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従属と抵抗 九州三強への岐路- 従属・同盟・連立-
秒殺 志佐純量
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同月 肥前 直谷城 志佐純意
いい加減にしろ!志佐を滅ぼす気か!
わしは堪忍袋の尾が切れそうであった。先代が亡くなった後、志佐家を存続させるために奔走し、二年前の不可侵の盟も、口惜しいが将来を考えて結んだのだ。小佐々の良いところは盗み、領内の発展につなげようと。それを・・・。
「なんという事をしたのだ才十郎!」
「何の事です?われらとは何のゆかりもない小佐々の嫁入りに、海賊だか浪人だかわからぬ不逞の輩が、騒ぎを起こしただけでしょう。」
志佐家当主である才十郎純量は反論する。
「何を言うておるのだ?小佐々は元々松浦党で、この北松浦の地におった者たちが彼杵に移り住んだのではないか。」
「叔父上こそなにを言われます!あれは、今の小佐々の当主はその血はついでおりませぬぞ。沢森など聞いた事もない。馬の骨です。なぜその下風に立たねばならぬのです?」
「下風か。確かにそれも大事であろう。秩序というのは世の平穏に必要な物である。しかしそれも、すべて民あっての事だ。民の生活をないがしろにして、上手くいった政など、未だかつてない。小佐々の当主のやり様をみてもわかるであろう。同じ北松浦でも平戸対岸の小佐々の直轄領と、われらの違いがまだわからぬのか?」
「わかりませぬ。私は由緒ある志佐家の当主です。これ以上あの者に従いたくありませぬ。」
(ろくに領内の見回りもせず、おべっかを使う家臣のみ近くにはべらせておる。首に縄をつけてでも連れ回すべきてあったか。しかしそれも、もう遅いかもしれぬ。)
「ではどうするのだ?戦でも起こすのか?悪い事は言わぬ。今からでも謝罪してこい。不徳の致すところと平身低頭謝れば、命はとられぬかもしれぬ。」
「何をおっしゃいますか叔父上。小佐々を嫌うておる者は山ほどおります。平戸の残党しかり波多しかり、大村などはあからさまでしょう。その者らと手を組めば、打倒小佐々は夢ではありませぬ。」
(この期に及んでまだその様な事を。)
「よいか才十郎。平戸の松浦など、いくら隆信の旧臣がさわいだところで、いまさら何もできぬ。波多にいたっては龍造寺、大村も後藤や西郷が怖くて軍を動かせぬ。そのくらいの事がわからぬのか!いったい誰にそそのかされたのか!」
「そそのかされてなどおりませぬ!現に波多の田原安右衛門や、大村の古賀源太夫など、わしを尋ねてきてしきりに言っておった。小佐々の目を欺くためおおっぴらには出来ぬが、殿様は近く打倒小佐々の軍を連合して起こすとな!」
「まさか、まさか、それを信じたのか?よく調べもせず?」
呆れてしまった。側近は何をしておったのだ。来訪者の身元など詳細に調べるべきであろうが。誰だ田原?古賀?そのような名、聞いたことがないぞ。
「申し上げます!小佐々より文が届いております!」
嫌な予感が的中した。
『「手切之一札」
一つ、わが妹雪の婚礼に際し、不届きなる者を紛らせ命を狙った事
一つ、不可侵の盟にも関わらず、波多、大村と共謀し小佐々に仇なす謀をした事
一つ、領民の困窮を顧みず贅沢三昧ふるまっている事
一つ、わが元に志佐の領民より助けて欲しいとの陳情が来ている事
一つ、困窮の徒がたびたびわが領内に侵入し、近隣の村々を襲っている事
以上の理をもちて、われ志佐との不可侵の盟を無とす。』
花押も押してある。正真正銘の小佐々からの文だ。終わった。志佐のとるべき道はひとつしかない。心を決めた。叔父として断腸の思いである。
「誰か!事ここに至っては致し方なし!」
「君主としてあるまじき振る舞い、亡国の徒である純量を捕えろ!」
取り巻きは逃げ出した。純量は暴れたが、数には逆らえない。
所詮こんなものだ。この様な時こそ、身をもって主君を守るべきではないのか。
純量を捕らえ剃髪した数日後、純正の軍が城下に来た。
わしは純量を差し出した。逆臣としてそしられようとも、民のため、志佐家のため、こうするより他になかったのだ。
「純意殿、久しいな。二年前の条約の時以来ではないか。」
怒ってはおらぬし、笑ってもおらぬ。いや、少しだけ口元に笑みがあるか。
「は、こたびは誠に無様な儀にて、申し開きもございません。自害せよと申されればいたしまする。どの様な沙汰も甘んじて受けますゆえ、どうかお怒りを収めていただきますよう、お願いいたします。」
「なんだ、坊主になったのか?ふふふ。そうか、わかった。許す。その方に罪が無いとは言えぬが、逆にようこれまで抑えておいてくれた。礼を言う。本領は、安堵とする。委細は後ほど伝えるとしよう。」
驚いた。これほど器量の大きな方だったとは。
純量は領外追放となった。取り巻きもおらずたった一人ゆえ、どこかで野垂れ死ぬかもしれぬ。心苦しいが、致し方あるまい。
ともあれ、本領のみとはいえ、志佐家はなんとか生き残った。
いい加減にしろ!志佐を滅ぼす気か!
