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九州三強と中央への目-肥前王 源朝臣小佐々弾正大弼純正-
和平、風雲急を告げる
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九月十日 巳の三つ刻(0900) 肥後 内牧城 第五軍 神代貴茂准将
殿からの和平交渉開始の知らせを受け、豊後侵攻を一時的に取りやめて野営地から戻ったのは昨日九日であった。戦がなくなり、みな安心していた。
「申し上げます! 朝日嶽城の柴田左京進様、火急の要件にてお目通りを願っております!」
「申し上げます! 同じく栂牟礼城の佐伯惟信殿、お目通りを願っております!」
何だって!? 二人も?
「どういう事だ! 急ぎであろうから二人とも通せ」
「はは」
幸か不幸か、少し離れた栂牟礼城で先に事件が発生したのだろう。
「初めて御意を得まする、それがしは柴田左京進統勝、朝日嶽城城主柴田紹安の子にございます。こたびは火急の報せを持って参りました。我が父、柴田紹安は弾正大弼様に恭順を決めておりました。しかしその決定は、我が叔父、父の弟柴田礼能をそそのかした家臣らに反対され、謀反を起こすに至りました。敵は酒利館を占拠し、さらには周辺の砦を攻め立てて、我が朝日嶽城を包囲しようと城門に迫っております。我が父紹安は寛大な心で和解を試みましたが失敗に終わり、内部から崩壊の危機に瀕しております。我が一族と領民の命を守るため、そしてこの無秩序を終わらせるため、皆様の力をお借りしたく、助けを請うために飲まず食わずで急ぎ参上いたしました。どうか我々の危機を救うための力を、貸していただきますようお願い申し上げます」
早口で喋ったのは朝日嶽城城主、柴田紹安の息子、柴田左京進統勝である。ついで、
「お初にお目にかかります。それがしは佐伯惟忠、佐伯惟教の孫にございます。遥々三十五里、栂牟礼城より参りました。火急の報せにてご無礼ご容赦くださいませ。我が父、佐伯惟真は、城主である我が祖父、佐伯惟教が弾正大弼様に従うという決定を不服としている家臣どもにそそのかされ反逆の心を抱きました。この事態、速やかに対応いただきますよう、伏してお願い申し上げます」
と話すのは栂牟礼城城主、佐伯惟教の孫の佐伯惟忠である。
「詳しく申せ」
「はは、父は佞臣共と組み兵を集めて、城に進んで今や城門に迫っております。栂牟礼城は要害とは言えこたびは城の兵糧とぼしく、後数日続けば開城もやむなし。どうか、どうか、お願いいたします」
似たような内容なので二人目は内容を端折ったのか、それとも核心だけを率直に述べたのか。しかし二人とも、状況は違えど急を要するのは確かなようだ。これは判断を仰ぐまでもない。我が領内で起きた揉め事なのだ。
われらが対応するのは自明の理。誰にも文句は言わせぬ。
「相わかった! 二人とも水を飲み休息されるがよい。すぐに陣触れを出す」。
『ハツ ゴシ アテ ソウシ ゼンシ ヒメ ワレラ コレヨリ オカ アサヒダケ トガムレ ヲ ケイユシ ウスキヘ ムカウ ヒメ ヒトマル ミノサン(1000)』
と通信を送った。しかし、南山城は敵方であるため、攻撃はしてこないであろうが、念のため避けた方がよい。それよりも南下して高森城へ向かい、そこから入田神原城、そして朝日嶽へ向かってから栂牟礼城の方が安全だ。
しかもあれでは何のために向かうのかわからん。臼杵へ向かう、では攻撃ととられてしまう。向かう、ではなく臼杵をうかがう、に変更しよう。下手すれば勝手に軍を動かしたとして軍規違反に問われかねぬ。
急いでいたとは言え、確認しなかったわたしの過ちであった。その責を問われれば甘んじて受けねばならぬな。しかし事は急を要す。
『ハツ ゴシ アテ ソウシ ゼンシ ヒメ テヰセヰ トガムレ アサヒダケ リヨウナヰニテ ムホン アリ ワレラ コレヨリ ヲヲモリ ジンバラ ヲ ケヰユシ アサヒダケ トガムレ ニムカヰ ウスキヲ ウカガウ ヒメ ヒトマル ミノヨン(1030)』
