224 / 828
九州三強と中央への目-肥前王 源朝臣小佐々弾正大弼純正-
着到の隈部親永
しおりを挟む
九月四日 辰一つ刻(0700) 北肥後 筒ヶ岳城下 第五軍幕舎 神代貴茂准将
総軍司令部から信号がきた。
『発 総軍司令部 宛 第五軍司令部 メ アカボシ アソ フクゾクス クマベ キタルトキ カウスレバ メツシ フクスレバ トドマラセ グンシレイハ ミヨウダイトシテ ゼングンヲ ヒキヰテ ブンゴニ シンカウ セヨ メ』
なるほど、赤星と阿蘇がわれらに服属したと。
で、あればわれらがやる事は簡単であるな。要するにのこのこやってきた隈部に服属を迫り、抵抗するなら殲滅し、降伏するならこの場に留めて残りの国人衆を糾合して、阿蘇と合同で豊後に向かえ、という事だな。
しかし、こうなっては隈部も可哀そうだな。ここまで自分の目算が崩れるとは、奴も思っていなかったであろう。第五軍、肥後から豊後へ侵攻する部隊の大将である神代貴茂准将は、信号文を読みながらほくそ笑んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
辰二つ刻(0730) 筒ヶ岳城へ向かう道中 ※隈部親永
「まったく、何だというのだ。赤星の所業は無礼千万ではないか!確かに我らは長年北肥後の覇権を巡って争っておった。しかし、こたびはその長年の恨みつらみを水に流し、合力して小佐々に当たれとの、左衛門督様のお達しではないか」。
それを・・・。
『こたびの戦、われらに義があるとは思えぬゆえ、帰らせていただく。礼儀にてここまで参ったが、やはり考えは変わらぬ。ごめん』。
だと?たわけた事を。
まあよい、こたびの戦は切り取り勝手である。赤星が来なければわれらの取り分が増えるだけの事。確かに赤星と合志の兵二千の離脱は痛いが、それでも阿蘇の四千を入れればわれらは八千。敵より有利なのは変わらぬわ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
辰三つ刻(0800) 筒ヶ岳城下 隈部親永
「との!筒ヶ岳城が見えてまいりました!・・・しかし、何か様子が変でござる!」
先行させてある斥候から報告があった。
「なんだ?なにが変なのだ?」
「はい、遠目からははっきりとは確認できませんでしたが、城内には大きな鉄砲の様な物が備えつけられております。それから城下には三千~四千の兵が陣をはっておりまする。こちらも大鉄砲があり、その数は十や二十ではありませぬ」。
なんだと?左衛門督様が大砲なる巨大な鉄砲を作っておるという噂は聞いた事があったが、あくまで噂で気にもとめておらなんだ。それを小佐々が持っているだと?それも十や二十ではない?そんな馬鹿な!
敵は筒ヶ岳城の南東約一里、菊池川沿いの平野部にある岩崎に陣を張っている。くそう、われらが陣をおこうとしていた場所なのだが。仕方あるまい。少し北、半里ほど離れた玉名に陣を張ろう。
「申し上げます!敵から降伏の使者が参っております!」
「なに!?降伏だと?笑わせるな。まあよい、会うだけ会ってやろうではないか」。
わしは大上段に構え、小佐々の使者を迎えた。
「筑後守どのにおかれては、遠路はるばるご苦労にござった」。
この男は何を言っているのだ?使者の分際で『どの』だと?
「さて、いかがいたそう。降伏されるか?それともここで死ぬるか?」
もう我慢の限界だ。
「寝ぼけた事を申すな!さっきから聞いておれば調子に乗りおって。使者風情の無礼な振る舞いにも我慢しておったのに、降伏か死だと?なぜその二つなのだ!?」
「その二つしかないからだ。隈部どの。お主に勝ち目はござらん」。
使者はわしに近寄ってきた。近習が使者を静止するため立ち上がったので一旦止まり、はあ、とため息をついて二つの文を近習に渡した。わしはそれを読み愕然とした。あり得ぬ事が書いてあったのだ。
「お主が頼みにしている阿蘇どのも、途中で帰った赤星どのも、とっくの昔にわれらに服属しておる。ゆえに勝ち目がないと申したのだ」。
そんな馬鹿な。なぜこの様な事が起きるのだ?まさか赤星はその上で帰ったのか?阿蘇どのは?左衛門督様から文が来たときには、もう小佐々と通じておったのか?
だとしても赤星にしても阿蘇にしても、なぜこの様に早く文のやり取りができるのだ?あまりにも早すぎるではないか。
呆然として言葉がでないわしに向かって、
「どうなのだ!降るのか!戦って死ぬのか!?」
使者がわしに怒号の様な勢いで詰め寄る。
「く、だ、る。・・・・ぐう。く、くだりま、する」。
「相わかった。わが殿にはその様にお伝えいたす。おって指示を待つがよい」。
使者は立ち上がり、踵を返して戻っていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『発 第五軍司令部 宛 総軍司令部ならびに前線各司令部 ヒメ クマベ カウフクス ワレラ コレヨリ クマベイガイヲ キユウガウシ アソトトモニ ウチマキジヨウヨリ ブンゴ ナンザンジヨウヘ シンカウス ヒメ 四日 辰四つ刻(0830)』
総軍司令部から信号がきた。
『発 総軍司令部 宛 第五軍司令部 メ アカボシ アソ フクゾクス クマベ キタルトキ カウスレバ メツシ フクスレバ トドマラセ グンシレイハ ミヨウダイトシテ ゼングンヲ ヒキヰテ ブンゴニ シンカウ セヨ メ』
なるほど、赤星と阿蘇がわれらに服属したと。
で、あればわれらがやる事は簡単であるな。要するにのこのこやってきた隈部に服属を迫り、抵抗するなら殲滅し、降伏するならこの場に留めて残りの国人衆を糾合して、阿蘇と合同で豊後に向かえ、という事だな。
しかし、こうなっては隈部も可哀そうだな。ここまで自分の目算が崩れるとは、奴も思っていなかったであろう。第五軍、肥後から豊後へ侵攻する部隊の大将である神代貴茂准将は、信号文を読みながらほくそ笑んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
辰二つ刻(0730) 筒ヶ岳城へ向かう道中 ※隈部親永
「まったく、何だというのだ。赤星の所業は無礼千万ではないか!確かに我らは長年北肥後の覇権を巡って争っておった。しかし、こたびはその長年の恨みつらみを水に流し、合力して小佐々に当たれとの、左衛門督様のお達しではないか」。
それを・・・。
『こたびの戦、われらに義があるとは思えぬゆえ、帰らせていただく。礼儀にてここまで参ったが、やはり考えは変わらぬ。ごめん』。
だと?たわけた事を。
まあよい、こたびの戦は切り取り勝手である。赤星が来なければわれらの取り分が増えるだけの事。確かに赤星と合志の兵二千の離脱は痛いが、それでも阿蘇の四千を入れればわれらは八千。敵より有利なのは変わらぬわ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
辰三つ刻(0800) 筒ヶ岳城下 隈部親永
「との!筒ヶ岳城が見えてまいりました!・・・しかし、何か様子が変でござる!」
先行させてある斥候から報告があった。
「なんだ?なにが変なのだ?」
「はい、遠目からははっきりとは確認できませんでしたが、城内には大きな鉄砲の様な物が備えつけられております。それから城下には三千~四千の兵が陣をはっておりまする。こちらも大鉄砲があり、その数は十や二十ではありませぬ」。
なんだと?左衛門督様が大砲なる巨大な鉄砲を作っておるという噂は聞いた事があったが、あくまで噂で気にもとめておらなんだ。それを小佐々が持っているだと?それも十や二十ではない?そんな馬鹿な!
敵は筒ヶ岳城の南東約一里、菊池川沿いの平野部にある岩崎に陣を張っている。くそう、われらが陣をおこうとしていた場所なのだが。仕方あるまい。少し北、半里ほど離れた玉名に陣を張ろう。
「申し上げます!敵から降伏の使者が参っております!」
「なに!?降伏だと?笑わせるな。まあよい、会うだけ会ってやろうではないか」。
わしは大上段に構え、小佐々の使者を迎えた。
「筑後守どのにおかれては、遠路はるばるご苦労にござった」。
この男は何を言っているのだ?使者の分際で『どの』だと?
「さて、いかがいたそう。降伏されるか?それともここで死ぬるか?」
もう我慢の限界だ。
「寝ぼけた事を申すな!さっきから聞いておれば調子に乗りおって。使者風情の無礼な振る舞いにも我慢しておったのに、降伏か死だと?なぜその二つなのだ!?」
「その二つしかないからだ。隈部どの。お主に勝ち目はござらん」。
使者はわしに近寄ってきた。近習が使者を静止するため立ち上がったので一旦止まり、はあ、とため息をついて二つの文を近習に渡した。わしはそれを読み愕然とした。あり得ぬ事が書いてあったのだ。
「お主が頼みにしている阿蘇どのも、途中で帰った赤星どのも、とっくの昔にわれらに服属しておる。ゆえに勝ち目がないと申したのだ」。
そんな馬鹿な。なぜこの様な事が起きるのだ?まさか赤星はその上で帰ったのか?阿蘇どのは?左衛門督様から文が来たときには、もう小佐々と通じておったのか?
だとしても赤星にしても阿蘇にしても、なぜこの様に早く文のやり取りができるのだ?あまりにも早すぎるではないか。
呆然として言葉がでないわしに向かって、
「どうなのだ!降るのか!戦って死ぬのか!?」
使者がわしに怒号の様な勢いで詰め寄る。
「く、だ、る。・・・・ぐう。く、くだりま、する」。
「相わかった。わが殿にはその様にお伝えいたす。おって指示を待つがよい」。
使者は立ち上がり、踵を返して戻っていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『発 第五軍司令部 宛 総軍司令部ならびに前線各司令部 ヒメ クマベ カウフクス ワレラ コレヨリ クマベイガイヲ キユウガウシ アソトトモニ ウチマキジヨウヨリ ブンゴ ナンザンジヨウヘ シンカウス ヒメ 四日 辰四つ刻(0830)』
2
お気に入りに追加
163
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。


帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる