上 下
233 / 819
九州三強と中央への目-肥前王 源朝臣小佐々弾正大弼純正-

道雪の動き

しおりを挟む
九月四日 未四つ刻(1430) ※山鹿城下 ※戸次道雪

そうか。角牟礼城も日出生城も落ちたか。森殿と帆足どのであれば、あるいは半月は持ちこたえてくれると思っておったのだが。さぞ、無念であったであろう。しかし、城を枕に散ったとなれば、武門の誉れか。

・・・まて。伝令がここまで来る時間を考えたら、すでに敵は由布院山城あたりまで進んでいるのではないか?いや、進んでいると考えた方がいいだろう。そうなれば府内まで八里、目と鼻の先である。

さて、どうする?臼杵どのに確認してよくよく考えねばならぬ。

「臼杵どの、角牟礼城と日出生城が落ちたそうな」。
「落ちましたか。あの堅城が二つとも」。
さすがの臼杵殿も、声を荒らげる事はなかったが、驚きを隠せないようだ。

「さよう。と、なれば、伝令がここまで来る時間を考えれば、敵はすでに由布院山城近くまで迫っていると考えるが、いかに?」
「おそらく、そうでござろう。殿は臼杵城にいらっしゃるゆえご無事であろうが、府内を取られては、沖の浜の権益も失う。家中の動揺いかばかりか」。
臼杵殿は答える。

「そこでござる。敵はそのまま府内へ向かったであろうか?それとも由布院山城を落とすべく支度しているであろうか」。
わしが尋ねると、

「難しいところでござるが、敵将の蒲池はご存知の様に戦上手で用心深い男にござる。これまでも、小佐々の家風でござろうか。無用な戦を避けるべく降伏勧告を必ず行い、無理な戦はいたしておりません」。

ふむ、とわしはうなずいた。同意見だ。

「豊前と筑前は今のところわれらが優勢にござる。しかしそれ以外の、筑後と豊後は敵が優勢にございます。さすれば、兵は拙速を尊ぶとはいえ、無理に城攻めは行いますまい。まずはいったん兵を休め、情報収集にあたるのではないかと。肥後の情勢がわからぬのは敵も同じにござる」。

わしが感覚や匂い、ある種の勘で戦をするのとは対照的に、臼杵殿は実に敵を、そして大局を分析しておる。

「なるほど。では、今後どうなろうか?また、どの様にすれば、最悪の結果をもたらさずに、われらが有利に事が運ぼうか?」
わしは、熟考すべく、臼杵どのにさらに尋ねる。

「情報が足りませぬ。それゆで、あくまでも想定の域をでませぬが・・・」。
そう前置きをして続けた。

「まず第一に、これはわれらにとって最も良い状況にござるが、肥後の阿蘇と国人衆が、敵の足止めに成功している場合にござる。この情報を敵の大将蒲池鑑盛が知っていたとします。その場合府内に進むとすればゆるりと進み戦況の変化をみるでそう。または進まずに、由布院山城の城下付近にとどまるかもしれませぬ。戦線が延び過ぎれば補給の問題もありますし、間違えば城の城兵とわれら豊後の国衆に挟み撃ちされまする。知らない場合でも、まず知ろうとして時を待つでしょう」。

うむ。

「二つ目は、肥後にてわれらの御味方と敵が一戦交え、敗れている場合にござる。これも蒲池に伝わるには時間がかかろうが、戦のさなかであれば由布院にとどまるであろうし、そうでなくとも勝敗が決するまでは動きますまい」。

「そして最後に、これが一番考えたくはない事でござるが、ないとは言い切れませぬ。肥後の阿蘇も国人衆も、すでに敵に降っている場合にござる。これを蒲池が知ったならば、肥後からの敵とあわせて府内、そして臼杵まで攻めるでしょう。豊後の国人衆が抵抗したとて防ぐことは難しいかと」。

あわせて、と臼杵どのは一息置いて続ける。

「ひとつ気になることが」。
「なんでござろう?」
「久留米城の事にござる」。

「久留米城は下高橋城や三原城とならび、筑後の三潴郡、御井郡、御原郡を押さえていまする。が、そこの情報が上がってきておりませぬ。また、後背をつかれる恐れがあるにも関わらず、蒲池鑑盛は日田郡に進むでしょうか?・・・これは別働隊の存在を、考えたほうが良いでしょう。だとすれば、その別働隊が筑後に留まっているならまだ良し。お味方を降して豊後もしくは豊前に北上して来たらやっかいです」。

