上 下
226 / 812
九州三強と中央への目-肥前王 源朝臣小佐々弾正大弼純正-

府内まで八町 由布院山城

しおりを挟む
九月四日 巳の一つ刻(0900)角牟礼城下 第三軍 蒲池鑑盛

角牟礼城には守備兵五百を残し、日出生城の別働隊と合流すべく出立した。二刻(4時間)ほど両側が切り立った山道を進むと日出生城に到着し、そのまま※由布院山城へ向かう。大軍が長い隘路を進む。伏兵に襲われたりすれば、いかな大軍でもなすすべがない。

周囲に最大限の注意を払いながら進んで、到着したのは酉三つ刻(1800)であった。本来、なにもなければ申二つ刻(1530)頃に到着してもおかしくない距離ではあるが、安全を最優先させた。あの様な場所では大砲や騎馬隊は役にたたない。

大友の主力が豊前に出ているからこそ可能な行軍だ。

「これは、無理だ」。
正確に言うと、無理ではない。無理ではないが力攻めでは難しい。由布岳の中腹に築かれた山城は、これぞまさしく要害である。損害も大きいであろう。山麓から由布院山城を見上げたわしは考えた。

しかも守るは※戸次道雪が家臣、※由布家続。親兄弟皆名将、勇将の誉れ高い家門だ。降伏など、まずあり得ないであろう。で、あれば無理攻めせずに押さえの兵を置き、北上するのが得策である。われらの目的は由布院山城を落とす事ではない。

府内のある大分郡から海沿いに北上して豊前に抜ける速見郡の小浦村を押さえ、大友を南北で分断。そして府内へ向かう。無論、落としたほうがいいに越した事ではないが、無理攻めするほどでもない。

そして大分郡から玖珠郡、日田郡へ続く街道沿いの若杉山石原村と並柳村を押さえていればよい。日田城から角牟礼城、日出生城まではわが軍の勢力下であるから、完全に分断する事が可能だ。ゆえに、夕食の前に軍議を開いた。

「各々方、今われらは豊後に侵攻し、由布院山城を前にしておる。府内まで八里弱(32km)にして、四刻(8時間)で攻めかかれるところまで来ておるが、これからどうすべきか考えをお聞かせ願いたい」。

わしは皆を前にして聞いた。

「わしは、急ぐ必要はないと存ずる。大友の主力は遠く豊前まで出払っておるし、われらの脅威となる兵が、ここに残っているとも思えぬ。絞れるだけ絞っての二万であろうから、どう頑張っても五千も集まりますまい」。
最初に発言したのは西牟田殿だ。

「さよう。ここはじっくりと構えて、これからの事を協議するのが肝要かと存ずる」。星野殿が同意する。

「草野どのは何かござらぬか?」
一人考えている草野殿に聞く。

「そう、ですな。とりたててはございませぬが。・・・ここいらで各軍の状況を再確認してみる必要があると存ずる。豊前の第一、第二軍は別として、第四軍と第五軍は共同戦線を張るかもしれません。お互いの位置や情報を共有しておけば、いざという時に役に立つと存ずる」。

なるほど。確かにそうだ。

「そうですな。第四軍は状況によって豊後に入るか豊前に向かうか違うであろうし、第五軍にしても、今隈部と戦っておるのか、それとも肥後の国衆とまとまってこちらに向かっておるのか、はたまたすでに豊後に入っておるのか。それによってはわれらの行動も変わってくるかもしれぬ」。

みながうなずく。

「それでは今日はもう日も暮れておりますし、食事にするとして、ゆっくり休んで明日一日は情報を収集整理して、明後日再度軍議を行い今後の動きを決める、これでよろしいか?」

反対意見、特に質問等もでなかったので、軍議を終わりとした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

『転生した無名藩士、幕末の動乱を生き抜く~時代・技術考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁
ファンタジー
佐賀藩より早く蒸気船に蒸気機関車、アームストロング砲。列強に勝つ! 人生100年時代の折り返し地点に来た企画営業部長の清水亨は、大きなプロジェクトをやり遂げて、久しぶりに長崎の実家に帰ってきた。 学生時代の仲間とどんちゃん騒ぎのあげく、急性アルコール中毒で死んでしまう。 しかし、目が覚めたら幕末の動乱期。龍馬や西郷や桂や高杉……と思いつつ。あまり幕末史でも知名度のない「薩長土肥」の『肥』のさらに隣の藩の大村藩のお話。 で、誰に転生したかと言うと、これまた誰も知らない、地元の人もおそらく知らない人の末裔として。 なーんにもしなければ、間違いなく幕末の動乱に巻き込まれ、戊辰戦争マッシグラ。それを回避して西洋列強にまけない国(藩)づくりに励む事になるのだが……。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました

星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

異世界でホワイトな飲食店経営を

視世陽木
ファンタジー
 定食屋チェーン店で雇われ店長をしていた飯田譲治(イイダ ジョウジ)は、気がついたら真っ白な世界に立っていた。  彼の最後の記憶は、連勤に連勤を重ねてふらふらになりながら帰宅し、赤信号に気づかずに道路に飛び出し、トラックに轢かれて亡くなったというもの。  彼が置かれた状況を説明するためにスタンバイしていた女神様を思いっきり無視しながら、1人考察を進める譲治。 しまいには女神様を泣かせてしまい、十分な説明もないままに異世界に転移させられてしまった!  ブラック企業で酷使されながら、それでも料理が大好きでいつかは自分の店を開きたいと夢見ていた彼は、はたして異世界でどんな生活を送るのか!?  異世界物のテンプレと超ご都合主義を盛り沢山に、ちょいちょい社会風刺を入れながらお送りする異世界定食屋経営物語。はたしてジョージはホワイトな飲食店を経営できるのか!? ● 異世界テンプレと超ご都合主義で話が進むので、苦手な方や飽きてきた方には合わないかもしれません。 ● かつて作者もブラック飲食店で店長をしていました。 ● 基本的にはおふざけ多め、たまにシリアス。 ● 残酷な描写や性的な描写はほとんどありませんが、後々死者は出ます。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

超文明日本

点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。 そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。 異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。

処理中です...