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第33話 『修一の若返りの秘密』
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2024年11月10日(15:00) 東京 SPRO地下施設
「え? 今なんと……若返り、と言いましたか?」
藤堂は驚きと同時にすぐさま槍太に聞き返した。そばにいた博士も耳を疑っている。
「どういうことか、詳しく聞かせていただけませんか?」
博士は藤堂を見て、返事も待たずに修一に向かって聞いた。
「……私は今51歳なんですが、タイムワープして弥生時代に飛ばされたときに、20歳前後に若返ったんです。その証拠にこの6人が弥生時代にタイムワープした際に、20歳に若返った僕を見ています。そしてここにいる全員が、現代に戻って元通りの51歳になった僕を見ているので、間違いはありません」
修一の言葉に、部屋は静まり返った。
藤堂と博士は互いの顔を見合わせ、そして全員の顔を順番に見ていく。
「……その、証言は確かですか?」
博士が慎重に尋ねる。すかさず槍太が答えた。
「ええ、間違いありません。弥生時代では、修一先生は僕たちと同じくらいの年齢に見えました。髪の色も黒くて、シワもありませんでした。でも、現代に戻ってきたら……」
「また51歳の姿に戻っていたのですね」
藤堂はそう言って思案げに腕を組み、再び修一を見つめた。
「実は、われわれの検査でも、それを示唆する数値が見られたのです……」
「え?」
博士のその一言に修一は驚き、周囲の人間も博士に注目した。
「これをご覧ください」
博士はタブレットを操作しながら説明を始めた。
「修一先生の細胞を分析したところ、非常に興味深い現象が確認されました。まるで時間そのものが巻き戻されたかのような特徴が見られるのです」
大型ディスプレイに複雑なグラフと細胞の画像が表示される。
「染色体末端のテロメアに着目すると、通常では見られない特異な状態が観察されました。修一先生の細胞には、20代相当のテロメア長を示す部分と、現在の年齢相当の部分が混在しているのです」
医学部生の比古那が食い入るように画面を見つめる。
「それって、通常ありえない現象ですよ。私たちが学んだ細胞生物学では、加齢変化は一方向のはずです」
「ええ。現在の医学では、細胞を若返らせるにはいくつかの方法があります」
博士は説明を続ける。
「例えばiPS細胞技術。体細胞に特定の因子を導入することで、多能性を持つ幹細胞を人工的に作り出すことができます」
同じく医学を学ぶ咲耶が専門的な視点で補足する。
「山中教授が2006年に発表した技術ですね。再生医療への応用が期待されています」
「そうです。あるいはより直接的な方法として」
博士は画面を切り替えながら続ける。
「ハーバード大学のシンクレア教授のチームが2023年1月に発表した研究があります。マウスの老化した細胞を遺伝子治療で若返らせることに成功しました」
「でも、修一先生の場合は違うんですよね?」
比古那が先を促す。
「ええ。iPS細胞のような転写因子の導入も、シンクレア教授らが行った遺伝子治療も、何の人為的操作もなしに、細胞が若い状態の特徴を示しているんです」
「しかも」
咲耶が付け加える。
「iPS細胞は元の細胞の性質を初期化してしまいますし、遺伝子治療にも限界があります。でも修一先生の場合は、記憶や人格をそのまま保ったまま……」
「その通り」
博士は続ける。
「これは単なる細胞レベルの若返りではありません。修一先生の場合、弥生時代では体全体が若返りながら、高次機能は維持されていました。現代医学では説明のつかない現象です」
「そして、もう1つ気になる点があります」
博士は別の画面に切り替えた。
「タイムワープが起きた時、地震と同時に強い磁場の乱れが観測されているんです。特に石室付近では、通常ではありえないような磁場の変動が」
藤堂が身を乗り出す。
「それに加えて、タイミングですね」
「ええ。タイムワープが発生した時期は、いずれも満月に近い日でした」
イツヒメが静かに顔を上げる。
「それは……」
「何か、ご存じですか?」
博士が問いかける。
「私たちの時代から、あの場所は特別な力が宿ると伝えられていました。特に、月が満ちる時は……」
「月の満ち欠けと、磁場の異常に相関関係があるかもしれないということですか?」
比古那が医学生らしい冷静な視点で問う。
「これはあくまで仮説ですが」
博士は慎重に言葉を選ぶ。
「宮田遺跡の石室周辺では、月の引力、地下の磁性体、そして未知の要因が重なり合って、特殊な場が形成されている可能性があります。その結果として……」
「時空を超えた移動と、細胞レベルでの若返りが起きた、と」
藤堂が返した。
「ただし」
博士は画面をスクロールさせながら続ける。
「現代物理学や医学では、このメカニズムを完全には説明できません。特に、記憶や人格を保ったままの若返りは、既知の科学では理解不能な現象です」
「でも、なんで先生だけ?」
素朴だが、当然の質問を美保がした。
「修一先生の細胞には」
博士は別のデータを表示させる。
「他の方々には見られない特異な性質が確認されています。タイムワープ前から、既に何か特別な傾向が……」
「どういうことですか?」
藤堂が身を乗り出す。
「細胞の電磁気感受性が、通常の人の数倍。このような特徴を持つ方は、世界的に見ても極めて稀少です」
イツヒメが静かに目を見開く。
「それは、神様の力を受け入れやすい体質ということでしょうか」
「……神、ですか。さあ、いずれにしても科学的な説明は難しいですが」
博士は慎重に言葉を選ぶ。
「修一先生の特異な体質が、タイムワープ時の磁場変動と共鳴した可能性は高いと考えられます」
修一は黙って自分の手のひらを見つめていた。
この不思議な体質は何か特別な意味を持つのだろうか——。
次回 第34話 (仮)『SPRO施設での日々』
「え? 今なんと……若返り、と言いましたか?」
藤堂は驚きと同時にすぐさま槍太に聞き返した。そばにいた博士も耳を疑っている。
「どういうことか、詳しく聞かせていただけませんか?」
博士は藤堂を見て、返事も待たずに修一に向かって聞いた。
「……私は今51歳なんですが、タイムワープして弥生時代に飛ばされたときに、20歳前後に若返ったんです。その証拠にこの6人が弥生時代にタイムワープした際に、20歳に若返った僕を見ています。そしてここにいる全員が、現代に戻って元通りの51歳になった僕を見ているので、間違いはありません」
修一の言葉に、部屋は静まり返った。
藤堂と博士は互いの顔を見合わせ、そして全員の顔を順番に見ていく。
「……その、証言は確かですか?」
博士が慎重に尋ねる。すかさず槍太が答えた。
「ええ、間違いありません。弥生時代では、修一先生は僕たちと同じくらいの年齢に見えました。髪の色も黒くて、シワもありませんでした。でも、現代に戻ってきたら……」
「また51歳の姿に戻っていたのですね」
藤堂はそう言って思案げに腕を組み、再び修一を見つめた。
「実は、われわれの検査でも、それを示唆する数値が見られたのです……」
「え?」
博士のその一言に修一は驚き、周囲の人間も博士に注目した。
「これをご覧ください」
博士はタブレットを操作しながら説明を始めた。
「修一先生の細胞を分析したところ、非常に興味深い現象が確認されました。まるで時間そのものが巻き戻されたかのような特徴が見られるのです」
大型ディスプレイに複雑なグラフと細胞の画像が表示される。
「染色体末端のテロメアに着目すると、通常では見られない特異な状態が観察されました。修一先生の細胞には、20代相当のテロメア長を示す部分と、現在の年齢相当の部分が混在しているのです」
医学部生の比古那が食い入るように画面を見つめる。
「それって、通常ありえない現象ですよ。私たちが学んだ細胞生物学では、加齢変化は一方向のはずです」
「ええ。現在の医学では、細胞を若返らせるにはいくつかの方法があります」
博士は説明を続ける。
「例えばiPS細胞技術。体細胞に特定の因子を導入することで、多能性を持つ幹細胞を人工的に作り出すことができます」
同じく医学を学ぶ咲耶が専門的な視点で補足する。
「山中教授が2006年に発表した技術ですね。再生医療への応用が期待されています」
「そうです。あるいはより直接的な方法として」
博士は画面を切り替えながら続ける。
「ハーバード大学のシンクレア教授のチームが2023年1月に発表した研究があります。マウスの老化した細胞を遺伝子治療で若返らせることに成功しました」
「でも、修一先生の場合は違うんですよね?」
比古那が先を促す。
「ええ。iPS細胞のような転写因子の導入も、シンクレア教授らが行った遺伝子治療も、何の人為的操作もなしに、細胞が若い状態の特徴を示しているんです」
「しかも」
咲耶が付け加える。
「iPS細胞は元の細胞の性質を初期化してしまいますし、遺伝子治療にも限界があります。でも修一先生の場合は、記憶や人格をそのまま保ったまま……」
「その通り」
博士は続ける。
「これは単なる細胞レベルの若返りではありません。修一先生の場合、弥生時代では体全体が若返りながら、高次機能は維持されていました。現代医学では説明のつかない現象です」
「そして、もう1つ気になる点があります」
博士は別の画面に切り替えた。
「タイムワープが起きた時、地震と同時に強い磁場の乱れが観測されているんです。特に石室付近では、通常ではありえないような磁場の変動が」
藤堂が身を乗り出す。
「それに加えて、タイミングですね」
「ええ。タイムワープが発生した時期は、いずれも満月に近い日でした」
イツヒメが静かに顔を上げる。
「それは……」
「何か、ご存じですか?」
博士が問いかける。
「私たちの時代から、あの場所は特別な力が宿ると伝えられていました。特に、月が満ちる時は……」
「月の満ち欠けと、磁場の異常に相関関係があるかもしれないということですか?」
比古那が医学生らしい冷静な視点で問う。
「これはあくまで仮説ですが」
博士は慎重に言葉を選ぶ。
「宮田遺跡の石室周辺では、月の引力、地下の磁性体、そして未知の要因が重なり合って、特殊な場が形成されている可能性があります。その結果として……」
「時空を超えた移動と、細胞レベルでの若返りが起きた、と」
藤堂が返した。
「ただし」
博士は画面をスクロールさせながら続ける。
「現代物理学や医学では、このメカニズムを完全には説明できません。特に、記憶や人格を保ったままの若返りは、既知の科学では理解不能な現象です」
「でも、なんで先生だけ?」
素朴だが、当然の質問を美保がした。
「修一先生の細胞には」
博士は別のデータを表示させる。
「他の方々には見られない特異な性質が確認されています。タイムワープ前から、既に何か特別な傾向が……」
「どういうことですか?」
藤堂が身を乗り出す。
「細胞の電磁気感受性が、通常の人の数倍。このような特徴を持つ方は、世界的に見ても極めて稀少です」
イツヒメが静かに目を見開く。
「それは、神様の力を受け入れやすい体質ということでしょうか」
「……神、ですか。さあ、いずれにしても科学的な説明は難しいですが」
博士は慎重に言葉を選ぶ。
「修一先生の特異な体質が、タイムワープ時の磁場変動と共鳴した可能性は高いと考えられます」
修一は黙って自分の手のひらを見つめていた。
この不思議な体質は何か特別な意味を持つのだろうか——。
次回 第34話 (仮)『SPRO施設での日々』
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