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九州三強と中央への目-北九州を二分する 二つの二虎競食の計-
波紋。義陽と利三郎と長智
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永禄十一年 二月 古麓城 相良義陽
「どうなっているのだ?」
わしはありえない事実に憤慨し、しかし起きている状況が理解できない。家老の深水長智に聞いた。
「は、天草五人衆のうち三人が小佐々に降ったとなれば由々しき事態でございます。されど小佐々の調略ではなく、さらにわれらに対する不平不満からの離反ではありませぬ」。
「ではなんじゃ」
「薩摩の島津にございます」
「いま当家は東は伊東と婚姻を結び、北は甲斐宗運を通じて阿蘇と誼を通じておりまする。そして南は島津と和議を結んでおりまするが、島津は三州統一の野心を捨てておりませぬ。それどころか一族の悲願にて、大隅の肝付に日向の伊東とせめぎ合ってございます」。
「ふむ」
「そうした流れの中、われらでは島津に抗うのが難しい。小佐々の庇護のもと家を保つ、そう判断したからに他なりません」。
「だとしてもだ!そう簡単に割り切れぬわ!」
「割り切れぬとも割り切ってくだされ!お家のためにございます」。
深水長智はいつになく真剣だ。
「攻めまするか?なるほど攻める事は能うでしょう。しかし勝てまするか?勝てぬ戦はやってはなりませぬ。今のところ島津とは戦にならぬでしょう。やつらも三州統一が優先事項でございますからな。しかし仮に、全力で攻めたとて、われらは出せて八千でござる。阿蘇を足したとて二万には届きますまい」。
「わしは今まで、この伊東・阿蘇の盟が崩れた時、頼るのは大友だと思っておりました。しかし大友は今、以前の栄華の見る影もありませぬ」。
「対して小佐々はどうでしょうか」
「直轄地だけで七十万弱、一族と国人衆をあわせれば百五十万、同盟もいれれば二百万に届かんとする勢いです」。
「我らは三十万石、阿蘇を足したとて六十万石を超す程度。北肥後の国人衆はあてになりませぬ」。
「島津が北への野心を捨ててない以上、小佐々と結ぶ他ありませぬ」。
こんこんとわしに説いてくる。武の犬童、智の深水とは、本当に嘘ではない。そういう長智の話を聞いていると、少しずつだが怒りが収まり冷静になる。
「それで、どうする?」
わしが長智に聞こうとしたその時、使者が来た。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お初にお目にかかります。沢森利三郎と申します」。
「相良遠江守である。こたびはなにようじゃ」。
わかってはいたが、わざと尊大に答える。
意に介さず
「は、さればわが殿小佐々弾正大弼様におかれてましては、修理大夫様と昵懇になり、盟を結びたいとお考えにございまする」。
「なるほど。それは、・・・・。天草の国衆の件も含めて、われらに何もするな、と?」
「そうは申しませぬ。天草の衆はわれらを頼って来たのです。決死の覚悟の者を無下に断るのも忍びない。ゆえに、天草衆はわれらと一体にて、あわせて修理大夫様と盟を結びたいと考えております」。
よくもぬけぬけと、立て板に水の様にペラペラと喋る。弁が立つのは長智と変わらぬが、毛色が違う。
「ふむ」
わしは考えながら、長智に対応をまかせる。
「わしは家老の三河守長智と申す。利三郎どの。われらが弾正大弼どのと結ぶ利はどこにある?」
探りも入れず、そのまま直言する。
「されば島津に対して、もし攻められた時にはご助力いたす、これにつきます。島津は三州を平らげた後は必ず北へ向かいますぞ。われらはまだ先ですが、まず壁になるのは皆さまにござる。そこで、われらも対岸の火事ではござらぬゆえ、ご助力いたす。また、商いの面でも活発に交流を行い、互いの産物をやりとりして豊かになり備えましょう」。
あちらも負けずに直言で返す。
「ありがたいお申し出だが、なにもなければすぐにお返事申し上げる。しかし件の天草衆の事もございますれば、はいそうですかと受けるのも難しゅうござる」。
