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九州三強と中央への目-肥前王 源朝臣小佐々弾正大弼純正-

断じて許容できません!策略と領地の話

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 九月十四日 酉三つ時(1800) 筑前 許斐山城 小佐々純正

「次に領地だが、大友は領地の整合性というものを言ってきている」

 整合性? そんな声がそこかしこから聞こえる。

「要するに、飛び地だと統治がしづらい、ゆえに日田郡と玖珠郡を返してくれと」
「馬鹿な事を。その二軍は我が陸軍、第三軍が調略と実力で勝ち取ったものではありませんか。陸軍としては、断じて許容できません」
 
 次郎兵衛が反論する。当然の反応だろう。俺もそう思う。日田郡は金が出るしな。しかし大友の言い分もわかる。わかる、というのは理解できる、という意味だ。国東郡の国人の殆どが離反し、豊前の宇佐郡も同様。

 かろうじて南部の何ヶ村は大友領だが、速見郡から豊後へ抜ける主街道の先は小佐々に服属した国人の佐田氏、副氏、安心院氏、櫛野氏らの領地だ。

 となれば、少なくとも玖珠郡を取り戻して、古後村、森村、大田村から豊前へ通ずる街道を押さえようと考えている。しかし全部塞いでしまっては、かえって流通を妨げ大友の発展? ひいては小佐々の発展に繋がらない。

 一番いいのは、小佐々の脅威にならない程度にしっかり発展する事。小佐々のために頑張ってもらえる領国になって欲しいのだよ。

「そこで俺は前回提示した。で、あれば何本も道は必要ないであろう、日出生城から抜ける街道を広く整備すればよい、とな。妥協点として陸軍、そこは折れてくれまいか、日出生城周辺の何ヶ村かを返還するという事で」

「殿がそうおっしゃるのであれば、小佐々のためならば」
 納得したようだ。

「みなさん、よろしいでしょうか」
 今度は千方だ。珍しい。

「湊の帆別銭や領地の事に頭が言っているようですが、金や銀の事を忘れてはなりません。日田郡からは豊富な金、銀、銅が産出します」

「また、香春岳城周辺は銅も産出しますが、セメントやガラスの材料になるもの、彼杵や唐津七ツ釜で採掘している、殿が言われる『せっかい』が大量に出ます。豊前と豊後は鉱山資源の宝庫なのです。これを逃す手はありません」。

「各地で何がどのくらい産出するのかは、詳細は調べないとわかりません。しかし、あとになって、あそこを割譲させるべきだった、という事にならないように、大友領内すべてにおいて、採掘の許しを得る事を提案します」

 さらっと怖い事言う千方。

 そうだ、俺は以前、豊後の鉱山資源の事を思い出して、だから同盟を結びたいと申し出たのだ。もちろん理由はそれだけではない。それに体よく断られたがな。しかし今回は違う。そうか、採掘権か、考えた事もなかったな。さすが千方だ。

「なるほど、千方の言もっともなり。異論のある者はいるか?」
 異論がないようなので、採掘権獲得の方向でいく。

「では、今までのところをまとめると、領地は、奪われた企救郡と遠賀郡は返してもらう。そして玖珠郡の一部日出生城周辺の数ヶ村、詳細は後日決めるとして返還。あわせて大友領内の鉱山の採掘権の獲得に、府内の帆別銭免除ならびに軍艦出入港の許可、これで間違いないか」

 全員がうなずく。ああ、代わりと言っては何だが、大友領から小佐々領に入る時の関銭は免除しよう。本来、小佐々領内に入る関銭は廃止しているのだが、大友領だけは例外だった。それをこの機に撤廃しよう。大友にも利はあるはずだ。

「それから、問題は人だ。捕虜となった兵は開放するとして、将をどうするかだ。本来なら我が陣営の将として取り立て、相応の身分を与えるのだが、和平となれば別だ。間違いなく返還を要求してくるだろう。どうすべきか?」

「まずは、本人たちの意向を聞いてみてはどうでしょうか」
「聞いたところでどうなる? 抵抗して、衆寡敵せずしぶしぶ降伏した連中だ。いくら有能だとは言え、大友に帰参すると言うに決まっている。言わないならいいが、この短期間で考えが変わるとも思えん」

 上泉喜兵衛延利の意見に、佐志方杢兵衛が反論する。確かにその通りではある。では、どうするか? 吉弘親子に三原紹心は忠義者だからな。宗麟への忠節は揺るぎないものがあるだろう。いっその事、宗麟が服属してくれれば、家臣の家臣は俺の家臣。

「みな聞いてくれ、大友がもし、対等な条件で、対等な立場で和平を結ぼうと考えているのであれば、無理な話だ。どう考えても我らが上であるし、戦わねばならぬ。戦えば、犠牲は出るだろうが必ず勝てる」

「しかし、名目はどうあれ、服属に近い立場でも和平を結ぼうと考えているのであれば、一考の余地はある。家臣の家臣は、陪臣ではあるが俺の家臣だ。つまり小佐々の将という事だ」。

 これで、亡くなった立花家を道雪がついで立花道雪、高橋家を鎮理がついで高橋紹運となれば御の字だ。筑前で十万石以上になるが、反乱を起こすほど馬鹿ではあるまい。大友にとって実益はないにしても、小佐々家中で影響力を増せる。

 服属、という形であれば、結局何でもいいのだ。
「みな、他にはないか? なければ終わりとする」
 確認するように全員の顔を見回したが、ないようだ。細部はおいおい詰めていくとして、交渉の大筋は見えてきたので楽になった。あとは利三郎に丸投げするか。いや、俺がいるなら同席はせねばなるまい。憂鬱だ。

 こうして和平交渉の事前協議は終わった。
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