■九月十日 申一つ刻(1500) 津屋崎 第一艦隊 艦上 小佐々純正
「では、どのようにして毛利と戦はせぬと約束できるのでしょうか」
俺は聞いた。当たり前だ。口約束など役に立たん。
「それは、それがしの言を信用していただくしかござりませぬ」。
長増は真剣に、真面目な顔をしている。情に流されそうになるが、そうはいかん。俺は沢森武ではなく、戦国大名小佐々弾正大弼純正なのだから。
「信じたいのはやまやまですが、はいわかりましたとも言えませぬ。長増殿はこたびの交渉の全権を委任されて、いや、後で必ず宗麟公を説得するという、いわば賭けをされています。そして俺はそれを信じて交渉している。その上毛利とも戦をせぬなど、今断言できぬのではありませぬか?」
長増は黙っている。それはそうだろう。俺が言っている事が正論だ。
「さらに毛利は、尼子の征伐のため西に力は割けぬ、と援軍は出しませんでした。しかし和議は結んでおりますまい? 今、門司や小倉、松山城を大友が占拠している状態で、毛利も苦しいとはいえ大友も苦しい。毛利と敵対して海を渡る力はないでしょう。それは毛利もわかっているはず。はたして和議に応じましょうか」。
和議や停戦の約など、一年後や半年後に破られるのはザラだ。もちろんそうならないように誓詞を交わしたり、起請文を交わしたりする。ただ、絶対ではないのだ。誓詞や起請文は両者の真剣さの度合いによる。
お互いがいつ破られるかわからない。農繁期だしひとまず停戦、という時などはいい加減だ。両者もそれをわかっている。毛利との停戦、いや停戦ではダメだ。戦が止まっているだけなのだから。和平交渉で両家が国交正常化しなければ意味がない。
沈黙が流れる。それを破ったのは一通の通信文だった。
『ハツ ゴシ アテ ソウシ ゼンシ ヒメ ワレラ コレヨリ オカ アサヒダケ トガムレ ヲ ケイユシ ウスキヘ ムカウ ヒメ ヒトマル ミノサン(1000)』
何だって? どういう事だ。長増はけげんそうな顔をしている。俺は通信文を渡して読むように伝えた。今ここで長増が知ったところで、どうにも出来ない状況だ。
「これは一体どういう事で」
「どうもなにも、俺は全軍に攻撃停止と領内に戻るように伝えている。全軍それを了解し、そのように動くとの返信も受けておる。にもかかわらず、俺の意に反して行動するとは、何かが起こったに相違ない。まさか宗麟公に何か動きがあったのでは」。
「あり得ませぬ! 弾正大弼殿に対しては行っておりませぬが、朝廷や幕府をはじめ、あらゆる手立てで和平の道を探っておりました。そのような状況で軍を動かすなど、我が主君はそこまで暗愚ではござりませぬぞ!」
しかし、四半刻後(30分後)に届いた二通目の通信文で状況は一変した。
『ハツ ゴシ アテ ソウシ ゼンシ ヒメ テヰセヰ トガムレ アサヒダケ リヨウナヰニテ ムホン アリ ワレラ コレヨリ ヲヲモリ ジンバラ ヲ ケヰユシ アサヒダケ トガムレ ニムカヰ ウスキヲ ウカガウ ヒメ ヒトマル ミノヨン(1030)』
やはり。神代殿が軍規を破って行動するなどありえないからな。何か理由があって緊急を要する事だから、軍団長権限で行動を起こしたのだろう。俺はその通信文も、隠す事なく長増に見せた。
長増は必死に表情を隠そうとしたが、人間そこまで完璧に隠せるわけではない。仮に隠せたとして、心中穏やかではないはずだ。長増の場合後者だったのだろう。俺は彼の表情や仕草からそれを見破る事は出来なかった。
さすがとしか言いようがない。しかし、これで交渉はやりやすくなった。この叛乱を宗麟が手引したものなのかどうか、反乱軍は宗麟に援軍を求めたかどうか、そして実際に援軍を出したかどうか、だ。
どうですか? と俺は聞いてみたが、明らかに最初の通信文の時に比べて返事が弱い。そそのかしていなくても、援軍を出したのならば同じ事だ。
