101 / 828
肥前五強!non無双でもやるしかない。-肥前争乱、淘汰するものされるもの-
第97話 『波多、龍造寺ぜめ』
しおりを挟む
同年 十一月 岸岳城
「いまこそ龍造寺を攻めるときにござる!」
そう声をあげ家臣の論調をまとめようとしているのは、先代の後室、真芳の方の怒りを被って主流派から遠のいていた、有浦大和守高である。
「今、龍造寺は須古城攻めに手一杯のはず。神代や筑紫に抑えの兵をおいておるゆえ、われらが攻めいったとてすぐには動けまい。龍造寺方の千葉城を攻めれば、須古に詰めている隆信の軍と、神代・筑紫に向かわせている北東方面軍との間を断つことができよう」
「大和守殿、机上ではそうであろうが、戦は生き物にござる。それに龍造寺には鍋島直茂なる切れ者がおります。なんの備えもなしにこたびの須古攻め、行うとは思えません。今動けば、間違いなくわれらは龍造寺の敵になり申す。平井が滅んだら、次はわれらですぞ」
そう反論するのは、重臣の日高資である。現当主の藤堂丸派ではなく、前当主の弟、波多志摩守の息子三人のうち誰かを候補に、とする派閥の長であった。
要するに家中の主導権争いである。
藤堂丸は波多鎮として元服して当主の座にあるものの、反体制派の重臣を粛清しきれてはいない。
「そもそも、わが波多家は嵯峨源氏渡辺氏の流れをくむ名家であり、上松浦党の長でもある。成り上がりの龍造寺の風下に立たねばならぬ言われはない」
と、有浦が言えば、
「この期に及んで上松浦党の長ですと? そのような集まりの長など、今となってはないに等しいではありませんか? それに戦は家格でするものではございませぬ。やれば、負けまするぞ!」
と日高。
「なにを! 臆したか? 始めからそのようなことを申しては、勝てる戦も勝てませぬ。皆の衆そうではないか??」
両者、一歩も譲らない。
「皆の者、静まれ。二人の言い分どちらも至極最も。しかし私はどちらかに決めねばならぬ」
鎮は、場にいる家臣に気取られぬよう隣に目をやる。
「……決めた。私は龍造寺を攻めるぞ。皆の者支度をせよ!」
隣には先代の後室、真芳がいた。完全に言わされている。
もともと有馬氏から迎えた養子の鎮であったが、それは有馬氏の後ろ盾を得るためだった。盛の死による家の弱体化を防ぎ、龍造寺をはじめ周辺勢力から家を守るためである。しかし今、その有馬が落ち目だ。
ここで龍造寺の勢いをそいでおかなければ、先は明るくない。
全員が主殿から下がった。
(まずい、これで波多は終わりだ。先はない。先代には恩があるが、わが身は大事、命には代えられぬ)
一瞬見せた真芳の方の、蛇の眼のような視線を資は見逃さなかった。
「喜、至急支度せよ。波多を出る。志摩守様にも使いを出せ。あの方は何も言わずともわかってくださる。急げよ」
「はは! 父上の仰せのとおりにいたします」
波多が龍造寺攻めに出発する際、日高資・喜の親子一族、志摩守とその息子家族の姿はなかった。
「いまこそ龍造寺を攻めるときにござる!」
そう声をあげ家臣の論調をまとめようとしているのは、先代の後室、真芳の方の怒りを被って主流派から遠のいていた、有浦大和守高である。
「今、龍造寺は須古城攻めに手一杯のはず。神代や筑紫に抑えの兵をおいておるゆえ、われらが攻めいったとてすぐには動けまい。龍造寺方の千葉城を攻めれば、須古に詰めている隆信の軍と、神代・筑紫に向かわせている北東方面軍との間を断つことができよう」
「大和守殿、机上ではそうであろうが、戦は生き物にござる。それに龍造寺には鍋島直茂なる切れ者がおります。なんの備えもなしにこたびの須古攻め、行うとは思えません。今動けば、間違いなくわれらは龍造寺の敵になり申す。平井が滅んだら、次はわれらですぞ」
そう反論するのは、重臣の日高資である。現当主の藤堂丸派ではなく、前当主の弟、波多志摩守の息子三人のうち誰かを候補に、とする派閥の長であった。
要するに家中の主導権争いである。
藤堂丸は波多鎮として元服して当主の座にあるものの、反体制派の重臣を粛清しきれてはいない。
「そもそも、わが波多家は嵯峨源氏渡辺氏の流れをくむ名家であり、上松浦党の長でもある。成り上がりの龍造寺の風下に立たねばならぬ言われはない」
