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第240話 『土佐藩軍艦? 商船? 購入と佐賀と薩摩の教育改革』
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~安政六年十月二十一日(1859/11/15)
「それで、荷船と申したか?」
「は、我が家中の意向としましては、まずは商い、つまり交易にございますが、これにて富を蓄えとうございます。しかるのちに軍艦を買う、もしくは……」
「自らつくる、と?」
「聞けば隣の宇和島、伊達家中でも製造されたと聞き及んじょり……及んでおります」
「よい、象二郎よ。他はわからぬが、オレと話すときは畏まらずともよい。礼を失しなければ、話し方など些末な事よ」
それが礼を失する、と象二郎は考えていたが、次郎にとってはどうでもいい事である。さすがに呼び捨てや語尾に『ですます』がないのはどうかと思うが、それ以外はあまり気にしない。
「は……」
宇和島藩の場合は前原功山とその門下生ありきで、ようやく3年である。土佐の何もない状態では5年、いや10年はかかるかもしれない。海軍伝習所(兵学校)はすでに経理科と機関科が併設されている。
「まあ、それは良いとして、荷船、我が家中では商船と呼んでおるが、商船でも砲は自衛のために積んでおる。帆船ですら和船とは勝手が違うのに加え、蒸気船となればそれを操る人がいる。それを如何いたすのだ?」
「商船にも砲を積むのは当然でしょう。操船の技術については……」
象二郎は少し考えてから続けた。
「御家中の川棚海軍伝習所へ家中の者を派遣することを考えております。蒸気船の操縦や機関の扱いを学ばせるつもりです」
次郎はうなずいた。
「なるほど。然れどすでに伝習所はないぞ……。海軍兵学校は我が家中のものしか入れぬし、兵学校の管理下にある海軍初等伝習所ならば門戸を開いているが……」
「は、ではそのように、よろしくお取り計らいいただきますよう、お願いいたします」
学習項目は航海術・運用術・造船学・砲術・船具学・測量学・算術(数学)・機関学・砲術調練があり、水夫や船大工などは別で実地教育があった。
「わが海軍伝習所には土佐の家中から例年伝習生が来ておったが、それでも五十名足らずじゃ。わが家中の一番小さい船であれば事足りるが、いったい如何ほどの船をと考えているのだ?」
象二郎は次郎の質問に、少し戸惑いの表情を見せた。
「実のところ、つぶさなる船の大きさまでは決めておりませぬ。然れど家中として船を持つとなれば、他の家中に恥ずることのない大きさはいるかと存じます。憚りながら伺いとう存じますが、他の家中で蒸気船を用いている処はございますでしょうか」
「うむ、鍋島家中と島津家中、加えて隣の宇和島伊達家中も持っておる」
「如何ほどの大きさにございましょうや」
象二郎の問いに次郎は記憶を頼りに答える。
「そうじゃな……宇和島の千年丸も、鹿児島の雲行丸も、40トン……」
トン……で象二郎が顔をしかめたので、次郎は石に換算する。
「……ごほん。おおよそ二百七十石積みであろうか。あとは佐賀であるが、これは注文した船ゆえ、五千三百石積みとなる」
「ご、五千……」
「仮にこれと同じ艦なら最低百人は要ろうの」
それを聞いて象二郎は考え込む。金額はもちろん人員の問題があるのだ。ただ単純に船を買えばいいというものではない。
「象二郎どん」
「なんじゃ龍馬、いま大事なところぜよ」
唐突に発言した龍馬を象二郎は苦々しく思ったのだ。
「わしはこの伝習所で学ぼうと考えとるが、上士の方々とは、一緒にこたわんよ(学ぶのは御免だ)」
「な、なんじゃと? 今そがいなこと言うとる場合じゃなかろうが」
龍馬が言ったのは、自分はここで学んで藩の役に立ちたい(?)と考えているが、超差別意識の強い上士と一緒に、命をかけた仕事などできないという意味だろう。
当の上士である土佐藩士達も土佐に蒸気船があるわけでもなく、船にも乗らず、知識や技術を活かすこともなく、宝の持ち腐れとなっていたのだ。
命令と言われれば行くが、伝習所希望者は年々減っており、不人気極まりなかった。
これから必要な人員を確保しようと思えば、白札や郷士から集めなければならないが、その両者が一緒に行動するとなれば、間違いなくトラブルが起きるだろう。
