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島津の野望に立ち向かう:小佐々の南方戦略-対島津戦略と台湾領有へ-
信長を震撼させた忍びの告白!宗覚という男の正体と使命
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永禄十一年 十一月一日 京都 妙覚寺
「殿、重休にございます」
昼食の後、横になっていた信長に声をかけるのは、忍びの岩村重休である。信長は目をつむり、寝たままで返事をする。
「何用じゃ」
「は、この重休、間違いなく殿のお役に立てると思い、人を連れてまいりました。出来ますれば、お目通り願いたく存じます」
信長は『有能』や『役に立つ』という言葉に敏感である。先進的な考えを持つとともに、保守的でもあった信長だが、合理主義者でもあった。それゆえ家柄や年功に関わらず、実績と能力があるものはどんどん登用していた。
「間違いないであろうな」
「はは」
そう答えた信長は謁見の間で重休を待たせ、略装で部屋を出るとそのまま向かった。横になっていたせいか、いくぶん頭がすっきりしている。
「初めて御意を得まする、渡辺宗覚と申します」
「うむ、くるしゅうない、面をあげよ」
精悍な顔立ちと体格の、四十前くらいの男である。しかし老いは感じさせない。
「重休、この男は何をした男で、何が出来るのだ」
信長は品定めをするように宗覚を見、そして重休に向かって感情を込めずに聞く。
「は、されば殿は三月に肥前で起きた爆発事故の事はご存知でしょうか」
「知らぬ。肥前と言えば、純正の領地ではないか。それがどうかしたのか、何かあったのか?」
信長にしてみれば遠く離れた肥前の地の爆発事故など、気にもとめないのかもしれない。そういう話があったとしても、直接織田家に関わりのある事ではないから、誰も情報としてあげてこない。
「はい、その爆発を起こした一味がこの宗覚にございます」
何? と信長の表情が変わる。遠いとは言え親交のある大名を害する者である。
「詳しく話せ」
と少し語気を強めて信長は重休に言う。
「はい、当時小佐々は大友と敵対しており、この宗覚は大友側の人間でした。密かに小佐々の内部に潜り込み、大砲や鉄砲その他の開発や製造に携わっておりました。そして宗麟の命により、一味を手引し爆破事件を引き起こしたのです。造船所や船着き場、鉄砲鍛冶小屋や大砲鍛冶小屋も被害を受け、船に積んである大砲も壊されました。その後は何食わぬ顔で小佐々領内を脱出し、大友領内におりましたが、この九月に大友が負け、和平を結びました。大友としては事件の黒幕が暴かれるとまずいので、宗覚を消しにかかったのでございます。そこで逃走を図り逃げておるところを、われらに助力する事を条件にそれがしが助け、こちらまで連れてきた次第にございます」
話し始めた重休を見ながら、表情を変えずに聞いていた信長であったが、一区切りつくと重休に聞いた。
「待て、重休よ。さきほどから言っている『たいほう』とは何だ? 砲というくらいだから、鉄砲と似ているのか」
「はい、巨大な鉄砲とお考え下さい。長さが十尺(3m)、弾の重さが八百匁(3kg)あります。そしておおよそ五町飛びます。船にも載せる事が出来、合戦でも城攻めでも大いに役に立ちまする。小佐々が今まで大きな戦で負けていないのも、鉄砲とこの大砲によるものです」
何!? 思わず信長は身を乗り出した。
「そして小佐々は、鉄砲は少なくとも三千挺は持っておりまする。また、大砲は『大筒』や『国崩し』とも呼ばれ、これも一門や二門ではありませぬ」
信長は扇子を右手に持って左手を叩いて音を立てている。
「他には?」
扇子を叩く音が大きくなったり小さくなったりする。
「は、船も特殊で大きゅうございます。ゆうに千石は積めるほどの大きさにて、大砲を積み兵を積み、兵糧や様々なものを運んでは大砲を撃ち、戦に使うておりまする」
ひときわ大きく扇子を叩き、そして大きく息を吸って、言った。
「要するにあれか? 見た事もない数の鉄砲を揃え、大筒、であったか? 巨大な鉄砲を持ち、千石はあろうかという船を何隻も持っていると?」
はい、と重休は答えた。信長はため息をついた。しかし眼光は鋭い。何かを考えているようだ。
「相わかった。他にもあるのであろう? 端的に申せ」
「はい、まるで肥前は異国の、いえ、日の本ではないようにございます。百里の道を一日で文が行き交い、民は決められた時刻に鳴る鐘と、街中に備えられた時計を見て時刻を知りまする」
信長の顔からは、重休が話し出すと険しさが消えていく。そしてまるで、子供が新しいおもちゃを手に入れた時の様な顔になる。