「五分の盟でも、目に見える利がなければならない、と言う事でしょうか」。
「さよう。たとえば商いに関しては弾正大弼どのは得意とみえまする。優遇していただけると幸いですね。それから・・・」。
「それから、兵を貸していただくのは難しいかもしれませんが、そうですね・・・。肥前では変わった火縄を使っていると聞いています。それを貸していただくとか、あるいは十町以上とぶ大筒とかですな。船もよい。調練次第ではわが兵もよき働きをするでしょう。そういった軍備の面でも支援していただけるとありがたい」。
なに?わしは初耳だぞ。それにしても利三郎とやらの顔つきが、少し変わった様な気がする。
「ははは。なんの事でしょう?と言いたいところですが、なにやらお見通しのご様子。正直にお話しましょう。その通りです。しかし、事は軍の装備の事なれば、わたしの一存では答えかねます」。
笑顔ではぐらかしている。長智以上の曲者だな。
「そうでしょうそうでしょう。兵は国の根幹ですからな。わたしでも同じ答えをするでしょう。しかし、弾正大弼どのにおかれては、損のない取引とあいなりましょう」。
「さようでございますか」
「無論にございまする。われらと組むという事は、弾正大弼どのにとって利はあっても損はございません。利三郎どのが申された様に、島津の脅威は同じですからな。遅いか早いかの違いだけでござろう。じっくりご検討もよいですが、早いほうがよいと存じます」。
長智も負けじと笑顔だ。
「承知いたしました。それではわたくしは戻りまして、われらの出来る事、望む事、取りまとめまして再度参上いたします」。
「わかり申した。良いご返事をお待ちしております」。
長智とのやり取りが終わって、利三郎は帰り支度をしている。
「ああそうそう、わが領内、球磨郡では掃いて捨てるほど銅がでますぞ。肥前では対州くらいでござろう?それから筑前でも宗像郡くらいですかな。それから、天草の五平太(石炭)は燃やしても煙がでません」。
「あわせて・・・ちかごろ肥前は唐津から三川内波佐見まで、粘土や石を探しておるようですが、天草はその石が大量にでます」。
・・・・・・・・・・・・!!??
利三郎の顔色が、今度こそ間違いなく変わった。
長智、おぬしどこまで知っておるのだ??
「どうなっているのだ?」
わしはありえない事実に憤慨し、しかし起きている状況が理解できない。家老の深水長智に聞いた。
「は、天草五人衆のうち三人が小佐々に降ったとなれば由々しき事態でございます。されど小佐々の調略ではなく、さらにわれらに対する不平不満からの離反ではありませぬ」。
「ではなんじゃ」
「薩摩の島津にございます」
「いま当家は東は伊東と婚姻を結び、北は甲斐宗運を通じて阿蘇と誼を通じておりまする。そして南は島津と和議を結んでおりまするが、島津は三州統一の野心を捨てておりませぬ。それどころか一族の悲願にて、大隅の肝付に日向の伊東とせめぎ合ってございます」。
「ふむ」
「そうした流れの中、われらでは島津に抗うのが難しい。小佐々の庇護のもと家を保つ、そう判断したからに他なりません」。
「だとしてもだ!そう簡単に割り切れぬわ!」
「割り切れぬとも割り切ってくだされ!お家のためにございます」。
深水長智はいつになく真剣だ。
「攻めまするか?なるほど攻める事は能うでしょう。しかし勝てまするか?勝てぬ戦はやってはなりませぬ。今のところ島津とは戦にならぬでしょう。やつらも三州統一が優先事項でございますからな。しかし仮に、全力で攻めたとて、われらは出せて八千でござる。阿蘇を足したとて二万には届きますまい」。
「わしは今まで、この伊東・阿蘇の盟が崩れた時、頼るのは大友だと思っておりました。しかし大友は今、以前の栄華の見る影もありませぬ」。
「対して小佐々はどうでしょうか」
「直轄地だけで七十万弱、一族と国人衆をあわせれば百五十万、同盟もいれれば二百万に届かんとする勢いです」。
「我らは三十万石、阿蘇を足したとて六十万石を超す程度。北肥後の国人衆はあてになりませぬ」。
「島津が北への野心を捨ててない以上、小佐々と結ぶ他ありませぬ」。
こんこんとわしに説いてくる。武の犬童、智の深水とは、本当に嘘ではない。そういう長智の話を聞いていると、少しずつだが怒りが収まり冷静になる。
