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島津の野望に立ち向かう:小佐々の南方戦略-対島津戦略と台湾領有へ-

海軍力強化の必要性と艦隊編成案

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 永禄十一年 十月二十五日 小佐々城

「よし、次は海軍だ。台湾成敗に海軍力の増強は必須である。島津に対しても陸からだけではなく、海上から攻撃できたら優位に立てるはずだ。勝行、考えがあれば申すが良い」

 純正が言うと、はは、と元気よく勝行が話始める。

「まずは艦隊の新設、編成ですが、以前の会議で出ました通り、一個艦隊八隻体制にて五個艦隊を提案します。無論軍艦は造るにも、持ち続けるにも銭がかかります。それを踏まえてお話いたす」。

 はちゃめちゃな印象の勝行だが、海軍の話になると大真面目で丁寧に話す。

「台湾の征伐に関しては入植、もとい陸軍の駐屯地を設営する計画ですので、海戦を想定した海軍力は必要ないと考えます。したがって、既存の艦艇を用いて陸軍兵を輸送しますが、琉球の協力が不可欠です。この時期は南東ないし南風ゆえ逆風となり進みづらい。それゆえ琉球の奄美から島伝いに首里まで行き、そこから宮古、石垣、与那国と進んで台湾へ向かいます。帰りは追い風になるので速度はありますが、それでも距離があるので琉球を通ります。通常の航海であれば一月や二月陸にあがらずとも問題ありませんが、今回は陸軍兵を満載し、しかも洋船ではなく和船も使います。水と食料を十分に積めないので、寄港地を増やさねばなりませぬ。また、練習艦隊であれば問題ないでしょうが、他の艦隊はその航路は未経験です。琉球の水先案内を付けた方が、より安全に陸軍兵を渡航させられます」

 軍艦建造の費用はともかく、台湾成敗の計画については具体的である。皆がガヤガヤと相談を始める中、純正が口を開いた。

「外務省、明との文書交換が終わって書面で確認がとれたら、琉球は問題なく協力してくると思うか?」
「は、それに関しましては急ぎ文書を作成しておるところでございます。明の公式声明が発表されれば、琉球としても昨年来われらと通商を結んでおるゆえ、事情を説明し、琉球には害のない事、かかる費用は当然小佐々が持つ事を伝えれば、問題ないかと存じます」

 そう答えるのは、外務省異国渉外局の松浦源三郎鎮信である。傍らにはその弟の九郎親もいた。二人は五年前の葛野峠の戦いにおける佐世保湾海戦で捕らえられ、自害させられた平戸松浦二十五代で最後の当主、松浦隆信の長男と三男である。

 武雄の後藤惟明(次男)とは兄弟であるが、以降疎遠となっていた。当初は純正に対し怨念と復讐に燃えていた二人であったが、三年前の龍造寺との塩田津の湊戦役で勝利した後の小佐々の急成長ぶりを間近で見ていたのだ。

 そして、当初幽閉に近い形だった物が、監視付きで沢森領内は移動できるようになり、それから小佐々領全域で自由に行き来できるようになったのだ。すでに監視もない。もう鎮信一人がどうあがいても、小佐々を倒す事など出来ない状況なのだ。

 それは彼ら二人にもわかっていた。確かにその後も戦はあった。しかし民が蹂躙される事もなく、みんな平和で豊かに暮らしている。それは次第に心のモヤを取り払っていき、小佐々への協力、民を幸せにしていこうと言う思いへ変えさせたのだった。

 二年前から外務省で働き、中国語や朝鮮語、そして南蛮の言葉も学んでいる。鎮信が中国・朝鮮・琉球担当で弟の親が南蛮(東南アジア・ポルトガル)担当だ。

「安経よ、南蛮から持ち帰った物は、帰りに琉球に渡してきたのだな」
「はい、半数は持ち帰りましたが、半数は渡しております」
「うむ、であれば琉球の心証も良いであろう」

 何を持ち帰ったのかと言うと、胡椒・クローブ・シナモン・ナツメグ・ジンジャー・ターメリック・コリアンダー・カルダモン・クミン・カイエンヌペッパー・フェンネル・セロリシードなどの香辛料の種、苗木である。

 胡椒、シナモン、ジンジャー、ターメリック、コリアンダー、フェンネル、クローブは奈良から平安時代にかけて、中国経由で伝わってはいたが希少であった。

 カルダモン・クミン・カイエンヌペッパー・セロリシード・ナツメグは、まだ日本に伝来していない。これを琉球と小佐々領内で栽培、加工して販売しようと言うのだ。その香辛料を使った料理なども販売できる。

 琉球にしてみれば、昨年の通商協定の際に琉球産のウコンや加工品、織物などを優先的に大量に輸入する事で、逼迫していた国庫を潤す事が出来る上、新しい産物を作り加える事で財政を立て直させられる。

