199 / 820
九州三強と中央への目-肥前王 源朝臣小佐々弾正大弼純正-
電光石火 雷神戸次道雪
しおりを挟む
九月 開戦一日目 豊前松山城南 戸次道雪
一町ほどの高さの山頂に築かれた松山城は、海に面した半島のような場所にある。
山頂に一段小高く主郭がある。二の段がまわりを取り囲んでいて、東向きに階段状に二郭、三郭と連なっている。曲輪の南側は外側に土塁を配した横堀、北から西側側面には空堀と土塁を交互に設けて防御している。
「申し上げます!敵、筑前国笠木山城と益富城にて二手に分かれ、香春岳城を攻めんとする様相にございます」。
まだ日差しのきつい昼下がりに、汗まみれの伝令がそう告げる。
「そうか、わかった。ご苦労であった。休むが良い」。
わしは豊前と筑前の地図を見ながらそう答え、下がらせた。
「なにもなさらないので?」
配下の十時連貞が聞いてくる。
「うむ。攻めんとする、であろう?攻められたわけではない。それに香春岳城には吉弘どのが五千の兵で詰めておる。ならば一万や一万五千の兵、三月は持ちこたえてくれよう。それまでにわしが豊前を平らげてくれる。それにいざとなれば、花尾城へ向かった臼杵どのと連携して、敵を挟撃、各個撃破できるわ」。
「さようでござるか・・・」。
しっかりわしの考えを述べると、時貞は安心したようだった。ひき続き地図と松山城の簡略図を眺める。
「ふむ・・・。堅城とは言えぬが、力攻めはこちらも被害がでるな。ひとまずは降伏を呼びかけるか。応じるとは思えんが」。
わしはそうつぶやきながら、伝令を呼び、松山城城主の杉重良に送った。
「南以外三方が海とな。辛うじて西側からもいけるが、土塁と空堀があるから得策ではない。南も同様。まあ得てして城とはそういうものだが・・・。攻めるなら南のほうが兵の損失は少ないの」。
昼過ぎに勧告を行ったのだが、夕方になってやっと返礼の使者がきた。やはり断固戦うとの事だ。致し方ない。よし、動くか。
「誰か!鎮実を呼べ」
しばらくして斎藤鎮実がやってきた。
「よいか。われらはこれより軍を二手に分け南と西から攻める、と見せかける。お主には・・・」。
「よいか?」
「は、かしこまりました!」
そう言って鎮実は去っていった。
「由布惟信、十時連貞は一隊を率いて城の西側に待機し、今にも攻めかからんという勢いをみせよ。安東家忠、高野大膳はわしとともに南からいくぞ」。
「ははあ!」
立花四天王(戸次四天王)が答える。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
深夜
「何事じゃ!何を騒いでおる!」
起き上がり、寝所から板戸を開けて外を見る。暗闇の中、城の東側に火の手が上がっている。まさか敵か?
