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九州三強と中央への目-肥前王 源朝臣小佐々弾正大弼純正-
工部省筆頭技術者 鬼才 国友一貫斎
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永禄十一年 七月 工部省 技術研修室 国友一貫斎(いっかんさい)
わしの名は二代目国友一貫斎。
小佐々家工部省、技術開発局の筆頭技術者だ。もう三十前だが結婚もせず(やかましいわ!)、研究一筋で独身を貫いている。
むかし、といっても五~六年前になるが、忠右衛門様と一緒に火縄に替わる発火装置の研究に頭を悩ませていたのが懐かしい。今は忠右衛門様は会議に出る事が多いとボヤいている。
『試行錯誤は大変だが、お前と一緒にモノづくりをしていたほうが楽しい』と、ここを訪れるたびに言っている。
さて、殿がわれわれに注文している課題は多すぎる。
武器の開発に航海用の機器、石炭の無煙化をはじめ、例によって『こおくす』の効率的な作成と耐火『レンガ』の作成などだ。
『レンガ』に関しては、朝鮮人の陶工が領内全域で材料を探し回っている。
なんでも熱に強い粘土を使って、熱に強いレンガをつくり、そのレンガを使ってまた熱に強い窯をつくるらしい。狐につままれた様な、禅問答のような話だ。
ともあれ最後にできた耐火レンガを使って炉を作るようだ。殿が言っておった『反射炉』なる物。これができれば今までの鉄よりも遥かに硬くて丈夫な鉄ができる様になるらしい。
そうはいっても銅や錫を混ぜて作る大砲も、フランキ砲からあまり進歩しておらん。
殿は後装砲をやめて前装砲の開発を急げと仰っていたな。確かに今のままでは火薬の力を充分に活かしきれてないから、弾も五町(545m)程度しか飛ばぬ。
ここはじっくり腰を据えてかからねば。
後二つ。連発銃と石炭の煙だ。
連発銃に関しては、単純に考えれば燧発式でも火縄式でも同じ。五~六個まとめて束ねておけば、技術的には可能だ。しかし重くなるし、仮に六発まとめても、かかる時間は同じだ。
ただ単に、撃つ時に連発できるだけの話。さらに火縄に火をつける作業が六回必要だ。
燧発式だな、これは。しかし、これでは六人が順に並んで撃つのと変わらない。そこでわしが考えたのが、連発の前に単発の今の銃を、素早く撃てないか、という事。
これが出来なければ連発も夢のまた夢だ。
今の銃は銃口から玉と火薬を入れて、カルカで押し込み、そして火薬を玉でふさいで密閉させてから火をつける。火薬の爆発が玉に伝わって飛ぶのだが、この作業に時間がかかる。
火薬と玉が一緒になった物が作れないだろうか?
だいたい前から込めるのも時間がかかる。短いならまだしも四尺ほどあるから時間の無駄がある。しかし密閉するために押し込むのだから、押し込まなくても密閉できる仕掛けが必要だ。
大砲は無理だったが、鉄砲なら後装でもできないだろうか? 要するに着火ができて、かつ密閉できるならいいのだろうが、これはまた試行錯誤が必要だぞ。
それから石炭だ。煙をなくしたい、との殿の要望だったが、石炭じゃなくても物が燃えたら煙が出る。当たり前の話だ。
しかしよくよく考えてみると、燃える物によっては真っ黒な煙もあり、灰色もあり、薄い灰色もある。なぜだ? 同じ様に燃えていても色が違う。
そして煙はやはり臭うが、咳き込む様な匂いもあれば、ただ臭いだけの物もある。嗅いでもそこまで気にならない煙もある。不思議だ。
それから天草の石炭は。同じ石炭でも煙がでない。しかし、火がつきにくい。煙が出ないなら、そのまま家で使う燃料に使えそうだが……。
黒い煙は匂いも凄いがすすが凄い。
他の煙でもすすがつくが、特に黒い煙のすすが凄い。いや、色が黒いほどすすが多い。炭が燃え残っているのかと思い火をつけても燃えない。なんなのだ? これは炭なのか?
ただ、布のフタを被せてみるとその布にススがつく。
煙は真っ黒ではなくなる。ということは、真っ黒の煙の中身はこのスス、小さいススが舞ってそれが集まって黒く見えているということか?
ススはとれても……。そうだ、殿はこれから硫黄がとれるとも仰っていた。しかしやり方はわからんと。やり方がわからないのに、なぜ火薬の原料の硫黄ができるのを知っているのだ?
殿は謎多き方だ。
しかし、このもの好きに好きなだけ研究をさせてくれる。しかも給金までくれるのだから、やはりありがたい。が、変わった人なのだろう。
ひとまず実験室で煙の上にいろんな物を置いてみよう。水、鉄、粘土、石灰、木炭、石、なんでもありだ。そうだ、お父上もちょっと変わった人だった。
石炭灰がセメントに使えると言っていた。
そもそもそのセメントの作り方で、配合をどうしようか考えて悩んでいたら、殿になにやら耳元で伝えていた。殿はそれを聞いて、お父上に抱きつく勢いで喜んでいたな。
なんだろう、不思議な親子だ。
いやいや主君に対してこんな事ではいかん!
国友一貫斎の研究はつづく……。
わしの名は二代目国友一貫斎。
小佐々家工部省、技術開発局の筆頭技術者だ。もう三十前だが結婚もせず(やかましいわ!)、研究一筋で独身を貫いている。
むかし、といっても五~六年前になるが、忠右衛門様と一緒に火縄に替わる発火装置の研究に頭を悩ませていたのが懐かしい。今は忠右衛門様は会議に出る事が多いとボヤいている。
『試行錯誤は大変だが、お前と一緒にモノづくりをしていたほうが楽しい』と、ここを訪れるたびに言っている。
さて、殿がわれわれに注文している課題は多すぎる。
武器の開発に航海用の機器、石炭の無煙化をはじめ、例によって『こおくす』の効率的な作成と耐火『レンガ』の作成などだ。
『レンガ』に関しては、朝鮮人の陶工が領内全域で材料を探し回っている。
なんでも熱に強い粘土を使って、熱に強いレンガをつくり、そのレンガを使ってまた熱に強い窯をつくるらしい。狐につままれた様な、禅問答のような話だ。
ともあれ最後にできた耐火レンガを使って炉を作るようだ。殿が言っておった『反射炉』なる物。これができれば今までの鉄よりも遥かに硬くて丈夫な鉄ができる様になるらしい。
そうはいっても銅や錫を混ぜて作る大砲も、フランキ砲からあまり進歩しておらん。
殿は後装砲をやめて前装砲の開発を急げと仰っていたな。確かに今のままでは火薬の力を充分に活かしきれてないから、弾も五町(545m)程度しか飛ばぬ。
ここはじっくり腰を据えてかからねば。
後二つ。連発銃と石炭の煙だ。
連発銃に関しては、単純に考えれば燧発式でも火縄式でも同じ。五~六個まとめて束ねておけば、技術的には可能だ。しかし重くなるし、仮に六発まとめても、かかる時間は同じだ。
ただ単に、撃つ時に連発できるだけの話。さらに火縄に火をつける作業が六回必要だ。
燧発式だな、これは。しかし、これでは六人が順に並んで撃つのと変わらない。そこでわしが考えたのが、連発の前に単発の今の銃を、素早く撃てないか、という事。
これが出来なければ連発も夢のまた夢だ。
今の銃は銃口から玉と火薬を入れて、カルカで押し込み、そして火薬を玉でふさいで密閉させてから火をつける。火薬の爆発が玉に伝わって飛ぶのだが、この作業に時間がかかる。
火薬と玉が一緒になった物が作れないだろうか?
だいたい前から込めるのも時間がかかる。短いならまだしも四尺ほどあるから時間の無駄がある。しかし密閉するために押し込むのだから、押し込まなくても密閉できる仕掛けが必要だ。
大砲は無理だったが、鉄砲なら後装でもできないだろうか? 要するに着火ができて、かつ密閉できるならいいのだろうが、これはまた試行錯誤が必要だぞ。
それから石炭だ。煙をなくしたい、との殿の要望だったが、石炭じゃなくても物が燃えたら煙が出る。当たり前の話だ。
しかしよくよく考えてみると、燃える物によっては真っ黒な煙もあり、灰色もあり、薄い灰色もある。なぜだ? 同じ様に燃えていても色が違う。
そして煙はやはり臭うが、咳き込む様な匂いもあれば、ただ臭いだけの物もある。嗅いでもそこまで気にならない煙もある。不思議だ。
それから天草の石炭は。同じ石炭でも煙がでない。しかし、火がつきにくい。煙が出ないなら、そのまま家で使う燃料に使えそうだが……。
黒い煙は匂いも凄いがすすが凄い。
他の煙でもすすがつくが、特に黒い煙のすすが凄い。いや、色が黒いほどすすが多い。炭が燃え残っているのかと思い火をつけても燃えない。なんなのだ? これは炭なのか?
ただ、布のフタを被せてみるとその布にススがつく。
煙は真っ黒ではなくなる。ということは、真っ黒の煙の中身はこのスス、小さいススが舞ってそれが集まって黒く見えているということか?
ススはとれても……。そうだ、殿はこれから硫黄がとれるとも仰っていた。しかしやり方はわからんと。やり方がわからないのに、なぜ火薬の原料の硫黄ができるのを知っているのだ?
殿は謎多き方だ。
しかし、このもの好きに好きなだけ研究をさせてくれる。しかも給金までくれるのだから、やはりありがたい。が、変わった人なのだろう。
ひとまず実験室で煙の上にいろんな物を置いてみよう。水、鉄、粘土、石灰、木炭、石、なんでもありだ。そうだ、お父上もちょっと変わった人だった。
石炭灰がセメントに使えると言っていた。
そもそもそのセメントの作り方で、配合をどうしようか考えて悩んでいたら、殿になにやら耳元で伝えていた。殿はそれを聞いて、お父上に抱きつく勢いで喜んでいたな。
なんだろう、不思議な親子だ。
いやいや主君に対してこんな事ではいかん!
国友一貫斎の研究はつづく……。
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