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九州三強と中央への目-肥前王 源朝臣小佐々弾正大弼純正-
逆風と不屈の意志
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九月六日 卯の三つ刻(0600) 肥前 七つ釜港
昨日はふがいない成果に忸怩たる思いだ。北の風、逆風でしかも二ノットから三ノット。ほぼ無風の時も多かった。くそう、おとといの予測の半分以下だ。殿が乗艦する七ツ釜までくるのがやっとだった。
しかも日の入り間近の酉の四つ刻(1830)である。殿を乗せて一刻も早く平戸へいき、壱岐の郷ノ浦へ向かって宗殿と合流するのが、われら第一艦隊の役目なのだ。思った様に風が吹かず、予定の半分にも満たない途中の湊、肥前彼杵の七つ釜にて停泊せざるを得なかった。
第一艦隊司令、姉川惟安は考えている。
「何をそんなに暗い顔してんのさ!」
驚いて振り返ると、そこには海軍総司令の深沢義太夫様の姿があった。
これから出港して東の風三ノット。おそらくは一~二刻後にはまた一ノット前後まで下がるであろう。しかし、それまでに黒島あたりまでいけば、昼前には南西の風六ノットになるであろう。そうすれば夕刻までには平戸につく。
航程にすれば約二十五海里ほどだ。それでも、わかってはいても昨日の結果は残念だ。もっと何かできなかったであろうか。根っからの真面目性の惟安は、そう考えずにはいられないのだ。完璧主義者なのかもしれない。
「いいか、そもそも潮や風なんて、俺たちにはどうする事もできない事だろう?それを悔やんだとて何になる?われらが苦しんでいる事は、宗殿や宇久殿の海軍も同じだ。そんな事で殿はとがめたりはしない」。
勝行は続ける。
「それに、陸路で移動したらどうなる?夜は動けないのは同じだが、筑前の津屋崎まで、一週間から十日はかかる。第二艦隊も第三艦隊もいるのだ。みなができるだけ早く到着するよう最善を尽くせばいいだけだ」。
勝行は乗員に向かっても場を和ませる様な言葉をかけた。自分たちは潮や風の力に対して無力である事を指摘し、その事を悔やんでも何の意味もないと笑い飛ばす。
「そんな事より、殿は?」
「はい、マスト付近にいらっしゃると思いますが」。
惟安は見かけた情報をそのまま話す。
「わかった。じゃあそういう事だから!」
息子以上も年の離れた上官だが、不思議と腹はたたない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・■マスト付近
「よう!?なーにをそんな辛気くさい顔してんだよっ!」
(おい!声が大きい!聞かれたらどうすんだ!?)
勝行は周りを見回す。みんな出港の準備で忙しそうだ。誰も二人の事は目に入らない。敬礼はするもののすぐに持ち場に戻る。
「気をつけろよ。もう昔じゃないんだぞ」。
「まあ、そうだけどさ。あまりにも考え込んでいるからさあ。ついな」。
純正はごほんごほんと咳払いをし、勝行も照れくさそうに笑う。
「第一軍は救援に向かっているが、香春岳城戦の損害状況を考えると六千から七千だろう。今のところ兵力不足で、城を救うためとは言え、優勢な敵に立ち向かうだけでは勝利は望めまい」。
「ましてや相手はあの道雪だ。われわれの援軍が必要だ」。
と純正は言う。勝行も同様に頷きながら言葉を続けた。
「第一、第二、第三艦隊が結集し、戦力を集中させる事が重要だな。われらは六千。これでも敵の兵力には足らぬが、援軍は城兵の士気を高め、救援に向かった第一軍の戦況も変える事ができるだろう」。
純正は決意を込めて言葉を続ける。
「われわれの使命は豊前の城を奪還し、敵の侵攻を食い止める事だ。上陸させた兵六千と、城兵、そして第一軍が一体となり城を守る。その隙に海軍が、奪われた山鹿城、小倉城、門司城、松山城を奪還する。海陸同時作戦だ」。
「そうしているうちに第四軍も北上してこよう。そうなれば道雪・臼杵軍は孤立するはずだ。いかに香春岳城で踏ん張っても大局には影響しないだろう。われわれは連携し、一丸となって戦おうではないか」。
勝行もまた話す。自分自身に言い聞かせる様に。
