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島津の野望に立ち向かう:小佐々の南方戦略-対島津戦略と台湾領有へ-
国家事業規模の取り組みが必要!壮大なサンチャゴ要塞建設プロジェクト
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永禄十一年 十一月五日 小佐々城
小佐々家中は台湾での駐屯地造営に向けて動き始めた。陸軍は台湾部隊とフィリピン部隊、合計一個旅団の編成だ。台湾進駐は編成と種子島、そして琉球の協力が得れ次第開始する。それと同時進行でフィリピンにいく。
これは先行した外交団が現地住民の代表や交易集団と話し合い、協力しあう相互防衛通商協定を結ばなければならない。
イスパニア(以降会話では南蛮もしくはイスパニア、文中ではスペインと表記)が侵攻してくるまでにはまだ一年あるが、歴史が変わっているのだ。早まる可能性もある。純正はそれを危惧していた。
さらに、長期の航海における病気や怪我、その他様々なリスクを考えて排除していかなければならない。特にマラリアなどの風土病の対策は、喫緊の課題である。
そのため純正は、アルメイダ大学の薬学部教授、そして工部省の技術開発局、国土流通整備局など、関係がありそうな者を集め協議を開いた。
「まずは工部省、千右衛門よ、例えばこの小佐々城は、南と東に多比良川を堀の変わりにしておるが、川がなく、堀を掘ろうとすればどのくらいの月日がかかるだろうか。そうだな。深さが四間(7.28m)で、わかりやすく、後で広げるとして、ひとまず幅四間、この堀を周囲二十町くらいか、どうだ」
工部省の国土流通整備局の遠藤千右衛門に聞いた。石原岳堡塁の建設にも携わった土木の専門家だ。小佐々城の改修工事の関係者でもあるから、理解しやすいだろう。純正の父とは気が合うかもしれない。
千右衛門は算盤を出し、頭を捻りながら考え、やがて答えた。
「は、されば、東西五町(500m)南北七町(700m)ありまする。その倍の長さの二十四町の堀を、深さ四間(7.28m)幅四間で掘ったとして、一日、そうですね殿が言う四刻労働ですと、五十三人で一間進むのがやっとです。したがって、五十三人がかりで、約三年半かかります。二千人で一年かからず、十一ヶ月となります」
なるほど、そう考えると、小佐々サンチャゴ要塞(仮称)はどのくらいかかる?
メニイラ(以降マニラと表記)の町は北側に東西にパシッグ川が流れ、その南に川に沿って750メートル、奥行きが南に1500メートルある。そこに6,000人が住んでいるのだ。それを城壁で囲む。
兵が3,000人駐屯予定であるし、弾薬や兵糧、資材置き場も考えねばならない。そして何より、周囲の国や村から難を逃れてくる住民の事を考えると、その倍は必要だ。川は船着き場として使う。
川幅が一番狭いところに橋をかけるとして、海側は敵の上陸が考えられるので、こちらも城壁を築く。そうすると、合計で7,500メートルの城壁が必要となる。2,000人で2,400メートルで11ヶ月なら、約3倍で3年かかる。よって6,000人は必要だ。
これはもう壮大な国家事業だな、そう純正は思った。戦争、しなくても軍を派遣し大規模な土木工事、ここでいう城塞の建設だが、それだけで国家事業だ。
「殿、堀と申されましたが、堀切にございますか、水を入れ水堀とするのですか。海もあり、川もあれば、水堀の方がよいかと存じますが」
そう質問してきたのは、同じ工部省の秀政だ。幼名小平太で、元は純正の小姓である。
「うむ、最終的には水堀を考えているが、それは最後だ。堀がすべて出来上がってからでも遅くはない。それに堀の幅も広げるかも知れぬし、その際に水があれば邪魔になる。ゆえに一番最後に考える。水堀であれば防ぐ力も高まろうがな」。
そしてこれは、全周囲に砲を配置するとなると、どのくらい必要なのだろうか。
「では、土塁はどうされますか? 堀を掘ればその土で土塁が築けますが、頑丈さの点で、コンクリートや石塁も考えておられるのですか?」
「うむ。最初はコンクリートを考えておったが、あれは頑丈だが時間がかかるであろう? こたびは最低でも一年以内に完成させねばならぬ。それに高さ四間で堀と同じ四間の厚みのある土塁なら、そうそう崩れはせぬ」
なるほど、という顔で純正を見る。『なんだよ』『なんですか』という表情の応酬がある。小姓から離れてもう四年になる。
二人とも仕事が忙しく、なかなか顔を合わせる機会がない。ついつい昔を思い出して、笑いだしそうになるのをこらえているのだ。
「よし、では次に鉄砲や大砲、矢弾だが、当初は輸送にて配備を行うが、現地にて生産は可能か?」
それに答えたのは忠右衛門であったが、いたって簡潔であった。
「できまする。ただし硝石は領内と同じ様にとれません。あれは乾燥した土地でしか自然には発生しないようです。したがって、現地で造るには少なくとも一年ないし二年はかかります。殿が申される一年には間に合わないかと。それまでは輸送と輸入したもので賄うとして、製造ですが、これは職人を派遣して、現地の民を育成していくしかありませぬ。職人も、いつまでも住まわすわけにはいきませぬからな」
「なるほど、自給自足はすぐにはできないか。しかしそれは海軍にて輸送を行えば、封鎖さえされなければ、駐屯地の維持は十分に可能であろう」
