240 / 775
九州三強と中央への目-肥前王 源朝臣小佐々弾正大弼純正-
長岩城の第四軍
しおりを挟む
九月五日 戌一つ刻(1900)
第四軍は豊前に侵攻した。大石峠を抜け長小野村(大分県中津市山国町)より豊前に入り、街道を山国川沿いに東進して小友田村(大分県中津市耶馬溪町小友田)で野営した。五日の戌一つ刻(1900)である。
長岩城下までは、小友田村から川沿いに北西の川上に登れば着く。しかし道幅も狭く大軍を移動させるのには適さないためだ。
先の下高橋城の戦闘で損壊した大砲五十一門のうち、十一門は修復できた。砲撃が可能だ。残りは残念ながら使い物にならなかったので、二個大隊と共に本国に返している。車輪が壊れ移動が困難な物は、道中人を雇い手伝いをさせた。
今回の事を踏まえ、木製ではなく壊れにくく燃えない金属製の砲架を開発しなければならないかもしれない。重く移動には人も馬も必要だが、敵の攻撃で使えなくなるのでは意味がない。
深作大佐はかなり落ち込んでいたが、起こった事は致し方ない。警戒を厳にし、再発せぬよう務めるだけだ。陸軍の残存兵力は一個砲兵大隊三百名(大砲二十門五個中隊)、三個歩兵連隊千五百名、一個騎兵大隊五百名合計二千三百名が陸軍兵となる。
■九月六日 卯の一つ刻(0500)
第四軍司令となった龍造寺純家は降伏の使者を送った。
第三軍が由布院山城を越え府内に迫っている事。第五軍が北肥後の国人衆と阿蘇を従えて豊後南山城から攻め入る事。そして香春岳城の戦況や、戸次道雪や臼杵鑑速が豊前三城を落として筑前に侵攻し、山鹿城を落とした事。
それに対して小佐々純正が援軍を送った事なども含めて、知りうる彼我の状況を文にしたためて送ったのだ。
豊前長岩城の城主は野仲鎮兼で、今から十二年前、弘治二年(1556年)に毛利元就が陶晴賢を倒して北九州に侵攻してきた際、呼応して大友と戦ったが敗れ、降伏して恭順していた。
交戦となれば耶馬渓に囲まれた要害。かなりの苦戦が予想されたのだが、あっさりと降伏受諾の返書が届いたのは、わずか二刻半後の巳の三つ刻(1000)であった。衆寡敵せず大友に下ったものの、やはり納得ができぬ事が多かったのだろう。
大体大友は国衆の扱いが横柄すぎる。命をかけて戦ったものを、本当に考えて労い、恩賞を与え、しかるべき役につけて用いているとは思えない。
そう純家は思いつつも、城主の野仲鎮兼に訪ねた。なぜ降ったのか、と。
その答えは、
「普通、自軍に有利な報せばかりを伝えるものじゃ。だが、今回は有利な報せも不利な報せも総て記されておった。信用に足ると見受けたのじゃ。そして以前より大友の仕来りには不満を抱いておった。本領を安堵し、しかるべく用いてくれるのなら、喜んで降伏いたす」。
というものであった。
純家の狙いが当たったのである。無論、この情報も全ての軍団と総司令部に送る。純家は小佐々領内諸法度にある国人衆の扱いについて説明し、選ばせた。そして次の城井谷城へ向かう。
『ハツ ヨンシ(四軍) アテ ソウシ、ゼンシ(総司令部、前線司令部) ヒメ ナガイワジヨウ カウフクス コレヨリ キイダニジヨウヘムカウ ヒメ マルロク(六日)ウマイチ(1100)』
ちなみに小佐々軍では、降伏して小佐々領となった土地で、工兵による信号所の設営が一里、二里間隔で(4~8km)行われている。街道の整備がされていないので本国ほどではないにしろ、馬、人も使い迅速な信号通信ができるようになっているのだ。
城井谷城へ着いたのは二日後の八日、巳の三つ刻(1000)である。
第四軍は豊前に侵攻した。大石峠を抜け長小野村(大分県中津市山国町)より豊前に入り、街道を山国川沿いに東進して小友田村(大分県中津市耶馬溪町小友田)で野営した。五日の戌一つ刻(1900)である。
長岩城下までは、小友田村から川沿いに北西の川上に登れば着く。しかし道幅も狭く大軍を移動させるのには適さないためだ。
