61 / 822
肥前五強!non無双でもやるしかない。-横瀬浦開港 敵が味方 味方が敵に-
キリストVS仏教 白熱?の彼杵問答
しおりを挟む
永禄五年 九月 沢森城 太田小平太
殿は戦を嫌われております。もちろん、某も嫌いにございます。
他国になめられない様に国力を高め、調略によって情報を集め盟を駆使し、なるべく他国に攻め入らなくても済む様に、とお考えです。
しかし、世はそのような殿のお考えを気にもとめず、乱れに乱れ、やらねば殺される弱肉強食の世界なのでございます。
前日横瀬浦にて殿が助けた三人ですが、しばらくは殿預かりとの事です。
何もしない訳にはいかず、上の娘(某よりも年上の女性を娘と呼ぶのも変ですが)の妙殿は殿の義姉君、幸様のお付きとして働いておりまする。
六太は私と同じ殿の小姓。末娘の鈴は雪様のお付きをしております。
ただ不思議なのは、三人とも初めてのような感じがせず、武家の作法などしっかりと学ばれていた様な所作をするのです。
まさか、まさか、やんごとなき……。いや、深く考えるのは止めましょう。
今日は、キリシタンの宣教師を招いて、仏教のお坊さんとの討論会が開かれます。相手をけなして論破するのではなく、お互いの理解を深めて衝突をなくす。これは殿のお考えです。
石けんの製造と販売の一部を委任しているので、お金の問題での不満はありません。信徒も強制的に改宗はしていないので、今のところ穏やかな雰囲気です。
仏教僧(以下仏)
「汝らのいうデウスとは何者か?」
宣教師(以下宣)「デウス様はこの世の全ての創造主です」
仏「では、いかなる材料で魂をつくったのか?」
宣「デウス様はいかなる材料でもなく、その意志と言葉によって霊魂をつくりました」
......?? 仏教僧がよくわからない、そんな顔をしています。
宣「物にはすべて始まりがあり、それらは自ら始まった物ではありません。したがって、本源が存在するが、これには始まりもなければ終りもない。これを我らの言葉でデウスと呼ぶのです」
?? 某もよくわかりません。
仏「ではデウスは体があるのか? また、それは見える物なのか?」
宣「体があり、目に見える物は諸要素から出来ています。しかし創造主であるデウスは諸要素から成る体を持っていません。すなわち、もし諸要素から体が出来たなら、(それらの)創造主となる事はできないからです」
? ? ?
仏「いまだよくわかりませぬが、それでは議題を変えましょう。デウスは悪であるか善であるか? また、善悪の全てがデウスからできるのか?」
宣「創造主であるデウスは善であり、出来た物が悪であろうが善であろうが、デウスは関与しません」
仏教僧は、悪魔はどうだ? 悪魔が悪であり、人間の敵であるなら、なぜ善である神は悪である悪魔をつくったのか?
と問題を出してきました。
宣「デウスは善なる者を作りましたが、彼らが勝手に悪くなったので、懲らしめるために終わりのない罰を課すのです」
仏「デウスがそのように残酷な罰を課すなら、慈悲深い者ではないのではないか? 悪魔が人間を悪に誘うと知りながら、なぜ悪魔を放置しているのか?」
……眠くなってきました。
キリシタンの宣教師側からも仏教僧に対して、「聖人になろうとしていないのか?」「なぜ、禁忌である肉食や飲酒、妻帯をしているのか?」
と質問を続けます。
それに対して仏僧は答えます。
「われわれは聖人になろうとしているのではない。最終的には悟りを開くのが目的だ」「修行とはそれらを一切禁じて己の精神を高める者だが、一生続ける者ではない。定めた期間が終われば、別に肉食も構わぬ」
......うーん。押し問答? 考えや教義が違うから、噛み合わない。殿は……。
真剣に二人の討論を聞いていました。
「あいわかった。今日はここまでとする。お互いに考えが違うという事は致し方のない事。相手を認め、尊重する事がお互いの神も御仏も望んでおろう」
そう言ってお開きにしました。
仏教僧の方は帰りましたが、宣教師は残っています。どうしたんでしょう?
