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九州三強と中央への目-肥前王 源朝臣小佐々弾正大弼純正-
対大友第一回和平交渉
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九月九日 午三つ時(1200) 小佐々純正
大友の重臣※吉岡長増との第一回和平交渉が始まった。
「長増殿、かしこまった挨拶は抜きにして、本題に入りましょう。そちらの要望はなんですか」。
ストレートにぶっこんだ。長増殿は少し面食らったようだが、すぐに元通りになった。こういう俺の言い分も想定に入っていたのだろか。ああ、しまった。弥三郎つれてくるんだった。面倒なのは任せるに限る。
「ははは、随分と刀筆に遠慮のない事ですな。我らは和平を申し出た身なれば、弾正大弼殿こそ、先に我らに対するご要望をおっしゃってください。我らはそれにて検討いたします」。
長増も役者だ。そう簡単には手の内を見せないか。
「そうですね、筑前の山鹿城、あれを返してください。なにぶん加勢に行くのが遅くなりましたからね。早く返してあげたいのです」。
長増殿はうなずいて、それで次は? という顔をしている。
「それだけで結構です。後は何もいりません」。
「それは、信じられませぬ。要望がそれだけとは」。
狐につままれた様な顔をしている。
「筑後は我が領地であるし、豊前の香春郡に築城郡、そして豊後の日田郡に玖珠郡、それから府内に国東郡。そして南豊後は大野郡に海部郡の南半分と直入郡の一部。ああ、それから北肥後も我が領地でした、失礼。であるからして、他に何もいりません」
長増殿は開いた口が塞がらない。それはそうだろう。
「どうされましたか? もしや松山、門司、小倉、山鹿を返すので、日田郡と玖珠郡を返してくれ、とでも言うつもりだったのですか。仮にそうだとしても、なぜ我が領地を割譲しなくてはならないのですか?」
長増は言葉を失ったが、やがて平常心を取り戻し、俺に向かって言ってきた。
「その言葉、重々理解しました。しかし、我々の立場からすれば、日田郡と玖珠郡は、飛び地となる我々の領地を一つにまとめるために必要な土地です。我々は弾正大弼殿の領地を侵す意思は毛頭ありません。ただ、最適な領地経営をするための整合性を保つため、日田郡を玖珠郡が必要なのです」
確かに、大友の立場からすれば飛び飛びになった領地など、治めにくくて仕方がないだろう。筑後の三郡の統治など、周りを俺の領地に囲まれているから、宗麟の意向など届くはずもない。直轄地であるにも関わらず半独立領主のようなものだった。
使者や物資の行き来にしても関所を通るたびに厳格な検査を設けていたからな。そのせいもあってか、小佐々と大友は戦こそしていなかったが、筑前筑後の国人衆の帰属問題も含めて、険悪に近い雰囲気だった。
もっとも、すでに俺にとってはどうでも良い事だった。元就が死んで、いずれは大友が動くと踏んでいたからな。どうやって対応するか、常々考えていたのだ。なるほど、しかし領地経営の整合性ね。よし、そこを少し突っついてみるか。
「左衛門大夫殿、領地の整合性とはなんですか?」
一見、何の変哲もない様な質問である。長増は至極一般的な回答をした。
「領地の整合性とは、領地が途切れる事なく連らなっている事です。飛び地になると、本拠地から地理的に隔離されてしまします。そのため統治や防衛、交通といった面で不便さや問題が生じます」
特に何の問題もない回答だ。しかし俺は難癖をつけてみた。
「防衛? どこからの防衛ですか? まさか和平の会談の場で、自国の防衛の話をなさるとは。平和のために結ぶのではなく、次にいつ戦が起きてもいいように、なるべく敵から守りやすいように、という意味ですかな」
長増は一瞬嫌な顔をした。俺はそれを見逃さなかったが、あえて指摘はしなかった。
「小佐々家と戦をするなどと、とんでもありません。あくまで領内の繁栄のためです。それに我らは小佐々家以外にも、土持や四国の宇都宮、西園寺等と領地を接しています」
「いまはいずれも問題はありませんが、いつなんどき状況が変わるかわかりませぬ。特にこたび、豊前の企救郡を我らがそのまま領するとなれば、毛利とのいざこざも出てまいりましょう。そうなれば領国一体となった統治が必要なのです」。
「現実的な話をしたまでで、敵意など毛頭ありません」
やはりそう来るか。まあ確かにそれは当然だ。小佐々以外にも敵はいる。では、
「しかし困りましたな。毛利と戦になる? 弱りましたな。それでは豊前も返していただけなければ、毛利と戦になっては困ります。我らは毛利と盟を結んでおるゆえ、加勢しなくてはなりません」
「いくら毛利が援軍を出さなかったとは言え、元は毛利の領地。誰かが糸を引いた尼子の反乱も、いずれ収まるでしょう。そうなれば間違いなく奪還に動きますぞ。それでは平和を望む大友殿の本意でないでしょうし、やはり返してもらいましょう」
「十年も争っておいて、もう戦はしませんは通りませぬな。それに直接我らが戦をせずとも、筑前と豊前で戦になれば、周辺の民を安んじる事はできませぬ」
長増はしまった! という顔をした。いや、この瞬間最高だね。あれ、俺って変?
