民と大隅国の平和のために、お力をお貸しいただけます様お願いいたします」
利で訴え、情で訴え、昔からの縁を訴え、そして領民と平和のためという大義名分で訴える。
「越後守殿、またお越しになりましたか。修理大夫殿の御心遣いには感謝いたしますが……、実はあれから考えに考え、思うところはあるのです。河内守殿との盟を破るは信義にもとる事なれど、このまま戦を続けてもいいものか」
越後守は禰寝重長の心情の変化に気づき、さらに説得を続けた。畳み掛けるのではない。ゆっくりと、そしてしっかりと重長の呼吸に合わせるように話をすすめた。
「右近大夫様、それがしは右近大夫様の忠節や信念を尊敬しておりますが、その忠節や信念は、ご自身のためではなく、ご家族や家臣、そして領民のためでなくてはならないと存じます。これ以上戦いが続けば、彼らも苦しみまする」
重長は目をつむり、腕を組んで考え込んでいる。
「戦もなく安寧に暮らす、領民にはそれが一番大事なのです。右近大夫様と我らとの和議が成れば、領民は苦しみから解放されます。そしてそれこそが、為政者としての努め。領民の幸せは、それすなわち右近大夫様、ならびにそのご家族や家中の方々の幸せでもあります」
わかっている、と重長が話を止めた。
「それが努めだともわかっておるのだ。それゆえ苦しい決断なのだ」。
明らかに重長は悩んでいる。そしてしばらくの沈黙の後、
「お気持ち、お察しします」
と越後守が続けた。
「ひとつ、確かな事があります。それは領主のための領民なのか、それとも領民のための領主なのか、です」
一瞬、重長の表情に変化があった。
「平和というのは誰もが望むものです。そして今、右近大夫様はそれができるのです。それを行う事は、あなた様の義務であり、そしてまた名誉でもあるのです」
もう一押しだ、と越後守は思ったが、焦ってはいけない。
「越後守殿のおっしゃることも分かります。それがしは家族や家臣、そして領民の事を一番に考えねばならぬ事も、わかっております。それがしに少し、時間をいただけませぬか」
八木越後守は禰寝重長に時間を与えることに同意した。
その後、熟慮に熟慮を重ね、ついに禰寝重長は自分の家族や家臣や領民のために、和議を結ぶことを決心した。島津義久に和議を申し入れたのだ。昨年永禄十一年の十二月、交渉開始より四ヶ月後の事である。
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