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九州三強と中央への目-肥前王 源朝臣小佐々弾正大弼純正-
9/2 16:00 第五軍 北肥後にて
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九月二日 北肥後 高瀬津の湊から小代城 神代貴茂准将
二日の早朝から輸送をはじめ、夕刻の申の三つ刻にはほぼ終了した。高瀬津の湊は塩田津の湊や八田、相応津の湊と同じ様に賑やかだ。筑紫乃海(有明海)の湊はみな、潮の干満を利用して奥深くまで船の出入りが可能である。
しかし川幅は上流にいくにしたがって狭くなるので、大型艦に乗っている兵員は下流で降ろし徒歩にて合流した。そして揃い次第小代氏の筒ヶ岳城へ向かう。約二里半(10km)、一刻ほどだ。西に向かい中尾村を抜け、下村、上村を通り府本村まで行く。
小代には酉の三つ刻(18:00)頃到着した。
温厚で人の良さそうな人物が出迎えてくれた。この地域を治める小代実忠だ。鎌倉時代に下向してきた一族で、過去には北肥後に一定の支配力を持っていた。しかし今では隈部・阿蘇らに押され、この一帯を治めるまでに勢力は衰えている。
菊池城の赤星統家に従っていたが、敵対派の中に孤立していた事もあって、早い時期に小佐々と盟を結び交易を行っている。そういう意味では実忠殿の選択は正しかったといえるだろう。
敵方である北の大津山城までは四里弱(16km)、隈部親永の居城である城村城までは七里弱(28km)である。
小代氏居城である筒ヶ岳城は高さ五町ほどの山頂にあり、南は観音岳から北は四ツ原まで南北に長い。そして無数の曲輪や土塁、空堀がそれを守る。衰えたとは言え、筑後や他の北肥後の国人衆の襲撃を何度もくぐり抜けてきただけはある。
しかしそれも限界であろう。
「やあやあ!これは遠路はるばる、かたじけのうござる。小代実忠にござる」。
と腰の低い、実直そうな人柄の男が言う。
「いえ、任務ゆえお気になさらずに。しかしすごいですな。麓からみると、攻める気が失せまする」。
笑いながらわたしが褒めると、実忠どのはまんざらでもない様子だ。
「しかし、大軍でござるな。三千、いや四千はござろうか」。
「はい。騎兵、歩兵(銃歩兵)、砲兵あわせて四千にございます」。
「おおお、すばらしい。さすがでござる。しかしこの大軍、全部は城に入り切りませぬ」。
「それでは砲兵一個中隊と歩兵一個中隊を入れましょう。三百名ほどですが、いかがでしょうか」。
「それならば問題ないでしょう」。
「少佐、砲兵と歩兵の混成大隊をつくり城内に入れろ」。
「はは!」
副官である少佐が指示をあたえ、編成した大隊が城に移動を始める。
「しかし、かなり早い到着にござるな。まだ攻撃もされておりませんし、わしも文を出してはおりませんのに。いえ、これは助かったのでござるよ。もちろん。ただあまりにも早いので驚いております」。
「小代どのもご存知の様に、われら小佐々の領内と、盟をむすんでおる各国の領内では、街道を広く土を固めて動きやすくしております」。
「また、二里ごとに伝馬宿、一里ごとに信号所を設けております。飛脚、早馬、旗振り、火振り、発光などの信号を用いて最も早い手段で文のやり取りを行っております。それゆえ昨日開戦前に、豊前の杉様より救援要請が来ました」。
「わが殿はそれを見越しており、数日前からわが軍団に指示をあたえております。各軍団に救援要請があればすなわち出陣命令と判断し、行動する様に命ぜられておりました。わが第五軍は昨晩それをうけ、今朝輸送を開始して、今到着した次第です」。
「なるほど。それは早いですな。街道を整備するのはこたびの様な事も見越して、だったのですね」。
「さようにございます」。
そんな会話をしながら夕食の話題に変わろうとした頃、伝令がきた。
「申し上げます!豊前松山城、落城にございます!」
「なに!いつだ!いつ落ちたのだ!」
「はは、これに」。
伝令は通信文を見せる。
『発 口之津信号所 宛 第五軍司令部 メ ヤハンヨリ ウノミツトキ(AM6:00) ブゼンマツヤマゼウ カンラク メ 二日 午の三つ刻(12:00)』
なんと!もう松山城は落ちたのか。道雪、さすがとしか言いようがない。
・・・?。しかし、なぜ発が口之津なのだ?
