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島津の野望に立ち向かう:小佐々の南方戦略-対島津戦略と台湾領有へ-
信長の交換遊学生【豊後府内から肥前多比良へ】
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永禄十二年 二月二十九日 豊後府内
一行は豊後府内まで船で向かったのだが、着いたのは永禄十二年の二月二十九日であった。 岐阜を出発して二週間、堺湊を出港してから十日後の事である。
天気は晴朗なれども、まだ朝晩は寒い。しかし府内の湊が近づくにつれ、熱気が伝わってきたのだろうか……。
「ようやく豊後府内に到着したぞ。風景が一変したな」。
そう奥田直政(22)が言うと、森長可(12)が
「確かに、瀬戸内の湊とは違う広がりが感じられますね。しかし遠いです、岐阜から十四日もかかりました」
と答えた。しかしそうは言ったものの、元服したばかりの森長可(12)は、疲れも見せずに目を輝かせている。
「それにしても、この湊はすごいな。船がたくさん停泊しているぞ」。
と可児才蔵(15)は驚きを隠せない。
平手汎秀(16)もそれに同意した。
「湊町としての賑わいが見えるな。船が行き交い、人々が活気づいている」
などと、湊が大きくなるにつれ、期待も膨らむ。
留学生(以降、会話以外は留学生と表記)五人は長旅に疲れていないわけではない。それでも最初の目的地である豊後府内に到着した興奮で、口々に思い思いの感想を話し出す。留学生の中で四人は十代中頃だが、一人だけ二十歳を過ぎた奥田直政(堀直政)がいた。
お目付け役といったところだろう。
「あ! あれは南蛮船ですか?」
森長可が南蛮船を見つけて叫ぶ。はしゃぐな、という様な素振りで直政が制すると、
「そうだな。南蛮との交易で豊かになっているんだろう」
川尻秀長が同意する。
「南蛮貿易ですか。それはすごいですね。湊のない岐阜では見られませんね」
長可の目がキラキラしている。珍しいものが大好きなのだろう。
「確かに。岐阜は国内のみの交易であるからな。迎賓館や庭園は美しいが、異国との交流はない」
と直政。
「でも、岐阜も文化的には負けていませんよね。茶道や能楽が盛んでますし、殿も文化人や武芸者を庇護しています」
後世鬼武蔵と呼ばれる豪傑は、実は武術ばかりでなく文化にも聡いらしい。
「殿は文化や学術にも関心が深いからな。岐阜城下では多くの文化芸術が栄えているぞ」
直政と長可は隣り合わせで立っており、必然的に直政と可成の会話が続く。
「それに比べて、府内にはどんな文化があるんでしょうか?」
「府内では、以前から宗麟公が文化や学術の振興に力を入れていて、歌舞伎や能楽、茶道、書道などの芸術が栄えているらしい」
「それは岐阜城下と似ていますね」。
「それから、府内には温泉地もあるそうだ」
「温泉かあ、いいですね。岐阜城下には温泉地がありませんからね」。
「府内は古くから温泉地として知られていて、名物となっているらしい」
「それは楽しみですね。府内に行くのが待ち遠しいです」
「しかし俺たちの役目を忘れてはならん。まずは殿からの使命を果たさなければならないぞ」。
「はい、分かっています。織田家中の遊学生として、責任を持って行動します」
「よし、では府内館に向かって出発だ」
五人の留学生は船から降り、湊を歩き始めた。湊町特有の雑多な賑わいがあり、あちこちからかけ声が聞こえる。城下町には、商人や手工業者が集まり、市場や商店街が形成されていた。直政らは様々な品物や人々に目を奪われながら、城下町を進んだ。
しばらく歩くと、城下町の中心部にある大路に出た。雑踏の中を歩く。大路には武士や僧侶、外国人などが行き交っていて、商人のかけ声や子供が走り回って遊んでいる声も聞こえる。岐阜の市とは違う賑わいに圧倒されながらも、大路を西に向かってそのまま歩き続けた。
目指す府内館は、湊から約半里ほど(二km)離れた丘にあった。湊におりたって四半刻(30分)ほどで、彼らは大路の西端にある府内館の前に着いたのだ。府内館は、一辺約二町(200m)の守護館であり、堀や塀で囲まれていた。
門番に名乗りを上げて、中に入った。
府内館の中で対面した大友宗麟は、かつては北部九州の覇者であり、文化や学術の振興にも力を入れていた人物であった。今では小佐々の庇護下に入り、石高も二十万石程度に減っている。しかし、府内湊の賑わいはさすがである。
遊学生は信長の使者として挨拶し、小佐々家と織田家の同盟がなった事、交換遊学生として府内から肥前多比良へ向かう事を伝えた。宗麟は彼らを歓迎し、主君純正に対して、責任を持って小佐々領内まで護衛する事を通信にて送った。
その後宗麟は彼らに府内の見どころや名物を紹介し、鵜飼や温泉地への招待も申し出た。しかし、宗麟からの申し出はありがたかったが、目的は府内の視察ではない。
府内も十分異国の情緒を感じさせる街ではあるが、目的地は小佐々の本拠地である肥前の多比良である。彼らは宗麟の好意に感謝し、府内館で一泊した。翌日から肥前小佐々へ向かう事になるのだ。
小佐々純正という人物、普通とは違った考え方をしている御仁だそうだ。そうは言っても歳は二十歳。直政は自分より年下でありながら、北部九州を統べる男はどんな男なのか、その男が治める町はどのような佇まいなのか?
