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九州三強と中央への目-肥前王 源朝臣小佐々弾正大弼純正-
初日PM11:30 第五軍 北肥後制圧軍
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「申し上げます!毛利領国境信号所より信号あり。『発 杉長良様 宛 小佐々弾正大弼様 メ メイト マツヤマゼウキウエン モトム メ 午三つ刻(12:00)』となります」。
開戦初日 子二つ刻(PM11:30)肥前 島原口之津港 陸軍仮設駐屯地
第四混成旅団長 神代貴茂准将
豊前松山城主からの救援要請が入った。すでに第一~第四軍には指令が届いているはずだ。われわれもこれから兵員を補給艦に乗せ、肥後高瀬津の湊へ向かう。関船や小早、商船や漁船も徴用して大至急行う。
北肥後の隈部が周辺の国衆と徒党を組んで、筒ヶ岳城を攻撃するだろうとの予測のもと、事前に布陣しておくのだ。海軍の艦は夜も航行する様だが、今回は事故防止の為日中のみとしている。
口之津から肥後高瀬津の湊まで約三十四海里半(62km)、約五刻(10時間)で輸送が完了する。日の出より行って明日の夕刻、申の三つ刻過ぎには終わるであろう。
しかし未だに信じられない。わが日の本の民が南蛮人と同じ船を作り操っているとは。しかし、そんな事を言えばわが陸軍も仏狼機(フランキ)砲を使っておるな。
「いよう!もっちの兄貴!」
「うわあ!」
深沢義太夫勝行だ。こいつはなんでこういつも、突然現れる?緊張感がない。これから戦だというのに、まるで遊びに行くみたいに。
「その『もっち』はやめろ。誰かが見ていたらどうするのだ。仮にもお前は海軍総司令で海軍大臣であろう」。
そうだ。かくいうわたしもこの年で准将だ。殿が創立した陸海軍は総じて若い。もちろん、歴戦の強者もいるので年齢に幅がでる。陸軍大臣で陸軍総司令の深作次郎兵衛どのなどは、役職と年齢と風貌が、まさに一致しておる。
私の知っている軍は階級が存在せず、役職・役割で上下が決まっておった。殿は身分や家柄に関係のない軍を作り上げている。士族階級と一般平民からの士官の軋轢があるとは聞いているが、これは致し方ない。
われわれには武士の矜恃がある。が、だからといって有能な者をないがしろにしていては、軍の命令系統が機能せぬし、実力も発揮できない。殿が、もしその現場を見たら怒るであろう。・・・。
で、この勝行だが、齢二十三で海軍の最高指揮官である。普通に考えるとあり得ない。しかし本人はどこ吹く風で、どうでもよく、艦に乗れれば何でもいいらしい。しかし、実力は他の者を寄せ付けず、抜群である。
その能力、戦術、戦略眼、士官学校卒の誰よりも抜きん出ている。どれだけの勉強と努力をすれば奴の様になるのだろうか。また、叩き上げで海戦をくぐり抜けてきた経験もある。
過渡期の軍であるから、経験や能力、実力や実績が先行している。よって年齢と役職や階級がかなりそぐわない。私もポルトガル人に言わせれば、この年で四千人の兵を預かる立場とは考えられないらしい。
殿いわく、ちかく海軍大学校や陸軍大学校も新設されるようだ。卒業しなければならない決まりはないが、卒業しなければ少佐止まり。上級指揮官としての能力を学ぶための学校らしい。
そういう意味では私達の世代は『得』しているのかもしれぬ。いずれ後学のために入校はせねばならぬだろうが、人材が不足している。すなわち、現場指揮官が足らぬので、開校したとしてもすぐに全員が入れるわけでもない。
だから大学校の一年生が、少佐と准将で同級生もあり得るわけだ。間違いなく喧嘩が起きるな。
「海軍はどうなのだ?最近は」。
「うーん。どうって言われても、この前の爆発騒ぎで旗艦は全滅。長距離砲も全壊したから、本来の力は出せねえよな。純ちんは気にするなって言ってくれてるけど、大打撃さ。すぐに復旧作業に入ったけど、元の状態に戻すのに、あと半年はかかるだろう」。
「海軍の艦は金食い虫だから、予算を減らす様に言ってる連中も多いって聞く。俺に言わせれば、お前どこの家臣だよって言いたいわ。泣く子も黙る小佐々水軍だぞ?今は海軍だが、海軍なくして小佐々なし、だ」。
「純ちん?」
「ん、何が?」
「今、純ちんって・・・まさか殿の・・・」。
「ええ?!食いつくのそこ?んな事いってねえし。・・・ったく人が真面目な話をしてるってのに」。
大事な事だぞ!と言いそうになったが、やめた。なんだかこの男には、なんでも許せる様な雰囲気があるのだ。
「どうだ、やるか?」
幕舎の脇に置いてあった酒をとり、勝行に勧める。
「お、いいねえ。わかるじゃねえか」。
こうして出撃を前に、夜はふけていった。
開戦初日 子二つ刻(PM11:30)肥前 島原口之津港 陸軍仮設駐屯地
第四混成旅団長 神代貴茂准将
豊前松山城主からの救援要請が入った。すでに第一~第四軍には指令が届いているはずだ。われわれもこれから兵員を補給艦に乗せ、肥後高瀬津の湊へ向かう。関船や小早、商船や漁船も徴用して大至急行う。
北肥後の隈部が周辺の国衆と徒党を組んで、筒ヶ岳城を攻撃するだろうとの予測のもと、事前に布陣しておくのだ。海軍の艦は夜も航行する様だが、今回は事故防止の為日中のみとしている。
口之津から肥後高瀬津の湊まで約三十四海里半(62km)、約五刻(10時間)で輸送が完了する。日の出より行って明日の夕刻、申の三つ刻過ぎには終わるであろう。
しかし未だに信じられない。わが日の本の民が南蛮人と同じ船を作り操っているとは。しかし、そんな事を言えばわが陸軍も仏狼機(フランキ)砲を使っておるな。
「いよう!もっちの兄貴!」
「うわあ!」
深沢義太夫勝行だ。こいつはなんでこういつも、突然現れる?緊張感がない。これから戦だというのに、まるで遊びに行くみたいに。
「その『もっち』はやめろ。誰かが見ていたらどうするのだ。仮にもお前は海軍総司令で海軍大臣であろう」。
そうだ。かくいうわたしもこの年で准将だ。殿が創立した陸海軍は総じて若い。もちろん、歴戦の強者もいるので年齢に幅がでる。陸軍大臣で陸軍総司令の深作次郎兵衛どのなどは、役職と年齢と風貌が、まさに一致しておる。
私の知っている軍は階級が存在せず、役職・役割で上下が決まっておった。殿は身分や家柄に関係のない軍を作り上げている。士族階級と一般平民からの士官の軋轢があるとは聞いているが、これは致し方ない。
われわれには武士の矜恃がある。が、だからといって有能な者をないがしろにしていては、軍の命令系統が機能せぬし、実力も発揮できない。殿が、もしその現場を見たら怒るであろう。・・・。
で、この勝行だが、齢二十三で海軍の最高指揮官である。普通に考えるとあり得ない。しかし本人はどこ吹く風で、どうでもよく、艦に乗れれば何でもいいらしい。しかし、実力は他の者を寄せ付けず、抜群である。
その能力、戦術、戦略眼、士官学校卒の誰よりも抜きん出ている。どれだけの勉強と努力をすれば奴の様になるのだろうか。また、叩き上げで海戦をくぐり抜けてきた経験もある。
過渡期の軍であるから、経験や能力、実力や実績が先行している。よって年齢と役職や階級がかなりそぐわない。私もポルトガル人に言わせれば、この年で四千人の兵を預かる立場とは考えられないらしい。
殿いわく、ちかく海軍大学校や陸軍大学校も新設されるようだ。卒業しなければならない決まりはないが、卒業しなければ少佐止まり。上級指揮官としての能力を学ぶための学校らしい。
そういう意味では私達の世代は『得』しているのかもしれぬ。いずれ後学のために入校はせねばならぬだろうが、人材が不足している。すなわち、現場指揮官が足らぬので、開校したとしてもすぐに全員が入れるわけでもない。
だから大学校の一年生が、少佐と准将で同級生もあり得るわけだ。間違いなく喧嘩が起きるな。
「海軍はどうなのだ?最近は」。
「うーん。どうって言われても、この前の爆発騒ぎで旗艦は全滅。長距離砲も全壊したから、本来の力は出せねえよな。純ちんは気にするなって言ってくれてるけど、大打撃さ。すぐに復旧作業に入ったけど、元の状態に戻すのに、あと半年はかかるだろう」。
「海軍の艦は金食い虫だから、予算を減らす様に言ってる連中も多いって聞く。俺に言わせれば、お前どこの家臣だよって言いたいわ。泣く子も黙る小佐々水軍だぞ?今は海軍だが、海軍なくして小佐々なし、だ」。
「純ちん?」
「ん、何が?」
「今、純ちんって・・・まさか殿の・・・」。
「ええ?!食いつくのそこ?んな事いってねえし。・・・ったく人が真面目な話をしてるってのに」。
大事な事だぞ!と言いそうになったが、やめた。なんだかこの男には、なんでも許せる様な雰囲気があるのだ。
「どうだ、やるか?」
幕舎の脇に置いてあった酒をとり、勝行に勧める。
「お、いいねえ。わかるじゃねえか」。
こうして出撃を前に、夜はふけていった。
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