「第四軍が援軍として到着するまでの間、わが海軍、第一、第二、第三艦隊は敵に対して決して退かぬ。それぞれが持てる力を存分に発揮し、敵を追い詰めるのだ」。
年は違えど幼馴染の二人はお互いに、あまりにも真面目な話をしているのに気づき照れくさかった。しかし事実である。事実であるからこそ、それをお互いに隠しながら大真面目に話を続けた。純正が感じた転生当時の違和感はもうなくなっていた。
その後、純正と勝行は出向前に乗組員たちに力強い演説をした。
「われわれは立ち向かう。岳山城を救い勝利を手にするまで、決して退かず、敵に立ち向かおうではないか!」と純正が声を強めた。
勝行も情熱的な言葉を続ける。
「みな聞けい!この逆風さえも乗り越え、敵を追い詰めるために戦おう!われわれ自身の力と勇気で前進するのだ!」
艦内には士気が高まり、乗員たちの顔に決意の表情が浮かび始める。彼らは純正と勝行の指揮の下、逆境を乗り越え、敵に立ち向かう覚悟を固めたのである。
「宗殿や宇久殿、そしてわれわれの兄弟たちが待っている。今、力を合わせて豊前の城を奪還し、敵の野望を打ち砕くのだ!!」
純正の声が響き渡る中、第一艦隊は決意を胸に出港準備を進めるのであった。逆風や予測外の状況に苛立ちながらも、純正と勝行は乗員たちに勇気と希望を与える言葉をかけ、戦いの意義と重要性を伝えたのである。
文字通り総力戦である。三年前の龍造寺との決戦以来であろうか。それを知らない新兵もいる。
『戦をしないために戦をする』。
現代人的な感覚だと矛盾しているのかもしれないが、世は戦国である。理想論は理想論として、身を守るすべは得てして敵を攻撃する事でしかなし得ないのかもしれない、そう純正は感じていた。
一刻後(一時間後)の辰一つ刻(0700)には、出港ラッパが鳴り響いた。
昨日はふがいない成果に忸怩たる思いだ。北の風、逆風でしかも二ノットから三ノット。ほぼ無風の時も多かった。くそう、おとといの予測の半分以下だ。殿が乗艦する七ツ釜までくるのがやっとだった。
しかも日の入り間近の酉の四つ刻(1830)である。殿を乗せて一刻も早く平戸へいき、壱岐の郷ノ浦へ向かって宗殿と合流するのが、われら第一艦隊の役目なのだ。思った様に風が吹かず、予定の半分にも満たない途中の湊、肥前彼杵の七つ釜にて停泊せざるを得なかった。
第一艦隊司令、姉川惟安は考えている。
「何をそんなに暗い顔してんのさ!」
驚いて振り返ると、そこには海軍総司令の深沢義太夫様の姿があった。
これから出港して東の風三ノット。おそらくは一~二刻後にはまた一ノット前後まで下がるであろう。しかし、それまでに黒島あたりまでいけば、昼前には南西の風六ノットになるであろう。そうすれば夕刻までには平戸につく。
航程にすれば約二十五海里ほどだ。それでも、わかってはいても昨日の結果は残念だ。もっと何かできなかったであろうか。根っからの真面目性の惟安は、そう考えずにはいられないのだ。完璧主義者なのかもしれない。
「いいか、そもそも潮や風なんて、俺たちにはどうする事もできない事だろう?それを悔やんだとて何になる?われらが苦しんでいる事は、宗殿や宇久殿の海軍も同じだ。そんな事で殿はとがめたりはしない」。
勝行は続ける。
「それに、陸路で移動したらどうなる?夜は動けないのは同じだが、筑前の津屋崎まで、一週間から十日はかかる。第二艦隊も第三艦隊もいるのだ。みなができるだけ早く到着するよう最善を尽くせばいいだけだ」。
勝行は乗員に向かっても場を和ませる様な言葉をかけた。自分たちは潮や風の力に対して無力である事を指摘し、その事を悔やんでも何の意味もないと笑い飛ばす。
「そんな事より、殿は?」
「はい、マスト付近にいらっしゃると思いますが」。
惟安は見かけた情報をそのまま話す。
「わかった。じゃあそういう事だから!」
息子以上も年の離れた上官だが、不思議と腹はたたない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・■マスト付近
「よう!?なーにをそんな辛気くさい顔してんだよっ!」
(おい!声が大きい!聞かれたらどうすんだ!?)