よし、質問や問題点などはないか? と純正が全員に聞いた。無いようである。次の議題は病気に関する事である。
小佐々家中は台湾での駐屯地造営に向けて動き始めた。陸軍は台湾部隊とフィリピン部隊、合計一個旅団の編成だ。台湾進駐は編成と種子島、そして琉球の協力が得れ次第開始する。それと同時進行でフィリピンにいく。
これは先行した外交団が現地住民の代表や交易集団と話し合い、協力しあう相互防衛通商協定を結ばなければならない。
イスパニア(以降会話では南蛮もしくはイスパニア、文中ではスペインと表記)が侵攻してくるまでにはまだ一年あるが、歴史が変わっているのだ。早まる可能性もある。純正はそれを危惧していた。
さらに、長期の航海における病気や怪我、その他様々なリスクを考えて排除していかなければならない。特にマラリアなどの風土病の対策は、喫緊の課題である。
そのため純正は、アルメイダ大学の薬学部教授、そして工部省の技術開発局、国土流通整備局など、関係がありそうな者を集め協議を開いた。
「まずは工部省、千右衛門よ、例えばこの小佐々城は、南と東に多比良川を堀の変わりにしておるが、川がなく、堀を掘ろうとすればどのくらいの月日がかかるだろうか。そうだな。深さが四間(7.28m)で、わかりやすく、後で広げるとして、ひとまず幅四間、この堀を周囲二十町くらいか、どうだ」
工部省の国土流通整備局の遠藤千右衛門に聞いた。石原岳堡塁の建設にも携わった土木の専門家だ。小佐々城の改修工事の関係者でもあるから、理解しやすいだろう。純正の父とは気が合うかもしれない。
千右衛門は算盤を出し、頭を捻りながら考え、やがて答えた。
「は、されば、東西五町(500m)南北七町(700m)ありまする。その倍の長さの二十四町の堀を、深さ四間(7.28m)幅四間で掘ったとして、一日、そうですね殿が言う四刻労働ですと、五十三人で一間進むのがやっとです。したがって、五十三人がかりで、約三年半かかります。二千人で一年かからず、十一ヶ月となります」
なるほど、そう考えると、小佐々サンチャゴ要塞(仮称)はどのくらいかかる?
メニイラ(以降マニラと表記)の町は北側に東西にパシッグ川が流れ、その南に川に沿って750メートル、奥行きが南に1500メートルある。そこに6,000人が住んでいるのだ。それを城壁で囲む。
兵が3,000人駐屯予定であるし、弾薬や兵糧、資材置き場も考えねばならない。そして何より、周囲の国や村から難を逃れてくる住民の事を考えると、その倍は必要だ。川は船着き場として使う。
川幅が一番狭いところに橋をかけるとして、海側は敵の上陸が考えられるので、こちらも城壁を築く。そうすると、合計で7,500メートルの城壁が必要となる。2,000人で2,400メートルで11ヶ月なら、約3倍で3年かかる。よって6,000人は必要だ。
これはもう壮大な国家事業だな、そう純正は思った。戦争、しなくても軍を派遣し大規模な土木工事、ここでいう城塞の建設だが、それだけで国家事業だ。
「殿、堀と申されましたが、堀切にございますか、水を入れ水堀とするのですか。海もあり、川もあれば、水堀の方がよいかと存じますが」
そう質問してきたのは、同じ工部省の秀政だ。幼名小平太で、元は純正の小姓である。
「うむ、最終的には水堀を考えているが、それは最後だ。堀がすべて出来上がってからでも遅くはない。それに堀の幅も広げるかも知れぬし、その際に水があれば邪魔になる。ゆえに一番最後に考える。水堀であれば防ぐ力も高まろうがな」。
そしてこれは、全周囲に砲を配置するとなると、どのくらい必要なのだろうか。
「では、土塁はどうされますか? 堀を掘ればその土で土塁が築けますが、頑丈さの点で、コンクリートや石塁も考えておられるのですか?」
「うむ。最初はコンクリートを考えておったが、あれは頑丈だが時間がかかるであろう? こたびは最低でも一年以内に完成させねばならぬ。それに高さ四間で堀と同じ四間の厚みのある土塁なら、そうそう崩れはせぬ」
なるほど、という顔で純正を見る。『なんだよ』『なんですか』という表情の応酬がある。小姓から離れてもう四年になる。
二人とも仕事が忙しく、なかなか顔を合わせる機会がない。ついつい昔を思い出して、笑いだしそうになるのをこらえているのだ。
「よし、では次に鉄砲や大砲、矢弾だが、当初は輸送にて配備を行うが、現地にて生産は可能か?」
それに答えたのは忠右衛門であったが、いたって簡潔であった。
「できまする。ただし硝石は領内と同じ様にとれません。あれは乾燥した土地でしか自然には発生しないようです。したがって、現地で造るには少なくとも一年ないし二年はかかります。殿が申される一年には間に合わないかと。それまでは輸送と輸入したもので賄うとして、製造ですが、これは職人を派遣して、現地の民を育成していくしかありませぬ。職人も、いつまでも住まわすわけにはいきませぬからな」
「なるほど、自給自足はすぐにはできないか。しかしそれは海軍にて輸送を行えば、封鎖さえされなければ、駐屯地の維持は十分に可能であろう」
よし、質問や問題点などはないか? と純正が全員に聞いた。無いようである。次の議題は病気に関する事である。
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