「相わかった」。

わしは決心した。小佐々の策略の匂いを感じ、行動に移せずにいたが、いかんともしがたい。動く他ないのだ。

「では全軍で、宗像の笠山城へ向かい落とすといたそう。ここで情報を待っていても状況は変わらぬし、なにより豊後は遠い。伝令が来るまでに状況が変わるかも知れぬ。であれば最悪の事態を考えて、もはや勝てるとは考えまい。いかに有利な条件で講和をするか。・・・それが肝要じゃ。全軍出立する!支度いたせい!!」

「それから豊前の国衆が敵に寝返らぬよう噂を流せ!松山、門司、小倉、花尾、山鹿を道雪と鑑速が落としたとな!一両日中にも宗像の岳山城と笠木山城も落とすであろうと!!」

「道雪どの。花尾城は落としておりませぬぞ」。
「わはははは!細かい事を気にしてもしょうがありませぬ。それに誠の事にまぜて話を広めることで、嘘も本当になるものです!」

道雪・鑑速連合軍は一路宗像氏貞の岳山城へと向かった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

無能と蔑まれた七男、前世は史上最強の魔法使いだった!?

青空一夏
ファンタジー
ケアニー辺境伯爵家の七男カイルは、生まれつき魔法を使えず、家族から蔑まれて育った。しかし、ある日彼の前世の記憶が蘇る――その正体は、かつて世界を支配した史上最強の大魔法使いアーサー。戸惑いながらも、カイルはアーサーの知識と力を身につけていき、次第に自らの道を切り拓く。 魔法を操れぬはずの少年が最強の魔法を駆使し、自分を信じてくれる商店街の仲間のために立ち上げる。やがてそれは貴族社会すら揺るがす存在へと成長していくのだった。こちらは無自覚モテモテの最強青年になっていく、ケアニー辺境伯爵家の七男カイルの物語。 ※こちらは「異世界ファンタジー × ラブコメ」要素を兼ね備えた作品です。メインは「異世界ファンタジー」ですが、恋愛要素やコメディ要素も兼ねた「ラブコメ寄りの異世界ファンタジー」になっています。カイルは複数の女性にもてますが、主人公が最終的には選ぶのは一人の女性です。一夫多妻のようなハーレム系の結末ではありませんので、女性の方にも共感できる内容になっています。異世界ファンタジーで男性主人公なので男性向けとしましたが、男女関係なく楽しめる内容を心がけて書いていきたいです。よろしくお願いします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

『転生した無名藩士、幕末の動乱を生き抜く~時代・技術考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁
ファンタジー
佐賀藩より早く蒸気船に蒸気機関車、アームストロング砲。列強に勝つ! 人生100年時代の折り返し地点に来た企画営業部長の清水亨は、大きなプロジェクトをやり遂げて、久しぶりに長崎の実家に帰ってきた。 学生時代の仲間とどんちゃん騒ぎのあげく、急性アルコール中毒で死んでしまう。 しかし、目が覚めたら幕末の動乱期。龍馬や西郷や桂や高杉……と思いつつ。あまり幕末史でも知名度のない「薩長土肥」の『肥』のさらに隣の藩の大村藩のお話。 で、誰に転生したかと言うと、これまた誰も知らない、地元の人もおそらく知らない人の末裔として。 なーんにもしなければ、間違いなく幕末の動乱に巻き込まれ、戊辰戦争マッシグラ。それを回避して西洋列強にまけない国(藩)づくりに励む事になるのだが……。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

見習い女神のお手伝いっ!-後払いの報酬だと思っていたチート転生が実は前払いでした-

三石アトラ
ファンタジー
ゲーム制作が趣味のサラリーマン水瀬悠久(みなせ ゆうき)は飛行機事故に巻き込まれて死んでしまい、天界で女神から転生を告げられる。 悠久はチートを要求するが、女神からの返答は 「ねえあなた……私の手伝いをしなさい」 見習い女神と判明したヴェルサロアを一人前の女神にするための手伝いを終え、やっとの思いで狐獣人のユリスとして転生したと思っていた悠久はそこでまだまだ手伝いが終わっていない事を知らされる。 しかも手伝わないと世界が滅びる上に見習いへ逆戻り!? 手伝い継続を了承したユリスはチートを駆使して新たな人生を満喫しながらもヴェルサロアを一人前にするために、そして世界を存続させるために様々な問題に立ち向かって行くのであった。 ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様でも連載中です。

処理中です...