湧き上がる興味を他の四人に悟られないようにするのが精一杯であった。
一行は豊後府内まで船で向かったのだが、着いたのは永禄十二年の二月二十九日であった。 岐阜を出発して二週間、堺湊を出港してから十日後の事である。
天気は晴朗なれども、まだ朝晩は寒い。しかし府内の湊が近づくにつれ、熱気が伝わってきたのだろうか……。
「ようやく豊後府内に到着したぞ。風景が一変したな」。
そう奥田直政(22)が言うと、森長可(12)が
「確かに、瀬戸内の湊とは違う広がりが感じられますね。しかし遠いです、岐阜から十四日もかかりました」
と答えた。しかしそうは言ったものの、元服したばかりの森長可(12)は、疲れも見せずに目を輝かせている。
「それにしても、この湊はすごいな。船がたくさん停泊しているぞ」。
と可児才蔵(15)は驚きを隠せない。
平手汎秀(16)もそれに同意した。
「湊町としての賑わいが見えるな。船が行き交い、人々が活気づいている」
などと、湊が大きくなるにつれ、期待も膨らむ。
留学生(以降、会話以外は留学生と表記)五人は長旅に疲れていないわけではない。それでも最初の目的地である豊後府内に到着した興奮で、口々に思い思いの感想を話し出す。留学生の中で四人は十代中頃だが、一人だけ二十歳を過ぎた奥田直政(堀直政)がいた。
お目付け役といったところだろう。
「あ! あれは南蛮船ですか?」
森長可が南蛮船を見つけて叫ぶ。はしゃぐな、という様な素振りで直政が制すると、
「そうだな。南蛮との交易で豊かになっているんだろう」
川尻秀長が同意する。
「南蛮貿易ですか。それはすごいですね。湊のない岐阜では見られませんね」
長可の目がキラキラしている。珍しいものが大好きなのだろう。
「確かに。岐阜は国内のみの交易であるからな。迎賓館や庭園は美しいが、異国との交流はない」
と直政。
「でも、岐阜も文化的には負けていませんよね。茶道や能楽が盛んでますし、殿も文化人や武芸者を庇護しています」
後世鬼武蔵と呼ばれる豪傑は、実は武術ばかりでなく文化にも聡いらしい。
「殿は文化や学術にも関心が深いからな。岐阜城下では多くの文化芸術が栄えているぞ」
直政と長可は隣り合わせで立っており、必然的に直政と可成の会話が続く。
「それに比べて、府内にはどんな文化があるんでしょうか?」
「府内では、以前から宗麟公が文化や学術の振興に力を入れていて、歌舞伎や能楽、茶道、書道などの芸術が栄えているらしい」
「それは岐阜城下と似ていますね」。
「それから、府内には温泉地もあるそうだ」
「温泉かあ、いいですね。岐阜城下には温泉地がありませんからね」。
「府内は古くから温泉地として知られていて、名物となっているらしい」
「それは楽しみですね。府内に行くのが待ち遠しいです」
「しかし俺たちの役目を忘れてはならん。まずは殿からの使命を果たさなければならないぞ」。
「はい、分かっています。織田家中の遊学生として、責任を持って行動します」
「よし、では府内館に向かって出発だ」
五人の留学生は船から降り、湊を歩き始めた。湊町特有の雑多な賑わいがあり、あちこちからかけ声が聞こえる。城下町には、商人や手工業者が集まり、市場や商店街が形成されていた。直政らは様々な品物や人々に目を奪われながら、城下町を進んだ。
しばらく歩くと、城下町の中心部にある大路に出た。雑踏の中を歩く。大路には武士や僧侶、外国人などが行き交っていて、商人のかけ声や子供が走り回って遊んでいる声も聞こえる。岐阜の市とは違う賑わいに圧倒されながらも、大路を西に向かってそのまま歩き続けた。
目指す府内館は、湊から約半里ほど(二km)離れた丘にあった。湊におりたって四半刻(30分)ほどで、彼らは大路の西端にある府内館の前に着いたのだ。府内館は、一辺約二町(200m)の守護館であり、堀や塀で囲まれていた。
門番に名乗りを上げて、中に入った。
府内館の中で対面した大友宗麟は、かつては北部九州の覇者であり、文化や学術の振興にも力を入れていた人物であった。今では小佐々の庇護下に入り、石高も二十万石程度に減っている。しかし、府内湊の賑わいはさすがである。
遊学生は信長の使者として挨拶し、小佐々家と織田家の同盟がなった事、交換遊学生として府内から肥前多比良へ向かう事を伝えた。宗麟は彼らを歓迎し、主君純正に対して、責任を持って小佐々領内まで護衛する事を通信にて送った。
その後宗麟は彼らに府内の見どころや名物を紹介し、鵜飼や温泉地への招待も申し出た。しかし、宗麟からの申し出はありがたかったが、目的は府内の視察ではない。
府内も十分異国の情緒を感じさせる街ではあるが、目的地は小佐々の本拠地である肥前の多比良である。彼らは宗麟の好意に感謝し、府内館で一泊した。翌日から肥前小佐々へ向かう事になるのだ。
小佐々純正という人物、普通とは違った考え方をしている御仁だそうだ。そうは言っても歳は二十歳。直政は自分より年下でありながら、北部九州を統べる男はどんな男なのか、その男が治める町はどのような佇まいなのか?
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