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従属と抵抗 九州三強への岐路- 雌雄を決す、塩田津の湊戦役-

二人の救世主

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同年 十二月 小佐々弾正大弼純正

周辺の国衆の引見もそろそろ終わりかけた頃、二人の武将が幕舎を訪れた。

「まったく、突拍子もない事を持ちかけてくるからどんなヤツかと思ったら。まだ若い!十代ではないか?」
無礼な!と杢兵衛が立ち上がるが、制す。

「いやいやいや、売価二倍にはかないませんよ。不確かな五島灘と角力灘の利権を言われても。」

二人共甲冑姿の戦国武将である。その二人を外務卿である利三郎と、次官である日高資、そして補佐の喜が案内する。

「宗讃岐守にございます。」
「宇久淡路守にございます。」

「これはこれは!遠路はるばるご苦労にござった!ささ、どうぞこちらへ。」

俺は二人を傍らへ案内し、お茶を用意させた。

「こたびはお二方のご英断にて、われらが勝つ事ができ申した。まこと、感謝いたしまする。」
二人に対して深々と頭を下げる。

「頭をお上げくだされ。わしは己の利にそって行動したのみ。」
「それがしも同じにございます。龍造寺より小佐々殿に利を認めたからにござる。」

俺も二人もお互いに譲り合っているが、なぜこんな事になっているのか?
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永禄八年 十月 対馬国 金石城 宗義調

目の前に彼杵の小佐々の家臣、沢森利三郎直政なる者がいる。

「お初に御意を得まする。それがしは肥前国小佐々弾正大弼純正様が家臣、沢森利三郎直政と申します。讃岐守様におかれましてはご健勝の事、お喜び申し上げます。」

小佐々・・・確か平戸の松浦隆信を倒し、日の出の勢いで壱岐・松浦郡の波多にも影響力があると聞く。その家臣がいったい何の用だ?探らせておるが、なかなか情報が上がって来ぬ。

しかし向こうからの話とは、よい話であろうか。

「うむ。利三郎とやら、こたびはその弾正大弼殿がこのわしに何の用なのだ?」
「は、わが殿は讃岐守様と攻守の盟を結びたくお考えでございます。」
「なに、盟とな?」

わしは考え込んだ。この盟の利はなんだ?小佐々は波多と盟を結んでおるから、わしと結んでも利があるとは思えん。わしにしても、攻めてくるとすれば壱岐の波多だが、それにしても独力で攻めてくる事は能わぬであろう。

波多に与して援軍を送っても、領地が増えるわけでもないから誰にも利はない。そして何より、われらは周辺諸国にとって脅威とはなり得てない。攻め込まれるからその前に攻める、その理屈も当てはまらぬ。

ゆえにどこも攻めてこぬ。要するにどちらにも利はない様に思えるが。

「利三郎。その盟は弾正大弼殿にどんな利がある?そしてわれらには?」
利三郎は少し考えてから、

「そうですね。共存共栄、にござりましょうか。」
「共存、共栄、とな?」

「はい、わが殿は戦は好みませぬ。非常におやさしいお方です。これまでの戦も、発端は防戦ばかり。自ら仕掛けて領土を得る事などございませんでした。」

黙って、俺は利三郎の話を聞く。

「さりとて、今は秩序なき戦国の世。力なき者は奪われ蹂躙されまする。自らを守るため、自らの家族や家臣、領地や民を守るためには、力が必要になりまする。勝てぬとしても、容易に手は出せぬ力です。わが殿はこれを『抑止力』と申されておりました。」

「されば今、小佐々と波多は不可侵の盟を結んでおります。さらに、緊密な連携をとるべく攻守の盟を望まれて使者を送っておりますが、芳しい返事はありません。」

「今の状況で、攻守の盟を結ばぬ理由はただひとつ。いずこからか、横やりが入ってきているかと考えまする。そのうえで、今のご当主様はまだお若い。われらの殿もお若いですが、さらに四つお若い。流されて、時流をお読みになれぬのかもしれませぬ。」

それで?と相槌を打つ。

「はい、奸臣佞臣の類にそそのかされ、われらを攻めぬとも限りませぬ。単独では十分抗しえまするが、他国と示し合わされてはいささか厳しゅうございます。そこで、讃岐守様にご助力いただければと存じます。」

「なるほど。後背を突け、と。」
「はは、それがわれらの利にございまする。もう一つ、讃岐守様の利にございまするが・・・。」

少し間をおいて、利三郎は言う。

「われらとの盟、それすなわち讃岐守様の利にございます。」

?なんだか禅問答みたいになってきたぞ。

「今のまま、これは言うは安し行うは難しです。戦国の世、なにも変わらないというのは、それすなわち敵に利するところであり、自らを弱める事に他なりません。」

「讃岐守様が波多に攻められれば、われらが助けまする。われらに波多が攻め寄せれば、後背をつき、壱岐国でもどこでも切り取り次第で結構にございます。もちろんこれは、われらに言われる事でもないのでしょうが、ひとつの証とお考えください。」