「そして乗り合い馬車なるものがあり、三里の距離を半刻ほどで移動し、例えば小佐々の城下多比良より、造船所のある長崎までは十一里半ほどですが、二刻ほどで到着します。料金は十一文ほど」。
もっと話せ、と言う顔をしている。
「あわせて、これは城下だけにござるが、二十間ごとにかがり火台が設けられ、夜でも安全に行動でき、野盗の類が減っております。また、酒や飯を供する店もあり、かなり繁盛しておりまして、濁り酒、澄酒、ぶどう酒などが一般に供されております」
くっくっくと信長は笑い始めた。
「くっくっくっくっく! あーはっはっはっは! これはこれは、まるで理解が追いつかんが、何やらとてつもない国だというのはわかった。前々から、あの岐阜城に進物を持ってきた時から、実はそう感じておったのだ」
重休は黙って信長の顔を見ている。
「よし、ここで聞くより、見て聞いて実際に感じた方がよかろう。互いに遊学の徒(≒交換留学生)を遣わして、小佐々の全てを見尽くしてやろうぞ。あははははは! 誰かある! 相国寺の門前町にある小佐々の大使館へ使いをだせ!」
期待感に胸を膨らませているのがわかる。
「して重休よ、この者は、何が出来るのだ」
信長はついでの様に、思い出したかの様に聞いた。
「はっ」
重休は懐から二枚の紙を取り出し、信長に差し出した。途端に顔色が変わる。そしてじわじわと驚きの表情から、悪巧みを考えているような顔に変わる。
「大筒、の絵図面と、南蛮船の絵図面にございます」
重休が短く答えると、信長はあごをさすりながら、二つの絵図面を見比べる。
「ふむ、ではこの宗覚が、大筒を作るのか?」
重休が返事をする。
「その方、宗覚と申したな。まこと、この絵図面の通り大筒を作るのだな」
「はは、それがしそのまま真似をして、宗麟に献上いたしましゆえ、間違いございませぬ。ただ、いくぶん強度に難がございますので、改良が必要にございます」
「うむ、あいわかった。銭はいくらかかっても構わぬ。まずは一つ作れ。使えるようなら増産せよ」。
信長はまだ船の絵図面を見ている。何やら考えているようだが、意を決して、
「よし! 船も造る! 全く同じではなくても、何百里も何千里も離れた海の彼方からやってきたのだ、すごい仕掛けに決まっている。領内の船大工を全て集めてこれをみせ、和船と何が違うのか、出来るか出来ないか知恵を絞らせよ」
信長は小姓にその旨を知らせ、小姓はすぐさま謁見の間を出ていった。信長の対小佐々交換留学生、大砲と南蛮船建造計画が始まったのだ。
「殿、重休にございます」
昼食の後、横になっていた信長に声をかけるのは、忍びの岩村重休である。信長は目をつむり、寝たままで返事をする。
「何用じゃ」
「は、この重休、間違いなく殿のお役に立てると思い、人を連れてまいりました。出来ますれば、お目通り願いたく存じます」
信長は『有能』や『役に立つ』という言葉に敏感である。先進的な考えを持つとともに、保守的でもあった信長だが、合理主義者でもあった。それゆえ家柄や年功に関わらず、実績と能力があるものはどんどん登用していた。
「間違いないであろうな」
「はは」
そう答えた信長は謁見の間で重休を待たせ、略装で部屋を出るとそのまま向かった。横になっていたせいか、いくぶん頭がすっきりしている。
「初めて御意を得まする、渡辺宗覚と申します」
「うむ、くるしゅうない、面をあげよ」
精悍な顔立ちと体格の、四十前くらいの男である。しかし老いは感じさせない。
「重休、この男は何をした男で、何が出来るのだ」
信長は品定めをするように宗覚を見、そして重休に向かって感情を込めずに聞く。
「は、されば殿は三月に肥前で起きた爆発事故の事はご存知でしょうか」
「知らぬ。肥前と言えば、純正の領地ではないか。それがどうかしたのか、何かあったのか?」
信長にしてみれば遠く離れた肥前の地の爆発事故など、気にもとめないのかもしれない。そういう話があったとしても、直接織田家に関わりのある事ではないから、誰も情報としてあげてこない。
「はい、その爆発を起こした一味がこの宗覚にございます」
何? と信長の表情が変わる。遠いとは言え親交のある大名を害する者である。
「詳しく話せ」
と少し語気を強めて信長は重休に言う。
「はい、当時小佐々は大友と敵対しており、この宗覚は大友側の人間でした。密かに小佐々の内部に潜り込み、大砲や鉄砲その他の開発や製造に携わっておりました。そして宗麟の命により、一味を手引し爆破事件を引き起こしたのです。造船所や船着き場、鉄砲鍛冶小屋や大砲鍛冶小屋も被害を受け、船に積んである大砲も壊されました。その後は何食わぬ顔で小佐々領内を脱出し、大友領内におりましたが、この九月に大友が負け、和平を結びました。大友としては事件の黒幕が暴かれるとまずいので、宗覚を消しにかかったのでございます。そこで逃走を図り逃げておるところを、われらに助力する事を条件にそれがしが助け、こちらまで連れてきた次第にございます」