旅団司令部は昨日の段階で、移動する事を伝達していたはずだ。移動先の筒ヶ岳城に直接ならともかく、なぜ口之津経由なのだ。司令部移転の報が届いていないのか?時間がかかるではないか。
直接ならば、申の一つ刻(PM3:00)にはここに届いていたはずだ。
いや、待て。今回私は、旅団ごと救援に向かってここにおる。しかし情報の伝達において、発信先がその都度移動して変更になるのはどうなのだ?かえって現場に負担がかかり混乱するのではないか?
いや、これは仕方がないのかもしれない。こたびの様な広範囲にわたる大規模な軍団運用は、わが陸軍にとっても初めてだ。何が一番効率よく、確実に情報の伝達ができるのか。何を省いて何を残すか。今後課題になるな。改善の要ありだ。
そう、しかめっ面をしていたのだろう。
「まあ、神代どの、そこまで深刻になる事もありますまい。日田城は降伏したようですぞ」。
(なにい!?)
そういって通信文を見せる。
『発 妙見信号所 宛 前線各所並びに総軍司令部 メ ヒタゼウ コウフク ダイサングン シヨゼウ キウゴウシ ツノムレゼウニムカウ ウマヒトツトキ(11:00) メ 申の一つ刻(15:00)』
「つい先ほど、わたしがこちらへ来る前届きました。本当に早いですね」。
本当に、情報伝達、検討・改善が必要だ。
二日の早朝から輸送をはじめ、夕刻の申の三つ刻にはほぼ終了した。高瀬津の湊は塩田津の湊や八田、相応津の湊と同じ様に賑やかだ。筑紫乃海(有明海)の湊はみな、潮の干満を利用して奥深くまで船の出入りが可能である。
しかし川幅は上流にいくにしたがって狭くなるので、大型艦に乗っている兵員は下流で降ろし徒歩にて合流した。そして揃い次第小代氏の筒ヶ岳城へ向かう。約二里半(10km)、一刻ほどだ。西に向かい中尾村を抜け、下村、上村を通り府本村まで行く。
小代には酉の三つ刻(18:00)頃到着した。
温厚で人の良さそうな人物が出迎えてくれた。この地域を治める小代実忠だ。鎌倉時代に下向してきた一族で、過去には北肥後に一定の支配力を持っていた。しかし今では隈部・阿蘇らに押され、この一帯を治めるまでに勢力は衰えている。
菊池城の赤星統家に従っていたが、敵対派の中に孤立していた事もあって、早い時期に小佐々と盟を結び交易を行っている。そういう意味では実忠殿の選択は正しかったといえるだろう。
敵方である北の大津山城までは四里弱(16km)、隈部親永の居城である城村城までは七里弱(28km)である。
小代氏居城である筒ヶ岳城は高さ五町ほどの山頂にあり、南は観音岳から北は四ツ原まで南北に長い。そして無数の曲輪や土塁、空堀がそれを守る。衰えたとは言え、筑後や他の北肥後の国人衆の襲撃を何度もくぐり抜けてきただけはある。
しかしそれも限界であろう。
「やあやあ!これは遠路はるばる、かたじけのうござる。小代実忠にござる」。
と腰の低い、実直そうな人柄の男が言う。
「いえ、任務ゆえお気になさらずに。しかしすごいですな。麓からみると、攻める気が失せまする」。
笑いながらわたしが褒めると、実忠どのはまんざらでもない様子だ。
「しかし、大軍でござるな。三千、いや四千はござろうか」。
「はい。騎兵、歩兵(銃歩兵)、砲兵あわせて四千にございます」。
「おおお、すばらしい。さすがでござる。しかしこの大軍、全部は城に入り切りませぬ」。
