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島津の野望に立ち向かう:小佐々の南方戦略-対島津戦略と台湾領有へ-
アフター本圀寺 信長と純正の思惑~天下を狙う者と平和を願う者~
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永禄十二年 一月 京都
純久は三好三人衆の蜂起を十二月二十九日、当日の申二つ刻(1530)に知った。そしてそのまま御所へ行くとともに、岐阜の信長にも使いをやったのだ。信長の元に使者が到着したのは、翌永禄十二年元旦の巳の二つ刻(0930)である。
急報を受けた信長と久秀は、折からの大雪であったが直ちに出発して京都に向かった。一月の五日に十騎足らずで御所に到着したが、すでに三好勢は純久に駆逐され、阿波へ逃げ帰った後であった。
信長は純久と今後の事を協議するために京都に滞在した。朝廷と義昭の喜び具合は殊の外であり、純正の従四位上検非違使別当への叙任と純久の正六位下治部大丞への叙任が噂されていた。
純久勝利の知らせは二日の申一つ刻(1500)には御所と内裏に到着していたが、京に戻ったのは五日の昼過ぎであった。
「純久よ、あっぱれである。東に御父弾正忠殿あり、西に弾正大弼殿あり。これにてますます天下の静謐極まれりじゃ」。
御所にて戦勝の報告をした純久に対して、義昭は上機嫌である。純久は兵を指定場所に待機させ、他のものは非番として休ませた。信長のいる妙覚寺にはその足で向かったのだが、信長は結果に満足しつつも、一抹の不安を覚えているようだった。
信長は昨年義昭を奉じて上洛した際に、義昭から管領と斯波家の家督継承、または管領代と副将軍の地位などを勧められた。しかし足利家の桐紋と斯波家並の礼遇だけを賜り、その他は辞退した。
その代わり草津と大津、堺の土地を貰ったのだが、これは形骸化した官職などより淡海(あふみ・琵琶湖)の海運や堺の権益を重要視したからだ。天下布武、武をもって天下を統一するという目的に、銭は絶対に必要だ。
しかし、信長の不安は一昨年の永禄十年に、鍋島直茂と小佐々純久に会った時から感じていたものだ。兵や戦に関してではない。銭に関してである。国内の物と銭の流れは問題ない。
ただ、西からの物が流れて来ないのではないかという不安があったのだ。昨年十月に小佐々が大友を降したと聞いた時は、さらに強まった。これは、もし小佐々と戦になっても勝てないのではないか、という確信めいたものになったのだ。
「純久よ、実際のところどうなのだ? 純正は天下を狙っておらぬのか」
信長は妙覚寺に着いた純久を労い、自身はあまり飲めぬ酒を振る舞いながら、火鉢を囲いながら聞いた。純正は答えは決まっているのに考えるようなふりをした。
「そうですね。狙っているし、狙っていない、ともいえますね」
「どっちなのだ?」
信長はせかすが、その意図を感づかれまいとする。
「天下の統一自体は、あまり関心がないと思われます。殿の一番の願いは、自分と家族、それから家臣と領民の平和で豊かな暮らしです」
「平和で豊かな暮らし、とな」
「はい、ですから殿は自分からは戦を仕掛けませぬ。まったくないとは言えませんが、ほとんどが降り掛かった火の粉を振り払っているのです」
信長は考えている。天下布武の事業に、純正は邪魔となるか否かである。
「上総介様が日の本を統べて、平安をもたらしてくれるとも考えております」
「なに、わしがか」
「はい、そのための援助は惜しまぬはずです。ただ、上総介様が殿の平和を乱すようなら、容赦はしないかと」
要するにお伺いをたてろという事なのだろうか。
「ふはははは、まあよい、どうしても折り合いが付かなければ、そのときは戦だ。わはははは」。
信長は笑ったが、楽観できる状況ではない。当面は協力関係を築こうと考えた。離れているゆえ直接は影響ないであろう、そう考えたのだ。畿内の三好勢力は駆逐したとはいえ、南近江と伊賀には六角氏が健在である。
浅井朝倉もいて安泰とは言えない。ここで味方は一人でも多いほうがいい。
「純久よ。わしがもし、純正と攻守の盟を結びたいと申したら、どうじゃ」。
「賛成なされると思います。離れていますゆえ、兵をもってご助力するのは厳しいですが、それ以外であれば問題ないかと」。
「早いの、そのように返事をしてもよいのか」
「幼き頃より見知っておりますれば。それに、畿内の静謐は洛中、ひいては朝廷並びに殿のお義父君の安全にもつながり申す」
純正は確かに、戦よりも内政のほうが好きなようだ。
「そうだ」
信長は唐突に言葉を発した。
「先日使いを出しておった交換遊学の件だがな」。
純久もすぐに返答した。
「はい、殿の許可は得ております。いつでも受け入れできる様にございます」。
軍事機密や技術研究の詳細は知ることはできぬであろうが、われらに必要なものは情報である。それらを集め分析して、今後の小佐々に対する方針を決めなければならない。今回の三好の件でもそうだ。
小佐々が大使館に命じて伝馬の整備を行っていなければ、このように早く対処はできなかったであろう。京への侵入を許し、御所や内裏に被害が出ていたかも知れぬ。
「よし、では五名ほどを考えているからよろしく頼む」
「かしこまりました」