わしは堪忍袋の尾が切れそうであった。先代が亡くなった後、志佐家を存続させるために奔走し、二年前の不可侵の盟も、口惜しいが将来を考えて結んだのだ。小佐々の良いところは盗み、領内の発展につなげようと。それを・・・。
「なんという事をしたのだ才十郎!」
「何の事です?われらとは何のゆかりもない小佐々の嫁入りに、海賊だか浪人だかわからぬ不逞の輩が、騒ぎを起こしただけでしょう。」
志佐家当主である才十郎純量は反論する。
「何を言うておるのだ?小佐々は元々松浦党で、この北松浦の地におった者たちが彼杵に移り住んだのではないか。」
「叔父上こそなにを言われます!あれは、今の小佐々の当主はその血はついでおりませぬぞ。沢森など聞いた事もない。馬の骨です。なぜその下風に立たねばならぬのです?」
「下風か。確かにそれも大事であろう。秩序というのは世の平穏に必要な物である。しかしそれも、すべて民あっての事だ。民の生活をないがしろにして、上手くいった政など、未だかつてない。小佐々の当主のやり様をみてもわかるであろう。同じ北松浦でも平戸対岸の小佐々の直轄領と、われらの違いがまだわからぬのか?」
「わかりませぬ。私は由緒ある志佐家の当主です。これ以上あの者に従いたくありませぬ。」
(ろくに領内の見回りもせず、おべっかを使う家臣のみ近くにはべらせておる。首に縄をつけてでも連れ回すべきてあったか。しかしそれも、もう遅いかもしれぬ。)
「ではどうするのだ?戦でも起こすのか?悪い事は言わぬ。今からでも謝罪してこい。不徳の致すところと平身低頭謝れば、命はとられぬかもしれぬ。」
「何をおっしゃいますか叔父上。小佐々を嫌うておる者は山ほどおります。平戸の残党しかり波多しかり、大村などはあからさまでしょう。その者らと手を組めば、打倒小佐々は夢ではありませぬ。」
(この期に及んでまだその様な事を。)
「よいか才十郎。平戸の松浦など、いくら隆信の旧臣がさわいだところで、いまさら何もできぬ。波多にいたっては龍造寺、大村も後藤や西郷が怖くて軍を動かせぬ。そのくらいの事がわからぬのか!いったい誰にそそのかされたのか!」
「そそのかされてなどおりませぬ!現に波多の田原安右衛門や、大村の古賀源太夫など、わしを尋ねてきてしきりに言っておった。小佐々の目を欺くためおおっぴらには出来ぬが、殿様は近く打倒小佐々の軍を連合して起こすとな!」
「まさか、まさか、それを信じたのか?よく調べもせず?」
呆れてしまった。側近は何をしておったのだ。来訪者の身元など詳細に調べるべきであろうが。誰だ田原?古賀?そのような名、聞いたことがないぞ。
「申し上げます!小佐々より文が届いております!」
嫌な予感が的中した。
『「手切之一札」
一つ、わが妹雪の婚礼に際し、不届きなる者を紛らせ命を狙った事
一つ、不可侵の盟にも関わらず、波多、大村と共謀し小佐々に仇なす謀をした事
一つ、領民の困窮を顧みず贅沢三昧ふるまっている事
一つ、わが元に志佐の領民より助けて欲しいとの陳情が来ている事
一つ、困窮の徒がたびたびわが領内に侵入し、近隣の村々を襲っている事
以上の理をもちて、われ志佐との不可侵の盟を無とす。』
花押も押してある。正真正銘の小佐々からの文だ。終わった。志佐のとるべき道はひとつしかない。心を決めた。叔父として断腸の思いである。
「誰か!事ここに至っては致し方なし!」
「君主としてあるまじき振る舞い、亡国の徒である純量を捕えろ!」
取り巻きは逃げ出した。純量は暴れたが、数には逆らえない。
所詮こんなものだ。この様な時こそ、身をもって主君を守るべきではないのか。
純量を捕らえ剃髪した数日後、純正の軍が城下に来た。
わしは純量を差し出した。逆臣としてそしられようとも、民のため、志佐家のため、こうするより他になかったのだ。
「純意殿、久しいな。二年前の条約の時以来ではないか。」
怒ってはおらぬし、笑ってもおらぬ。いや、少しだけ口元に笑みがあるか。
「は、こたびは誠に無様な儀にて、申し開きもございません。自害せよと申されればいたしまする。どの様な沙汰も甘んじて受けますゆえ、どうかお怒りを収めていただきますよう、お願いいたします。」
「なんだ、坊主になったのか?ふふふ。そうか、わかった。許す。その方に罪が無いとは言えぬが、逆にようこれまで抑えておいてくれた。礼を言う。本領は、安堵とする。委細は後ほど伝えるとしよう。」
驚いた。これほど器量の大きな方だったとは。
純量は領外追放となった。取り巻きもおらずたった一人ゆえ、どこかで野垂れ死ぬかもしれぬ。心苦しいが、致し方あるまい。
ともあれ、本領のみとはいえ、志佐家はなんとか生き残った。
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