「それで、どうする?」
わしが長智に聞こうとしたその時、使者が来た。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お初にお目にかかります。沢森利三郎と申します」。
「相良遠江守である。こたびはなにようじゃ」。
わかってはいたが、わざと尊大に答える。
意に介さず
「は、さればわが殿小佐々弾正大弼様におかれてましては、修理大夫様と昵懇になり、盟を結びたいとお考えにございまする」。
「なるほど。それは、・・・・。天草の国衆の件も含めて、われらに何もするな、と?」
「そうは申しませぬ。天草の衆はわれらを頼って来たのです。決死の覚悟の者を無下に断るのも忍びない。ゆえに、天草衆はわれらと一体にて、あわせて修理大夫様と盟を結びたいと考えております」。
よくもぬけぬけと、立て板に水の様にペラペラと喋る。弁が立つのは長智と変わらぬが、毛色が違う。
「ふむ」
わしは考えながら、長智に対応をまかせる。
「わしは家老の三河守長智と申す。利三郎どの。われらが弾正大弼どのと結ぶ利はどこにある?」
探りも入れず、そのまま直言する。
「されば島津に対して、もし攻められた時にはご助力いたす、これにつきます。島津は三州を平らげた後は必ず北へ向かいますぞ。われらはまだ先ですが、まず壁になるのは皆さまにござる。そこで、われらも対岸の火事ではござらぬゆえ、ご助力いたす。また、商いの面でも活発に交流を行い、互いの産物をやりとりして豊かになり備えましょう」。
あちらも負けずに直言で返す。
「ありがたいお申し出だが、なにもなければすぐにお返事申し上げる。しかし件の天草衆の事もございますれば、はいそうですかと受けるのも難しゅうござる」。
「五分の盟でも、目に見える利がなければならない、と言う事でしょうか」。
「さよう。たとえば商いに関しては弾正大弼どのは得意とみえまする。優遇していただけると幸いですね。それから・・・」。
「それから、兵を貸していただくのは難しいかもしれませんが、そうですね・・・。肥前では変わった火縄を使っていると聞いています。それを貸していただくとか、あるいは十町以上とぶ大筒とかですな。船もよい。調練次第ではわが兵もよき働きをするでしょう。そういった軍備の面でも支援していただけるとありがたい」。
なに?わしは初耳だぞ。それにしても利三郎とやらの顔つきが、少し変わった様な気がする。
「ははは。なんの事でしょう?と言いたいところですが、なにやらお見通しのご様子。正直にお話しましょう。その通りです。しかし、事は軍の装備の事なれば、わたしの一存では答えかねます」。
笑顔ではぐらかしている。長智以上の曲者だな。
「そうでしょうそうでしょう。兵は国の根幹ですからな。わたしでも同じ答えをするでしょう。しかし、弾正大弼どのにおかれては、損のない取引とあいなりましょう」。
「さようでございますか」
「無論にございまする。われらと組むという事は、弾正大弼どのにとって利はあっても損はございません。利三郎どのが申された様に、島津の脅威は同じですからな。遅いか早いかの違いだけでござろう。じっくりご検討もよいですが、早いほうがよいと存じます」。
長智も負けじと笑顔だ。
「承知いたしました。それではわたくしは戻りまして、われらの出来る事、望む事、取りまとめまして再度参上いたします」。
「わかり申した。良いご返事をお待ちしております」。
長智とのやり取りが終わって、利三郎は帰り支度をしている。
「ああそうそう、わが領内、球磨郡では掃いて捨てるほど銅がでますぞ。肥前では対州くらいでござろう?それから筑前でも宗像郡くらいですかな。それから、天草の五平太(石炭)は燃やしても煙がでません」。
「あわせて・・・ちかごろ肥前は唐津から三川内波佐見まで、粘土や石を探しておるようですが、天草はその石が大量にでます」。
・・・・・・・・・・・・!!??
利三郎の顔色が、今度こそ間違いなく変わった。
長智、おぬしどこまで知っておるのだ??
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