「申し上げます!東の海側より敵襲にございます!」
「なに!?そんなばかな!やつらは南、いや西から攻めかかってくる勢いであったではないか!」
「そちらは本隊と別働隊にて、攻めると見せかけた陽動であったようです。少数の部隊が海側から崖を登り、密かに土塁石垣を越えて三の曲輪、さらに二の曲輪も突破したようでございます。現在本丸に侵入した敵を探しておりますが、なにぶん火の手が上がっており兵が浮足立っております」。
ばかな。しかもこんなに早く・・・。
「申し上げます!西門、南門突破されましてございます!」
駄目だ。間に合わない。東側を軽んじておったわしの落ち度じゃ。発見が遅れた時、すでに勝負はついておる。もはや収拾がつかぬ状態だ。やむを得ぬ、退くしかあるまい。
「ええい!退け、退けい!小倉まで退く!幸い街道は塞がれておらぬ!退くのだ!」
わしは着の身着のまま、敗残兵をまとめ小倉城まで退いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「殿、よろしかったのですか?街道を塞いでおればやつの首をとれたものを」。
「そうです。追撃してやつの首をとりましょう。今ならまだ間に合いまする」。
「よいのだ。やつの首などどうでもよい。殿は城を落とせとおっしゃったのだ。それに夜の追撃は思わぬ反撃に遭いかねぬ。封鎖して逃げ道を塞いでおれば、それこそ死兵となってわが軍に襲いかかってこよう。今は一兵たりとも無駄にできぬのだ」。
「連貞よ、そちは降伏した兵五百とあわせ千五百でここを守れ。わしはこのまま門司城を落としに行く」。
「重良は小倉の方へ逃げましたが、そちらへは行かぬので?」
「やつの首などいつでも取れる。よいか、今われらに必要なのは何じゃ?正直なところ国力も兵の数も、小佐々には敵わぬ。それゆえ小佐々がくる前に大勢を決めておかねばならぬのだ。国衆が求めているのは強さであり安心だ」。
「われらは勝ち続けなければならぬ。門司を落とし、勢いに乗れば小倉から兵の離散が相次ぐであろう。そうしているうちに日和見の国衆や麻生・杉についておった者もわれらにつくのだ。速さが決め手であるし、勝ち続ける事が肝要なのだ」。
空がうっすらと明るくなる頃、わしは八千の兵とともに門司へと向かった。
一町ほどの高さの山頂に築かれた松山城は、海に面した半島のような場所にある。
山頂に一段小高く主郭がある。二の段がまわりを取り囲んでいて、東向きに階段状に二郭、三郭と連なっている。曲輪の南側は外側に土塁を配した横堀、北から西側側面には空堀と土塁を交互に設けて防御している。
「申し上げます!敵、筑前国笠木山城と益富城にて二手に分かれ、香春岳城を攻めんとする様相にございます」。
まだ日差しのきつい昼下がりに、汗まみれの伝令がそう告げる。
「そうか、わかった。ご苦労であった。休むが良い」。
わしは豊前と筑前の地図を見ながらそう答え、下がらせた。
「なにもなさらないので?」
配下の十時連貞が聞いてくる。
「うむ。攻めんとする、であろう?攻められたわけではない。それに香春岳城には吉弘どのが五千の兵で詰めておる。ならば一万や一万五千の兵、三月は持ちこたえてくれよう。それまでにわしが豊前を平らげてくれる。それにいざとなれば、花尾城へ向かった臼杵どのと連携して、敵を挟撃、各個撃破できるわ」。
「さようでござるか・・・」。
しっかりわしの考えを述べると、時貞は安心したようだった。ひき続き地図と松山城の簡略図を眺める。
「ふむ・・・。堅城とは言えぬが、力攻めはこちらも被害がでるな。ひとまずは降伏を呼びかけるか。応じるとは思えんが」。
わしはそうつぶやきながら、伝令を呼び、松山城城主の杉重良に送った。
「南以外三方が海とな。辛うじて西側からもいけるが、土塁と空堀があるから得策ではない。南も同様。まあ得てして城とはそういうものだが・・・。攻めるなら南のほうが兵の損失は少ないの」。
昼過ぎに勧告を行ったのだが、夕方になってやっと返礼の使者がきた。やはり断固戦うとの事だ。致し方ない。よし、動くか。
「誰か!鎮実を呼べ」
しばらくして斎藤鎮実がやってきた。
「よいか。われらはこれより軍を二手に分け南と西から攻める、と見せかける。お主には・・・」。
「よいか?」
「は、かしこまりました!」
そう言って鎮実は去っていった。
「由布惟信、十時連貞は一隊を率いて城の西側に待機し、今にも攻めかからんという勢いをみせよ。安東家忠、高野大膳はわしとともに南からいくぞ」。
「ははあ!」
立花四天王(戸次四天王)が答える。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
深夜
「何事じゃ!何を騒いでおる!」
起き上がり、寝所から板戸を開けて外を見る。暗闇の中、城の東側に火の手が上がっている。まさか敵か?