 このうち領内で栽培できる物の輸入は減るだろうが、琉球の気候でしか育たない種類も多い。台湾を成敗したらそこで栽培が可能だが、移動コストを考えるとどちらが得なのかわからない。ともあれ現状では、なんとかの皮算用だ。

「よし、では農商務省はその栽培を実験的に行え。山や平地、海沿いや川沿いなど、環境を変えてどこが一番最適なのかを探すのだ」

 はは、と農商務省の大臣ほか官僚が返事をする。

「勝行、これで台湾への航海計画は問題ないか?」
「いえ、やはり大量の兵を輸送するので、もう一箇所、経由地が必要です」
「どこだ?」
「種子島です」

 種子島!? と一同がざわめき、純正の顔も険しくなる。

 それもそのはず、種子島と屋久島、その南西のトカラ列島を領する※種子島氏は、代々※島津氏に従っていたのだ。

 正室が※島津忠良(日新斎、島津現当主義久の祖父)の娘であり、十三年前の弘治元年(1555年)には※島津貴久に従い大隅攻めに参加している。その種子島氏の協力を得るなど、どう考えても無理がある。主君である島津の判断を仰ぐだろう。

「どういう事だ? 種子島と取引する算段でもあるのか? 俺には難しいように思えるが、どうなのだ」

「はい、それは情報相の千方どのからお聞き下さい」
「千方、どうなのだ」
「は、されば確かに当主の種子島時尭は、島津忠良の娘を正室としておりました。しかし、秘密裏に敵対する大隅の禰寝氏からも側室を迎え、さらには男子が生まれた事をひた隠しにしておりました。それが発覚したのでございます」。

 なんと! 驚きの声があがる。なぜそのような敵を作る様な行為をしたのか。正室にし殿との間には、女子ばかりで男子がなかった。それで禰寝氏から側室を娶ったらしいのだが、島津にしてみれば敵対行為以外のなに物でもない。

 妻のにし殿は激怒し、二人の娘を連れて鹿児島へ戻っている。夫妻は離婚し、以降関係は険悪化していると言うのだ。

「そこで通商と、あわせて必要であれば攻守の盟を結ぶのです。今の段階では島津も四方に敵を抱えておりますれば、種子島のみに力を割くわけには行きますまい。種子島との盟は、島津の力の分散にもなりますし、われらの南方進出の足がかりとなりまする。種子島にしても、われらと結ぶ事で島津を牽制できます」

「相わかった。各々方、異議や質問などはないか」
「なければ外務省は人選を行い、種子島と交渉にあたるが良い」
「はは」
 外務省の面々が返事をする。

「勝行、続きを」
「は」
 短く返事をし、勝行が続ける。

「艦隊新設、編成は先に述べた通りです。銭がない、と言われればそれまでですが、旗艦級を一隻と準旗艦級を二隻、汎用艦を五隻の八隻として一個艦隊の五個艦隊、計四十隻となります。国庫に負担はかけまするが、五年ないし八年計画にて建造すれば、赤字になる事なく建造が出来まする。海軍だけでなく、他にも様々な算用が必要にはなっているとは十分承知しています。ただ、小佐々は海軍国家であります。無論、陸軍の働きもあるとの上で申し上げます。兵員の輸送に敵拠点の攻撃、そして今後は間違いなく敵も海軍力を増強してまいります。それを考えれば、今から準備しておくとこが肝要かと存じます」

 勝行は熱弁をふるった。間違いなく各省で一番銭がかかっているのが海軍なのである。大蔵省も渋い顔をせざるを得ないが、勝行が言う事はもっともであった。海軍の存在なくして小佐々の勝利もまた、なかったのである。

「相わかった。皆、これに関しては色々考える事があるかと思うが、銭に関しては次回の算用の会議で話し合うとしよう。勝行、他にはあるか」

「はい、細かな事になりますが、現在長崎に海軍の船着き場と造船所を設置しております。しかしながら領民より、商船の寄港に弊害があるとの申し出があり、確かに手狭ではありますので、長崎は造船のみの湊にしとうございます。そして佐世保湊を海軍の軍港とし、西海鎮守府を設立、同様に佐伯湊にも鎮守府を設置して陽南(山陽道、南海道)鎮守府といたします。第一と第二艦隊を佐世保、第三艦隊を佐伯に置きます。五個艦隊が完成しましたら、三個艦隊を佐世保、二個艦隊を佐伯に置きまする」。

 これに関しては誰も異論はなかった。海軍内部の話であるから影響がないのだ。内務省の官僚が現地に行って、領民に話をして理解を求めるくらいだろう。

「他にないか」
 純正は皆を見回し確認する。
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