「あわせて、例え大友様と盟を結んだとて、それだけでは讃岐守様の立場は保証されません。実際に大友様は九州探題と六カ国の守護ですが、対馬国と壱岐国は違います。これが今後、守護にでも命ぜられたら面倒な事になりませぬか?それから、今筑前で起こっている騒乱ですが、あと二~三年は続くと思われます。大友様の力は弱まりますし、鎮圧されたとて、豊前・筑前の北部には毛利様がおられます。もし、毛利様と大友様で大がかりな戦になったとき、どちらが勝つでしょうか?毛利様が勝てば、大友様と盟を結んでいる讃岐守様もただでは済みませぬぞ。その前に大友様から参陣を命ぜられるかもしれません。参陣せねば大友様が勝った時に立場が危うくなり申す。」

「わが殿は、それまでに、それに伍する力を蓄えるおつもりです。」

驚いたな。まだ若いと聞いてはいたが、ここまで先を見通しているのか。確かに、直接の利はないが害もない。この盟、われらにとって利するかもしれぬ。

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同月 五島 江川城 宇久純定

「それで大和守殿、われらにはどんな利があるのでしょう。」

眼の前にいるのは小佐々の外交官、日高大和守資殿だ。
「もし、ご助力いただきましたら、今の椿油の値、一年の間倍にて買い取りましょう。」

倍!月に三百五十貫であるから、七百貫!これは大きい!われらは西の果てなれば、東に領土を広げるしかない。しかし以前は松浦、そして今は小佐々がおるからそれは叶わぬ。されば交易にて国を富ませるしかあるまい。

椿油の買い値を倍にしてくれるなら、願ったり叶ったりだ。しかし・・・。

「なるほど。われらにとってかなりの利ですね。しかも目に見える。ありがたい。ただ、それだけではわが兵を動かすにはいささか・・・・。」

「他になにか?」
この際だ。少しふっかけてみようか。

「されば、南蛮船をわが福江の湊にも呼んでくださる様、すすめていただきたい。それから、あの塩を作る時に使っておる仕掛け、なんと申しましたかな?」

「ぽんぷ、にござりますね。かしこまりました。委細わが殿にお伝えいたしまする。」

「おお、左様か!これで我が国もさらに豊かになる。」

「こちらこそ感謝いたしまする。ただ、買値とぽんぷは問題ありませんが、南蛮船につきましては、殿だけが決めるのではありません。バテレンが決めまするので確約はできかねます。」

「もちろんじゃ!これで小佐々殿とわれらの盟、より固くなり申したな!ははははは!」

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これが事の顛末である。

はたして波多は伊万里に攻め入ったが、宗讃岐守の壱岐襲来にて撤退を余儀なくされる。伊万里城も平戸を素通りしてきた宇久淡路守の軍勢が伊万里湊に上陸し、救援された。

平戸松浦の旧臣反乱軍は、三城城の襲撃と兵の輸送を終えた海軍第一艦隊の物資輸送と、守備隊との連携支援攻撃により壊滅した。

これにより平戸松浦の改易が決定した。平戸の地から治郎を呼び戻し、沢森を継がせる。名も松浦治郎忠政から、当主として沢森治郎政純とした。

平戸の地には代官を置く。

松浦郡に関しては波多に使者を送って『手切之一札』を渡し、降伏するか戦うか決めさせている。相神浦松浦盛の弟だ。なるべく穏便にすませたい。もう千々石と波多しか兄弟がいないのだから。

後藤には塩田津の湊の利権と、街道沿いの十ヶ村を領地とした。もっと要求してくるかと思ったのだが、最初の話し合い通り、領地よりも通商による益を優先しているようだ。杵島郡の平井はそのまま盟どおりの本領安堵。

波佐見衆にはそれぞれ千貫。当主を亡くしたので追加で千貫ずつ与えた。

杵島の国衆には佐世保スタイルを提案した。ほとんどが安定収入の魅力に、基本的に転封はなし、で納得した。そうでない者には多少の報奨金を与え、他には何もしなかった。戦で数には入れないし、参陣して功をあげても知行地を与える事は稀だ。

神代は、平井と同じ。報奨金は渡すが、基本介入しない。元々の山内二十六家の頭領に収まったようだ。

小城の千葉と神埼の江上は来ていない。龍造寺陣営の中では、千葉は家臣格ではあるが、禄高では江上についで三番目だ。その二家は去就に迷っているのだろう。でも、現時点でここにいないって事は、俺の答えは決まっているんだけどね。

さあ、どう出てくるだろうか。
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