「それにあくまで小佐々ではなく他の脅威に備えるためと、領内の発展のためでござるか。それであれば何本も道は必要ござらんな。日出生城から豊前に入る道を整備していただくとして、我らはそれ以西を統治する。それでいかがか?」
「少しお待ちを」
長増は汗を拭いながら、答える。
「では、弾正大弼殿のお考えをまとめると、当初は豊前の領地はいらないが、山鹿城を返してもらう。日田郡と玖珠郡をそのままもらう。我らの要求を受け、日出生城の周辺の割譲は見送る。ただ、毛利と戦のおそれがあるため、やはり豊前は返してほしいと。そして筑前からの大友の完全撤退」。
これでよろしいか? と長増が言う。俺がそうですね、と答えると、
「では、条件を少し練り直しとうございますので、先触れを出した後にまた伺うという事でよろしいでしょうか」
かまいませんよ、と俺は言い、第一回の和平交渉は終わった。
大友の重臣※吉岡長増との第一回和平交渉が始まった。
「長増殿、かしこまった挨拶は抜きにして、本題に入りましょう。そちらの要望はなんですか」。
ストレートにぶっこんだ。長増殿は少し面食らったようだが、すぐに元通りになった。こういう俺の言い分も想定に入っていたのだろか。ああ、しまった。弥三郎つれてくるんだった。面倒なのは任せるに限る。
「ははは、随分と刀筆に遠慮のない事ですな。我らは和平を申し出た身なれば、弾正大弼殿こそ、先に我らに対するご要望をおっしゃってください。我らはそれにて検討いたします」。
長増も役者だ。そう簡単には手の内を見せないか。
「そうですね、筑前の山鹿城、あれを返してください。なにぶん加勢に行くのが遅くなりましたからね。早く返してあげたいのです」。
長増殿はうなずいて、それで次は? という顔をしている。
「それだけで結構です。後は何もいりません」。
「それは、信じられませぬ。要望がそれだけとは」。
狐につままれた様な顔をしている。
「筑後は我が領地であるし、豊前の香春郡に築城郡、そして豊後の日田郡に玖珠郡、それから府内に国東郡。そして南豊後は大野郡に海部郡の南半分と直入郡の一部。ああ、それから北肥後も我が領地でした、失礼。であるからして、他に何もいりません」
長増殿は開いた口が塞がらない。それはそうだろう。
「どうされましたか? もしや松山、門司、小倉、山鹿を返すので、日田郡と玖珠郡を返してくれ、とでも言うつもりだったのですか。仮にそうだとしても、なぜ我が領地を割譲しなくてはならないのですか?」
長増は言葉を失ったが、やがて平常心を取り戻し、俺に向かって言ってきた。
「その言葉、重々理解しました。しかし、我々の立場からすれば、日田郡と玖珠郡は、飛び地となる我々の領地を一つにまとめるために必要な土地です。我々は弾正大弼殿の領地を侵す意思は毛頭ありません。ただ、最適な領地経営をするための整合性を保つため、日田郡を玖珠郡が必要なのです」
確かに、大友の立場からすれば飛び飛びになった領地など、治めにくくて仕方がないだろう。筑後の三郡の統治など、周りを俺の領地に囲まれているから、宗麟の意向など届くはずもない。直轄地であるにも関わらず半独立領主のようなものだった。
使者や物資の行き来にしても関所を通るたびに厳格な検査を設けていたからな。そのせいもあってか、小佐々と大友は戦こそしていなかったが、筑前筑後の国人衆の帰属問題も含めて、険悪に近い雰囲気だった。
