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第140話 『ゴムの安定供給とスクリュー、金属加工、後装砲の研究』(1851/10/13)
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嘉永四年九月十九日(1851/10/13) 大村藩 精煉方 象山研究室
佐久間象山はノートを片手に、各実験結果を詳細に記録していた。
ブルークは温度計と時計を手にしながら、加熱のタイミングを厳密に管理している。杉亨二は実験装置の調整に余念がなく、適塾の5人の助手たちは、それぞれの指示に従って手際よく作業を進めていた。
「加硫の条件を確立するためには、より多くの実験が必要だ」
佐久間象山は静かに呟いた。
ゴムの安定化には成功したものの、その条件を明確に把握した訳ではなかったからだ。丁寧に実験を進め、硫黄の量を変えたり、加熱温度を調整したり、加熱時間を変化させたりしながら、加硫ゴムのサンプルを作製していく。
実験室内は硫黄の刺激的な臭いが漂い、ブルークは時折咳き込みながらも、実験に没頭していた。
「この条件では、まだゴムが硬すぎる。硫黄の量を減らしてみよう」
象山はサンプルを手に取りながら、次の実験の計画を立てる。加硫の条件を探るための実験を何度も繰り返し、実験結果を詳細にノートに記録し、データを分析した。
「ようし! やったぞ!」
象山の叫びに全員が注目した。加硫の条件を発見し、ゴムの安定化に成功したのだ。条件は加熱温度を132度に設定し、4~6時間蒸気で加圧する事であった。
何度も何度も検証し、その弾力性と強度を確かめた結論である。
「これだ! この条件なら、理想的な加硫ゴムが得られる。ようし! 次だ! 東馬、スクリューの潤滑油の成分配合はどうだ?」
「はい先生!」
稲田東馬がスクリューの開発に必要な、潤滑油の成分配合の実験結果の資料を持ってきた。
「タールが二割、菜種と鯨油がそれぞれ四割が、もっとも良い状態となります」
「よし! では早速試作して実際に回して試してみよう。ゴムを使った水密とあわせ、試すのだ」
「はい!」
苦難の日々が続けば、成功とヒラメキが続く事もある。
■大砲鋳造方
「方々、よくよく承知の上かと存ずるが、わが大砲鋳造方は、今いくつもの研究が課されておる」
高島秋帆・賀来惟熊・村田蔵六・武田斐三郎・大野規周の五名が主力となって開発を推し進めていたが、その内容は以下の通りである。
・ライフル砲
・榴弾砲(砲弾)
・後装砲
・小銃における金属薬莢
「このうち榴弾に関しては、せんだって信管の開発において”火道式時限信管”、とひとまずは呼ぶが、一応の完成をみた。これからもっと改良を進めて実際の砲弾に設置していかねばならぬが、他にも施条や金属薬莢、後装式の大砲など、やらねばならんことが多々ある」
全員が責任者の秋帆の顔を見ながら、真剣に話を聞いている。
「そこで以後は、各自専門の分野を決めて開発を行い、定期的に考えを通わすというやり方にしたいが、如何でござろうか?」
全員の目が一層鋭くなり、集中力が高まるのを感じた。
「異議はございませぬ。それぞれの分野で集中し、無駄なく進めることが肝要と存じます」
村田蔵六が応じた。
秋帆は一同を見渡し、続ける。
「では、具体的な分担を決めよう。まず、大砲の施条技術については武田斐三郎殿にお願いしたい」
武田斐三郎が頷き、筆を取り準備する。
「心得ました。既に研究は進めておりますが、更なる精度向上を図ります」
「次に、榴弾の改良と信管のさらなる研究は大野規周殿に任せたい」
大野規周は自信を持って応じる。
「お聞きの通り、信管の改良は進んでおりますが、実戦投入にはまだ課題が残っています。早急に解決致します」
「後装砲については、賀来惟熊殿。特に装填機構の精度と耐久性に重点を置いて開発を進めていただきたい」
賀来惟熊は頷き、深く考え込んだ。
「装填機構の課題は複雑ですが、必ずや突破口を見つけます」
「最後に、小銃における金属薬莢の開発は村田蔵六殿に一任したい」