「申し上げます!東の海側より敵襲にございます!」
「なに!?そんなばかな!やつらは南、いや西から攻めかかってくる勢いであったではないか!」
「そちらは本隊と別働隊にて、攻めると見せかけた陽動であったようです。少数の部隊が海側から崖を登り、密かに土塁石垣を越えて三の曲輪、さらに二の曲輪も突破したようでございます。現在本丸に侵入した敵を探しておりますが、なにぶん火の手が上がっており兵が浮足立っております」。
ばかな。しかもこんなに早く・・・。
「申し上げます!西門、南門突破されましてございます!」
駄目だ。間に合わない。東側を軽んじておったわしの落ち度じゃ。発見が遅れた時、すでに勝負はついておる。もはや収拾がつかぬ状態だ。やむを得ぬ、退くしかあるまい。
「ええい!退け、退けい!小倉まで退く!幸い街道は塞がれておらぬ!退くのだ!」
わしは着の身着のまま、敗残兵をまとめ小倉城まで退いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「殿、よろしかったのですか?街道を塞いでおればやつの首をとれたものを」。
「そうです。追撃してやつの首をとりましょう。今ならまだ間に合いまする」。
「よいのだ。やつの首などどうでもよい。殿は城を落とせとおっしゃったのだ。それに夜の追撃は思わぬ反撃に遭いかねぬ。封鎖して逃げ道を塞いでおれば、それこそ死兵となってわが軍に襲いかかってこよう。今は一兵たりとも無駄にできぬのだ」。
「連貞よ、そちは降伏した兵五百とあわせ千五百でここを守れ。わしはこのまま門司城を落としに行く」。
「重良は小倉の方へ逃げましたが、そちらへは行かぬので?」
「やつの首などいつでも取れる。よいか、今われらに必要なのは何じゃ?正直なところ国力も兵の数も、小佐々には敵わぬ。それゆえ小佐々がくる前に大勢を決めておかねばならぬのだ。国衆が求めているのは強さであり安心だ」。
「われらは勝ち続けなければならぬ。門司を落とし、勢いに乗れば小倉から兵の離散が相次ぐであろう。そうしているうちに日和見の国衆や麻生・杉についておった者もわれらにつくのだ。速さが決め手であるし、勝ち続ける事が肝要なのだ」。
空がうっすらと明るくなる頃、わしは八千の兵とともに門司へと向かった。
1
お気に入りに追加
158
あなたにおすすめの小説
S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった
ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」
15歳の春。
念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。
「隊長とか面倒くさいんですけど」
S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは……
「部下は美女揃いだぞ?」
「やらせていただきます!」
こうして俺は仕方なく隊長となった。
渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。
女騎士二人は17歳。
もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。
「あの……みんな年上なんですが」
「だが美人揃いだぞ?」
「がんばります!」
とは言ったものの。
俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?
と思っていた翌日の朝。
実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた!
★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。
※2023年11月25日に書籍が発売!
イラストレーターはiltusa先生です!
※コミカライズも進行中!
『転生した無名藩士、幕末の動乱を生き抜く~時代・技術考証や設定などは完全無視です!~』
姜維信繁
ファンタジー
佐賀藩より早く蒸気船に蒸気機関車、アームストロング砲。列強に勝つ!
人生100年時代の折り返し地点に来た企画営業部長の清水亨は、大きなプロジェクトをやり遂げて、久しぶりに長崎の実家に帰ってきた。
学生時代の仲間とどんちゃん騒ぎのあげく、急性アルコール中毒で死んでしまう。
しかし、目が覚めたら幕末の動乱期。龍馬や西郷や桂や高杉……と思いつつ。あまり幕末史でも知名度のない「薩長土肥」の『肥』のさらに隣の藩の大村藩のお話。
で、誰に転生したかと言うと、これまた誰も知らない、地元の人もおそらく知らない人の末裔として。
なーんにもしなければ、間違いなく幕末の動乱に巻き込まれ、戊辰戦争マッシグラ。それを回避して西洋列強にまけない国(藩)づくりに励む事になるのだが……。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる