154 / 775
九州三強と中央への目-肥後の相良と阿蘇、そして北肥後国人衆-
初めての海に興奮冷めやらぬ。
しおりを挟む
永禄十年 八月 小佐々常陸介純久
「みて!みて!ひたち!お山みたいなのがいっぱい見えるよ!いっぱいある!」
この元気いっぱいの姫様は、二条藤子様。半年前、わが殿でありわが甥の、小佐々弾正大弼純正どのとの婚儀が決まった。十四歳だ。
本来ならもう何年も前から婚儀の話は出ていたらしいが、絶対に嫌だと言い張り、父親も娘可愛さになかなか承知しなかったようだ。それが今回、何の抵抗もなくすんなり決まったのは何故だろう?
真相は本人しか知らないが、聞くのは詮無きこと。誰も忖度して聞きはしない。
わしの名は小佐々常陸介純久。
公家の家に生まれた姫様は、宮中、都の外になど出た事はなかったのだろう。堺の湊でのはしゃぎっぷりといったら、もう、目も当てられなかった。ちょっと目を離せば、すぐにいなくなるのだ。本当に、胃が痛い。
堺を出てもう随分たつ。それなのにいっこうに元気が衰えない。普通は初めて船に乗った人間は、船酔いで吐いて体調不良が当たり前。ところがとうだ。まったくもってピンピンしている。
お付きの侍女は青ざめて死にそうなのに、全く動じない。
(これは平九郎よ、ちょっとした爆弾かもしれんぞ。)
思わず笑いがこみ上げた。いや、可愛いのだよ。年相応に。
「姫さん(姫さま、と呼んでいたが、固いから止めてと言われた)、前から思っていたんだが、船の揺れは大丈夫か?」
「大丈夫!こんなにおっきいのが水に浮くなんて不思議ね!」
全部が新鮮なんだろう。質問の連続である。殿には急がずとも良い、と言われているのでゆっくり進んでいるが、全て海路であるから一週間から十日程でつく。急げばもっと速いかもしれない。風と潮の関係もある。
平戸の瀬戸が見えてきた。
「ねえ!ひた!ひた!なんか飛んでる!たくさん飛んでる!」
いや、もう『ひた』になっています。最後は『ひ』にでもなるんだろうか。
「あれは『あご』ですねえ。あれは美味いんですよ。刺し身もいいし、汁物も美味い。うちの殿が詳しくて、日干しにしたり出汁に使って食べるのを勧めているんですよ。今では肥前の名産物です。」
そう言えば『あごだしらあめん』とか言っていたなあ。時々よくわからない言葉を喋る。
「うちの殿はやさしいですよ。ちょっと変わったところはありますが、領民にも慕われていて家臣の信頼も厚い。きっと大切にしてくれるはずです。」
「心配はしていません。なぜだかはわかりませんが、そんな気がするのです。」
陽の光が水面に反射している。その光り輝く水面に姫様の笑顔が映える。
さて、横瀬浦が見えてきた。
本当はそのまま七ツ釜へ向かい、小佐々城へいくはずだったのだが、口を滑らして横瀬浦の南蛮人の話をしてしまったから仕方がない。どうしても見たいと、寄っていくと聞かないのだ。南蛮人のことは都にきていた宣教師で知っていたのだろう。
どこまで好奇心旺盛なんだろうか。怖いもの知らずか?
一行は存分に横瀬浦を見物し、再び海路にて七ツ釜へ向かった。
「みて!みて!ひたち!お山みたいなのがいっぱい見えるよ!いっぱいある!」
この元気いっぱいの姫様は、二条藤子様。半年前、わが殿でありわが甥の、小佐々弾正大弼純正どのとの婚儀が決まった。十四歳だ。
本来ならもう何年も前から婚儀の話は出ていたらしいが、絶対に嫌だと言い張り、父親も娘可愛さになかなか承知しなかったようだ。それが今回、何の抵抗もなくすんなり決まったのは何故だろう?
真相は本人しか知らないが、聞くのは詮無きこと。誰も忖度して聞きはしない。
わしの名は小佐々常陸介純久。
公家の家に生まれた姫様は、宮中、都の外になど出た事はなかったのだろう。堺の湊でのはしゃぎっぷりといったら、もう、目も当てられなかった。ちょっと目を離せば、すぐにいなくなるのだ。本当に、胃が痛い。
堺を出てもう随分たつ。それなのにいっこうに元気が衰えない。普通は初めて船に乗った人間は、船酔いで吐いて体調不良が当たり前。ところがとうだ。まったくもってピンピンしている。
お付きの侍女は青ざめて死にそうなのに、全く動じない。
(これは平九郎よ、ちょっとした爆弾かもしれんぞ。)
思わず笑いがこみ上げた。いや、可愛いのだよ。年相応に。
「姫さん(姫さま、と呼んでいたが、固いから止めてと言われた)、前から思っていたんだが、船の揺れは大丈夫か?」
「大丈夫!こんなにおっきいのが水に浮くなんて不思議ね!」
全部が新鮮なんだろう。質問の連続である。殿には急がずとも良い、と言われているのでゆっくり進んでいるが、全て海路であるから一週間から十日程でつく。急げばもっと速いかもしれない。風と潮の関係もある。
平戸の瀬戸が見えてきた。
「ねえ!ひた!ひた!なんか飛んでる!たくさん飛んでる!」
いや、もう『ひた』になっています。最後は『ひ』にでもなるんだろうか。
「あれは『あご』ですねえ。あれは美味いんですよ。刺し身もいいし、汁物も美味い。うちの殿が詳しくて、日干しにしたり出汁に使って食べるのを勧めているんですよ。今では肥前の名産物です。」
そう言えば『あごだしらあめん』とか言っていたなあ。時々よくわからない言葉を喋る。
「うちの殿はやさしいですよ。ちょっと変わったところはありますが、領民にも慕われていて家臣の信頼も厚い。きっと大切にしてくれるはずです。」
「心配はしていません。なぜだかはわかりませんが、そんな気がするのです。」
陽の光が水面に反射している。その光り輝く水面に姫様の笑顔が映える。
さて、横瀬浦が見えてきた。
本当はそのまま七ツ釜へ向かい、小佐々城へいくはずだったのだが、口を滑らして横瀬浦の南蛮人の話をしてしまったから仕方がない。どうしても見たいと、寄っていくと聞かないのだ。南蛮人のことは都にきていた宣教師で知っていたのだろう。
どこまで好奇心旺盛なんだろうか。怖いもの知らずか?
一行は存分に横瀬浦を見物し、再び海路にて七ツ釜へ向かった。
2
お気に入りに追加
155
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?
志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。
そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄?
え、なにをやってんの兄よ!?
…‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。
今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。
※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる