上 下
163 / 801
九州三強と中央への目-北九州を二分する 二つの二虎競食の計-

対信長外交団②

しおりを挟む
永禄十年 十一月 堺湊

堺湊についた。少しだけ、寒い。コタツが恋しくなる季節です。!コタツは小佐々の名物ではないか。なぜ商品化して売っていないのだろう?冬場だけだからか?もっと北にいけばもっと売れる。間違いない・・・。

京の都に近いだけで、この様な賑わいをみせるのだろうか。平戸や横瀬、口之津も大いに賑わっているが、それとはまた違った雰囲気だ。摂津国と和泉国の国境にあり、京都奈良をはじめ各方面への街道が続いている。

堺は南蛮との商いと、鉄砲の生産が始まった事で、会合衆などの豪商が莫大な富を蓄え、大きな力を持っていると聞く。その会合衆が仕切る町は、西側を海、他の三方に濠を設けてさながら砦のようだ。

入り口の橋には門があり、門番がいて外敵の侵入を防いでいる。会合衆とは博多でいう年行司と同じだが、堺と同じく博多もなんども戦火に見舞われている。

鉄砲は種子島に漂着してすぐに勉強して堺に伝えた、と、小佐々に来ていた橘屋又三郎が申していたな。

ただ、やはり殿が申された様に、南蛮人の、船はない。明の船は多いようだが、直接南蛮船は来ていないようだ。豊後府内と平戸は同じ時期に南蛮との商いを始めていたが、平戸は殿が治める事になった。

そして横瀬と口之津でも商いをやっているから、府内より南蛮船の数も頻度も多い。流民は筑前の争乱が終わってから落ち着いているようだが、それでも人は増えている。やはり、さすがわが殿、小佐々領は年貢も安いし賦役もない。

道や橋を作るにもしっかり金を払うから、他国から出稼ぎに来たりそのまま定住する者もいる。そしてなにより、人が多ければ物が動く、物が動けば金が動く、金が動けば人が動くと好循環なのだ。

正直な所、そういった意味で、畿内随一の貿易港だと聞いていた堺湊だったが、驚くほどではなかった。ただ、人は多い。さすが日の本の経済の中心地。ここを殿が治めていたらどうなっていただろう?

その様な妄想が浮かぶ。

それにしても一体、来年には上洛し将軍を奉じて京の都を押さえ、堺湊を支配下に置く信長とはどういう人物なのだろう?その者が遠からず畿内を席巻するそうだ。そして、その信長と誼を通じようとは、殿の深いお考えは・・・?

「お久しゅうござる。左衛門大夫どの。」
不意に後ろから声がした。

「やあ、常陸介どの。これはこれは。」
殿の叔父である小佐々常陸介純久どのだ。京都の大使館を一昨年の一月に作った際、自らすすんで大使館の大使の大役を申し出たらしい。堺湊にはその出先機関がある。

一昨年・・・、龍造寺の殿が敗れた、もう二年になるか・・・。

いや、感傷にふけっても仕方ない。わが殿はこの様なわたしでも、引き立ててくださり、大役を任せてくださったのだ。しっかりせねば!

「どうなされた、左衛門大夫どの?」
「いえ、なんでもござらん。」
「そうでござるか。ではひとまず、長旅疲れたでしょう。この堺湊で一泊し、明日出港しませぬか。」

常陸介どのは飄々としていてつかみどころがない。人がよく誰にでも愛想がいいが、以前はここまでではなかったようだ。

「心配せずとも上総介様は逃げませんよ。それに・・・。ほう、これはまたでかくなりましたな。最初の船も驚きましたが、・・・米で千石は積めるのではないですか?」

「もう少し積めますね。本国ではもっと大きな船の建造の研究も行っておりますよ。」

「おお、さすがだな平九郎。」

「え?」

「いや、こっちの話です。それから、例の物、持ってきたんでしょう?あんな物、大量に運んでいたら間違いなく野盗にあいますよ。((量のいっきょらしか(量がすごく多い。))だから陸路で美濃稲葉山城にいくよりも、海路で紀伊から志摩、伊勢、尾張津島へ向かったほうが早いです。そこから稲葉山城へ向かう方が安全ですしね。」