「長増殿。いずれにしてもこの交渉、事態がはっきりするまで、いったん止めた方がいいでしょう。それから臼杵に一度お戻りなされ。条件はともかく、われらと和平交渉している事すら宗麟公が知らぬでは、不測の事態が起きるやもしれません」
かたじけない! と頭を下げ、出ていこうとする長増に伝えた。
「豊後の日出生城までは我々の伝馬をお使いください。通信にて馬を用意するよう伝えます。一人つけますゆえ、信号所や宿の者に問われる事はございませぬ。間違いはございますまい。また、文を一通お願いいたします。これから第五軍には、謀反は鎮圧しても大友の援軍が来た場合、攻撃されない限りはこちらからは攻めるなと伝えます。しかし相手がいる事ゆえ、長増殿の書面が必要です」。
わかり申した、と言うが早いか紙と筆を借り、書き始めた。書き終えると長増はまた一礼した。
「誰かある! 急ぎ街道沿いの信号所へ通信し伝馬を用意させよ。最短で日出生城へ伝馬で向かえるようにするのだ」。
俺は長増に一人つけて送り出した後、第五軍に通信文を書いた。その後俺の書面に長増の書面を添えて使者を第五軍に向かわせた。通信は間に合うだろうが、使者が間に合うだろうか。それだけが心配である。
『ハツ ソウシ アテ ゴシ ヒメ セウサヒシラセ ムホン シズメタリトモ オオトモノ エングン キタリナバ セメラルルニ アラザレバ セムルナ ヒメ ヒトマル サルサン(1600)』
■遡って九月十日 1000 臼杵城 大友宗麟
「何? 朝日嶽城の柴田礼能と栂牟礼城の佐伯惟真から援軍要請だと?」
ふむ。これはいい交渉材料になるかもしれぬ。まだ長増から和平交渉が始まるという知らせは届いておらぬ。難航しておるようだが、ここで栂牟礼城と朝日嶽城を取り戻し、海部郡全域を手中に収めておいても悪くない。
また、二つの城が落ちたとなれば、他の国人衆や大野郡、直入郡の国人衆も再び寝返るかもしれぬ。形勢を覆すまたとない機会ではないか。
これは天恵ぞ! 天啓ぞ! 小佐々の軍勢もなぜか由布院から動かぬし、それ以外の別働隊も豊後に入ってくる気配がない。これは何か起きたのか? いや、本来なら詳細に調べて事を起こすべきだが、助けを求めている者を放ってはおけぬ。
「相わかった! すぐに援軍を寄越すゆえ安心せよと申し伝えよ!」
殿からの和平交渉開始の知らせを受け、豊後侵攻を一時的に取りやめて野営地から戻ったのは昨日九日であった。戦がなくなり、みな安心していた。
「申し上げます! 朝日嶽城の柴田左京進様、火急の要件にてお目通りを願っております!」
「申し上げます! 同じく栂牟礼城の佐伯惟信殿、お目通りを願っております!」
何だって!? 二人も?
「どういう事だ! 急ぎであろうから二人とも通せ」
「はは」
幸か不幸か、少し離れた栂牟礼城で先に事件が発生したのだろう。
「初めて御意を得まする、それがしは柴田左京進統勝、朝日嶽城城主柴田紹安の子にございます。こたびは火急の報せを持って参りました。我が父、柴田紹安は弾正大弼様に恭順を決めておりました。しかしその決定は、我が叔父、父の弟柴田礼能をそそのかした家臣らに反対され、謀反を起こすに至りました。敵は酒利館を占拠し、さらには周辺の砦を攻め立てて、我が朝日嶽城を包囲しようと城門に迫っております。我が父紹安は寛大な心で和解を試みましたが失敗に終わり、内部から崩壊の危機に瀕しております。我が一族と領民の命を守るため、そしてこの無秩序を終わらせるため、皆様の力をお借りしたく、助けを請うために飲まず食わずで急ぎ参上いたしました。どうか我々の危機を救うための力を、貸していただきますようお願い申し上げます」
早口で喋ったのは朝日嶽城城主、柴田紹安の息子、柴田左京進統勝である。ついで、
「お初にお目にかかります。それがしは佐伯惟忠、佐伯惟教の孫にございます。遥々三十五里、栂牟礼城より参りました。火急の報せにてご無礼ご容赦くださいませ。我が父、佐伯惟真は、城主である我が祖父、佐伯惟教が弾正大弼様に従うという決定を不服としている家臣どもにそそのかされ反逆の心を抱きました。この事態、速やかに対応いただきますよう、伏してお願い申し上げます」
と話すのは栂牟礼城城主、佐伯惟教の孫の佐伯惟忠である。
「詳しく申せ」
「はは、父は佞臣共と組み兵を集めて、城に進んで今や城門に迫っております。栂牟礼城は要害とは言えこたびは城の兵糧とぼしく、後数日続けば開城もやむなし。どうか、どうか、お願いいたします」
似たような内容なので二人目は内容を端折ったのか、それとも核心だけを率直に述べたのか。しかし二人とも、状況は違えど急を要するのは確かなようだ。これは判断を仰ぐまでもない。我が領内で起きた揉め事なのだ。
われらが対応するのは自明の理。誰にも文句は言わせぬ。
「相わかった! 二人とも水を飲み休息されるがよい。すぐに陣触れを出す」。
『ハツ ゴシ アテ ソウシ ゼンシ ヒメ ワレラ コレヨリ オカ アサヒダケ トガムレ ヲ ケイユシ ウスキヘ ムカウ ヒメ ヒトマル ミノサン(1000)』
と通信を送った。しかし、南山城は敵方であるため、攻撃はしてこないであろうが、念のため避けた方がよい。それよりも南下して高森城へ向かい、そこから入田神原城、そして朝日嶽へ向かってから栂牟礼城の方が安全だ。
しかもあれでは何のために向かうのかわからん。臼杵へ向かう、では攻撃ととられてしまう。向かう、ではなく臼杵をうかがう、に変更しよう。下手すれば勝手に軍を動かしたとして軍規違反に問われかねぬ。
急いでいたとは言え、確認しなかったわたしの過ちであった。その責を問われれば甘んじて受けねばならぬな。しかし事は急を要す。
『ハツ ゴシ アテ ソウシ ゼンシ ヒメ テヰセヰ トガムレ アサヒダケ リヨウナヰニテ ムホン アリ ワレラ コレヨリ ヲヲモリ ジンバラ ヲ ケヰユシ アサヒダケ トガムレ ニムカヰ ウスキヲ ウカガウ ヒメ ヒトマル ミノヨン(1030)』
■九月十日 申一つ刻(1500) 津屋崎 第一艦隊 艦上 小佐々純正
「では、どのようにして毛利と戦はせぬと約束できるのでしょうか」
俺は聞いた。当たり前だ。口約束など役に立たん。
「それは、それがしの言を信用していただくしかござりませぬ」。
長増は真剣に、真面目な顔をしている。情に流されそうになるが、そうはいかん。俺は沢森武ではなく、戦国大名小佐々弾正大弼純正なのだから。
「信じたいのはやまやまですが、はいわかりましたとも言えませぬ。長増殿はこたびの交渉の全権を委任されて、いや、後で必ず宗麟公を説得するという、いわば賭けをされています。そして俺はそれを信じて交渉している。その上毛利とも戦をせぬなど、今断言できぬのではありませぬか?」
長増は黙っている。それはそうだろう。俺が言っている事が正論だ。
「さらに毛利は、尼子の征伐のため西に力は割けぬ、と援軍は出しませんでした。しかし和議は結んでおりますまい? 今、門司や小倉、松山城を大友が占拠している状態で、毛利も苦しいとはいえ大友も苦しい。毛利と敵対して海を渡る力はないでしょう。それは毛利もわかっているはず。はたして和議に応じましょうか」。
和議や停戦の約など、一年後や半年後に破られるのはザラだ。もちろんそうならないように誓詞を交わしたり、起請文を交わしたりする。ただ、絶対ではないのだ。誓詞や起請文は両者の真剣さの度合いによる。
お互いがいつ破られるかわからない。農繁期だしひとまず停戦、という時などはいい加減だ。両者もそれをわかっている。毛利との停戦、いや停戦ではダメだ。戦が止まっているだけなのだから。和平交渉で両家が国交正常化しなければ意味がない。
沈黙が流れる。それを破ったのは一通の通信文だった。
『ハツ ゴシ アテ ソウシ ゼンシ ヒメ ワレラ コレヨリ オカ アサヒダケ トガムレ ヲ ケイユシ ウスキヘ ムカウ ヒメ ヒトマル ミノサン(1000)』
何だって? どういう事だ。長増はけげんそうな顔をしている。俺は通信文を渡して読むように伝えた。今ここで長増が知ったところで、どうにも出来ない状況だ。
「これは一体どういう事で」