勝行は周りを見回す。みんな出港の準備で忙しそうだ。誰も二人の事は目に入らない。敬礼はするもののすぐに持ち場に戻る。
「気をつけろよ。もう昔じゃないんだぞ」。
「まあ、そうだけどさ。あまりにも考え込んでいるからさあ。ついな」。
純正はごほんごほんと咳払いをし、勝行も照れくさそうに笑う。
「第一軍は救援に向かっているが、香春岳城戦の損害状況を考えると六千から七千だろう。今のところ兵力不足で、城を救うためとは言え、優勢な敵に立ち向かうだけでは勝利は望めまい」。
「ましてや相手はあの道雪だ。われわれの援軍が必要だ」。
と純正は言う。勝行も同様に頷きながら言葉を続けた。
「第一、第二、第三艦隊が結集し、戦力を集中させる事が重要だな。われらは六千。これでも敵の兵力には足らぬが、援軍は城兵の士気を高め、救援に向かった第一軍の戦況も変える事ができるだろう」。
純正は決意を込めて言葉を続ける。
「われわれの使命は豊前の城を奪還し、敵の侵攻を食い止める事だ。上陸させた兵六千と、城兵、そして第一軍が一体となり城を守る。その隙に海軍が、奪われた山鹿城、小倉城、門司城、松山城を奪還する。海陸同時作戦だ」。
「そうしているうちに第四軍も北上してこよう。そうなれば道雪・臼杵軍は孤立するはずだ。いかに香春岳城で踏ん張っても大局には影響しないだろう。われわれは連携し、一丸となって戦おうではないか」。
勝行もまた話す。自分自身に言い聞かせる様に。
「第四軍が援軍として到着するまでの間、わが海軍、第一、第二、第三艦隊は敵に対して決して退かぬ。それぞれが持てる力を存分に発揮し、敵を追い詰めるのだ」。
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その後、純正と勝行は出向前に乗組員たちに力強い演説をした。
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勝行も情熱的な言葉を続ける。
「みな聞けい!この逆風さえも乗り越え、敵を追い詰めるために戦おう!われわれ自身の力と勇気で前進するのだ!」
艦内には士気が高まり、乗員たちの顔に決意の表情が浮かび始める。彼らは純正と勝行の指揮の下、逆境を乗り越え、敵に立ち向かう覚悟を固めたのである。
「宗殿や宇久殿、そしてわれわれの兄弟たちが待っている。今、力を合わせて豊前の城を奪還し、敵の野望を打ち砕くのだ!!」
純正の声が響き渡る中、第一艦隊は決意を胸に出港準備を進めるのであった。逆風や予測外の状況に苛立ちながらも、純正と勝行は乗員たちに勇気と希望を与える言葉をかけ、戦いの意義と重要性を伝えたのである。
文字通り総力戦である。三年前の龍造寺との決戦以来であろうか。それを知らない新兵もいる。
『戦をしないために戦をする』。
現代人的な感覚だと矛盾しているのかもしれないが、世は戦国である。理想論は理想論として、身を守るすべは得てして敵を攻撃する事でしかなし得ないのかもしれない、そう純正は感じていた。
一刻後(一時間後)の辰一つ刻(0700)には、出港ラッパが鳴り響いた。
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