常陸介どのがいう。なるほど、確かに大量の物を運ぶのはその方がいいな。どのみちここまで海路できたのだし、言う通り一泊しよう。

■堺湊屋

「いやあ愉快愉快!左衛門大夫どのとこうやって飲むのは初めてですね!酒はやっぱり肥前小佐々の澄酒に限る!多比良酒造の酒!この堺湊屋も取引をすすめて納入してから、客がひっきりなしだそうですよ。いやあさすがわが殿!」

堺湊屋は堺の大通りに店を構える老舗の料亭旅館。老舗だけあって値段も高い。しかしそのかわり料理やもてなしは最高だ。

その堺湊屋の二階で、料理と酒に舌鼓をうちながら陽気にしゃべる常陸介どの。

酒が飲みたかっただけなのか?と思い直しながらも、私自身も酒が嫌いな訳ではない。長旅で疲れたのも確かだし、今日は少し飲んでも問題ないだろう。

「失礼いたします。沢森常陸介さまと、鍋島左衛門大夫さまにお会いしたいと言う方がお越しになっていらっしゃいます。お通ししてもよろしいでしょうか。」

女将だ。なんというか、美人だ。色気がある。

少し酔いが回ってぼうっとしていると、常陸介どのが言う。
「人違いでござろう。ここにはその様な人はおらぬ。わたしは沢野利左衛門、この方は友人の鍋川四郎どのだ。『それにまず名乗りなさい』女将、そうお伝えしろ。」

(なんという事だ。あれだけ陽気に騒いでいて、まるでシラフの様な?・・・酔ってはいないのだろうか。)

「かしこまりました。」
女将はそう言って戸を閉め、下がる。

「いろんな輩がおりますからなあ。用心に越した事はありませぬ。」
なるほど、酒は飲んでも呑まれてはいない。

しばらくすると、また女将が来て、
「『そのお名前も存じ上げております。その上でお願いいたします。』と、今井宗久と申される方がおっしゃっています。」

(なんと!今井宗久といえば会合衆の一人ではないか。なぜわれわれに?)

「だ、そうです。どうです?会いますか?」
「ぜひ!」
それに常陸介どももいるし、一人では何も出来まい。

しばらくすると、剃髪している五十前の男がやってきた。さすが堺の会合衆だけあって、品のある出で立ちだが、華美な装いで相手を威圧するほどでもない。ちょうどよい格好だ。

「お初にお目にかかります。今井宗久と申します。」
「沢森常陸介純久と申します。」
「鍋島左衛門大夫直茂にござる。」
お互いの挨拶が終わる。

「さて、ではまず一献。」
常陸介どのが酒をすすめるが、宗久は丁重に断る。

「ありがとうございます。お気持ちだけでけっこうです。お酒は次の機会に。」
どうやら話を先に進めたいらしい。

「では、こたびはどの様なご要件ですか?」
常陸介どのは別段気を悪くしたようでもなく、笑顔だ。わたしの方をみて、また宗久どのを見る。

「実は、商いの件で少しお力添えをいただければと思いまして。」

どういう事だ?わたしと常陸介どのは顔を見合わせた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

『転生した無名藩士、幕末の動乱を生き抜く~時代・技術考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁
ファンタジー
佐賀藩より早く蒸気船に蒸気機関車、アームストロング砲。列強に勝つ! 人生100年時代の折り返し地点に来た企画営業部長の清水亨は、大きなプロジェクトをやり遂げて、久しぶりに長崎の実家に帰ってきた。 学生時代の仲間とどんちゃん騒ぎのあげく、急性アルコール中毒で死んでしまう。 しかし、目が覚めたら幕末の動乱期。龍馬や西郷や桂や高杉……と思いつつ。あまり幕末史でも知名度のない「薩長土肥」の『肥』のさらに隣の藩の大村藩のお話。 で、誰に転生したかと言うと、これまた誰も知らない、地元の人もおそらく知らない人の末裔として。 なーんにもしなければ、間違いなく幕末の動乱に巻き込まれ、戊辰戦争マッシグラ。それを回避して西洋列強にまけない国(藩)づくりに励む事になるのだが……。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】 バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。 それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。 ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。 ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――! 天下無敵の色事師ジャスミン。 新米神官パーム。 傭兵ヒース。 ダリア傭兵団団長シュダ。 銀の死神ゼラ。 復讐者アザレア。 ………… 様々な人物が、徐々に絡まり、収束する…… 壮大(?)なハイファンタジー! *表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます! ・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

処理中です...