二人は笑顔で会談を進める。もともと問題点などないのだから、当然である。その後、本圀寺より新たな御所を造営するために資材や、段取りなどを話し合った。
純久は三好三人衆の蜂起を十二月二十九日、当日の申二つ刻(1530)に知った。そしてそのまま御所へ行くとともに、岐阜の信長にも使いをやったのだ。信長の元に使者が到着したのは、翌永禄十二年元旦の巳の二つ刻(0930)である。
急報を受けた信長と久秀は、折からの大雪であったが直ちに出発して京都に向かった。一月の五日に十騎足らずで御所に到着したが、すでに三好勢は純久に駆逐され、阿波へ逃げ帰った後であった。
信長は純久と今後の事を協議するために京都に滞在した。朝廷と義昭の喜び具合は殊の外であり、純正の従四位上検非違使別当への叙任と純久の正六位下治部大丞への叙任が噂されていた。
純久勝利の知らせは二日の申一つ刻(1500)には御所と内裏に到着していたが、京に戻ったのは五日の昼過ぎであった。
「純久よ、あっぱれである。東に御父弾正忠殿あり、西に弾正大弼殿あり。これにてますます天下の静謐極まれりじゃ」。
御所にて戦勝の報告をした純久に対して、義昭は上機嫌である。純久は兵を指定場所に待機させ、他のものは非番として休ませた。信長のいる妙覚寺にはその足で向かったのだが、信長は結果に満足しつつも、一抹の不安を覚えているようだった。
信長は昨年義昭を奉じて上洛した際に、義昭から管領と斯波家の家督継承、または管領代と副将軍の地位などを勧められた。しかし足利家の桐紋と斯波家並の礼遇だけを賜り、その他は辞退した。
その代わり草津と大津、堺の土地を貰ったのだが、これは形骸化した官職などより淡海(あふみ・琵琶湖)の海運や堺の権益を重要視したからだ。天下布武、武をもって天下を統一するという目的に、銭は絶対に必要だ。
しかし、信長の不安は一昨年の永禄十年に、鍋島直茂と小佐々純久に会った時から感じていたものだ。兵や戦に関してではない。銭に関してである。国内の物と銭の流れは問題ない。
ただ、西からの物が流れて来ないのではないかという不安があったのだ。昨年十月に小佐々が大友を降したと聞いた時は、さらに強まった。これは、もし小佐々と戦になっても勝てないのではないか、という確信めいたものになったのだ。
「純久よ、実際のところどうなのだ? 純正は天下を狙っておらぬのか」
信長は妙覚寺に着いた純久を労い、自身はあまり飲めぬ酒を振る舞いながら、火鉢を囲いながら聞いた。純正は答えは決まっているのに考えるようなふりをした。
「そうですね。狙っているし、狙っていない、ともいえますね」
「どっちなのだ?」
信長はせかすが、その意図を感づかれまいとする。
「天下の統一自体は、あまり関心がないと思われます。殿の一番の願いは、自分と家族、それから家臣と領民の平和で豊かな暮らしです」
「平和で豊かな暮らし、とな」
「はい、ですから殿は自分からは戦を仕掛けませぬ。まったくないとは言えませんが、ほとんどが降り掛かった火の粉を振り払っているのです」
信長は考えている。天下布武の事業に、純正は邪魔となるか否かである。
「上総介様が日の本を統べて、平安をもたらしてくれるとも考えております」
「なに、わしがか」
「はい、そのための援助は惜しまぬはずです。ただ、上総介様が殿の平和を乱すようなら、容赦はしないかと」
要するにお伺いをたてろという事なのだろうか。
「ふはははは、まあよい、どうしても折り合いが付かなければ、そのときは戦だ。わはははは」。
信長は笑ったが、楽観できる状況ではない。当面は協力関係を築こうと考えた。離れているゆえ直接は影響ないであろう、そう考えたのだ。畿内の三好勢力は駆逐したとはいえ、南近江と伊賀には六角氏が健在である。
浅井朝倉もいて安泰とは言えない。ここで味方は一人でも多いほうがいい。
「純久よ。わしがもし、純正と攻守の盟を結びたいと申したら、どうじゃ」。
「賛成なされると思います。離れていますゆえ、兵をもってご助力するのは厳しいですが、それ以外であれば問題ないかと」。
「早いの、そのように返事をしてもよいのか」
「幼き頃より見知っておりますれば。それに、畿内の静謐は洛中、ひいては朝廷並びに殿のお義父君の安全にもつながり申す」
純正は確かに、戦よりも内政のほうが好きなようだ。
「そうだ」
信長は唐突に言葉を発した。
「先日使いを出しておった交換遊学の件だがな」。
純久もすぐに返答した。
「はい、殿の許可は得ております。いつでも受け入れできる様にございます」。
軍事機密や技術研究の詳細は知ることはできぬであろうが、われらに必要なものは情報である。それらを集め分析して、今後の小佐々に対する方針を決めなければならない。今回の三好の件でもそうだ。
小佐々が大使館に命じて伝馬の整備を行っていなければ、このように早く対処はできなかったであろう。京への侵入を許し、御所や内裏に被害が出ていたかも知れぬ。
「よし、では五名ほどを考えているからよろしく頼む」
「かしこまりました」
二人は笑顔で会談を進める。もともと問題点などないのだから、当然である。その後、本圀寺より新たな御所を造営するために資材や、段取りなどを話し合った。
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