「それでは砲兵一個中隊と歩兵一個中隊を入れましょう。三百名ほどですが、いかがでしょうか」。
「それならば問題ないでしょう」。
「少佐、砲兵と歩兵の混成大隊をつくり城内に入れろ」。
「はは!」
副官である少佐が指示をあたえ、編成した大隊が城に移動を始める。
「しかし、かなり早い到着にござるな。まだ攻撃もされておりませんし、わしも文を出してはおりませんのに。いえ、これは助かったのでござるよ。もちろん。ただあまりにも早いので驚いております」。
「小代どのもご存知の様に、われら小佐々の領内と、盟をむすんでおる各国の領内では、街道を広く土を固めて動きやすくしております」。
「また、二里ごとに伝馬宿、一里ごとに信号所を設けております。飛脚、早馬、旗振り、火振り、発光などの信号を用いて最も早い手段で文のやり取りを行っております。それゆえ昨日開戦前に、豊前の杉様より救援要請が来ました」。
「わが殿はそれを見越しており、数日前からわが軍団に指示をあたえております。各軍団に救援要請があればすなわち出陣命令と判断し、行動する様に命ぜられておりました。わが第五軍は昨晩それをうけ、今朝輸送を開始して、今到着した次第です」。
「なるほど。それは早いですな。街道を整備するのはこたびの様な事も見越して、だったのですね」。
「さようにございます」。
そんな会話をしながら夕食の話題に変わろうとした頃、伝令がきた。
「申し上げます!豊前松山城、落城にございます!」
「なに!いつだ!いつ落ちたのだ!」
「はは、これに」。
伝令は通信文を見せる。
『発 口之津信号所 宛 第五軍司令部 メ ヤハンヨリ ウノミツトキ(AM6:00) ブゼンマツヤマゼウ カンラク メ 二日 午の三つ刻(12:00)』
なんと!もう松山城は落ちたのか。道雪、さすがとしか言いようがない。
・・・?。しかし、なぜ発が口之津なのだ?
旅団司令部は昨日の段階で、移動する事を伝達していたはずだ。移動先の筒ヶ岳城に直接ならともかく、なぜ口之津経由なのだ。司令部移転の報が届いていないのか?時間がかかるではないか。
直接ならば、申の一つ刻(PM3:00)にはここに届いていたはずだ。
いや、待て。今回私は、旅団ごと救援に向かってここにおる。しかし情報の伝達において、発信先がその都度移動して変更になるのはどうなのだ?かえって現場に負担がかかり混乱するのではないか?
いや、これは仕方がないのかもしれない。こたびの様な広範囲にわたる大規模な軍団運用は、わが陸軍にとっても初めてだ。何が一番効率よく、確実に情報の伝達ができるのか。何を省いて何を残すか。今後課題になるな。改善の要ありだ。
そう、しかめっ面をしていたのだろう。
「まあ、神代どの、そこまで深刻になる事もありますまい。日田城は降伏したようですぞ」。
(なにい!?)
そういって通信文を見せる。
『発 妙見信号所 宛 前線各所並びに総軍司令部 メ ヒタゼウ コウフク ダイサングン シヨゼウ キウゴウシ ツノムレゼウニムカウ ウマヒトツトキ(11:00) メ 申の一つ刻(15:00)』
「つい先ほど、わたしがこちらへ来る前届きました。本当に早いですね」。
本当に、情報伝達、検討・改善が必要だ。
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