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九州三強と中央への目-肥前王 源朝臣小佐々弾正大弼純正-
筑前平定へ 道雪と鑑速
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九月四日 卯の三つ刻(06:00) 筑前花尾城下 ※立花・臼杵軍
「止めましょう」。
朝から開かれた軍議で、唐突に※戸次道雪(戸次鑑連)が言った。
「?止めるとは?」
何を言い出すのか?と言わんばかりに※臼杵鑑速が聞き返す。
「ご覧くだされ」。
と道雪は花尾城を指差す。
「花尾城は山頂から東西に伸びた尾根に、曲輪を連ねた山城にござる。西から西櫓台、四の丸、三ノ丸、二の丸、本丸、出丸、馬場、東櫓台と堀切で区切られた曲輪が連なっておりまする。その数大小合わせて十二。本丸の北側には石塁が山腹を巡っており、その最も下に方形の窪地を設けております。さらに曲輪は東西に一直線に並ぶ縄張りであるが、各曲輪の側面には無数の竪堀群がござる。これを攻めるのは難儀にござろう?」
道雪はいたずらっぽく笑う。
「ゆえに攻めませぬ。押さえとして二千の兵のみおき、われらはこの先の山鹿城へ向かいましょう。かの城は遠賀川の水運の要衝にござる。山城ひとつ落とすより、よほど価値がありもうす」。
「花尾城は落とさぬのですか?」
鑑速は道雪に聞き返す。
「落としませぬ。むしろ今、この城を落とす事に、あまり意味を見いだせませぬ。水の手もあります。おそらくわれらが来るとわかって、兵糧もたんまり運び込んでいるでしょう。百年前に一人の将が三年かかっても落とせなかったといいます。わしは言うほど神ではないのですよ」。
また、笑う。
「仮に敵が攻め寄せて来たとて、浮足立っているのは必定。二千で充分にござる」。
かくして戸次・臼杵連合軍は、籠城する麻生・杉軍を尻目に花尾城下の陣を引き払い、一万五千の兵で山鹿城へ向かったのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「申し上げます!敵軍、押さえの兵のみ残し、ほぼ全軍、山鹿の城へ向けて進軍している由にございます!」
「なにいいいい!?誠か?」
城主の麻生興益は大声で聞き返した。相当な焦りが見える。手を扇子で叩いてうろうろうろうろしている。
「どうしたのですか、興益どの」。
豊前松山城、門司城、小倉城と逃げてきた杉重良は、状況が飲み込めていないようだ。興益はそんな長良を少し軽蔑の眼差しで見た。
「わかりませぬか?われらはここ、花尾城で敵を食い止めるべく兵糧を運び込み、山鹿の兵も呼び寄せ、二千二百で守る算段でござった。これ以上やつらに筑前への侵入を許してはならぬからな」。
興益は苛立ちを隠せない。
「敵がここにとどまり、われらを攻めてくれればこそ、時間稼ぎとなったのです。そのうち小佐々殿の援軍が来て敵を蹴散らし、そうなれば斜陽の大友家など恐るるに足りぬ、そう考えておったのです」。
まくしたてる。
「それが敵が素通りし、山鹿の城を押さえたらどうなりますか?われらは孤立、城にこもっている意味がなくなりますぞ。山鹿には兵はほとんど残っておりませぬ。一日もせずに落ちましょう。そうなれば、遠賀の水運も敵の手に」。
「われらが敵をここに留まらせるどころか、われらがここに釘付けにされたのです」。
麻生興益の悲痛な叫びが響いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
辰四つ刻(08:30) 遠賀川流域の戸次・臼杵連合軍幕舎
花尾城から山鹿城までは二里弱、時間にして一刻もかからなかった。
半町(40m)ほどの丘の上にあり、本丸から二の丸、三の丸まであるが、花尾城に比べると攻略は容易い。現に城兵はほとんど残っておらず、連合軍襲来の知らせに、残りの兵も逃散した。山鹿城は戦わずして大友軍の手に落ちたのである。
「下高橋城と三原城が落城し、筑後に豊後に、敵にやられっぱなしでしたが、これで一矢報いる事ができましたな!」
臼杵鑑速が豪快に笑う。
「さて、どうするか」。
道雪は考えている。
「どうされたので?」
「これからどうするか、考えているのです」。
筑前の地図をみながら何やら考えているのである。
「山鹿城を落とした今、われらも長居する必要はございますまい。花尾城の敵はわれらの押さえの兵がいるため動けませぬ。何を考えているのですか?進みましょう。宗像貞氏の岳山城へ。それに、戦局を覆すために筑前を平定しようとおっしゃったのは道雪殿ですぞ。今であれば、まだ貞氏は岳山城へは戻りきれておらぬはず。急ぎましょう!」
「なにか、引っかかるのです。どうにも上手く行き過ぎて、なにやら小佐々の策略に乗せられているような、そんな気がしてならぬのです」。
臼杵鑑速はこの期に及んで道雪が何に迷い、考えているのか理解できなかった。鑑速は決して無能な将ではない。
それどころか大友三家老と呼ばれるくらい優秀で、実績もある。
(このお方は常人には計り知れない感覚を持っておられる。そしてそれが総じて間違ってはおらぬし、味方の勝利につながっておる。しかし、だかららこそ時にわれらを混乱させるのだ)。