と、有浦が言えば、
「この期に及んで上松浦党の長ですと? そのような集まりの長など、今となってはないに等しいではありませんか? それに戦は家格でするものではございませぬ。やれば、負けまするぞ!」
と日高。
「なにを! 臆したか? 始めからそのようなことを申しては、勝てる戦も勝てませぬ。皆の衆そうではないか??」
両者、一歩も譲らない。
「皆の者、静まれ。二人の言い分どちらも至極最も。しかし私はどちらかに決めねばならぬ」
鎮は、場にいる家臣に気取られぬよう隣に目をやる。
「……決めた。私は龍造寺を攻めるぞ。皆の者支度をせよ!」
隣には先代の後室、真芳がいた。完全に言わされている。
もともと有馬氏から迎えた養子の鎮であったが、それは有馬氏の後ろ盾を得るためだった。盛の死による家の弱体化を防ぎ、龍造寺をはじめ周辺勢力から家を守るためである。しかし今、その有馬が落ち目だ。
ここで龍造寺の勢いをそいでおかなければ、先は明るくない。
全員が主殿から下がった。
(まずい、これで波多は終わりだ。先はない。先代には恩があるが、わが身は大事、命には代えられぬ)
一瞬見せた真芳の方の、蛇の眼のような視線を資は見逃さなかった。
「喜、至急支度せよ。波多を出る。志摩守様にも使いを出せ。あの方は何も言わずともわかってくださる。急げよ」
「はは! 父上の仰せのとおりにいたします」
波多が龍造寺攻めに出発する際、日高資・喜の親子一族、志摩守とその息子家族の姿はなかった。
1
お気に入りに追加
163
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

Link's
黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。
人類に仇なす不死の生物、"魔属”
そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者”
人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている――
アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。
ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。
やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に――
猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!

器用貧乏の底辺冒険者~俺だけ使える『ステータスボード』で最強になる!~
夢・風魔
ファンタジー
*タイトル少し変更しました。
全ての能力が平均的で、これと言って突出したところもない主人公。
適正職も見つからず、未だに見習いから職業を決められずにいる。
パーティーでは荷物持ち兼、交代要員。
全ての見習い職業の「初期スキル」を使えるがそれだけ。
ある日、新しく発見されたダンジョンにパーティーメンバーと潜るとモンスターハウスに遭遇してパーティー決壊の危機に。
パーティーリーダーの裏切りによって囮にされたロイドは、仲間たちにも見捨てられひとりダンジョン内を必死に逃げ惑う。
突然地面が陥没し、そこでロイドは『ステータスボード』を手に入れた。
ロイドのステータスはオール25。
彼にはユニークスキルが備わっていた。
ステータスが強制的に平均化される、ユニークスキルが……。
ステータスボードを手に入れてからロイドの人生は一変する。
LVUPで付与されるポイントを使ってステータスUP、スキル獲得。
不器用大富豪と蔑まれてきたロイドは、ひとりで前衛後衛支援の全てをこなす
最強の冒険者として称えられるようになる・・・かも?
【過度なざまぁはありませんが、結果的にはそうなる・・みたいな?】
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる