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九州三強と中央への目-肥前王 源朝臣小佐々弾正大弼純正-

電光石火 雷神戸次道雪

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九月 開戦一日目 豊前松山城南 戸次道雪

一町ほどの高さの山頂に築かれた松山城は、海に面した半島のような場所にある。

山頂に一段小高く主郭がある。二の段がまわりを取り囲んでいて、東向きに階段状に二郭、三郭と連なっている。曲輪の南側は外側に土塁を配した横堀、北から西側側面には空堀と土塁を交互に設けて防御している。

「申し上げます!敵、筑前国笠木山城と益富城にて二手に分かれ、香春岳城を攻めんとする様相にございます」。

まだ日差しのきつい昼下がりに、汗まみれの伝令がそう告げる。

「そうか、わかった。ご苦労であった。休むが良い」。
わしは豊前と筑前の地図を見ながらそう答え、下がらせた。

「なにもなさらないので?」
配下の十時連貞が聞いてくる。

「うむ。攻めんとする、であろう?攻められたわけではない。それに香春岳城には吉弘どのが五千の兵で詰めておる。ならば一万や一万五千の兵、三月は持ちこたえてくれよう。それまでにわしが豊前を平らげてくれる。それにいざとなれば、花尾城へ向かった臼杵どのと連携して、敵を挟撃、各個撃破できるわ」。

「さようでござるか・・・」。
しっかりわしの考えを述べると、時貞は安心したようだった。ひき続き地図と松山城の簡略図を眺める。

「ふむ・・・。堅城とは言えぬが、力攻めはこちらも被害がでるな。ひとまずは降伏を呼びかけるか。応じるとは思えんが」。
わしはそうつぶやきながら、伝令を呼び、松山城城主の杉重良に送った。

「南以外三方が海とな。辛うじて西側からもいけるが、土塁と空堀があるから得策ではない。南も同様。まあ得てして城とはそういうものだが・・・。攻めるなら南のほうが兵の損失は少ないの」。

昼過ぎに勧告を行ったのだが、夕方になってやっと返礼の使者がきた。やはり断固戦うとの事だ。致し方ない。よし、動くか。

「誰か!鎮実を呼べ」
しばらくして斎藤鎮実がやってきた。

「よいか。われらはこれより軍を二手に分け南と西から攻める、と見せかける。お主には・・・」。
「よいか?」

「は、かしこまりました!」
そう言って鎮実は去っていった。

「由布惟信、十時連貞は一隊を率いて城の西側に待機し、今にも攻めかからんという勢いをみせよ。安東家忠、高野大膳はわしとともに南からいくぞ」。

「ははあ!」
立花四天王(戸次四天王)が答える。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
深夜

「何事じゃ!何を騒いでおる!」
起き上がり、寝所から板戸を開けて外を見る。暗闇の中、城の東側に火の手が上がっている。まさか敵か?
「申し上げます!東の海側より敵襲にございます!」

「なに!?そんなばかな!やつらは南、いや西から攻めかかってくる勢いであったではないか!」

「そちらは本隊と別働隊にて、攻めると見せかけた陽動であったようです。少数の部隊が海側から崖を登り、密かに土塁石垣を越えて三の曲輪、さらに二の曲輪も突破したようでございます。現在本丸に侵入した敵を探しておりますが、なにぶん火の手が上がっており兵が浮足立っております」。

ばかな。しかもこんなに早く・・・。

「申し上げます!西門、南門突破されましてございます!」
駄目だ。間に合わない。東側を軽んじておったわしの落ち度じゃ。発見が遅れた時、すでに勝負はついておる。もはや収拾がつかぬ状態だ。やむを得ぬ、退くしかあるまい。

「ええい!退け、退けい!小倉まで退く!幸い街道は塞がれておらぬ!退くのだ!」
わしは着の身着のまま、敗残兵をまとめ小倉城まで退いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「殿、よろしかったのですか?街道を塞いでおればやつの首をとれたものを」。

「そうです。追撃してやつの首をとりましょう。今ならまだ間に合いまする」。

「よいのだ。やつの首などどうでもよい。殿は城を落とせとおっしゃったのだ。それに夜の追撃は思わぬ反撃に遭いかねぬ。封鎖して逃げ道を塞いでおれば、それこそ死兵となってわが軍に襲いかかってこよう。今は一兵たりとも無駄にできぬのだ」。

「連貞よ、そちは降伏した兵五百とあわせ千五百でここを守れ。わしはこのまま門司城を落としに行く」。

「重良は小倉の方へ逃げましたが、そちらへは行かぬので?」

「やつの首などいつでも取れる。よいか、今われらに必要なのは何じゃ?正直なところ国力も兵の数も、小佐々には敵わぬ。それゆえ小佐々がくる前に大勢を決めておかねばならぬのだ。国衆が求めているのは強さであり安心だ」。

「われらは勝ち続けなければならぬ。門司を落とし、勢いに乗れば小倉から兵の離散が相次ぐであろう。そうしているうちに日和見の国衆や麻生・杉についておった者もわれらにつくのだ。速さが決め手であるし、勝ち続ける事が肝要なのだ」。

空がうっすらと明るくなる頃、わしは八千の兵とともに門司へと向かった。
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