「まあ、それはそちらの家中の事ゆえ、オレがいろいろと口入れする事でもなかろう。佐賀と同じならば五万六千両、飛龍型と同じならば五千二百両じゃ」
「ご、五万両にございますか……」
「それはおいおい考えるとよいのではないか? 近く海軍では全艦スクリュー船とする掟(予定)があるゆえ、いまの外輪船は武装を減らして輸送船か、もしくは払い下げの予定じゃ。中古でよければ一、二割は安くなろう」
「は……」
外輪船の昇龍丸が360tで新造価格は2万5千200両であった。
これより以降、次郎の予想通りではあったが、大村藩へ造船の依頼が入ってくるようになるのである。
■佐賀藩
「知安、お召しにより参上しました」
「おお、よくぞまいった。実はの、お主が大村にて修練に励んでおった頃より上書しておった、大学を設ける儀が目処がたったゆえ、よんだのじゃ」
「はは、有り難き幸せにございます」
「お主は特に、医学を学んだと聞いておる。大学の医学部にて講じてほしい」
佐賀藩は大村藩の海軍伝習所に藩士を送って学ばせると共に、五教館開明大学とその教育制度に着目し、入学させてはその制度を導入していたのだ。
各郡、各村に寺子屋のような初等教育機関を設け、郡に複数の中学校、そして城下には弘道館があり、今回その上部教育組織として、弘道館大学が設置される事となった。
相良知安はその五教館開明大学の卒業生である。卒業後佐賀に戻っていたが、大学の件で直正に呼ばれたのであった。その卒業生がそのまま教授になる訳である。
ただし、他藩の入学生は五教館開明大学どまりである。次郎をはじめとした信之介や一之進、お里ら転生人の知識を凝縮させた研究施設には入れない。
したがって佐賀藩の大学は時間をかければ大村藩のようになるであろうが、その先は大いに時間がかかるだろう。研究開発にかけている資金・人材その他が他藩では真似できないほどの桁違いだったのだから。
佐賀藩では藩海軍伝習所がすでに三重津に設置されており、晨風丸と電流丸を用いて運用していた。
同じように薩摩藩でも造士館大学が設立され、伝習所が設立されている。大村藩においつくのは、幕府より佐賀や薩摩が早いのであろうか……。
それは次郎でさえもわからなかった。相当な年月がかかろうとも、そのスタートをきったのは事実である。
次回 第241話 (仮)『蝦夷地とロシア』
「それで、荷船と申したか?」
「は、我が家中の意向としましては、まずは商い、つまり交易にございますが、これにて富を蓄えとうございます。しかるのちに軍艦を買う、もしくは……」
「自らつくる、と?」
「聞けば隣の宇和島、伊達家中でも製造されたと聞き及んじょり……及んでおります」
「よい、象二郎よ。他はわからぬが、オレと話すときは畏まらずともよい。礼を失しなければ、話し方など些末な事よ」
それが礼を失する、と象二郎は考えていたが、次郎にとってはどうでもいい事である。さすがに呼び捨てや語尾に『ですます』がないのはどうかと思うが、それ以外はあまり気にしない。
「は……」
宇和島藩の場合は前原功山とその門下生ありきで、ようやく3年である。土佐の何もない状態では5年、いや10年はかかるかもしれない。海軍伝習所(兵学校)はすでに経理科と機関科が併設されている。
「まあ、それは良いとして、荷船、我が家中では商船と呼んでおるが、商船でも砲は自衛のために積んでおる。帆船ですら和船とは勝手が違うのに加え、蒸気船となればそれを操る人がいる。それを如何いたすのだ?」
「商船にも砲を積むのは当然でしょう。操船の技術については……」
象二郎は少し考えてから続けた。
「御家中の川棚海軍伝習所へ家中の者を派遣することを考えております。蒸気船の操縦や機関の扱いを学ばせるつもりです」
次郎はうなずいた。
「なるほど。然れどすでに伝習所はないぞ……。海軍兵学校は我が家中のものしか入れぬし、兵学校の管理下にある海軍初等伝習所ならば門戸を開いているが……」
「は、ではそのように、よろしくお取り計らいいただきますよう、お願いいたします」
学習項目は航海術・運用術・造船学・砲術・船具学・測量学・算術(数学)・機関学・砲術調練があり、水夫や船大工などは別で実地教育があった。
「わが海軍伝習所には土佐の家中から例年伝習生が来ておったが、それでも五十名足らずじゃ。わが家中の一番小さい船であれば事足りるが、いったい如何ほどの船をと考えているのだ?」