「承知致しました。如何にして衝撃に耐えうるかを念頭に置いて、最も適した方法を開発いたします」
蔵六は静かに答えた。
「では、これより各自の分野で全力を尽くしていただく。定期的に会合を開き、進捗状況と課題を共有することを忘れずに。皆の力を合わせて、必ずやこの大事業を成功に導こうではありませぬか」
全員が一斉に頷き、再び秋帆に目が集まる。その視線を確認し、秋帆は少し考えた後に言葉を続けた。
「さて、それがしもただの監督役でいるわけにはいきませぬ。全体の進捗を管理しつつ、特に大砲の施条技術と小銃の金属薬莢の調整に重きを置いていこうかと存ずる」
全員が納得したのを見て、気が早いようですが、と前置きをして秋帆はさらに続けた。
「武田殿、施条砲については、只今のところ、如何にお考えか」
「はい。ひとまずは、小銃をそのまま大きくした形で、と考えております。幸いにして切削機を大型化すれば、ひとまずは造れると存じます。その後、砲弾の仕様を考えようかと」
「なるほど」
大型の切削機はすでに製造している。
ドリルの形状は小銃を製造する際に実践済みなので、そのまま大型化すれば理論上は完成するはずである。前装式と後装式で砲弾の形状は変わってくるだろう。
「金属薬莢に関しては、工作機械の兼ね合いがあるゆえこれからではあるが、後装式については賀来殿、如何でござろう?」
「まずは大型の……ネジによる尾栓を考えております。複雑な機構ではなく、まずはそれで製造し、試射を行って障りがないことを確かめた後に、様々な改良を加えて行きとうござる」
惟熊は一歩一歩進めようと考えているようだ。
秋帆はその場にいた者たちの顔を見渡し、各々の表情からやる気と覚悟を感じ取った。皆が同意の意を示し、会議は解散となった。全員がこれからの大事業に向けての決意を新たにしたのだ。
隠居どころか、大いに面白い余生を過ごさせていただいておりますぞ、次郎殿。あなたがいなければ私はえん罪でつかまり、下手をすれば命を奪われておったやもしれぬ。
感謝してもしきれぬが、ここにおいて、自らの開発を結果として表すことで恩返しといたしましょう。
次回 第141話 (仮)『商船学校と海軍兵学校ならびに陸軍兵学校』
佐久間象山はノートを片手に、各実験結果を詳細に記録していた。
ブルークは温度計と時計を手にしながら、加熱のタイミングを厳密に管理している。杉亨二は実験装置の調整に余念がなく、適塾の5人の助手たちは、それぞれの指示に従って手際よく作業を進めていた。
「加硫の条件を確立するためには、より多くの実験が必要だ」
佐久間象山は静かに呟いた。
ゴムの安定化には成功したものの、その条件を明確に把握した訳ではなかったからだ。丁寧に実験を進め、硫黄の量を変えたり、加熱温度を調整したり、加熱時間を変化させたりしながら、加硫ゴムのサンプルを作製していく。
実験室内は硫黄の刺激的な臭いが漂い、ブルークは時折咳き込みながらも、実験に没頭していた。
「この条件では、まだゴムが硬すぎる。硫黄の量を減らしてみよう」
象山はサンプルを手に取りながら、次の実験の計画を立てる。加硫の条件を探るための実験を何度も繰り返し、実験結果を詳細にノートに記録し、データを分析した。
「ようし! やったぞ!」
象山の叫びに全員が注目した。加硫の条件を発見し、ゴムの安定化に成功したのだ。条件は加熱温度を132度に設定し、4~6時間蒸気で加圧する事であった。
何度も何度も検証し、その弾力性と強度を確かめた結論である。
「これだ! この条件なら、理想的な加硫ゴムが得られる。ようし! 次だ! 東馬、スクリューの潤滑油の成分配合はどうだ?」
「はい先生!」
稲田東馬がスクリューの開発に必要な、潤滑油の成分配合の実験結果の資料を持ってきた。
「タールが二割、菜種と鯨油がそれぞれ四割が、もっとも良い状態となります」
「よし! では早速試作して実際に回して試してみよう。ゴムを使った水密とあわせ、試すのだ」
「はい!」
苦難の日々が続けば、成功とヒラメキが続く事もある。
■大砲鋳造方
