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九州三強と中央への目-肥前王 源朝臣小佐々弾正大弼純正-
激震!巨星墜つ。元就の死
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永禄十一年 六月十四日 隠岐国 山中幸盛
「なに!?まことか!?毛利元就が死んだと!僥倖である!!」
わしは傍らにいる孫四郎様(尼子勝久)と、立原久綱ら尼子牢人と喜び沸き立った。ついにわれらが尼子再興の時が来たのである。
毛利元就、中国の覇者。考えたくも言いたくもないが、傑物は確かである。そう、安芸の一国人に過ぎなかった毛利を、大内を喰いわが尼子を滅ぼすまでに育てた男なのだ。その男が死んだ。これを祝わずしていられるか。
「殿、おめでとうございます。これで尼子家再興はなったも同然。すぐにでもわれらが本拠、月山富田城を取り戻しましょうぞ」
と言ったのは家老の立原久綱。有能な男である。
一昨年永禄九年(1566年)、月山富田城が落城した際は、降伏の使者として毛利と交渉。その格別に鮮やかな対応に、毛利より二千貫の仕官の申し出があったそうだ。もちろん断っている。忠義に厚い男だ。
「お待ち下さい。逸る気持ちはわかりますが、それは時期尚早にございます。いかに山名の支援を受けているとはいえ、一足飛びにはまいりません」。
山名氏は長年尼子と敵対していた。しかし毛利に備後・伯耆・因幡を制圧されつつあり、歯止めをかけるために支援を了解したのだ。
「まずは島根半島に上陸した後に忠山の砦を落とし、再興の激を飛ばしましょう。さすれば旧臣が集まり三千から五千にはなりましょう。その後、多賀元龍が籠もる真山城を攻略、ついで宍道湖の北に位置する末次に城を築いてわれらの拠点とします」。
「そうした後、因幡・出雲・石見・伯耆の各所で合戦を繰り広げ勢力を拡大します。元就の死後、跡をついだ孫の輝元は愚鈍で優柔不断な男と聞いております。いかな毛利の両川、吉川元春と小早川隆景がいるといっても、われらのこの動きに即座には対応できますまい」。
毛利に両川ありなら、今の尼子にはわしがいる。立原どのもいる。尼子家再興は、決して絵に描いた餅ではない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
六月十四日~ 臼杵城 大友宗麟
「なに?元就が死んだ?はははははははっ!!誠か?豊前の毛利の動きはどうだ?」
「は、動揺が走っているようです。しかし即座に退却するわけでもなく、防備をかため、本国からの命を待っている様にございます」
「で、あろうな。よし、そのまま麻生、杉ら毛利傘下の国人衆の動きから目を離すな。そして出雲に使いをだせ。この大友宗麟、全力で尼子殿を支援するとな」。
「ははあ」
「ふふふ。元就が死んだか。残ったのは無能な孫と二人の息子。この二人はやっかいだが、船頭がおらねば本来の力はだせぬものだ。ふふふ、もう少し時が必要かと思ったが、存外早くきたな。これで豊前筑前の毛利領はわれらの物だ」。
「筑前には目を光らせておけよ!盗人猛々しく攻め取るかもしれぬからな」。
宗麟はそう言って腕を組み。目を瞑った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・数刻前 吉田郡山城
病床の元就のもとには孫で家督を継いだ毛利輝元、次男の吉川元春、そして三男の小早川隆景がいた。
「よいか輝元。わしはもう駄目だ。後は頼むぞ。そなたは若い故、いろいろと判断に迷う事もあろう。諸事万端二人の叔父に必ず相談して決めるのだぞ。決して短慮はならぬ」。
「何をおっしゃいますかお祖父様!お祖父様は回復なされます」。
ぐっと元就の手を握って話しかける輝元。そしてそれを、なんどかゆっくりと叩いて諭す元就。
「元春、隆景。その方らには苦労をかけたな。もう少し、この毛利のために骨を折ってはくれぬか。頼む。ふふ、武の元春と智の隆景。そう言われて久しいが、兄弟でも似てはおらぬな。お陰で毛利も随分大きくなった。礼を言う」。
父上!と二人が寄り添う。
「何を言われます!毛利にはまだまだ父上が必要にございます。お気を確かにもって養生してください。」。
元就の笑顔が、心なしか力がない。もう、そんな気力も残っていないのだろうか。
「自分の体の事は自分が一番良くわかっておる。よいか、わしの遺言は決して『天下を競望せず』じゃ。この領地を、しかと守る事だけに専念せよ」。