話し始めた重休を見ながら、表情を変えずに聞いていた信長であったが、一区切りつくと重休に聞いた。
「待て、重休よ。さきほどから言っている『たいほう』とは何だ? 砲というくらいだから、鉄砲と似ているのか」
「はい、巨大な鉄砲とお考え下さい。長さが十尺(3m)、弾の重さが八百匁(3kg)あります。そしておおよそ五町飛びます。船にも載せる事が出来、合戦でも城攻めでも大いに役に立ちまする。小佐々が今まで大きな戦で負けていないのも、鉄砲とこの大砲によるものです」
何!? 思わず信長は身を乗り出した。
「そして小佐々は、鉄砲は少なくとも三千挺は持っておりまする。また、大砲は『大筒』や『国崩し』とも呼ばれ、これも一門や二門ではありませぬ」
信長は扇子を右手に持って左手を叩いて音を立てている。
「他には?」
扇子を叩く音が大きくなったり小さくなったりする。
「は、船も特殊で大きゅうございます。ゆうに千石は積めるほどの大きさにて、大砲を積み兵を積み、兵糧や様々なものを運んでは大砲を撃ち、戦に使うておりまする」
ひときわ大きく扇子を叩き、そして大きく息を吸って、言った。
「要するにあれか? 見た事もない数の鉄砲を揃え、大筒、であったか? 巨大な鉄砲を持ち、千石はあろうかという船を何隻も持っていると?」
はい、と重休は答えた。信長はため息をついた。しかし眼光は鋭い。何かを考えているようだ。
「相わかった。他にもあるのであろう? 端的に申せ」
「はい、まるで肥前は異国の、いえ、日の本ではないようにございます。百里の道を一日で文が行き交い、民は決められた時刻に鳴る鐘と、街中に備えられた時計を見て時刻を知りまする」
信長の顔からは、重休が話し出すと険しさが消えていく。そしてまるで、子供が新しいおもちゃを手に入れた時の様な顔になる。
「そして乗り合い馬車なるものがあり、三里の距離を半刻ほどで移動し、例えば小佐々の城下多比良より、造船所のある長崎までは十一里半ほどですが、二刻ほどで到着します。料金は十一文ほど」。
もっと話せ、と言う顔をしている。
「あわせて、これは城下だけにござるが、二十間ごとにかがり火台が設けられ、夜でも安全に行動でき、野盗の類が減っております。また、酒や飯を供する店もあり、かなり繁盛しておりまして、濁り酒、澄酒、ぶどう酒などが一般に供されております」
くっくっくと信長は笑い始めた。
「くっくっくっくっく! あーはっはっはっは! これはこれは、まるで理解が追いつかんが、何やらとてつもない国だというのはわかった。前々から、あの岐阜城に進物を持ってきた時から、実はそう感じておったのだ」
重休は黙って信長の顔を見ている。
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期待感に胸を膨らませているのがわかる。
「して重休よ、この者は、何が出来るのだ」
信長はついでの様に、思い出したかの様に聞いた。
「はっ」
重休は懐から二枚の紙を取り出し、信長に差し出した。途端に顔色が変わる。そしてじわじわと驚きの表情から、悪巧みを考えているような顔に変わる。
「大筒、の絵図面と、南蛮船の絵図面にございます」
重休が短く答えると、信長はあごをさすりながら、二つの絵図面を見比べる。
「ふむ、ではこの宗覚が、大筒を作るのか?」
重休が返事をする。
「その方、宗覚と申したな。まこと、この絵図面の通り大筒を作るのだな」
「はは、それがしそのまま真似をして、宗麟に献上いたしましゆえ、間違いございませぬ。ただ、いくぶん強度に難がございますので、改良が必要にございます」
「うむ、あいわかった。銭はいくらかかっても構わぬ。まずは一つ作れ。使えるようなら増産せよ」。
信長はまだ船の絵図面を見ている。何やら考えているようだが、意を決して、
「よし! 船も造る! 全く同じではなくても、何百里も何千里も離れた海の彼方からやってきたのだ、すごい仕掛けに決まっている。領内の船大工を全て集めてこれをみせ、和船と何が違うのか、出来るか出来ないか知恵を絞らせよ」
信長は小姓にその旨を知らせ、小姓はすぐさま謁見の間を出ていった。信長の対小佐々交換留学生、大砲と南蛮船建造計画が始まったのだ。
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