「どうもなにも、俺は全軍に攻撃停止と領内に戻るように伝えている。全軍それを了解し、そのように動くとの返信も受けておる。にもかかわらず、俺の意に反して行動するとは、何かが起こったに相違ない。まさか宗麟公に何か動きがあったのでは」。
「あり得ませぬ! 弾正大弼殿に対しては行っておりませぬが、朝廷や幕府をはじめ、あらゆる手立てで和平の道を探っておりました。そのような状況で軍を動かすなど、我が主君はそこまで暗愚ではござりませぬぞ!」
しかし、四半刻後(30分後)に届いた二通目の通信文で状況は一変した。
『ハツ ゴシ アテ ソウシ ゼンシ ヒメ テヰセヰ トガムレ アサヒダケ リヨウナヰニテ ムホン アリ ワレラ コレヨリ ヲヲモリ ジンバラ ヲ ケヰユシ アサヒダケ トガムレ ニムカヰ ウスキヲ ウカガウ ヒメ ヒトマル ミノヨン(1030)』
やはり。神代殿が軍規を破って行動するなどありえないからな。何か理由があって緊急を要する事だから、軍団長権限で行動を起こしたのだろう。俺はその通信文も、隠す事なく長増に見せた。
長増は必死に表情を隠そうとしたが、人間そこまで完璧に隠せるわけではない。仮に隠せたとして、心中穏やかではないはずだ。長増の場合後者だったのだろう。俺は彼の表情や仕草からそれを見破る事は出来なかった。
さすがとしか言いようがない。しかし、これで交渉はやりやすくなった。この叛乱を宗麟が手引したものなのかどうか、反乱軍は宗麟に援軍を求めたかどうか、そして実際に援軍を出したかどうか、だ。
どうですか? と俺は聞いてみたが、明らかに最初の通信文の時に比べて返事が弱い。そそのかしていなくても、援軍を出したのならば同じ事だ。
「長増殿。いずれにしてもこの交渉、事態がはっきりするまで、いったん止めた方がいいでしょう。それから臼杵に一度お戻りなされ。条件はともかく、われらと和平交渉している事すら宗麟公が知らぬでは、不測の事態が起きるやもしれません」
かたじけない! と頭を下げ、出ていこうとする長増に伝えた。
「豊後の日出生城までは我々の伝馬をお使いください。通信にて馬を用意するよう伝えます。一人つけますゆえ、信号所や宿の者に問われる事はございませぬ。間違いはございますまい。また、文を一通お願いいたします。これから第五軍には、謀反は鎮圧しても大友の援軍が来た場合、攻撃されない限りはこちらからは攻めるなと伝えます。しかし相手がいる事ゆえ、長増殿の書面が必要です」。
わかり申した、と言うが早いか紙と筆を借り、書き始めた。書き終えると長増はまた一礼した。
「誰かある! 急ぎ街道沿いの信号所へ通信し伝馬を用意させよ。最短で日出生城へ伝馬で向かえるようにするのだ」。
俺は長増に一人つけて送り出した後、第五軍に通信文を書いた。その後俺の書面に長増の書面を添えて使者を第五軍に向かわせた。通信は間に合うだろうが、使者が間に合うだろうか。それだけが心配である。
『ハツ ソウシ アテ ゴシ ヒメ セウサヒシラセ ムホン シズメタリトモ オオトモノ エングン キタリナバ セメラルルニ アラザレバ セムルナ ヒメ ヒトマル サルサン(1600)』
■遡って九月十日 1000 臼杵城 大友宗麟
「何? 朝日嶽城の柴田礼能と栂牟礼城の佐伯惟真から援軍要請だと?」
ふむ。これはいい交渉材料になるかもしれぬ。まだ長増から和平交渉が始まるという知らせは届いておらぬ。難航しておるようだが、ここで栂牟礼城と朝日嶽城を取り戻し、海部郡全域を手中に収めておいても悪くない。
また、二つの城が落ちたとなれば、他の国人衆や大野郡、直入郡の国人衆も再び寝返るかもしれぬ。形勢を覆すまたとない機会ではないか。
これは天恵ぞ! 天啓ぞ! 小佐々の軍勢もなぜか由布院から動かぬし、それ以外の別働隊も豊後に入ってくる気配がない。これは何か起きたのか? いや、本来なら詳細に調べて事を起こすべきだが、助けを求めている者を放ってはおけぬ。
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