そう言うと元就はそっと目を閉じ、その目が開かれる事はなかった。
永禄十一年 六月十四日 毛利元就 没 享年七十一
「なに!?まことか!?毛利元就が死んだと!僥倖である!!」
わしは傍らにいる孫四郎様(尼子勝久)と、立原久綱ら尼子牢人と喜び沸き立った。ついにわれらが尼子再興の時が来たのである。
毛利元就、中国の覇者。考えたくも言いたくもないが、傑物は確かである。そう、安芸の一国人に過ぎなかった毛利を、大内を喰いわが尼子を滅ぼすまでに育てた男なのだ。その男が死んだ。これを祝わずしていられるか。
「殿、おめでとうございます。これで尼子家再興はなったも同然。すぐにでもわれらが本拠、月山富田城を取り戻しましょうぞ」
と言ったのは家老の立原久綱。有能な男である。
一昨年永禄九年(1566年)、月山富田城が落城した際は、降伏の使者として毛利と交渉。その格別に鮮やかな対応に、毛利より二千貫の仕官の申し出があったそうだ。もちろん断っている。忠義に厚い男だ。
「お待ち下さい。逸る気持ちはわかりますが、それは時期尚早にございます。いかに山名の支援を受けているとはいえ、一足飛びにはまいりません」。
山名氏は長年尼子と敵対していた。しかし毛利に備後・伯耆・因幡を制圧されつつあり、歯止めをかけるために支援を了解したのだ。
「まずは島根半島に上陸した後に忠山の砦を落とし、再興の激を飛ばしましょう。さすれば旧臣が集まり三千から五千にはなりましょう。その後、多賀元龍が籠もる真山城を攻略、ついで宍道湖の北に位置する末次に城を築いてわれらの拠点とします」。
「そうした後、因幡・出雲・石見・伯耆の各所で合戦を繰り広げ勢力を拡大します。元就の死後、跡をついだ孫の輝元は愚鈍で優柔不断な男と聞いております。いかな毛利の両川、吉川元春と小早川隆景がいるといっても、われらのこの動きに即座には対応できますまい」。
毛利に両川ありなら、今の尼子にはわしがいる。立原どのもいる。尼子家再興は、決して絵に描いた餅ではない。
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六月十四日~ 臼杵城 大友宗麟
「なに?元就が死んだ?はははははははっ!!誠か?豊前の毛利の動きはどうだ?」
「は、動揺が走っているようです。しかし即座に退却するわけでもなく、防備をかため、本国からの命を待っている様にございます」
「で、あろうな。よし、そのまま麻生、杉ら毛利傘下の国人衆の動きから目を離すな。そして出雲に使いをだせ。この大友宗麟、全力で尼子殿を支援するとな」。
「ははあ」
「ふふふ。元就が死んだか。残ったのは無能な孫と二人の息子。この二人はやっかいだが、船頭がおらねば本来の力はだせぬものだ。ふふふ、もう少し時が必要かと思ったが、存外早くきたな。これで豊前筑前の毛利領はわれらの物だ」。
「筑前には目を光らせておけよ!盗人猛々しく攻め取るかもしれぬからな」。
宗麟はそう言って腕を組み。目を瞑った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・数刻前 吉田郡山城
病床の元就のもとには孫で家督を継いだ毛利輝元、次男の吉川元春、そして三男の小早川隆景がいた。
「よいか輝元。わしはもう駄目だ。後は頼むぞ。そなたは若い故、いろいろと判断に迷う事もあろう。諸事万端二人の叔父に必ず相談して決めるのだぞ。決して短慮はならぬ」。
「何をおっしゃいますかお祖父様!お祖父様は回復なされます」。
ぐっと元就の手を握って話しかける輝元。そしてそれを、なんどかゆっくりと叩いて諭す元就。
「元春、隆景。その方らには苦労をかけたな。もう少し、この毛利のために骨を折ってはくれぬか。頼む。ふふ、武の元春と智の隆景。そう言われて久しいが、兄弟でも似てはおらぬな。お陰で毛利も随分大きくなった。礼を言う」。
父上!と二人が寄り添う。
「何を言われます!毛利にはまだまだ父上が必要にございます。お気を確かにもって養生してください。」。
元就の笑顔が、心なしか力がない。もう、そんな気力も残っていないのだろうか。
「自分の体の事は自分が一番良くわかっておる。よいか、わしの遺言は決して『天下を競望せず』じゃ。この領地を、しかと守る事だけに専念せよ」。
そう言うと元就はそっと目を閉じ、その目が開かれる事はなかった。
永禄十一年 六月十四日 毛利元就 没 享年七十一
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