鑑速はそう思った。
角牟礼城、日出生城の落城のしらせが届くのは、昼を過ぎた未の二つ刻(13:30)の事である。
「止めましょう」。
朝から開かれた軍議で、唐突に※戸次道雪(戸次鑑連)が言った。
「?止めるとは?」
何を言い出すのか?と言わんばかりに※臼杵鑑速が聞き返す。
「ご覧くだされ」。
と道雪は花尾城を指差す。
「花尾城は山頂から東西に伸びた尾根に、曲輪を連ねた山城にござる。西から西櫓台、四の丸、三ノ丸、二の丸、本丸、出丸、馬場、東櫓台と堀切で区切られた曲輪が連なっておりまする。その数大小合わせて十二。本丸の北側には石塁が山腹を巡っており、その最も下に方形の窪地を設けております。さらに曲輪は東西に一直線に並ぶ縄張りであるが、各曲輪の側面には無数の竪堀群がござる。これを攻めるのは難儀にござろう?」
道雪はいたずらっぽく笑う。
「ゆえに攻めませぬ。押さえとして二千の兵のみおき、われらはこの先の山鹿城へ向かいましょう。かの城は遠賀川の水運の要衝にござる。山城ひとつ落とすより、よほど価値がありもうす」。
「花尾城は落とさぬのですか?」
鑑速は道雪に聞き返す。
「落としませぬ。むしろ今、この城を落とす事に、あまり意味を見いだせませぬ。水の手もあります。おそらくわれらが来るとわかって、兵糧もたんまり運び込んでいるでしょう。百年前に一人の将が三年かかっても落とせなかったといいます。わしは言うほど神ではないのですよ」。
また、笑う。
「仮に敵が攻め寄せて来たとて、浮足立っているのは必定。二千で充分にござる」。
かくして戸次・臼杵連合軍は、籠城する麻生・杉軍を尻目に花尾城下の陣を引き払い、一万五千の兵で山鹿城へ向かったのであった。
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「申し上げます!敵軍、押さえの兵のみ残し、ほぼ全軍、山鹿の城へ向けて進軍している由にございます!」
「なにいいいい!?誠か?」
城主の麻生興益は大声で聞き返した。相当な焦りが見える。手を扇子で叩いてうろうろうろうろしている。
「どうしたのですか、興益どの」。
豊前松山城、門司城、小倉城と逃げてきた杉重良は、状況が飲み込めていないようだ。興益はそんな長良を少し軽蔑の眼差しで見た。
「わかりませぬか?われらはここ、花尾城で敵を食い止めるべく兵糧を運び込み、山鹿の兵も呼び寄せ、二千二百で守る算段でござった。これ以上やつらに筑前への侵入を許してはならぬからな」。
興益は苛立ちを隠せない。
「敵がここにとどまり、われらを攻めてくれればこそ、時間稼ぎとなったのです。そのうち小佐々殿の援軍が来て敵を蹴散らし、そうなれば斜陽の大友家など恐るるに足りぬ、そう考えておったのです」。
まくしたてる。
「それが敵が素通りし、山鹿の城を押さえたらどうなりますか?われらは孤立、城にこもっている意味がなくなりますぞ。山鹿には兵はほとんど残っておりませぬ。一日もせずに落ちましょう。そうなれば、遠賀の水運も敵の手に」。
「われらが敵をここに留まらせるどころか、われらがここに釘付けにされたのです」。
麻生興益の悲痛な叫びが響いた。
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辰四つ刻(08:30) 遠賀川流域の戸次・臼杵連合軍幕舎
花尾城から山鹿城までは二里弱、時間にして一刻もかからなかった。
半町(40m)ほどの丘の上にあり、本丸から二の丸、三の丸まであるが、花尾城に比べると攻略は容易い。現に城兵はほとんど残っておらず、連合軍襲来の知らせに、残りの兵も逃散した。山鹿城は戦わずして大友軍の手に落ちたのである。
「下高橋城と三原城が落城し、筑後に豊後に、敵にやられっぱなしでしたが、これで一矢報いる事ができましたな!」
臼杵鑑速が豪快に笑う。
「さて、どうするか」。
道雪は考えている。
「どうされたので?」
「これからどうするか、考えているのです」。
筑前の地図をみながら何やら考えているのである。
「山鹿城を落とした今、われらも長居する必要はございますまい。花尾城の敵はわれらの押さえの兵がいるため動けませぬ。何を考えているのですか?進みましょう。宗像貞氏の岳山城へ。それに、戦局を覆すために筑前を平定しようとおっしゃったのは道雪殿ですぞ。今であれば、まだ貞氏は岳山城へは戻りきれておらぬはず。急ぎましょう!」
「なにか、引っかかるのです。どうにも上手く行き過ぎて、なにやら小佐々の策略に乗せられているような、そんな気がしてならぬのです」。
臼杵鑑速はこの期に及んで道雪が何に迷い、考えているのか理解できなかった。鑑速は決して無能な将ではない。
それどころか大友三家老と呼ばれるくらい優秀で、実績もある。
(このお方は常人には計り知れない感覚を持っておられる。そしてそれが総じて間違ってはおらぬし、味方の勝利につながっておる。しかし、だかららこそ時にわれらを混乱させるのだ)。
鑑速はそう思った。
角牟礼城、日出生城の落城のしらせが届くのは、昼を過ぎた未の二つ刻(13:30)の事である。
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