象二郎は次郎の質問に、少し戸惑いの表情を見せた。
「実のところ、つぶさなる船の大きさまでは決めておりませぬ。然れど家中として船を持つとなれば、他の家中に恥ずることのない大きさはいるかと存じます。憚りながら伺いとう存じますが、他の家中で蒸気船を用いている処はございますでしょうか」
「うむ、鍋島家中と島津家中、加えて隣の宇和島伊達家中も持っておる」
「如何ほどの大きさにございましょうや」
象二郎の問いに次郎は記憶を頼りに答える。
「そうじゃな……宇和島の千年丸も、鹿児島の雲行丸も、40トン……」
トン……で象二郎が顔をしかめたので、次郎は石に換算する。
「……ごほん。おおよそ二百七十石積みであろうか。あとは佐賀であるが、これは注文した船ゆえ、五千三百石積みとなる」
「ご、五千……」
「仮にこれと同じ艦なら最低百人は要ろうの」
それを聞いて象二郎は考え込む。金額はもちろん人員の問題があるのだ。ただ単純に船を買えばいいというものではない。
「象二郎どん」
「なんじゃ龍馬、いま大事なところぜよ」
唐突に発言した龍馬を象二郎は苦々しく思ったのだ。
「わしはこの伝習所で学ぼうと考えとるが、上士の方々とは、一緒にこたわんよ(学ぶのは御免だ)」
「な、なんじゃと? 今そがいなこと言うとる場合じゃなかろうが」
龍馬が言ったのは、自分はここで学んで藩の役に立ちたい(?)と考えているが、超差別意識の強い上士と一緒に、命をかけた仕事などできないという意味だろう。
当の上士である土佐藩士達も土佐に蒸気船があるわけでもなく、船にも乗らず、知識や技術を活かすこともなく、宝の持ち腐れとなっていたのだ。
命令と言われれば行くが、伝習所希望者は年々減っており、不人気極まりなかった。
これから必要な人員を確保しようと思えば、白札や郷士から集めなければならないが、その両者が一緒に行動するとなれば、間違いなくトラブルが起きるだろう。
「まあ、それはそちらの家中の事ゆえ、オレがいろいろと口入れする事でもなかろう。佐賀と同じならば五万六千両、飛龍型と同じならば五千二百両じゃ」
「ご、五万両にございますか……」
「それはおいおい考えるとよいのではないか? 近く海軍では全艦スクリュー船とする掟(予定)があるゆえ、いまの外輪船は武装を減らして輸送船か、もしくは払い下げの予定じゃ。中古でよければ一、二割は安くなろう」
「は……」
外輪船の昇龍丸が360tで新造価格は2万5千200両であった。
これより以降、次郎の予想通りではあったが、大村藩へ造船の依頼が入ってくるようになるのである。
■佐賀藩
「知安、お召しにより参上しました」
「おお、よくぞまいった。実はの、お主が大村にて修練に励んでおった頃より上書しておった、大学を設ける儀が目処がたったゆえ、よんだのじゃ」
「はは、有り難き幸せにございます」
「お主は特に、医学を学んだと聞いておる。大学の医学部にて講じてほしい」
佐賀藩は大村藩の海軍伝習所に藩士を送って学ばせると共に、五教館開明大学とその教育制度に着目し、入学させてはその制度を導入していたのだ。
各郡、各村に寺子屋のような初等教育機関を設け、郡に複数の中学校、そして城下には弘道館があり、今回その上部教育組織として、弘道館大学が設置される事となった。
相良知安はその五教館開明大学の卒業生である。卒業後佐賀に戻っていたが、大学の件で直正に呼ばれたのであった。その卒業生がそのまま教授になる訳である。
ただし、他藩の入学生は五教館開明大学どまりである。次郎をはじめとした信之介や一之進、お里ら転生人の知識を凝縮させた研究施設には入れない。
したがって佐賀藩の大学は時間をかければ大村藩のようになるであろうが、その先は大いに時間がかかるだろう。研究開発にかけている資金・人材その他が他藩では真似できないほどの桁違いだったのだから。
佐賀藩では藩海軍伝習所がすでに三重津に設置されており、晨風丸と電流丸を用いて運用していた。
同じように薩摩藩でも造士館大学が設立され、伝習所が設立されている。大村藩においつくのは、幕府より佐賀や薩摩が早いのであろうか……。
それは次郎でさえもわからなかった。相当な年月がかかろうとも、そのスタートをきったのは事実である。
次回 第241話 (仮)『蝦夷地とロシア』
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