202 / 767
九州三強と中央への目-肥前王 源朝臣小佐々弾正大弼純正-
初日PM7:30 第三軍大将 蒲池鑑盛
しおりを挟む
九月 開戦初日 戌二つ刻(PM7:30) 筑後国~豊後国 国境
『山北村(現福岡県浮羽町山北)と長谷村(現大分県日田市川下付近)のこの道、何度府内へ参上するときに通ったであろうか。まさかこの様な形で再び通る事になるとは、思いもよらなかった』。
豊後侵攻、日田城攻めのための第三軍大将、蒲池鑑盛はそう感じていた。この道もこの茶屋もこの川もこのあばら家も、みな見覚えがある。峠には豊後側の関所があるので、発覚を防ぐためにその手前の各村に兵は分散させた。
喜びも悲しみも哀しさも虚しさも、よくわからない感情が込み上げる。
「申し上げます!毛利領国境信号所より信号あり。『発 杉長良様 宛 小佐々弾正大弼様 メ メイト マツヤマゼウキウエン モトム メ 午三つ刻(12:00)』となります」。
「相わかった!」
よし、感傷に浸っている場合ではない。兵に向かい号令をかける。
「皆の者!命が下った!われらは明朝国境を越え、小佐々の敵となった大友左衛門督を討つべく日田城へ参る。早々に攻め落とし、府内へ向かう!朝は早いゆえ、しかと休んでおけ!!」
「おおおう!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
明朝 卯三つ刻(AM6:00)
第三軍に攻撃命令(救援要請=攻撃命令と決まっていた)を発し、七千の軍勢が国境を越える。
関所の番人はもちろん止めるが、『降伏か死か』を選ばせると迷う間もなく降伏した。見張りの者を数名おき、日田城へ向かう。日田城までは三里半(14km)ほどだ。一刻半ほどでつくであろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
二日目 巳一つ刻(AM9:00)
日田城東の平野部に陣をはった。日田郡の中でも日田城周辺の村々は盆地になっており、日田城はその中心の丘の上に築かれていた。
山城といえば山城だが、要害ではない。城の北側を北東から南西に花月川が流れており、北東部に主郭、谷を挟んで第二主郭がある。
北東部は西側に土塁を盛り、西下の永興寺へいたる道に、二つの堀切が穿たれている。その外側に、東側以外が土塁で囲まれていた。
しかし城兵は五百もいない。恐らく府内にいたるまでの城で、満足に防備を固めている城は皆無だろう。なんせ二万だ。国衆にも相当無理をさせたんだろう。
ギリっと歯をかみ、拳を握りしめると、思い出したくもない過去を思い出した。
そうだ。われら筑後の国人衆は限界まで絞り上げられ、捨て駒にされたのだ。いかな主君と言えど、われらは生きている人間ぞ。
意味のある死なら甘んじて受けよう。しかし犬死にはごめんだ。さっさと終わらせよう。降伏の使者を送る。城主の財津鎮則は日田郡の代官であり当主だ。
筑前の戦役の際は共に戦い、共に傷をおった。出来うる事なら、同じ苦しみを味わった者同士戦いたくはない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
二日目 午一つ刻(AM11:00)
・・・。驚いた。降伏するとの返事が来たのだ。それと同時に深く安堵した。
「との、まさか謀略ではありますまいか?」
家老の田尻親種が聞いてきた。
「その可能性は否定できぬ。しかし、だからといって信じぬでは道理がたたぬ」。
「さようでございますな。では、条件はどうされますか。相手方は本領安堵を言ってきておりまする」。
「それでよいだろう。殿は人を殺す事を嫌われる。首など見たくない、仕方がないから見ている、ともおっしゃっていた。われらがそうであった様に、小佐々領内諸法度にある条件にあてはめて、従属の条件を選ばせれば良い」。
「これから会う敵は、全員見知った者ばかりじゃ。正直な所、戦いたくはない。しかし、それが通らぬのがこの戦国の世じゃ」。
甘い考えかもしれぬが、もしかするとこれから先府内まで、戦をせずに済むかもしれぬ。みな、いい加減うんざりしているはずだ。
重い軍役に賦役、特に外様は扱いがひどい。その点われらが殿、弾正大弼様は一門も譜代も、外様でさえ同じ様に扱ってくださる。あの殿なら、われらを戦のない世に導いてくれるかもしれぬ。
主城である日田城が降伏したので、その後、周辺の日隈城、月隈城、大蔵城、坂本城、蕪山城の五つの支城も時をかけずして降伏した。日田城から次の角牟礼城までは六里半(26km)、三刻(6時間)の距離だ。日田勢も合流させて向かう。