もっとも、すでに俺にとってはどうでも良い事だった。元就が死んで、いずれは大友が動くと踏んでいたからな。どうやって対応するか、常々考えていたのだ。なるほど、しかし領地経営の整合性ね。よし、そこを少し突っついてみるか。
「左衛門大夫殿、領地の整合性とはなんですか?」
一見、何の変哲もない様な質問である。長増は至極一般的な回答をした。
「領地の整合性とは、領地が途切れる事なく連らなっている事です。飛び地になると、本拠地から地理的に隔離されてしまします。そのため統治や防衛、交通といった面で不便さや問題が生じます」
特に何の問題もない回答だ。しかし俺は難癖をつけてみた。
「防衛? どこからの防衛ですか? まさか和平の会談の場で、自国の防衛の話をなさるとは。平和のために結ぶのではなく、次にいつ戦が起きてもいいように、なるべく敵から守りやすいように、という意味ですかな」
長増は一瞬嫌な顔をした。俺はそれを見逃さなかったが、あえて指摘はしなかった。
「小佐々家と戦をするなどと、とんでもありません。あくまで領内の繁栄のためです。それに我らは小佐々家以外にも、土持や四国の宇都宮、西園寺等と領地を接しています」
「いまはいずれも問題はありませんが、いつなんどき状況が変わるかわかりませぬ。特にこたび、豊前の企救郡を我らがそのまま領するとなれば、毛利とのいざこざも出てまいりましょう。そうなれば領国一体となった統治が必要なのです」。
「現実的な話をしたまでで、敵意など毛頭ありません」
やはりそう来るか。まあ確かにそれは当然だ。小佐々以外にも敵はいる。では、
「しかし困りましたな。毛利と戦になる? 弱りましたな。それでは豊前も返していただけなければ、毛利と戦になっては困ります。我らは毛利と盟を結んでおるゆえ、加勢しなくてはなりません」
「いくら毛利が援軍を出さなかったとは言え、元は毛利の領地。誰かが糸を引いた尼子の反乱も、いずれ収まるでしょう。そうなれば間違いなく奪還に動きますぞ。それでは平和を望む大友殿の本意でないでしょうし、やはり返してもらいましょう」
「十年も争っておいて、もう戦はしませんは通りませぬな。それに直接我らが戦をせずとも、筑前と豊前で戦になれば、周辺の民を安んじる事はできませぬ」
長増はしまった! という顔をした。いや、この瞬間最高だね。あれ、俺って変?
「それにあくまで小佐々ではなく他の脅威に備えるためと、領内の発展のためでござるか。それであれば何本も道は必要ござらんな。日出生城から豊前に入る道を整備していただくとして、我らはそれ以西を統治する。それでいかがか?」
「少しお待ちを」
長増は汗を拭いながら、答える。
「では、弾正大弼殿のお考えをまとめると、当初は豊前の領地はいらないが、山鹿城を返してもらう。日田郡と玖珠郡をそのままもらう。我らの要求を受け、日出生城の周辺の割譲は見送る。ただ、毛利と戦のおそれがあるため、やはり豊前は返してほしいと。そして筑前からの大友の完全撤退」。
これでよろしいか? と長増が言う。俺がそうですね、と答えると、
「では、条件を少し練り直しとうございますので、先触れを出した後にまた伺うという事でよろしいでしょうか」
かまいませんよ、と俺は言い、第一回の和平交渉は終わった。
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