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九州三強と中央への目-北九州を二分する 二つの二虎競食の計-
三好義継と松永久秀
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同年 五月 信貴山城 松永弾正久秀
「申し上げます。小佐々肥前守と申す者から書状が届いております」
なに? 小佐々? 聞いた事はある。遠く九州の地で勢いがあり、肥前・筑前・筑後、そして北肥後も支配下にいれたという。
朝廷や幕府に献金をしてきており、その献金の額は数えきれぬ。もはや大友宗麟をもしのぐ力だとか。
昨今、京都の所司代になったと聞いておるが、まさか助力の申し出ではなかろう。財力と兵力、味方にできれば心強い事この上ないが、どうであろうか。
今年に入ってはや五ヶ月、三好はこの大和から引く気配を見せぬ。
城は包囲されておらぬが、それも時間の問題であろう。
いずれにしてもこのままではわれらが不利な状況は変わらぬ。われらは認めぬが、三好日向守は御供衆になり、義栄が将軍に宣下されたのは事実。
「山城守よ、なにやら助力の文が来たようだな」
殿が近づいてきて話しかけてくる。
「はあ、こちらにございます」
わしは主君筋である三好左京大夫義継様に小佐々からの文を手渡す。殿は畳まれた文を開き、さっと広げる。そしてゆっくりと読み、読み終えるとわしに手渡してきた。
『左京大夫どの、危急存亡の秋、一進一退の攻防にて気苦労が絶えぬ事、ご心労お察しいたします。われらといたしましては、ご助力やぶさかではございませぬ。しかしながら、なにぶん所司代という立場上、表立ってのご支援は能いませぬ。さしあたっては鉄砲矢弾、兵糧などをお送りいたします。今は苦しい時かとは存じますが、九月になれば光明が見え申す。それまでご辛抱なさいますよう。小佐々弾正大弼純正より』
なんだこれは?
付近の農民にでも紛らせて兵糧や矢玉を送り込むというのか? ありがたい話だが、なぜこんな危険を冒す? 三人衆に漏れでもしたら事だ。
それにわれらとは直接誼を通じてはおらぬ。
そして九月とはなんだ? 九月になにが起きるというのだ。
「山城守よ、小佐々とはちかごろ所司代になった、あの小佐々か? 助力はありがたいが、随分と中途半端であるな。確かに立場上、表立って助力能わぬのは致し方ないが」
「それにしても……。九月とは何だ? 光明とは? 山城守、なにか心当たりでもあるか?」
わが殿は凡庸ではない。生まれてくる時代が違えば、よき殿になったであろうに。
九条家とのしがらみ、三好家中の勢力争い、若年ゆえのあせり。すべてが殿に不利な状況でここまでやってこられた。
わしに敵対し、三人衆と結託したのも担ぎ上げられたのだろう。傀儡だとわかっていても、抗えなかったのかもしれぬ。
それが将軍義栄を擁立するにあたって、三人衆の関心はより御しやすい義栄に移り、義栄や周りもまた、殿を軽んじた。
「は、それがしにもとんとわかりかねますが、貰える物は貰っておきましょう。何しろ小佐々は九州にて日の出の勢い。田舎者だと馬鹿にしておっては、勿体のうございます。また、洛中でも商いの真似事をやっておるらしく、その財力は間違いなくわれらの今後に役に立ち申そう」
「なるほど。山城守の言や良し。ありがたく頂戴し、今後も昵懇にお願いする、と返書いたそう」
殿はそう言って自分の居室に戻っていった。
さて、こうしてはおれぬな。今後の事を考えねば。
「申し上げます。小佐々肥前守と申す者から書状が届いております」
なに? 小佐々? 聞いた事はある。遠く九州の地で勢いがあり、肥前・筑前・筑後、そして北肥後も支配下にいれたという。
朝廷や幕府に献金をしてきており、その献金の額は数えきれぬ。もはや大友宗麟をもしのぐ力だとか。
昨今、京都の所司代になったと聞いておるが、まさか助力の申し出ではなかろう。財力と兵力、味方にできれば心強い事この上ないが、どうであろうか。
今年に入ってはや五ヶ月、三好はこの大和から引く気配を見せぬ。
城は包囲されておらぬが、それも時間の問題であろう。
いずれにしてもこのままではわれらが不利な状況は変わらぬ。われらは認めぬが、三好日向守は御供衆になり、義栄が将軍に宣下されたのは事実。
「山城守よ、なにやら助力の文が来たようだな」
殿が近づいてきて話しかけてくる。
「はあ、こちらにございます」
わしは主君筋である三好左京大夫義継様に小佐々からの文を手渡す。殿は畳まれた文を開き、さっと広げる。そしてゆっくりと読み、読み終えるとわしに手渡してきた。
『左京大夫どの、危急存亡の秋、一進一退の攻防にて気苦労が絶えぬ事、ご心労お察しいたします。われらといたしましては、ご助力やぶさかではございませぬ。しかしながら、なにぶん所司代という立場上、表立ってのご支援は能いませぬ。さしあたっては鉄砲矢弾、兵糧などをお送りいたします。今は苦しい時かとは存じますが、九月になれば光明が見え申す。それまでご辛抱なさいますよう。小佐々弾正大弼純正より』
なんだこれは?
付近の農民にでも紛らせて兵糧や矢玉を送り込むというのか? ありがたい話だが、なぜこんな危険を冒す? 三人衆に漏れでもしたら事だ。
それにわれらとは直接誼を通じてはおらぬ。
そして九月とはなんだ? 九月になにが起きるというのだ。
「山城守よ、小佐々とはちかごろ所司代になった、あの小佐々か? 助力はありがたいが、随分と中途半端であるな。確かに立場上、表立って助力能わぬのは致し方ないが」
「それにしても……。九月とは何だ? 光明とは? 山城守、なにか心当たりでもあるか?」
わが殿は凡庸ではない。生まれてくる時代が違えば、よき殿になったであろうに。
九条家とのしがらみ、三好家中の勢力争い、若年ゆえのあせり。すべてが殿に不利な状況でここまでやってこられた。
わしに敵対し、三人衆と結託したのも担ぎ上げられたのだろう。傀儡だとわかっていても、抗えなかったのかもしれぬ。
それが将軍義栄を擁立するにあたって、三人衆の関心はより御しやすい義栄に移り、義栄や周りもまた、殿を軽んじた。
「は、それがしにもとんとわかりかねますが、貰える物は貰っておきましょう。何しろ小佐々は九州にて日の出の勢い。田舎者だと馬鹿にしておっては、勿体のうございます。また、洛中でも商いの真似事をやっておるらしく、その財力は間違いなくわれらの今後に役に立ち申そう」
「なるほど。山城守の言や良し。ありがたく頂戴し、今後も昵懇にお願いする、と返書いたそう」
殿はそう言って自分の居室に戻っていった。
さて、こうしてはおれぬな。今後の事を考えねば。
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