「そなたにひとつ、聞きたい事がある」
殿は切り出しました。
「何でしょう?」
「そなたら南蛮の商人が、わが日の本の民を買い、海の彼方へ連れて行っている、という噂を聞いたが、それは本当か?」
殿は表情を変えずに、淡々と聞いています。
「はい、本当でございます」
! 認めましたよ!
「そうか。ではなぜ買うのだ。言葉も違えば髪の色、瞳の色も違う。しかしそれでも同じ人であろう。そなたらの神は、同じ人間を、牛や馬のように首輪につないで売る事を許すのか?」
「それは我々もやりたくてやっているのではありません。しかし……」
宣教師は口ごもっていましたが、やがて答えました。
「しかし、日の本の商人がどうしても、と売ってくるのです。彼らも生活があるのでしょう。何度も何度も断りましたが、止めてくれません。それに、戦にて家族を失い、住む場所も食べる物もない。そんな彼ら、彼女らを買う事で、最低でも死ぬ事はないのです」
詭弁だ! 問題のすり替えだ! 殿の気持ちを代弁するとこうなるのでしょうか。次第に表情がこわばってくるのがわかります。
感情を必死でおさえています。
「そなたの言う事を聞くと、まるで悪いのは自分ではなく、売りに来る日の本の商人が悪い様に聞こえるが?」
「そうではありませぬ。我々としては、止むに止まれず、最善と思われる事を行っているだけです。......そこまで言うなら、殿様がこの国をまとめてしまえばいいのです。そうすれば戦もありませんし、露頭に迷う子供もいなくなりまする」
この野郎、言うに事欠いて……!
殿の代弁です。
「なるほど、左様か。売る者がいなければ、買わないのだな? その言葉に嘘偽りはないな?」
扇子をぐっと握りしめています。
「はい、もちろんです」
そうは言っているが目が笑っていない。できるものか、と思っているようです。
「そうか。あいわかった。今日はご苦労であった。下がるがよい」
殿、湯気がたっています。湯気が……。
殿は戦を嫌われております。もちろん、某も嫌いにございます。
他国になめられない様に国力を高め、調略によって情報を集め盟を駆使し、なるべく他国に攻め入らなくても済む様に、とお考えです。
しかし、世はそのような殿のお考えを気にもとめず、乱れに乱れ、やらねば殺される弱肉強食の世界なのでございます。
前日横瀬浦にて殿が助けた三人ですが、しばらくは殿預かりとの事です。
何もしない訳にはいかず、上の娘(某よりも年上の女性を娘と呼ぶのも変ですが)の妙殿は殿の義姉君、幸様のお付きとして働いておりまする。
六太は私と同じ殿の小姓。末娘の鈴は雪様のお付きをしております。
ただ不思議なのは、三人とも初めてのような感じがせず、武家の作法などしっかりと学ばれていた様な所作をするのです。
まさか、まさか、やんごとなき……。いや、深く考えるのは止めましょう。
今日は、キリシタンの宣教師を招いて、仏教のお坊さんとの討論会が開かれます。相手をけなして論破するのではなく、お互いの理解を深めて衝突をなくす。これは殿のお考えです。
石けんの製造と販売の一部を委任しているので、お金の問題での不満はありません。信徒も強制的に改宗はしていないので、今のところ穏やかな雰囲気です。
仏教僧(以下仏)
「汝らのいうデウスとは何者か?」
宣教師(以下宣)「デウス様はこの世の全ての創造主です」
仏「では、いかなる材料で魂をつくったのか?」
宣「デウス様はいかなる材料でもなく、その意志と言葉によって霊魂をつくりました」
......?? 仏教僧がよくわからない、そんな顔をしています。
宣「物にはすべて始まりがあり、それらは自ら始まった物ではありません。したがって、本源が存在するが、これには始まりもなければ終りもない。これを我らの言葉でデウスと呼ぶのです」
?? 某もよくわかりません。
仏「ではデウスは体があるのか? また、それは見える物なのか?」
宣「体があり、目に見える物は諸要素から出来ています。しかし創造主であるデウスは諸要素から成る体を持っていません。すなわち、もし諸要素から体が出来たなら、(それらの)創造主となる事はできないからです」
? ? ?
仏「いまだよくわかりませぬが、それでは議題を変えましょう。デウスは悪であるか善であるか? また、善悪の全てがデウスからできるのか?」
宣「創造主であるデウスは善であり、出来た物が悪であろうが善であろうが、デウスは関与しません」
仏教僧は、悪魔はどうだ? 悪魔が悪であり、人間の敵であるなら、なぜ善である神は悪である悪魔をつくったのか?
と問題を出してきました。
宣「デウスは善なる者を作りましたが、彼らが勝手に悪くなったので、懲らしめるために終わりのない罰を課すのです」
仏「デウスがそのように残酷な罰を課すなら、慈悲深い者ではないのではないか? 悪魔が人間を悪に誘うと知りながら、なぜ悪魔を放置しているのか?」
……眠くなってきました。
キリシタンの宣教師側からも仏教僧に対して、「聖人になろうとしていないのか?」「なぜ、禁忌である肉食や飲酒、妻帯をしているのか?」
と質問を続けます。
それに対して仏僧は答えます。
「われわれは聖人になろうとしているのではない。最終的には悟りを開くのが目的だ」「修行とはそれらを一切禁じて己の精神を高める者だが、一生続ける者ではない。定めた期間が終われば、別に肉食も構わぬ」
......うーん。押し問答? 考えや教義が違うから、噛み合わない。殿は……。
真剣に二人の討論を聞いていました。
「あいわかった。今日はここまでとする。お互いに考えが違うという事は致し方のない事。相手を認め、尊重する事がお互いの神も御仏も望んでおろう」
そう言ってお開きにしました。
仏教僧の方は帰りましたが、宣教師は残っています。どうしたんでしょう?
「そなたにひとつ、聞きたい事がある」
殿は切り出しました。
「何でしょう?」
「そなたら南蛮の商人が、わが日の本の民を買い、海の彼方へ連れて行っている、という噂を聞いたが、それは本当か?」
殿は表情を変えずに、淡々と聞いています。
「はい、本当でございます」
! 認めましたよ!
「そうか。ではなぜ買うのだ。言葉も違えば髪の色、瞳の色も違う。しかしそれでも同じ人であろう。そなたらの神は、同じ人間を、牛や馬のように首輪につないで売る事を許すのか?」
「それは我々もやりたくてやっているのではありません。しかし……」
宣教師は口ごもっていましたが、やがて答えました。
「しかし、日の本の商人がどうしても、と売ってくるのです。彼らも生活があるのでしょう。何度も何度も断りましたが、止めてくれません。それに、戦にて家族を失い、住む場所も食べる物もない。そんな彼ら、彼女らを買う事で、最低でも死ぬ事はないのです」
詭弁だ! 問題のすり替えだ! 殿の気持ちを代弁するとこうなるのでしょうか。次第に表情がこわばってくるのがわかります。
感情を必死でおさえています。
「そなたの言う事を聞くと、まるで悪いのは自分ではなく、売りに来る日の本の商人が悪い様に聞こえるが?」
「そうではありませぬ。我々としては、止むに止まれず、最善と思われる事を行っているだけです。......そこまで言うなら、殿様がこの国をまとめてしまえばいいのです。そうすれば戦もありませんし、露頭に迷う子供もいなくなりまする」
この野郎、言うに事欠いて……!
殿の代弁です。
「なるほど、左様か。売る者がいなければ、買わないのだな? その言葉に嘘偽りはないな?」
扇子をぐっと握りしめています。
「はい、もちろんです」
そうは言っているが目が笑っていない。できるものか、と思っているようです。
「そうか。あいわかった。今日はご苦労であった。下がるがよい」
殿、湯気がたっています。湯気が……。
2
お気に入りに追加
158
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる