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九州三強と中央への目-肥前王 源朝臣小佐々弾正大弼純正-
9/2 17:00 純家の初陣
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九月二日 酉一つ刻(17:00) 第四軍陣所
随分と時間がかかったようだ。下高橋城から使者が文を持ってやってきた。
『降伏の儀、委細承知いたしました。しかれども家中がまとまっておりませぬ。降伏後に反対派が騒動を起こしてもいけませぬゆえ、時間が必要にございます。できますれば説得に、三日いただきとうございます。三日後には必ず説得して城をお渡しいたします』。
「三日だと?!」
筑紫殿をはじめ、みなが城方の使者を返した後で口々に言う。
「降伏をするならさっさとすればよい。なにか、良からぬことを考えているのではあるまいか」。
副将格の江上武種どのだ。
「されど、降伏するというものを蹴って攻撃するとなれば、これから先誰もわれらを信用いたしませぬ」。
神代長良どのは反論する。
「太郎四郎どのはいかがか?」
急に聞かれたので少し驚いたが、
「・・・そうですね。三日は長すぎるので、一日。明日の夕刻、ちょうど酉一つ刻(17:00)までにまとめるよう、伝えたらいかがでしょうか。返事がなければ明朝、明後日の朝には攻撃を開始すると告げるのです」。
「相手の言う通りにすれば良いのでしょうが、こちらも待ってばかりにもまいりません。答えを出さなければ攻撃するぞ、と強く言う事で決心を促すこともできましょう」。
周囲からは『なるほど』や『おお』という声があがったり、うんうんとうなずいている人もいる。別に大したことはいっていないが、やはりまだ気にされているのだろうか。主君と臣下ではなくなったが、同じ主君を仰ぐ味方同士なのだ。
夕食は五人揃って食べた。
わが軍は殿が新しく作られた陸海軍と、旧来からある大名・国人衆の混成部隊である。武器も違えば戦い方も違う。しかし、共同で戦闘する場合は指揮命令系統がはっきりしていないと混乱を起こす。
だから命令系統としては、今回派遣されている第四混成旅団はわれらの指揮下に入る。しかしそれはあくまで系統である。実際の戦闘ではどうすれば効果的な運用ができるのか、合同の演習が定期的に行われていた。
私はやはり、初めての戦で緊張しているのだろうか。殿からはひ弱な若様みたいな印象を持たれているだろう。しかしそれではいかぬ。佐賀十三万石の大名として、凛としていなければならぬ。雄々しくあらねばならぬ。
そういう気負いも、毎晩あまり眠れぬことに拍車をかけていたのかもしれぬ。幕舎を抜け陣内を散策する。散策という表現は正しくないのかもしれないが、うまい表現が見当たらぬ。とにかくそう付近の見回りをしていたのだ。
ところどころに見張りの兵が、あくびをしながら立っている。わたしが通ると直立不動になり敬礼をしてくる。なんだか不思議な感覚だ。確かに戦場で、いちいち平伏する事は以前からなかった。
通り過ぎるまで頭を下げるなどやっていたら、殺される。しかし会釈もなく敬礼というのは・・・。なんだか。ふふふ・・・。不思議な殿だ。このように、殿の軍と旧来の軍は少しずつ混ざりあってきている。
明日か。敵は降伏してくるだろうか。
随分と時間がかかったようだ。下高橋城から使者が文を持ってやってきた。
『降伏の儀、委細承知いたしました。しかれども家中がまとまっておりませぬ。降伏後に反対派が騒動を起こしてもいけませぬゆえ、時間が必要にございます。できますれば説得に、三日いただきとうございます。三日後には必ず説得して城をお渡しいたします』。
「三日だと?!」
筑紫殿をはじめ、みなが城方の使者を返した後で口々に言う。
「降伏をするならさっさとすればよい。なにか、良からぬことを考えているのではあるまいか」。
副将格の江上武種どのだ。
「されど、降伏するというものを蹴って攻撃するとなれば、これから先誰もわれらを信用いたしませぬ」。
神代長良どのは反論する。
「太郎四郎どのはいかがか?」
急に聞かれたので少し驚いたが、
「・・・そうですね。三日は長すぎるので、一日。明日の夕刻、ちょうど酉一つ刻(17:00)までにまとめるよう、伝えたらいかがでしょうか。返事がなければ明朝、明後日の朝には攻撃を開始すると告げるのです」。
「相手の言う通りにすれば良いのでしょうが、こちらも待ってばかりにもまいりません。答えを出さなければ攻撃するぞ、と強く言う事で決心を促すこともできましょう」。
周囲からは『なるほど』や『おお』という声があがったり、うんうんとうなずいている人もいる。別に大したことはいっていないが、やはりまだ気にされているのだろうか。主君と臣下ではなくなったが、同じ主君を仰ぐ味方同士なのだ。
夕食は五人揃って食べた。
わが軍は殿が新しく作られた陸海軍と、旧来からある大名・国人衆の混成部隊である。武器も違えば戦い方も違う。しかし、共同で戦闘する場合は指揮命令系統がはっきりしていないと混乱を起こす。
だから命令系統としては、今回派遣されている第四混成旅団はわれらの指揮下に入る。しかしそれはあくまで系統である。実際の戦闘ではどうすれば効果的な運用ができるのか、合同の演習が定期的に行われていた。
私はやはり、初めての戦で緊張しているのだろうか。殿からはひ弱な若様みたいな印象を持たれているだろう。しかしそれではいかぬ。佐賀十三万石の大名として、凛としていなければならぬ。雄々しくあらねばならぬ。
そういう気負いも、毎晩あまり眠れぬことに拍車をかけていたのかもしれぬ。幕舎を抜け陣内を散策する。散策という表現は正しくないのかもしれないが、うまい表現が見当たらぬ。とにかくそう付近の見回りをしていたのだ。
ところどころに見張りの兵が、あくびをしながら立っている。わたしが通ると直立不動になり敬礼をしてくる。なんだか不思議な感覚だ。確かに戦場で、いちいち平伏する事は以前からなかった。
通り過ぎるまで頭を下げるなどやっていたら、殺される。しかし会釈もなく敬礼というのは・・・。なんだか。ふふふ・・・。不思議な殿だ。このように、殿の軍と旧来の軍は少しずつ混ざりあってきている。
明日か。敵は降伏してくるだろうか。
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