先の下高橋城の戦闘で損壊した大砲五十一門のうち、十一門は修復できた。砲撃が可能だ。残りは残念ながら使い物にならなかったので、二個大隊と共に本国に返している。車輪が壊れ移動が困難な物は、道中人を雇い手伝いをさせた。
今回の事を踏まえ、木製ではなく壊れにくく燃えない金属製の砲架を開発しなければならないかもしれない。重く移動には人も馬も必要だが、敵の攻撃で使えなくなるのでは意味がない。
深作大佐はかなり落ち込んでいたが、起こった事は致し方ない。警戒を厳にし、再発せぬよう務めるだけだ。陸軍の残存兵力は一個砲兵大隊三百名(大砲二十門五個中隊)、三個歩兵連隊千五百名、一個騎兵大隊五百名合計二千三百名が陸軍兵となる。
■九月六日 卯の一つ刻(0500)
第四軍司令となった龍造寺純家は降伏の使者を送った。
第三軍が由布院山城を越え府内に迫っている事。第五軍が北肥後の国人衆と阿蘇を従えて豊後南山城から攻め入る事。そして香春岳城の戦況や、戸次道雪や臼杵鑑速が豊前三城を落として筑前に侵攻し、山鹿城を落とした事。
それに対して小佐々純正が援軍を送った事なども含めて、知りうる彼我の状況を文にしたためて送ったのだ。
豊前長岩城の城主は野仲鎮兼で、今から十二年前、弘治二年(1556年)に毛利元就が陶晴賢を倒して北九州に侵攻してきた際、呼応して大友と戦ったが敗れ、降伏して恭順していた。
交戦となれば耶馬渓に囲まれた要害。かなりの苦戦が予想されたのだが、あっさりと降伏受諾の返書が届いたのは、わずか二刻半後の巳の三つ刻(1000)であった。衆寡敵せず大友に下ったものの、やはり納得ができぬ事が多かったのだろう。
大体大友は国衆の扱いが横柄すぎる。命をかけて戦ったものを、本当に考えて労い、恩賞を与え、しかるべき役につけて用いているとは思えない。
そう純家は思いつつも、城主の野仲鎮兼に訪ねた。なぜ降ったのか、と。
その答えは、
「普通、自軍に有利な報せばかりを伝えるものじゃ。だが、今回は有利な報せも不利な報せも総て記されておった。信用に足ると見受けたのじゃ。そして以前より大友の仕来りには不満を抱いておった。本領を安堵し、しかるべく用いてくれるのなら、喜んで降伏いたす」。
というものであった。
純家の狙いが当たったのである。無論、この情報も全ての軍団と総司令部に送る。純家は小佐々領内諸法度にある国人衆の扱いについて説明し、選ばせた。そして次の城井谷城へ向かう。
『ハツ ヨンシ(四軍) アテ ソウシ、ゼンシ(総司令部、前線司令部) ヒメ ナガイワジヨウ カウフクス コレヨリ キイダニジヨウヘムカウ ヒメ マルロク(六日)ウマイチ(1100)』
ちなみに小佐々軍では、降伏して小佐々領となった土地で、工兵による信号所の設営が一里、二里間隔で(4~8km)行われている。街道の整備がされていないので本国ほどではないにしろ、馬、人も使い迅速な信号通信ができるようになっているのだ。
城井谷城へ着いたのは二日後の八日、巳の三つ刻(1000)である。
2
お気に入りに追加
155
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?
志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。
そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄?
え、なにをやってんの兄よ!?
…‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。
今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。
※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる