上 下
223 / 766
九州三強と中央への目-肥前王 源朝臣小佐々弾正大弼純正-

筑前平定へ 道雪と鑑速

しおりを挟む
九月四日 卯の三つ刻(06:00) 筑前花尾城下 ※立花・臼杵軍

「止めましょう」。
朝から開かれた軍議で、唐突に※戸次道雪(戸次鑑連)が言った。

「?止めるとは?」
何を言い出すのか?と言わんばかりに※臼杵鑑速が聞き返す。

「ご覧くだされ」。
と道雪は花尾城を指差す。

「花尾城は山頂から東西に伸びた尾根に、曲輪を連ねた山城にござる。西から西櫓台、四の丸、三ノ丸、二の丸、本丸、出丸、馬場、東櫓台と堀切で区切られた曲輪が連なっておりまする。その数大小合わせて十二。本丸の北側には石塁が山腹を巡っており、その最も下に方形の窪地を設けております。さらに曲輪は東西に一直線に並ぶ縄張りであるが、各曲輪の側面には無数の竪堀群がござる。これを攻めるのは難儀にござろう?」
道雪はいたずらっぽく笑う。

「ゆえに攻めませぬ。押さえとして二千の兵のみおき、われらはこの先の山鹿城へ向かいましょう。かの城は遠賀川の水運の要衝にござる。山城ひとつ落とすより、よほど価値がありもうす」。

「花尾城は落とさぬのですか?」
鑑速は道雪に聞き返す。

「落としませぬ。むしろ今、この城を落とす事に、あまり意味を見いだせませぬ。水の手もあります。おそらくわれらが来るとわかって、兵糧もたんまり運び込んでいるでしょう。百年前に一人の将が三年かかっても落とせなかったといいます。わしは言うほど神ではないのですよ」。
また、笑う。

「仮に敵が攻め寄せて来たとて、浮足立っているのは必定。二千で充分にござる」。

かくして戸次・臼杵連合軍は、籠城する麻生・杉軍を尻目に花尾城下の陣を引き払い、一万五千の兵で山鹿城へ向かったのであった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「申し上げます!敵軍、押さえの兵のみ残し、ほぼ全軍、山鹿の城へ向けて進軍している由にございます!」
「なにいいいい!?誠か?」

城主の麻生興益は大声で聞き返した。相当な焦りが見える。手を扇子で叩いてうろうろうろうろしている。

「どうしたのですか、興益どの」。
豊前松山城、門司城、小倉城と逃げてきた杉重良は、状況が飲み込めていないようだ。興益はそんな長良を少し軽蔑の眼差しで見た。

「わかりませぬか?われらはここ、花尾城で敵を食い止めるべく兵糧を運び込み、山鹿の兵も呼び寄せ、二千二百で守る算段でござった。これ以上やつらに筑前への侵入を許してはならぬからな」。
興益は苛立ちを隠せない。

「敵がここにとどまり、われらを攻めてくれればこそ、時間稼ぎとなったのです。そのうち小佐々殿の援軍が来て敵を蹴散らし、そうなれば斜陽の大友家など恐るるに足りぬ、そう考えておったのです」。
まくしたてる。

「それが敵が素通りし、山鹿の城を押さえたらどうなりますか?われらは孤立、城にこもっている意味がなくなりますぞ。山鹿には兵はほとんど残っておりませぬ。一日もせずに落ちましょう。そうなれば、遠賀の水運も敵の手に」。

「われらが敵をここに留まらせるどころか、われらがここに釘付けにされたのです」。

麻生興益の悲痛な叫びが響いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

辰四つ刻(08:30) 遠賀川流域の戸次・臼杵連合軍幕舎

花尾城から山鹿城までは二里弱、時間にして一刻もかからなかった。

半町(40m)ほどの丘の上にあり、本丸から二の丸、三の丸まであるが、花尾城に比べると攻略は容易い。現に城兵はほとんど残っておらず、連合軍襲来の知らせに、残りの兵も逃散した。山鹿城は戦わずして大友軍の手に落ちたのである。

「下高橋城と三原城が落城し、筑後に豊後に、敵にやられっぱなしでしたが、これで一矢報いる事ができましたな!」
臼杵鑑速が豪快に笑う。

「さて、どうするか」。
道雪は考えている。

「どうされたので?」
「これからどうするか、考えているのです」。
筑前の地図をみながら何やら考えているのである。

「山鹿城を落とした今、われらも長居する必要はございますまい。花尾城の敵はわれらの押さえの兵がいるため動けませぬ。何を考えているのですか?進みましょう。宗像貞氏の岳山城へ。それに、戦局を覆すために筑前を平定しようとおっしゃったのは道雪殿ですぞ。今であれば、まだ貞氏は岳山城へは戻りきれておらぬはず。急ぎましょう!」

「なにか、引っかかるのです。どうにも上手く行き過ぎて、なにやら小佐々の策略に乗せられているような、そんな気がしてならぬのです」。

臼杵鑑速はこの期に及んで道雪が何に迷い、考えているのか理解できなかった。鑑速は決して無能な将ではない。

それどころか大友三家老と呼ばれるくらい優秀で、実績もある。

(このお方は常人には計り知れない感覚を持っておられる。そしてそれが総じて間違ってはおらぬし、味方の勝利につながっておる。しかし、だかららこそ時にわれらを混乱させるのだ)。
鑑速はそう思った。

角牟礼城、日出生城の落城のしらせが届くのは、昼を過ぎた未の二つ刻(13:30)の事である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

処理中です...