「方々、よくよく承知の上かと存ずるが、わが大砲鋳造方は、今いくつもの研究が課されておる」
高島秋帆・賀来惟熊・村田蔵六・武田斐三郎・大野規周の五名が主力となって開発を推し進めていたが、その内容は以下の通りである。
・ライフル砲
・榴弾砲(砲弾)
・後装砲
・小銃における金属薬莢
「このうち榴弾に関しては、せんだって信管の開発において”火道式時限信管”、とひとまずは呼ぶが、一応の完成をみた。これからもっと改良を進めて実際の砲弾に設置していかねばならぬが、他にも施条や金属薬莢、後装式の大砲など、やらねばならんことが多々ある」
全員が責任者の秋帆の顔を見ながら、真剣に話を聞いている。
「そこで以後は、各自専門の分野を決めて開発を行い、定期的に考えを通わすというやり方にしたいが、如何でござろうか?」
全員の目が一層鋭くなり、集中力が高まるのを感じた。
「異議はございませぬ。それぞれの分野で集中し、無駄なく進めることが肝要と存じます」
村田蔵六が応じた。
秋帆は一同を見渡し、続ける。
「では、具体的な分担を決めよう。まず、大砲の施条技術については武田斐三郎殿にお願いしたい」
武田斐三郎が頷き、筆を取り準備する。
「心得ました。既に研究は進めておりますが、更なる精度向上を図ります」
「次に、榴弾の改良と信管のさらなる研究は大野規周殿に任せたい」
大野規周は自信を持って応じる。
「お聞きの通り、信管の改良は進んでおりますが、実戦投入にはまだ課題が残っています。早急に解決致します」
「後装砲については、賀来惟熊殿。特に装填機構の精度と耐久性に重点を置いて開発を進めていただきたい」
賀来惟熊は頷き、深く考え込んだ。
「装填機構の課題は複雑ですが、必ずや突破口を見つけます」
「最後に、小銃における金属薬莢の開発は村田蔵六殿に一任したい」
「承知致しました。如何にして衝撃に耐えうるかを念頭に置いて、最も適した方法を開発いたします」
蔵六は静かに答えた。
「では、これより各自の分野で全力を尽くしていただく。定期的に会合を開き、進捗状況と課題を共有することを忘れずに。皆の力を合わせて、必ずやこの大事業を成功に導こうではありませぬか」
全員が一斉に頷き、再び秋帆に目が集まる。その視線を確認し、秋帆は少し考えた後に言葉を続けた。
「さて、それがしもただの監督役でいるわけにはいきませぬ。全体の進捗を管理しつつ、特に大砲の施条技術と小銃の金属薬莢の調整に重きを置いていこうかと存ずる」
全員が納得したのを見て、気が早いようですが、と前置きをして秋帆はさらに続けた。
「武田殿、施条砲については、只今のところ、如何にお考えか」
「はい。ひとまずは、小銃をそのまま大きくした形で、と考えております。幸いにして切削機を大型化すれば、ひとまずは造れると存じます。その後、砲弾の仕様を考えようかと」
「なるほど」
大型の切削機はすでに製造している。
ドリルの形状は小銃を製造する際に実践済みなので、そのまま大型化すれば理論上は完成するはずである。前装式と後装式で砲弾の形状は変わってくるだろう。
「金属薬莢に関しては、工作機械の兼ね合いがあるゆえこれからではあるが、後装式については賀来殿、如何でござろう?」
「まずは大型の……ネジによる尾栓を考えております。複雑な機構ではなく、まずはそれで製造し、試射を行って障りがないことを確かめた後に、様々な改良を加えて行きとうござる」
惟熊は一歩一歩進めようと考えているようだ。
秋帆はその場にいた者たちの顔を見渡し、各々の表情からやる気と覚悟を感じ取った。皆が同意の意を示し、会議は解散となった。全員がこれからの大事業に向けての決意を新たにしたのだ。
隠居どころか、大いに面白い余生を過ごさせていただいておりますぞ、次郎殿。あなたがいなければ私はえん罪でつかまり、下手をすれば命を奪われておったやもしれぬ。
感謝してもしきれぬが、ここにおいて、自らの開発を結果として表すことで恩返しといたしましょう。
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