『山北村(現福岡県浮羽町山北)と長谷村(現大分県日田市川下付近)のこの道、何度府内へ参上するときに通ったであろうか。まさかこの様な形で再び通る事になるとは、思いもよらなかった』。
豊後侵攻、日田城攻めのための第三軍大将、蒲池鑑盛はそう感じていた。この道もこの茶屋もこの川もこのあばら家も、みな見覚えがある。峠には豊後側の関所があるので、発覚を防ぐためにその手前の各村に兵は分散させた。
喜びも悲しみも哀しさも虚しさも、よくわからない感情が込み上げる。
「申し上げます!毛利領国境信号所より信号あり。『発 杉長良様 宛 小佐々弾正大弼様 メ メイト マツヤマゼウキウエン モトム メ 午三つ刻(12:00)』となります」。
「相わかった!」
よし、感傷に浸っている場合ではない。兵に向かい号令をかける。
「皆の者!命が下った!われらは明朝国境を越え、小佐々の敵となった大友左衛門督を討つべく日田城へ参る。早々に攻め落とし、府内へ向かう!朝は早いゆえ、しかと休んでおけ!!」
「おおおう!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
明朝 卯三つ刻(AM6:00)
第三軍に攻撃命令(救援要請=攻撃命令と決まっていた)を発し、七千の軍勢が国境を越える。
関所の番人はもちろん止めるが、『降伏か死か』を選ばせると迷う間もなく降伏した。見張りの者を数名おき、日田城へ向かう。日田城までは三里半(14km)ほどだ。一刻半ほどでつくであろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
二日目 巳一つ刻(AM9:00)
日田城東の平野部に陣をはった。日田郡の中でも日田城周辺の村々は盆地になっており、日田城はその中心の丘の上に築かれていた。
山城といえば山城だが、要害ではない。城の北側を北東から南西に花月川が流れており、北東部に主郭、谷を挟んで第二主郭がある。
北東部は西側に土塁を盛り、西下の永興寺へいたる道に、二つの堀切が穿たれている。その外側に、東側以外が土塁で囲まれていた。
しかし城兵は五百もいない。恐らく府内にいたるまでの城で、満足に防備を固めている城は皆無だろう。なんせ二万だ。国衆にも相当無理をさせたんだろう。
ギリっと歯をかみ、拳を握りしめると、思い出したくもない過去を思い出した。
そうだ。われら筑後の国人衆は限界まで絞り上げられ、捨て駒にされたのだ。いかな主君と言えど、われらは生きている人間ぞ。
意味のある死なら甘んじて受けよう。しかし犬死にはごめんだ。さっさと終わらせよう。降伏の使者を送る。城主の財津鎮則は日田郡の代官であり当主だ。
筑前の戦役の際は共に戦い、共に傷をおった。出来うる事なら、同じ苦しみを味わった者同士戦いたくはない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
二日目 午一つ刻(AM11:00)
・・・。驚いた。降伏するとの返事が来たのだ。それと同時に深く安堵した。
「との、まさか謀略ではありますまいか?」
家老の田尻親種が聞いてきた。
「その可能性は否定できぬ。しかし、だからといって信じぬでは道理がたたぬ」。
「さようでございますな。では、条件はどうされますか。相手方は本領安堵を言ってきておりまする」。
「それでよいだろう。殿は人を殺す事を嫌われる。首など見たくない、仕方がないから見ている、ともおっしゃっていた。われらがそうであった様に、小佐々領内諸法度にある条件にあてはめて、従属の条件を選ばせれば良い」。
「これから会う敵は、全員見知った者ばかりじゃ。正直な所、戦いたくはない。しかし、それが通らぬのがこの戦国の世じゃ」。
甘い考えかもしれぬが、もしかするとこれから先府内まで、戦をせずに済むかもしれぬ。みな、いい加減うんざりしているはずだ。
重い軍役に賦役、特に外様は扱いがひどい。その点われらが殿、弾正大弼様は一門も譜代も、外様でさえ同じ様に扱ってくださる。あの殿なら、われらを戦のない世に導いてくれるかもしれぬ。
主城である日田城が降伏したので、その後、周辺の日隈城、月隈城、大蔵城、坂本城、蕪山城の五つの支城も時をかけずして降伏した。日田城から次の角牟礼城までは六里半(26km)、三刻(6時間)の距離だ。日田勢も合流させて向かう。
2
お気に入りに追加
155
あなたにおすすめの小説
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる